胸部外科 73巻3号 (2020年3月発行)

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今月の臨床

脊椎・心血管疾患を合併するMarfan症候群患者における漏斗胸の手術田中　雄亮 , 松本　勲 , 齋藤　大輔 , 吉田　周平 , 高田　宗尚 , 田村　昌也 , 竹村　博文 73巻3号 , 2020年3月 , pp.163-168

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Marfan症候群では，脊椎変形疾患や心血管疾患などの合併症に対して手術加療が必要になることが多い．漏斗胸を伴う場合は，脊椎矯正による胸郭の狭小化や心大血管手術時の閉胸操作による心肺の圧迫などが起因となって，術中・術後に血行動態の悪化や呼吸障害が起こる可能性があることに注意を要する．われわれは，漏斗胸を併発した4例のMarfan症候群における漏斗胸ならびに脊椎・心血管合併症に対する手術経験について検討を行ったので，文献的考察を加えて報告する．

臨床と研究

DeBakeyⅠ型急性大動脈解離に対する上行大動脈置換術における遠隔期再手術の回避戦略大谷　享史 , 三好　麻衣子 , 松枝　崇 , 平田　昌敬 , 元木　達夫 , 来島　敦史 , 福村　好晃 73巻3号 , 2020年3月 , pp.169-175

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DeBakeyⅠ型急性大動脈解離（AAD）に対して上行大動脈置換術（AAR）を施行した場合，術後弓部大動脈の偽腔開存は遠隔期再手術の危険因子である．われわれは，AAD例に対する手術ではエントリー切除を原則とし，上行大動脈にエントリーがあればAARを，弓部大動脈内やそれより遠位の大動脈内にエントリーがある場合は上行弓部大動脈置換術を施行してきた．しかし，頸部分枝の開存型解離が術後弓部大動脈の偽腔開存の危険因子であることを2013年に報告し1），以後腕頭動脈にリエントリーが存在する開存型解離例には腕頭動脈の再建を追加している（図1）．われわれは，腕頭動脈再建が術後の弓部大動脈偽腔の血栓閉鎖に寄与するかについて検証した．

まい・てくにっく

右肺門授動のための心膜切開のコツ山下　眞一 , 飯笹　俊彦 73巻3号 , 2020年3月 , pp.176-177

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安全な気道再建を行うためには吻合部の縫合張力を極力軽減することがたいへん重要である．このためには，心膜を切開し肺門を授動することが必要となることがある．通常の右肺上葉スリーブ切除では吻合の距離も短く吻合部にかかる緊張も強くないため，肺門授動を必要としないことがほとんどであるが，分岐部切除の場合は中間気管支幹を気管に吻合するため，心膜を切開し下肺静脈を授動して緊張を軽減する必要がある．

今月の話題

エホバの証人12例のStanford A型急性大動脈解離の緊急手術安部　和夫 , 近藤　晴彦 , 石田　勝 , 梶山　哲也 , 松江　一 , 佐藤　尚司 73巻3号 , 2020年3月 , pp.178-182

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エホバの証人は1869年にアメリカで創設されたキリスト教の一教派で，全世界の信者数は240ヵ国で850万人とされる1）．1945年にものみの塔聖書冊子教会が設立され，生命に危険が及ぶ場合においても濃厚赤血球，凍結血漿，血小板も含めた絶対的な輸血拒否の姿勢が確立された2）．エホバの証人は，保存された自己血輸血を認めない．人工心肺など管でつながっている場合は許容されるが，脱血した血液は一瞬も中断せず常に循環していることが絶対条件である．心臓大血管手術は，外科手術の中でも手術侵襲が大きく，エホバの証人に対しては克服するべき課題が多い．さらにStanford A型急性大動脈解離（AAD）の緊急手術となると，手術の遂行，術中・術後管理に難渋することが予測されるため，きめ細やかな管理が必要である．しかし，これまでにエホバの証人患者のAADに対する緊急手術についての報告は少ない．われわれはエホバの証人12例のAADに対する緊急手術を経験したので報告する．

術前術後管理

開心術後酸素化低下症例に対するティルトテーブルによる受動的立位導入梅田　幸生 , 井上　瑞希 , 高橋　靖明 , 後藤　かほり , 森　輝樹 , 熊崎　康将 , 石原　敦司 , 中島　将宏 , 谷畠　進太郎 73巻3号 , 2020年3月 , pp.183-186

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ティルトテーブルは，従来の起立性低血圧に対する検査目的以外に，起立困難例などにおいて荷重負荷，拘縮予防，あるいは下肢筋力増強を目的とする理学療法の一環として使用されている．集中治療室（ICU）でも呼吸リハビリテーションとしてティルトテーブルが導入され，循環動態や呼吸状態に対する影響について報告されている1，2）．しかしながら，その効果については限定的あるいは否定的な報告も散見され，また対象症例や導入時期などが確立されていないことから，広く行われるにはいたっていない3）．われわれは，以前から開心術後急性期に早期離床を目的としてティルトテーブルを用いた受動的立位を導入してきた4）．開心術後急性期の酸素化低下例に対象を限定して受動的立位を導入し，呼吸・循環動態に与える影響および安全性について検討をした．

臨床経験

感染治療中に瘤形変化を呈した感染性胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術達　和人 , 永野　貴昭 , 上江洲　徹 , 毛利　教生 , 洲鎌　盛一 , 又吉　隆 73巻3号 , 2020年3月 , pp.187-191

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感染性大動脈瘤は，感染制御に難渋することが多い予後不良な疾患であり，致死的破裂の危険性を念頭に迅速な診断と治療を要する．近年，破裂例を中心にステントグラフト（SG）内挿術の有用性が報告されるようになってきている．われわれは，経過観察中約1ヵ月で大動脈壁の動脈硬化性潰瘍の穿通（PAU）所見が出現した感染性胸部大動脈瘤に対し，胸部SG内挿術（TEVAR）を施行して良好な中期成績を得たので報告する．

後天性von Willebrand症候群が疑われた連合弁膜症森　和樹 , 穴井　博文 , 岡本　啓太郎 , 首藤　敬史 , 和田　朋之 , 宮本　伸二 73巻3号 , 2020年3月 , pp.192-195

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重症大動脈弁狭窄症（AS）では，強いずり応力によりvon Willebrand因子（vWF）の切断が生じて後天性von Willebrand症候群（vWS）をきたす．われわれは弁膜症手術の周術期に，vWSと思われる著明な出血傾向を認めた症例を経験したので報告する．

胸骨正中切開による上行弓部大動脈置換術後の乳び胸に対する手術金森　太郎 , 白川　真 , 白坂　知識 , 竹内　太郎 , 藤井　温子 , 潮田　亮平 , 上田　桂子 73巻3号 , 2020年3月 , pp.197-201

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乳び胸は胸部外科手術後に起こりうる合併症として知られているが，その治療方針は確立されていない．重症・難治例では，低栄養や免疫機能の低下から敗血症などの重大な合併症を引き起こすおそれがあり1），予後の改善には的確な診断と治療が必要である．保存的治療で軽快しない場合，最終的に外科的再手術を考慮せざるをえないが，その適応・タイミングを判断するのは容易でない2）．われわれは，胸骨正中切開による再弓部大動脈置換術後に発症した乳び胸に対し，比較的すみやかに再手術を決断し，乳び瘻を閉鎖して良好な結果を得たので，文献的考察を加えて報告する．

胸腺癌と原発性肺癌の同時重複癌環　正文 , 監崎　孝一郎 , 三浦　一真 73巻3号 , 2020年3月 , pp.202-205

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われわれは，比較的まれとされる胸腺癌と原発性肺癌の同時重複例に対して二期的に手術を施行した症例を経験したので報告する．

肺癌切除後40ヵ月を経て出現・増大し胸膜播種再発が疑われたSchloffer腫瘍江場　俊介 , 下治　正樹 , 広瀬　正秀 , 太田　伸一郎 , 岡田　克典 73巻3号 , 2020年3月 , pp.206-209

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Schloffer腫瘍は，手術瘢痕部の絹糸などの異物や肉芽腫を核として発生する遅発性・慢性炎症性結合組織性腫瘍である1）．

１枚のシェーマ

悪性胸水を伴う肺癌に対する胸膜肺全摘除術加賀　基知三 73巻3号 , 2020年3月 , pp.196

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50歳代，男性（外科医）．胸痛を発症し，胸水の穿刺細胞診より腺癌と術前診断された．cT3（胸壁浸潤）N0M1（悪性胸水）であった．本人の強い意向により，本人も交えてキャンサーボードを開いて手術を決定し，悪性胸水を伴う肺癌に対して左胸膜肺全摘術を施行した．今までの経験で得たあらゆる技術をつぎ込んだ手術であったが，切除標本の組織学的診断は多形癌で，術後早期に再発し原病死した．手術適応は正しかったのかと悩んだ末，これからも可能性を追求することを誓った症例となった．

連載　専門医に必要な画像診断技術　（第15回）

6　血管造影―形態と灌流

冠状動脈造影上野　雅史 , 宮崎　俊一 73巻3号 , 2020年3月 , pp.211-219

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虚血性心疾患に対する冠状動脈の形態評価法は，主にCT検査と直接冠状動脈を造影する侵襲的冠状動脈造影検査法がある．最近では外来でも簡便にできることや，高い感度，陰性的中率などから冠状動脈CT検査施行例が増加してきている．しかし，陽性的中率が低い点は問題で，その要因は石灰化やモーションでのアーチファクトなどが考えられている．ガイドラインにおいては，高度狭窄病変では侵襲的冠状動脈造影検査の適応とされており，評価困難な中等度狭窄病変には追加での負荷検査や冠状動脈造影検査が必要と示唆されている．侵襲的冠状動脈造影検査は虚血性心疾患の有無，重症度の診断を行い，得られた結果により最適な治療法を選択することなどを目的に行われる．冠状動脈造影検査は狭窄，閉塞，拡張病変などの存在の有無，部位，分布，程度を評価でき，CTやMRIなどの冠状動脈形態評価が進歩してきた今日においても，冠状動脈病変診断のゴールデンスタンダードである．

症例

心タンポナーデを契機に発見された冠状動脈肺動脈瘻の1例別所　早紀 , 田中　敬三 , 橋本　孝司 , 平岩　卓根 73巻3号 , 2020年3月 , pp.220-222

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はじめに　冠状動脈瘻は比較的まれな先天性心疾患であり，自覚症状はほとんどなく，冠状動脈造影（CAG）や心臓CTなどで偶然発見されることが多い1）．無症状であっても未治療の場合には，心不全や肺高血圧症，感染性心内膜炎のリスクがあるため，治療介入のタイミングが重要である．われわれは，心タンポナーデを契機に発見された冠状動脈肺動脈瘻（CPAF）の1例を経験し，良好な結果を得たので報告する．

僧帽弁置換術後の重症大動脈弁狭窄症に経カテーテル的大動脈弁留置術を施行した1例中野渡　仁 , 坪井　栄俊 , 遠藤　由樹 , 北川　彰信 , 深田　靖久 , 入江　嘉仁 73巻3号 , 2020年3月 , pp.223-226

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はじめに　重症大動脈弁狭窄症（AS）に対する経カテーテル的大動脈弁留置術（TAVI）は，その有効性を証明され，適応を拡大しつつある．しかし，PARTNER試験などでは僧帽弁置換術（MVR）後の患者は適応からはずされている．その理由は，大動脈弁輪と僧帽弁輪間が消失もしくは減少し，既存の僧帽弁位人工弁との干渉が危惧されるからである1）．われわれは，MVR後低心機能の重症AS患者に対して，補助循環下にTAVIを施行し，良好な結果を得たので報告する．

腫瘍との鑑別が困難であった右房内血栓の1例中嶋　和恵 , 内野　英明 , 島貫　隆夫 73巻3号 , 2020年3月 , pp.227-229

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はじめに　右房内腫瘤は，腫瘍や血栓，菌塊の鑑別が困難なことも多い．術前に鑑別困難であった右房内腫瘤の1例を経験したので，若干の文献的考察を加えて報告する．

肺静脈走行異常を伴った肺癌切除の1例石田　順造 , 増田　達也 73巻3号 , 2020年3月 , pp.230-232

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はじめに　肺癌手術を遂行するうえで肺血管の分岐・走行異常を術前に把握することは大変重要である．われわれは術前に右肺静脈（V8）の走行異常を把握し，安全に手術を行うことができたので報告する．

診断に苦慮した壊死性胸腺腫の1例日隈　大徳 , 森　毅 , 松島　遼平 , 日高　悠嗣 , 横溝　博 , 長峯　理子 73巻3号 , 2020年3月 , pp.233-235

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はじめに　胸腺の腫瘍には，胸腺上皮性腫瘍，リンパ腫，胚細胞腫瘍，間質性腫瘍などがあるが，その臨床的診断にはしばしば難渋することがある．急激な胸痛により発症し，広汎な壊死のため病理診断がつかず治療方針の決定に苦慮した胸腺腫の1例について報告する．

胸膜腫瘍が疑われた横隔膜欠損孔からの肝ヘルニアの1例佐藤　文哉 , 前田　拓也 , 平山　泰地 , 箕浦　里恵 , 高島　幹展 , 藤田　恵三 , 田中　健士郎 , 末岡　智 , 村井　俊文 , 阪井　満 , 橋本　昌司 , 宇佐美　範恭 73巻3号 , 2020年3月 , pp.236-239

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はじめに　肝ヘルニアは，肝臓が横隔膜の欠損部から胸腔内へ逸脱する病態である．外傷や手術歴のない成人における肝ヘルニアはまれで，肺腫瘍や横隔膜腫瘍と診断され手術となる症例がしばしば報告されている．われわれは，術前に胸膜腫瘍と診断した肝ヘルニアの1例を経験したので報告する．

胸部外科医の散歩道

味の継承大泉　弘幸 73巻3号 , 2020年3月 , pp.210

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沖縄の首里城がほぼ全焼した．医師になりたての1年間を沖縄で勤務したので，個人的にも衝撃は大きい．この火災で被害を受けた正殿の瓦を再現するのは不可能だという．現在では採取困難な土が原料で，配合や焼く温度を知る当時の職人が他界しているという．わざの伝達が途絶えていたのだ．

基本情報

胸部外科
73巻3号
(2020年3月発行)

電子版ISSN：2432-9436 印刷版ISSN：0021-5252 南江堂

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