胸部外科 73巻4号 (2020年4月発行)

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特集　肺縦隔の胸腔鏡・ロボット支援手術の進歩

特集「肺縦隔の胸腔鏡・ロボット支援手術の進歩」によせて近藤　丘 73巻4号 , 2020年4月 , pp.243

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多くの外科関連領域で手術支援ロボットの導入が急速に進められており，実績を積み重ねたものから次々と保険診療の適用になっている現状がある．これを推進する大きな要因として，画像診断機器の性能向上によってより早期段階での病変の探知が可能となっていることがあげられる．現在普及している手術支援ロボットは限られたものであるが，これを使った手術の普及が後発機器の開発に大きな促進力となるのは疑いのないことであり，新たな機器の開発はさらなるロボット支援手術の適応拡大につながるという正の連鎖が生まれつつあるのではないかと思う．呼吸器外科領域においてもこのような動きに遅れることなく，テクノロジーの進歩を患者へ還元するべく力を注がなくてはならないであろう．

1. 現状と課題

Precision surgeryと患者視点評価，そして患者参加型医療へ小島　史嗣 73巻4号 , 2020年4月 , pp.244-249

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胸腔鏡やロボット支援手術に関して，技術的な論考は大いに行われているが，患者側からどのように評価されるかという考察はまだ少ない．近年，患者や家族を中心としたpeople-centered care（PCC）の概念1）が重要度を増している．本稿では，主に肺癌手術の動向と患者視点評価（PRO）の現状を中心に考察する．

ロボット支援手術の現状と将来性について松本　順 , 檜山　紀子 , 柳谷　昌弘 73巻4号 , 2020年4月 , pp.250-255

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2018年4月の診療報酬改定で，肺悪性腫瘍に対する肺葉切除と縦隔腫瘍に対するロボット支援手術が保険収載された．全国的に呼吸器外科ロボット手術を導入する施設も増加して，2019年10月の時点で120施設に及んでおり，今後もさらに増加するものと予想される．ロボット支援肺葉切除術の保険点数が胸腔鏡肺葉切除術と同じであるため，コストの面では不利であるが，開胸，胸腔鏡に続く第3のアプローチとして注目されている．

2. 手技・機器

呼吸器外科における3D胸腔鏡手術・ロボット支援手術大田　守雄 , 嘉数　修 73巻4号 , 2020年4月 , pp.258-263

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われわれは2012年に本邦で開発された3D内視鏡システムを導入し，世界で最初の3D胸腔鏡肺葉切除（3D-VATS-lobectomy）を経験した．その後3D縦隔腫瘍摘出術，3D単孔式縦隔腫瘍摘出術を施行してきた．さらに，2018年4月からロボット支援手術（RATS）が呼吸器外科領域では肺癌，縦隔腫瘍手術に保険適用となり，われわれは2018年11月からロボット支援手術を肺癌，縦隔腫瘍（良性・悪性）に開始した．現在では国内でも急速に手術症例が増加しつつある．3D内視鏡システム，ロボット支援手術のメリット，デメリットを中心に報告する．

da Vinci Xiによる気管支断端被覆手技道免　寛充 , 樋田　泰浩 , 山田　秀久 , 市之川　一臣 , 猪子　和穂 , 林　真理子 , 郭　紗弥 , 加賀　基知三 73巻4号 , 2020年4月 , pp.264-269

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気管支断端瘻は肺葉切除後の0.7～0.9％1，2）とまれではあるが，もっとも厄介な術後合併症の一つである．気管支断端瘻を予防する，あるいは発生後の肺血管への影響を最小限にするという目的で，患者自身の組織を採取し断端に縫合・固定する方法がとられてきた．

ロボット支援肺切除におけるロングシャフトステープラーの使用経験光星　翔太 , 前田　英之 , 荻原　哲 , 片桐　さやか , 青島　宏枝 , 松本　卓子 , 井坂　珠子 , 神崎　正人 73巻4号 , 2020年4月 , pp.270-273

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2018年4月より呼吸器外科領域のロボット支援手術（RATS）が保険収載され，手術症例が増加している1）．当科では，未確定診断の肺腫瘍の場合，肺生検で悪性腫瘍の診断を得た後にRATSの適応としてRATS肺葉切除を行っている．RATSを想定したポート配置で肺生検を行う場合，ポート孔から腫瘍までの距離が遠くなり，RATSへ移行した際，ロボットアームにより助手の操作が制限される．そのため未確定診断例では，ロングシャフトステープラー（LSS）を使用してきた．われわれは，LSSの使用経験を報告する．

前縦隔手術における低侵襲性手術の導入から考えること―剣状突起下手技とロボット支援手術佐藤　之俊 , 林　祥子 , 内藤　雅仁 , 松井　啓夫 73巻4号 , 2020年4月 , pp.274-279

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本邦における呼吸器外科の分野では，20世紀半ばの開胸による手術手技の確立後，1990年ごろから胸腔鏡手術（VATS）が導入された．VATSは2000年には肺悪性腫瘍手術の保険適用も認められ，急速に普及した1）．そして1990年代後半からは手術支援ロボットが米国で開発され，現在その主流であるda Vinciは1999年に市場に導入された2）．一方当科では，胸腺全摘術や拡大胸腺全摘術において，剣状突起下アプローチを主体とする内視鏡手術を2010年から導入し推進してきた3）．この術式の導入にあたっては，剣状突起下アプローチに補助ポートを設けた手技を定型化し，安全な導入が行われた．その結果，重症筋無力症に対する拡大胸腺全摘除術例の検討から，低侵襲性と治療効果に優れていることを示すことができた4）．

3. 単孔式手術

剣状突起下アプローチによる胸腔鏡下縦隔腫瘍・胸腺摘出術―単孔式そしてロボットへ沼波　宏樹 , 古田　ちひろ , 田口　瑠美子 , 秋山　崇 , 矢野　智紀 , 羽生田　正行 73巻4号 , 2020年4月 , pp.281-285

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胸腺腫を含めた前縦隔腫瘍に対するロボット支援手術（RAS）は欧米を中心に増加しており，その有効性が報告されている1）．狭い前縦隔の手術では，CO2の送気を行いながら気胸を作成してワーキングスペースを拡張したうえで，自由度の高いロボット操作を行うことは有効であると考えられる．しかし，その報告のほとんどが側方アプローチによるものである．当科では胸腔鏡下における前縦隔腫瘍・胸腺摘出に際して剣状突起下アプローチを用いており，側方アプローチと比較して手術時間，侵襲性，術後疼痛に関する優位性を報告してきた2，3）．そこでRASの導入にあたって剣状突起下アプローチによるロボット支援胸腺摘出術（RTts）を選択した．当科における胸腺摘出術を，胸腔鏡手術とロボット支援手術で比較・検討するとともに，昨今の潮流であるreduce port surgery に関して考察した．

早期非小細胞肺癌に対する単孔式胸腔鏡手術の今後の展望平井　恭二 , 臼田　実男 73巻4号 , 2020年4月 , pp.286-291

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呼吸器外科で胸腔鏡手術が行われ始めてすでに20年以上が経過した．従来法である3ないし4つのトラカールを胸壁に留置して行う多孔式胸腔鏡手術（multiportal VATS：M-VATS）はすでに普及し，開胸手術と同等の手術性成績を示したとの報告も多数なされている．また，reduce port surgeryという概念のもとさらなる低侵襲外科治療をめざすというテーマの追求に時代の流れは向かっている．ポートの数やサイズを小さくする工夫がなされる中，一つのポートからの単孔式胸腔鏡手術（uniportal VATS：U-VATS）の歴史は，2011年のスペインでのGonzaletzらの肺癌肺葉切除の報告1）を皮切りに，急速に一部のアジアの国々やヨーロッパに広まっていった．一方でアメリカ発のロボット支援手術（RATS）は母国で急速に普及し，日本でもようやく縦隔腫瘍や肺癌への適応が2018年に承認され，保険収載された．U-VATSとRATSが今後日本の呼吸器外科医に受け入れられていくかは注目すべき事由であり，U-VATSを標準術式として行っている立場から意見を述べる．

肺縦隔の単孔式手術栃井　祥子 , 須田　隆 73巻4号 , 2020年4月 , pp.292-297

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呼吸器外科領域における手術アプローチは大きくかわりつつある．現在，従来行われていた開胸手術にかわり，胸腔鏡手術が積極的に行われるようになった．近年，より低侵襲な手術を行うことを目的に一つの創からすべての手術手技を行う単孔式手術が広まりつつある．本稿では，単孔式肺葉切除と剣状突起下アプローチによる胸腺摘出術の歴史と手術手技を紹介する．

まい・てくにっく

オープンステントグラフト留置のコツ山中　一朗 , 椎谷　紀彦 73巻4号 , 2020年4月 , pp.256-257

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①Frosen elephant trunk（FET）を深く入れすぎない．大動脈弁レベルより頭側にステントグラフトの遠位端を位置させる．術前のCTを参考にして，術中は経食道心エコー（TEE）像上で深さを確認する1）．②左鎖骨下動脈への脳分離灌流は必ず同時施行し，下半身虚血は60分までにとどめる．術後平均血圧70 mmHg以上を維持する．そのために十分な止血が肝要である．

１枚のシェーマ

右second carina気管支切除・再建大久保　憲一 , 石橋　洋則 73巻4号 , 2020年4月 , pp.280

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症例は40歳代，女性で，咳嗽を主訴に受診し，気管支鏡生検で定型カルチノイドの診断であった．手術は後側方開胸，背側より胸膜切開し，奇静脈も切離した．右主気管支・上葉気管支・気管をテトロンテープでテーピングした．気管支前面の右主肺動脈もテーピングした．

症例

冠状動脈造影像に異常を認めなかった僧帽弁前乳頭筋完全断裂の1例菅原　正明 , 平原　浩幸 , 渡邉　マヤ , 小熊　文昭 73巻4号 , 2020年4月 , pp.299-302

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はじめに　僧帽弁乳頭筋断裂（PMR）は心筋梗塞（MI）に伴う重篤な機械的合併症の一つである．われわれは，術前の冠状動脈造影像上では異常を認めなかった前乳頭筋完全断裂の1例を経験した．僧帽弁置換術を行って救命し，術後精査で乳頭筋に限局した新旧MIの混在に起因するまれな症例と診断したので報告する．

冠状動脈バイパス術の際に偶然発見された右心耳血栓症の1例古賀　佑一 , 山元　博文 , 三保　貴裕 , 力武　一久 73巻4号 , 2020年4月 , pp.303-306

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はじめに　右心耳血栓症は，左心耳血栓症と比較するとまれな病態である．当院で冠状動脈バイパス術（CABG）の際に偶然発見された右心耳血栓症の症例を経験したので，報告する．

肺動脈原発血管内膜肉腫に対する外科治療の1例平山　雅弥 , 小宮　達彦 , 島本　健 , 野中　道仁 , 松尾　武彦 , 白神　拓 , 菅谷　篤史 , 藤本　遥 , 藤本　靖幸 , 矢野　敦之 73巻4号 , 2020年4月 , pp.307-311

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はじめに　原発性肺動脈肉腫はまれな疾患であり，外科的切除を行わない場合の予後は1.5ヵ月ともいわれるきわめて予後不良の疾患である．われわれは，肺動脈原発血管内肉腫に対して外科的切除を行い，良好な結果を得たので報告する．

Fallot四徴症術後1弁付きパッチ変性に感染性心内膜炎を合併した1例菊池　悠太 , 菊池　洋一 , 熱田　義顕 , 筒井　真博 73巻4号 , 2020年4月 , pp.312-315

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はじめに　Fallot四徴症（TOF）術後遠隔期に報告されている合併症1）の中で，右室流出路再建に用いられる1弁付きパッチの変性もその一つである．われわれは，原発不明な大動脈弁位感染性心内膜炎に，右室流出路に用いたPolystan社製1弁付きパッチの変性，瘤化，感染を併発し，再手術を要した症例を経験したので，文献的考察を加えて報告する．

成人左冠状動脈肺動脈起始症に対する大伏在静脈を用いた再建の1例坂倉　玲欧 , 上山　克史 , 村上　新 73巻4号 , 2020年4月 , pp.316-319

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はじめに　成人左冠状動脈肺動脈起始症（ALCAPA）はまれな疾患であり，外科的再建法において一定した見解はない．われわれは大伏在静脈（SVG）によるinterposition法を用いて良好な結果を得たので報告する．

胸部外科医の散歩道

心臓血管外科医のoffの楽しみ方磯村　正 73巻4号 , 2020年4月 , pp.298

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ボストンでの留学経験からoffの過ごし方が身について帰国し，大学の病理学教室から心臓血管外科学教室に帰ってきました．当時，同研究室の先輩に，手術手技，考え方，患者さんへの接し方などすべての面で尊敬できる講師の中山陽城先生がおられ，「磯村，これから鮎釣りにいくけどついてこないか」と誘われ，二つ返事でOKし，宮崎県の日之影町の五ヶ瀬川に最初に連れていかれました．その当時鮎釣りをする方は少なく，まずコロガシ釣りで鮎（野鮎＝囮鮎）を取って，それを囮鮎にしての友釣りでした．中山先生は子供のころからお父さんに鮎釣りを教えてもらっていた大ベテランで，面白いように鮎をかけており，手術と同じように凄いと感心しました．かけた野鮎を僕の囮鮎としてつけてくれて，手ほどきを受けた僕にも数匹かかり，そのかかり鮎の引きが何ともいえずスリリングで爽快でした．当時の研究室で一緒にいった3年後輩の先生とは，その後も休みを見つけて一緒に鮎釣りを楽しんでいました．その2年後に僕はトロントに留学し，臨床経験を積んで帰国後に中山先生と一緒に手術をすることを楽しみにしていました．しかしながら，1986年の帰国時に先生は悪性腫瘍の末期状態で，40歳台の若さで病床に伏しておられました．その後一度も手術も鮎釣りも一緒にすることなく他界されました．しかしながら中山先生の臨床に対する姿勢，手術のうまさ（おそらく解剖学教室に10年以上在籍され，あらゆる解剖が解っておられたためと思われ，1982年に僕が主治医だった患者さんの胸腹部大動脈瘤全置換術を成功された），鮎釣りのうまさは頭から離れることがありませんでした．その後，心臓血管外科の研鑽を積みながら鮎釣りも楽しみ続けました．

基本情報

胸部外科
73巻4号
(2020年4月発行)

電子版ISSN：2432-9436 印刷版ISSN：0021-5252 南江堂

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