BRAIN and NERVE 72巻11号 (2020年11月)

増大特集 脳の発振現象—基礎から臨床へ

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 神経系には集団発振現象と同期化現象があることが以前より知られています。そして,脳の機能発現や自己組織化には,それが生理的であれ病的であれ,このような発振現象が場となって起こることが次第にわかってきました。本特集では,このような神経系の集団発振現象に焦点を絞って,最近の所見に基づいて多面的に検討します。

 本特集は神経系の集団振動現象を階層性,病態と介入,解析技法と数理モデルの観点から下記の4つのパートで構成され,脳の発振現象を包括的に解説しています。

特集の構成 虫明 元
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PART1 脳における振動現象の細胞レベルの理解

 まずPART1の細胞レベルの振動理解では4つテーマを取り上げます。受容体,チャネル,分子機構というミクロレベルの振動メカニズムを解説します。

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GABAA受容体作用はCl-濃度勾配に依存し,成熟脳ではCl-流入による過分極・抑制であるが,未成熟な脳では脱分極(Cl-流出)である。Cl-ホメオダイナミクスは抑制と興奮を切り替えて,細胞および細胞集団の発振現象におけるモーダルシフトを起こす。このGABA作用のモーダルシフトは,正常な脳発達に必要な一方で,成熟脳で逆説的に誘導されることもあり,モーダルシフトの障害は,種々の神経発達障害の病因・病態となり得る。

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大脳基底核のドーパミン(DA)は運動制御に重要な役割を持ち,DA欠乏はパーキンソン病に見られるように運動障害を引き起こす。DAはD1受容体(D1R)を介して直接路神経を活性化し,D2受容体(D2R)を介して間接路神経を阻害する。DA情報伝達の役割の理解のため,D1R,D2Rの遺伝子操作マウスによる運動制御,神経活動,記憶学習に関する最近の研究を概説し,大脳基底核の発振現象への関与も紹介する。

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生命活動の多くが,約24時間周期のサーカディアン(概日)リズムを示す。哺乳類では視床下部の視交叉上核(SCN)が,体内時計中枢(中枢時計)として機能し,環境の昼夜サイクルに同調した時刻情報を全身に発信する。本論ではまず,SCNの分子,細胞,および解剖学的構造を概説する。続いて,SCNニューロンのタイプによる機能の違いに関する最近の研究を紹介し,SCN神経ネットワークのメカニズムについて考察する。

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ある種の神経細胞には,特性の周期を持つシナプス入力などを大きな膜電位として出力する,resonance特性という電気的な特性を持つものがある。本総説では,resonance特性の発現に関わるイオンチャネルについて,特にげっ歯類での研究について概説する。

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パーキンソン病において,ドパミンの減少が大脳基底核ネットワークにどのような変化をもたらし,症状発現に至るのかについて,3つの説を紹介する。①大脳基底核の平均発射頻度の変化(発射頻度説),②大脳基底核における発振活動や同期活動(発射パターン説),③大脳皮質に由来する大脳基底核の動的神経活動の変化(動的活動説)である。本小論では,これら3説のうちどれがパーキンソン病の病態をより説明できるかという観点から,批判的に検討したい。

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前頭葉には運動野と前頭前野が含まれ,機能的には関連しつつもその階層的に異なっている。具体的には細胞活動も振動現象も,異なる行動文脈に依存している。一方で,振動現象には,抑制性と興奮性のバランスが重要であることがわかってきている。特に抑制性機能を担う抑制細胞には多様性があり,機能的にも異なる側面を担っている。本論では前頭葉の領野としての振動と細胞活動,さらには振動を担う局所回路の複数の振動様式のメカニズムを総説する。

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神経振動は,中枢神経系の律動的・自発的な電気活動ないし外的刺激に対する反応である。遠隔領域にある神経系の振動現象による病的相互作用が精神・神経疾患の脳内基盤ではないかという作業仮説を検証するために,時間・空間分解能に優れた脳磁図や高密度脳波による事象関連電位(磁場)を記録した。疾患研究から,脳内ネットワークの動的な機能不全が「ネットワーク病」という概念で捉えることができることを示した。

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脳全体は動的で多様な活動を示す。この生理学的なしくみは何だろうか。この問いに答えるための手掛かりとして,大脳基底核や小脳を含む脳のグローバルな回路群について解剖学的な知見をまとめた。それらの回路群には情報の集散地である視床が常に登場する。回路の基本構造として「平行回路」がある。平行回路間の相互作用は,情報の収束や発散,平行回路の切替えを通じてなされていると示唆される。

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脳はさまざまな帯域の脳波活動をつくり出す精巧な超LSI回路であり,これが発作的に暴走した状態のひとつとして知られるのがてんかん発作である。もっぱら神経細胞の過剰興奮に起因するとされてきたが,近年ではこれまで静的細胞とみなされていたグリア細胞が担う,てんかん原性獲得における重要な役割が注目されている。本稿では,発振現象から見る,てんかんにおけるグリア細胞と神経細胞(ニューロン)の両者の相補的・共起的な働きについて概説を行う。

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ヒト脳発振現象が脳波にて初めて記録されてから既に約100年が経ち,現在では脳発振を操作する非侵襲的手法が開発された。この脳発振操作は,ヒトの行動や認知を変容させること,さらに「オシロセラピー」として疾患治療法となることが報告されてきた。本総説では,ヒト二足歩行中の脳発振を操作し,歩行障害を回復させたわれわれの知見を中心に,脳発振の生理学的機序,ヒト行動・認知の変容,オシロセラピーについて,概説する。

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TMS介入研究の一部を紹介する。“QPS(quadripulse stimulation)”の紹介,“visuo-motor sequence learning”におけるpre-SMA,SMAの役割分担の証明,“negative compatibility effect”におけるSMA関与の証明,「パーキンソン病への治療介入」の紹介,「腰部刺激による歩行誘導の紹介」,“back propagation potential”による1.5msの発火頻度について解説する。

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経頭蓋磁気刺激を用いて,ヒトの一次運動野の内的リズムに関する分析を施行した。閾値以下の3発刺激と閾値以上の試験刺激1発を一定の刺激間隔で与えたときの運動誘発電位の振幅を検討したところ,25ms間隔(すなわち40Hz)でのみ皮質内促通が誘発され,運動野のリズム特性との関係が推察された。神経疾患ではその促通の消失もしくはリズムの変化が生じており,本刺激法は,運動野のリズム特性を検討する1つの方法となる。

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脳神経系の発達過程に着目し,機能分化,機能分割に対するネットワークモデルを提案する。ネットワークシステム全体にかかる拘束条件によってシステムに機能要素(機能単位)が生成される過程に着目する。神経細胞の分化,機能モジュールの分化,感覚ニューロンの特異性の分化を扱い,計算結果に基づきそれぞれに対して仮説を提案する。

脳領域間の機能的結合の解析 北野 勝則
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認知機能は複数の脳領域が関与すると考えられるため,そのしくみを理解するには,脳領域間の情報伝達を明らかにする必要がある。機能的結合解析は,脳活動の領域間の統計的相関や因果的関係で定める機能的結合により脳活動動態を明らかにする解析方法である。本論では,機能的結合解析について概説し,代表的な手法を紹介する。そして,応用事例として,機能的結合解析に基づく神経疾患の診断へ向けた取組みについて紹介する。

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振動・リズム現象をはじめとした神経システムの振舞いを調べるうえで,力学系(dynamical system)の考え方が有用である。本論では,前半でその導入的な紹介を,筆者の1人の講義資料に基づきつつ試みる。後半では,そうした力学系の考え方を用いた,筆者らが行ったドーパミン・強化学習に関わる研究を紹介する。具体的には,学習された価値の減衰を仮定して,ドーパミンの減少による動機づけへの影響の1つの機序を提案した研究を紹介する。

「阿吽の呼吸」の神経基盤 本田 学
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指揮者やメトロノームなしに複数の演奏者が自律的に同期をとり,「阿吽の呼吸」で一糸乱れぬ演奏を実現する音楽表現が,地球上のさまざまな文化圏に数多く存在する。その典型例としてインドネシア・バリ島の祭祀芸能ケチャを取り上げ,ケチャ演奏中の複数人から脳波同時計測を行ったところ,演奏前に比較し演奏中と演奏後には,脳波の個体間同期が増強することがわかった。脳機能の同期と社会や文化との関わりについて考察する。

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短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNHA)は短時間で重度の頭痛発作と同側の自律神経症状を特徴とする。SUNHAには結膜充血と流涙の両方を有するSUNCTとどちらか一方を有するSUNAが含まれる。難治性であるが,リドカイン持続静注とラモトリギンが最も効果的である。薬剤抵抗例では,三叉神経に対する微小血管減圧やニューロモジュレーションが試みられている。SUNCT,SUNAと三叉神経痛には臨床的,治療的,放射線学的に重複があり,国際頭痛分類第3版では別疾患であるが,同じ障害の連続体を構成する可能性も議論されている。

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 ぼくは臨床研究そのものの専門家ではなく,臨床研究の専門家の知見から学び,研究をしている一医者にすぎない。車をつくったり直したりする能力はまるでないが,運転はしている次第。だから本書を上から「批評する」資格はなく,本書を活用してきた読者の1人として「これは一読の価値がありまっせ」とオススメすることしかできない。よって,書評ではなく推薦文である。

 2016年に本書初版が出たときは,知人に勧められて買い求めた。内容もさることながら,文体が素晴らしいと思った。こういう比較が適切なのかは知らないが,しかし主観的にそう感じたので仕方がないから書くが,経済学者の森嶋通夫の本を読むようなクリスピーな文体だった。本当にこの領域の世界内を熟知している人が,しかし冗長な説明はすべてそぎ落として要諦だけ読ませるような文体だ。今年,新しい第2版を読んでその意を新たにした。

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目次

欧文目次

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次号予告

あとがき 酒井 邦嘉
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 昨年秋にゴッホの足跡を訪ねてフランスを旅行した。パリのオルセー美術館でゴッホの作品群を鑑賞した後,《ひまわり》で有名な南仏アルル,そして《糸杉》で知られるサン=レミ=ド=プロヴァンスへ。再びパリに戻り,ゴッホ終焉の地,オヴェール=シュル=オワーズを訪れた。いまから130年ほど前,ゴッホは33〜37歳という晩年にこれらの地に移り住んだのだった。

 ゴッホが絵を描き続けたのは10年ほどだが,作品は2,000点を超えると言う。その創作活動の前半はオランダとベルギーで,後半はフランスで生活したのだが,フランス移住が転機となって,色彩に満ち溢れる絵を描くようになった。ゴッホの作品を丹念に観ていくと,大胆な色使いや力強い筆致だけでなく,極めて緻密で繊細な描写に目を奪われる。ゴッホは同時に膨大な素描を残しており,油彩画とまったく同じ構図のものもあって,その確かな観察眼と技巧を確認することができる。

基本情報

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BRAIN and NERVE
72巻11号 (2020年11月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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