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てんかん診療を行っていて痛感するのが,いかに多くの「てんかんのようでてんかんでない疾患」がてんかんと診断され,治療されてしまっているか,ということである。てんかんと診断されることによって患者が被る社会的損失,そして抗てんかん薬治療によって生じる身体的損失を考えるとき,常に「てんかんではない」可能性を念頭に診断することは基本的かつ極めて重要な姿勢である。しかし,てんかん専門医にとっても「てんかん」と「非てんかん」の鑑別は困難なことが多い。本書はその鑑別に重点を置き,図や表を用いてわかりやすく解説した,最新かつ唯一のガイドブックであり,本邦の神経学の第一線で活躍する訳者らが,豊富な臨床経験に基づいて的確に訳した名著である。
本書は,神経学の父であり,てんかんを神経疾患として独立させようとしていたガワーズが100年以上も前に記した『Borderland of Epilepsy』を原型とし,神経学の黎明期から存在する「てんかんとその境界領域」を,現代医療の知見をもって「再訪する」という形で構成されている。各章のはじめにある「要約」と「はじめに」には,各疾患に対するガワーズの時代の理解と現代における理解との比較が記述してあり面白い。本文では,ビデオ脳波,筋電図,心電図,脳画像検査,超音波検査,遺伝子検査など新たなテクノロジーを得た現代の専門家によって,てんかんの境界領域である疾患の発症メカニズムと鑑別のロジックを詳細に解説していて,なるほど,とうなずいてしまう。失神,心因性発作,パニック発作,めまい,頭痛,一過性脳虚血,一過性健忘,睡眠関連の発作,アルコール関連の発作,不随意運動などのてんかんと鑑別を要する疾患に加え,自己免疫介在性てんかん,非けいれん性てんかん重積,自閉症,抑うつなど,現在のてんかん学でトピックになっている疾患にも多くのページを割いており最新の知見を得ることもできる。
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