BRAIN and NERVE 65巻5号 (2013年5月)

特集 てんかん―新しいパースペクティブ

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特集の意図

 最近,てんかんを取り巻く状況が慌ただしい。新規抗てんかん薬の相次ぐ認可,高齢者発症例の増加,てんかん患者による自動車事故およびそれに伴う運転免許の規制をめぐる動き。このような状況下で,多くの人がてんかんに興味を持ち始めている。その興味に応えるべく,今てんかんをめぐって何が起こっているのか,歴史を踏まえつつさまざまな角度から整理し解説する。

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河村 本日は,廣瀬源二郎先生をお迎えして,にわかに多くの人の関心を集めている「てんかん」について,今日的なトピックスをお聞きしていきたいと思います。ラフに要約してしまえば,①高齢者てんかん,②新規抗てんかん薬,③てんかん患者と社会との関わりについて伺えればと思います。

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Ⅰ.てんかんの歴史

 てんかんはアルツハイマー病,脳血管障害とともに最も頻度の高い中枢神経疾患の1つである。1995年に行われたWHO調査によると人口の約1%を悩ます疾患であり,女性乳癌,男性肺癌に匹敵する頻度でみられる1)。最近のてんかん疫学研究では,実に5,000万人のてんかん患者が全世界でみられると報告されている2)。人口10万人あたり80人以上が毎年新たなてんかんを発症し,小児期および高齢者で多くみられる3)

 今日では,てんかんは1つの独立した中枢神経疾患と見なされてはいるものの,その病態,成因が未だ完全な解明には至っておらず症例ごとに多様であり,1つの疾患概念でまとめきれない。そのため,てんかん専門家は複数呼称のてんかん(epilepsies)やてんかん症候群(epileptic syndromes)と考えており,国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)国際分類でも複数呼称が使われている。すなわち,てんかんは未だに疾患単位か症候群かについて疑義のある中枢神経疾患といえよう。

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はじめに

 前項のてんかんのオーバービューに,てんかんの全体がわかりやすく解説されているため,本項では,私がてんかん患者でこれまで行ってきたヒトの生理学的検査から,私なりに考えるてんかんの病態生理,検査結果,抗てんかん薬の作用機序などに関して概説する。したがって,前項と重複する部分もあると思うが,別の観点からの意見と考えて一読いただきたい。

 私は,てんかんという病態は,基礎の生理学の知見どおりの病態機序が実際に患者で起きていて(特に遺伝性の疾患では),それに基づいて考えられた抗てんかん薬が実際に使用され効果が得られるという,発生機序から治療まですっきりと理論立った解釈が可能な疾患であると考えている。さらに,ヒトの脳でその想定される病態が,一部証明されている疾患と解釈している。この証明に磁気刺激が寄与してきた面があり,その点を含めてこの総説で述べることとする。

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はじめに

 筆者は,2000年の『神経研究の進歩』の特集「てんかん研究トピックス」において,難治性てんかんの外科病理学を解説した1)。また,同誌2005年の特集「てんかん研究の新しい展開」を企画した際は,田邉と筆者2)が,てんかん焦点部において微小形成不全(microdysgenesis)と診断された症例の機能画像所見を報告した。また,それと前後して国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)での検討の後に策定されたPalminiら(2004)の分類3)が提案された。2011年にはBlümckeら4)が,ILAE Diagnostic Methods Commissionの提案という形での修正案を提唱し,さらに,その修正案の診断一致度(κ係数)の検証を,2012年にad hocメンバーとして指名された多人数の病理診断医が加わり行った5)。筆者もその1人として参加したが,それを通した経験は後段で述べたいと思う。

 ほとんどの脳形成異常は,後述するように,遺伝学的・発生学的な観点から“malformation of cortical development(MCD)”というBarkovichら6)の網羅的分類の構成成分に落とし込めるが,てんかん外科病理診断の領域では,解剖学的要素を加味した病理組織型による色彩が強く,研究者による立場や考え方の違いによる若干の混乱があることは否めない。

 病理に限らず,分類は本質を明らかにする作業の道具であり,てんかんの集学的な合意形成(consensus building)に資する分類を共有することが重要である。本稿では,脳形成のプロセスの基本的な知識を整理したうえで,これまでの報告を中立的な立場でレビューしながら,今後のてんかん病理診断の標準化へ向けた展望を解説したい。

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はじめに

 てんかんを専門とする者を除けば,臨床上てんかんの診断を疑うきっかけは,痙攣や意識障害がほとんどを占めるであろう。しかし,一過性てんかん性健忘(transient epileptic amnesia)のように,発作症状として高次脳機能障害を生じるてんかんが知られている。本稿では,てんかんと高次脳機能障害について,主に成人患者を対象として概観する。

 痙攣を生じずに高次脳機能障害を示すてんかん発作が重積すると,非痙攣性てんかん重積(non-convulsive status epilepticus:NCSE)の状態になり,高次脳機能障害が持続して観察される。さらに,日常臨床で施行される表面脳波や,脳血流シンチグラフィーでは非痙攣性てんかん重積の所見が得られなくても,てんかん性と考えられる高次脳機能障害が持続する症例も散見される1,2)。てんかん性高次脳機能障害(epilepsy with higher brain dysfunction)という概念は,そのような症例も含めて,てんかんと高次脳機能障害の臨床をみていくことを提唱している。

 本稿ではさらに,てんかんとも高次脳機能障害とも関連の深い辺縁系脳炎の症例を提示して,てんかんと高次脳機能障害をめぐる病態の関連について考察を広げる。また,多くのてんかん患者は,その発作症状によらず,記憶障害などの高次脳機能障害を合併しているといわれるが,それには抗てんかん薬の関与もあり,最近の知見を紹介する。

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はじめに

 てんかん領域における認知機能研究の臨床的役割は大きく,知能,言語,記憶機能はじめさまざまな側面から多角的に検討され,これまでにも幅広い領域において多くの知見が得られている。てんかん患者のさまざまな認知機能を評価することはてんかん診療におけるトータル・マネージメントとしての一翼を担い,さらには,発作症候や脳波,各種画像検査などから推定されたてんかん焦点を支持する根拠としての役割も持つ。また,てんかん外科領域においては,術前のてんかん焦点側の言語,記憶機能や,術後の機能回復の有無を評価する必要があり,術前,術後の詳細な神経心理検査による検討は必須となっている。

 本稿では,側頭葉てんかんの外科治療において最も重要な記憶機能について概観し,さらに現在注目されているてんかん患者のノンバーバルコミュニケーション機能としての社会的認知機能へ展開することにより,てんかん領域における認知機能研究の最近の動向について概要を紹介する。

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はじめに

 一般市民のみならずほとんどの臨床医も,てんかん発作は痙攣発作を意味するものと考えている。さらに脳神経系専門医であっても,非痙攣性てんかん発作(nonconvulsive seizure:NCS)およびNCSが持続あるいは反復する重篤な状態である非痙攣性てんかん重積状態(nonconvulsive status epilepticus:NCSE;従来広く使用されるが,「非痙攣性てんかん発作重積状態」が正確であろう)の認識は不十分である。また,その概念が認識されていても,日常臨床上,NCSとNCSEが鑑別診断に加えられることは稀であり,たとえ鑑別診断に加えられても,特発性てんかんとしての複雑部分発作や欠神発作の想起にとどまることが多い。

 筆者らは米欧の先人に続き,2000年代初頭からNCSEに関する新たな臨床像の提示と注意の喚起,啓発を行ってきた。米欧では専ら集中治療室(ICU)における急性昏睡状態,subclinical seizureとNCSEの関係に焦点が当てられてきたが,筆者らはこれらに加えて遷延性意識障害,過換気後遷延性無呼吸,クリュヴァー・ビューシー症候群は,治療可能なNCSEの新たな表現型であることを報告してきた(後述)。すなわち,わが国におけるNCSEへの取り組みは,米欧よりも神経学全般に根ざしていたといえるが,近年のてんかん関連交通事故の発生もあり,ようやく神経学,救急医学,集中治療医学の領域で大きな関心を集めるに至った。

 本稿では,主に2000年以降に明らかにされた症候性てんかんの新たな表現型であり,治療可能であるにもかかわらずunderdiagnosisで,交通事故などとの関連性も指摘されているNCSEについてbest available evidenceを踏まえてご紹介する。

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はじめに

 てんかんの診断における検査としては,脳波検査(光刺激,過呼吸,睡眠を含む)と神経画像検査が重要であり,必要に応じてビデオ脳波同時記録も行う。

 てんかん発作を起こした患者は,頭蓋内病変の検索のためにMRI(magnetic resonance imaging)またはCT(computed tomography)を施行することが推奨され,特にMRI検査は局在関連てんかん患者には重要である(『てんかん治療ガイドライン2010』推奨度A)1)

 一般的に,てんかんの画像検査は,純粋に形態学的評価が主体でその性状によりてんかん原性が経験的に示唆されるものと,十分な局在情報を有する機能検査(脳機能イメージング:脳機能画像検査)の2種類に分けることができる。前者はMRI,CTによる解剖学的評価であり,後者は,局所ブドウ糖代謝,局所脳血流評価,酸素代謝,受容体イメージングなどである。本稿では,てんかん患者における画像検査(形態学的評価および脳機能神経画像)と,関連する手法による統合的なてんかん焦点,脳機能診断について概説する。

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はじめに

 嗜銀顆粒性認知症(argyrophilic grain dementia)はBraakら1-3)により記載された老年期の認知症性疾患である。神経変性症性認知症疾患の中ではアルツハイマー型認知症に次ぐ頻度であるが2-4),診断には病理学的検索が必須であるため臨床所見や経過を詳細に検討できる症例は少ない5-7)。ほとんどの症例は臨床的にアルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症,脳血管性認知症と誤診断されている5-7)。また,認知症を呈する種々の神経変性疾患において嗜銀顆粒をしばしば認めるため,嗜銀顆粒の存在と臨床症候との関連性の評価が困難な症例も多い5,6)

 筆者らはパーキンソニズムで発症し,経過中に精神症状を主体とした認知症を呈したため,臨床的に認知症を伴うパーキンソン病と診断されたものの,病理学的検索により嗜銀顆粒性認知症と脳血管性パーキンソン症候群の合併と考えられた高齢女性例を経験したので報告する。

現代神経科学の源流・1【新連載】

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 Sir John Carew Eccles(1903-1997)。1903年,オーストラリアのメルボルンに生まれる。1925年,メルボルン大学医学部卒業後に渡英し,オックスフォード大学において,脊髄反射学の創始者で「シナプス」の命名でも有名なチャールズ・シェリントンのもとで学ぶ。1937年にシドニー病院の兼松記念病理学研究所所長(1937-1943),ニュージーランドのオタゴ医科大学教授(1944-1951),オーストラリア国立大学教授(1952-1966)を歴任する。その後米国に渡り,シカゴの米国医師会研究所員,バッファローのニューヨーク州立大学教授を歴任後,引退してスイスに居を移し,文筆活動と講演活動に励んだ。脳・脊随の神経機序を研究テーマとし,神経細胞間のシナプス接続に抑制性のものがあることを発見した功績により,1963年ノーベル医学生理学賞を受賞した(同賞はエックルスの師シェリントンも1932年に受賞している)。複雑な脳・脊髄の神経機序を神経細胞のレベルにおいて解明しようとする神経生理学の開拓者であり,現代の神経生理学の源流に位置する人物といえる。生理学での功績のほか,「脳と心」の問題に深い関心を持っており,1977年に哲学者カール・ポパーとの共著で『自我と脳』を出版した。来日歴5回。1986年11月,多くの日本人研究者を育成した功績により,勲二等旭日重光賞を受賞している。1997年5月2日,スイスのテネロ=コントラにて死去。

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 3月6~10日にイタリアのフィレンツェで開催されたThe 11th International Conference of Alzheimer's and Parkinson's Diseases(AD/PD 2013)に参加した。本学会は2年に1度開催され,第11回の会長はイスラエルのAbraham Fisher先生であった。フィレンツェは,ルネッサンス時代の芸術作品が多くみられる花の都と呼ばれ,イタリアの中でも著名な観光地である。その地で開催された本会は参加者も非常に多く,ポスター発表も毎日500あまりの演題が3日間にわたって行われ,日本からの発表も散見された。また国別の参加者一覧を見ると,欧州各国からの参加者がもちろん多いが,欧州以外からの参加者では,米国に次いで日本が多く,わが国が世界中の患者の治療に貢献できるよう頑張っている現状が示唆される。

 会場はFortezza Da Bassoという施設で,1534~1537年に建築されたルネッサンス建築の傑作の1つであるバッソ要塞に囲まれた敷地に建つ会議・展示場である。本会場を取り囲む要塞は,空から見ると5角形のレンガ造りの城壁(写真1)で重厚な雰囲気である。時間の流れを感じさせる重厚な赤褐色のレンガの上に本学会名である「AD/PD2013」の看板が明るい青色で示され(写真2),初めて見たときには,そのコントラストが非常に鮮やかで,青色の軽さが患者さんの症状の軽快を象徴しているようにも思われた。

連載 神経学を作った100冊(77)

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 ブロートマン(Korbinian Brodmann;1868-1918)は1868年11月17日にミュンヘンの西,スイス・フランス国境に近いホーエンツォレルンの農家に生まれた。医学をミュンヘン大学,ビュルツブルク大学,ベルリン大学とフライブルク大学で学び,1895年に医師の資格を得た。こののちミュンヘン大学病院の小児科で働いていたが,ジフテリアに罹患した。ブロートマンは,療養も兼ねてバイエルン州の北東部の温泉町アレキサンダーバートにあったフォークト(Oskar Vogt:1870-1959)の主宰する神経病クリニックの助手として勤務し,徐々に健康を回復していった。同時にフォークトの影響により,神経・精神医学に興味を惹かれていった。フォークトは1898年にベルリンに神経生物学研究所を設立するが,ブロートマンもベルリンへ移り,ついでライプチッヒで神経病理学の研究にいそしみ,1898年に学位を取得した。その後イェーナ大学病院でビンスワンガー(Otto Ludwig Binswanger;1852-1929),フランクフルトの国立病院でアルツハイマー(Alois Alzheimer;1864-1915)の教えを受けた。この間,イェーナでは新しい技術であった偏光顕微鏡の技術を習得した1)

 1901年にフォークトの主宰するベルリンの神経生物学研究所に移り,1910年までの10年間に後世に残る研究を成し遂げたのだった。また,フォークトが催眠研究のために創刊した『Journal für Psychologie und Neurologie』誌の編集に携わることになったが,この雑誌がブロートマンの研究発表の多くに与ることになる。

お知らせ

第13回日本外来精神医療学会
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会  期 2013年7月27日(土)~7月28日(日)

会  場 札幌コンベンションセンター(札幌市白石区東札幌6条1丁目1-1)

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趣  旨 近年の生命科学分野において研究者間の交流,ネットワーク,および共同研究が急速な発展に寄与しており,これらの交流は革新的な発見から臨床応用まで少なからぬ貢献ができると考え,アジア・オセアニア地域における共同研究に対する助成を行います。

助成研究テーマ 生命科学分野におけるアジア・オセアニア諸国との交流による学際的研究。特に老年医学,再生医学,感染症,疫学,医療機器,漢方,その他。

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 人は社会の中で生きており,それを担う脳は社会的存在でもある。脳の研究も個体の「生物脳」としての研究から「社会脳」の研究へと主流が移ってきた。岩田 誠先生,河村 満先生の編集になる医学書院の「脳とソシアル」シリーズは,このような潮流の中で“社会脳”をテーマとして扱った労作である。すでに刊行された3冊はいずれも医学の分野を超えた広範な領域の専門家によって執筆されており,一読するたびにその構成の巧みさと内容の面白さに感嘆したものである。第1弾の主題は「社会活動と脳」,第2弾は「発達と脳」,第3弾は「ノンバーバル・コミュニケーションと脳」であった。

 今回新たに刊行された第4弾の主題は「脳とアート」である。「感覚と表現の脳科学」という副題に加え,帯には「脳はときどき嘘をつく」と意味ありげな言葉が書かれているが,読んでからのお楽しみとしよう。

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次号予告

投稿規定

「読者からの手紙」募集

あとがき 酒井 邦嘉
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 「ボードゲーム」というと何を想像するだろう。大昔からある双六・バックギャモンか,あるいは囲碁・将棋だろうか。幼少時に遊んだ「人生ゲーム」や「モノポリー」を懐かしく思い出す人がいるかもしれない。ゲームが電子化され,本物の盤(ボード)に触れたことのない子供が増えてきたのは残念である。ボードゲームにはサイコロの目のような偶然や運に大きく左右されるものがあるし,逆に完全な先読みが可能なものもある。特に前者のようなゲームをコンピュータ相手にやってもあまり面白くないのは,コンピュータ側に有利な展開になると,「サイコロに手心を加えているのではないか」という疑念が拭えないからだろう。やはりボードゲームは人を相手にしたほうが楽しい。

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基本情報

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BRAIN and NERVE
65巻5号 (2013年5月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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