BRAIN and NERVE 59巻8号 (2007年8月)

特集 パーキンソン病の分子遺伝学―最近の知見

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はじめに

 パーキンソン病(Parkinson's disease: PD)は,臨床的には,振戦,筋固縮,寡動,姿勢反射障害を主徴とし,痴呆,自律神経障害などの,さまざまな随伴症状を呈する神経変性疾患である。病理学的には,黒質緻密層のドパミン細胞の脱落とLewy小体の出現(ただしparkin/PARK2,PARK8家系では認めない)を特徴とする。神経変性疾患ではAlzheimer病に次いで頻度が高く,わが国には14万人以上の患者が存在するが,今後社会の高齢化に伴い,さらなる患者数増加が予想されている。

 発症機序としてはMPTP(1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine)や,rotenoneといったドパミン神経毒やPD患者脳を用いた研究などから,ミトコンドリアの呼吸系酵素の障害,炎症反応,酸化ストレス障害によりアポトーシスが誘導され神経細胞死に至ることが一因とされているが,それらが惹起される分子遺伝学的機序は明らかではない。

 症例の90%以上は孤発性発症であるが,5~10%は家族性(その一部はメンデル遺伝性)に発症する。メンデル遺伝性PD家系の連鎖解析などからα-シヌクレイン,parkin,UCHL1,DJ-1,PINK1,LRRK2,ATP13A2の6つのメンデル遺伝性PD原因遺伝子が明らかにされ,前述のミトコンドリア障害,酸化ストレス障害の病態への関与に加え,新たにユビキチン・プロテアソーム系の機能低下,つまり蛋白分解異常からドパミン細胞死に至る経路の重要性が示された。孤発性PD,メンデル遺伝性PDとも,一部共通の発症メカニズムが存在していると考えられ,それらを切り口にして孤発性PDの病態解明,治療法開発が進んでいる。一方で,ヒトゲノム解析の進展を受けて,生活習慣病を含めた多因子疾患の疾患感受性遺伝子の探索が実現可能となった。PDにおいては,患者の大多数を占める孤発性PDは多因子疾患であると考えられ,孤発性PDの疾患感受性遺伝子の発見を目指した研究が行われている。

 本稿では,パーキンソン病の分子遺伝学について,家族性だけでなく孤発性PDの疾患感受性遺伝子にも目を向け概説する。

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はじめに

 パーキンソン病(Parkinson's disease: PD)の病理学的診断に不可欠な細胞質内封入体としてLewy小体がある。近年,封入体形成と疾患発症との関連が言われており,封入体そのものは神経保護的な作用を持つことが指摘され,monomer→protofibril→fibril→Lewy小体のカスケードの上流において毒性があると考えられている。この封入体の主要構成成分の1つにα-シヌクレインが報告されており,この蛋白の機能解析はPDの本質的原因解明へ通ずることが考えられている。本稿では,α-シヌクレインの分子構造と,missense mutationの臨床病態,そして世界中に分布することが推定されるα-シヌクレインの重複に関して,自験例も含めて解説する。

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はじめに

 パーキンソン病は,成人・高齢者にみられる最も頻度の高い神経変性疾患の1つで,その有病率は人口10万人あたり約100人と推定されており,その患者数は増加の一途をたどっている。主に運動機能が障害され,その代表的な症状は,①安静時振戦,②筋固縮,③無動,④姿勢反射障害,の4つが挙げられる。また神経病理学的には,中脳黒質のドパミン産生ニューロンの変性・脱落がみられ,残存しているニューロンの一部においてLewy小体と呼ばれる球状の封入体が細胞質内に観察される43)。しかしながら,いまだその根治療法はなく,高齢化社会を迎えた現在,本疾患の発症機序の解明は焦眉の急である。

 パーキンソン病のほとんどは孤発性に発症するが,ごく一部ではさまざまな遺伝形式で遺伝し,発症する家系が存在する。このような家族性パーキンソニズムについて分子遺伝学的手法を用いて,原因となる遺伝子を同定することで,発症に関係する遺伝子の有用な情報を得ることができる。現在までに世界中の家族性パーキンソニズム家系から8つの原因遺伝子(α-synuclein, parkin, UCH-L1, DJ-1, PINK1, LRRK2, ATP13A2, HTRA2)が同定されており(Table1)5,27,31,37,40,41,49,56,62),その遺伝子産物の機能解析からパーキンソン病のみならず,アルツハイマー病など他の神経変性疾患の発症機序を理解するうえでも,非常に重要な情報をもたらしている。

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はじめに

 パーキンソン病(Parkinson's disease: PD)は安静時振戦,無動,固縮および姿勢反射障害を主要症候とし,アルツハイマー病に次いで2番目に多いとされる神経変性疾患である。加齢とともにPDの頻度は上昇し,65歳までで~1%,65歳以上で~3%,85歳以上で~5%の頻度とも報告されている1,2)。その本態は黒質でのドパミンニューロンの変性脱落であり,Lewy小体の出現がPDの病理学的診断の指標とされてきている。

 PDのほとんどは孤発性で,約5~10%に遺伝性PD(FPD)を認める。PDの原因はいまだに明らかではないが,遺伝的因子と環境因子の相互作用による多因子疾患と考えられている。遺伝的因子に関し,これまで常染色体優性遺伝性PD(ADPD)のうちα-synuclein3),UCH-L14),LRRK25,6),常染色体劣性遺伝性PD(ARPD)のうちparkin7),PINK18),DJ-19),と計6つが確立した原因遺伝子として報告されている。最近,PDと臨床像を少し異にするが,常染色体劣性遺伝性のPARK9もATP13A2遺伝子変異によることが報告され10),ここ数年でPINK1, LRRK2, ATP13A2と3つの原因遺伝子が次々に同定されており,PD関連疾患に対する遺伝学的アプローチはますます盛んになってきている。本稿では最新の知見を含め,PARK811)の原因遺伝子として同定されたLRRK2の臨床分子遺伝学について概説したい。

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はじめに

 パーキンソン病(Parkinson's disease: PD)の大多数は孤発性であるが,19世紀後半には既に家族性PDの存在が知られていたという1)。しかし,PDにおいて初めて原因遺伝子が同定されたのは1997年のことである。この年,常染色体優性遺伝を示すPDにおいてα-synuclein(αS)遺伝子が原因遺伝子として同定された2)。さらに,原因遺伝子産物であるαS蛋白がPDの病理学的特徴であるLewy小体の主要構成成分であることが判明した3,4)。翌年には常染色体劣性遺伝を示す若年発症のパーキンソニズムでも原因遺伝子が同定され,parkinと命名された5)。現在,αS遺伝子変異によるPDはPARK1,parkin遺伝子変異によるPDはPARK2と称され,2007年3月の時点で遺伝子座または原因遺伝子が同定されているPDは13にのぼる(Table1)2,5-16)。そのうち,病理所見が判明しているのは,PARK1,PARK2,PARK3,PARK4,PARK8の5つである。

 さらに,αSに対する特異抗体の開発により,1998年以降,アルツハイマー病(Alzheimer's disease: AD)や各種タウオパチーにおけるαS蓄積の報告が相次いだ。孤発性および家族性ADでは高頻度にLewy小体の出現を認め17-21),特にpresenilin-1(PSEN1)遺伝子変異を伴う家族性ADでは,広範かつ高度のαS蓄積を示す例が報告されている22-26)

 本稿では,家族性PDならびにPSEN1遺伝子変異を伴う家族性ADについて,病理所見の要点を記載するとともに,その病理学的解釈を試みたい。

総説

失音楽 緑川 晶
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Ⅰ.失音楽とは

 失音楽amusiaとは,後天的な脳の障害によって各種の音楽機能が障害された状態であり1),Tableに示す多様な症状が含まれている1,2)。さらに近年になると正確な病巣の同定が可能になるとともに,機能画像法などからの知見が損傷例にも適応されることで,新たな症状が確認されつつある。また,音楽能力の先天的な障害は失音楽には含まれていなかったが3),先天性の失音楽congenital amusia4)という概念も提唱されることで,失音楽はより広い概念を表す用語となりつつある。本稿ではTableに示す症状のほか,近年関心が向けられはじめた発達障害や変性疾患による病態も含めて,失音楽を概説する。

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はじめに

 高齢化社会を迎え,高齢者を中心とする多くの人々が血栓症や塞栓症の予防を目的として抗血栓療法を受けている。抗血栓療法中に観血的な医学的処置が必要となった場合,抗血栓療法を継続すべきか,それとも一時中止すべきかという問題が生じる。抗血栓療法を継続すれば医学的処置に伴う出血性合併症の懸念があり,中止すれば脳梗塞などの血栓性あるいは塞栓性疾患の発症や再発が心配されるからである。

 抗血栓療法中に観血的な医学的処置を行う場合の対応は極めて混乱しており,日本脳卒中協会へも脳卒中患者からの問い合わせが寄せられている。抜歯時の抗血栓療法の管理については,2004年に発表された日本循環器学会編「循環器疾患における抗凝固・抗血小板薬療法に関するガイドライン」に記されている1)。また内視鏡検査時の抗血栓薬使用指針が2005年に日本消化器内視鏡学会誌上で発表されている2)。しかし,これらのガイドラインや指針がどの程度一般の医師や歯科医師に影響を及ぼしているかも不明である。本研究では国立病院機構所属施設に勤務する医師や歯科医師と,脳卒中診療件数の多い病院に勤務する医師を対象に抗血栓療法中の抜歯,内視鏡下での生検,内視鏡下でのポリープ除去術,白内障の手術,およびペースメーカー植え込み時の対応を調査し,本邦における抗血栓療法中の観血的医学的処置時の対応の実態を明らかにするとともに,脳卒中診療医師のそれらへの対応が,国立病院機構所属施設に勤務する医師と差異があるかについても調査した。

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緒言

 1983年にFisherは構音障害だけを生じるラクナ症候群をpure dysarthriaと呼んだが,これらの神経症候を生じる責任病変としては現在までに大脳皮質,放線冠,内包膝部,後脚,橋底部,小脳虫部などが指摘されている1-8)。大脳脚の限局性梗塞によるpure dysarthriaの報告は本例が初めてであり,構音障害の責任病変部位からその機序と大脳脚における皮質延髄路の局在について考察した。

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はじめに

 Diffuse astrocytomaは星細胞腫群(astrocytic tumor)のうち,浸潤性に脳実質を侵す分化型グリオーマである。WHO分類(2000)では,限局した発育を示すpilocytic astrocytomaとの対比の意味で“diffuse”がつけられている。わが国では原発性脳腫瘍の7.7%を占め,25~59歳に好発する。大脳半球,特に前頭葉に多く,次いで側頭葉,頭頂葉に発生する。臨床悪性度はWHO GradeⅡに属する。組織学的には3つの亜型に分類され,①線維性(fibrillary),②原形質性(protoplasmic),および③肥胖性(gemistocytic)星細胞腫がある。症状としては,脳実質へのびまん性の浸潤によりさまざまな局所症状が出やすく,頭蓋内圧亢進による症状は初期には出にくい。てんかん発作を起こすことが多いことも特徴の1つである1)

 これまでdiffuse astrocytomaと診断されていた星細胞腫のなかに,長期のてんかん歴を持ち,diffuse astrocytomaに比べて良好な予後をたどる一群,すなわちisomorphic astrocytomaが存在するとの報告がなされるようになった2-4)。今回われわれは,このisomorphic astrocytomaと考えられた1例を経験したので報告する。

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はじめに

 頭蓋外椎骨動静脈瘻に対する血管内治療手技に関してさまざまな報告をみる3,5-11)。瘻孔のみを遮断することが最も理想的であるが,そのためには瘻孔の正確な病態を把握する必要がある。われわれは頸部の右椎骨動静脈瘻に対し,血管内バルーンであるHyperForm(Micro Therapeutics, Irvine, CA)を用いて瘻孔近傍の右椎骨動脈の血流を遮断しながら両側の椎骨動脈撮影を施行することで瘻孔の位置,大きさ,数を正確に把握でき,血管内治療を施行するうえで有用であったので報告する。

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 司会 症例2は慈恵医大の症例です。この方の脊髄生検は初めてではなく,数年前にも経過中に生検を受けております。その結果も含めて発表をいただきます。それでは経過をお話し下さい。

症例呈示

 主治医 症例は69歳の女性,右利きの方です。主訴は,両下肢の麻痺と両手のしびれ感でした。既往歴・家族歴は特記すべきことはなく,現病歴は6年間の経過と長く,9回のエピソードがありその度に階段状に増悪しています。

 まず,最初のエピソードから述べます。

 1999年9月中旬,63歳時に背部痛を自覚,その後,右下肢の筋力低下,左胸部以下のしびれ,排尿困難が出現し他院脳外科に入院しています。Th6以下の右Brown-Sequard症候群と診断され,診断は脊髄梗塞でした。ステロイドパルス療法を2クールから施行したようで,症状は改善して,10月下旬に独歩で退院となっております。

連載 神経学を作った100冊(8)

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 マーシャル ホール(1790~1857)は1832年と1833年に明らかにした反射の実験で有名である。彼はスコットランドのBasfordで生まれ,1809年にエジンバラ医学校に入学した。3年後に卒業すると,2年間をパリやゲッチンゲン,ベルリンなどの医学校で過ごした。彼はロンドンに出て,開業し成功をおさめた。生理実験に関しては,どこの大学・研究所にも属さず,自宅で行ったと考えられている。彼の業績は脊髄を含む反射弓を明らかにしたことにあり,これは“Memoirs on the Nervous System”,“Synopsis of the Diastaltic Nervous System”1),2)にまとめられている。

 もう1つ重要と思われることに,パーキンソンの原著を紹介したことがある。彼の神経系とその疾患の講義は1836年3)に出版された。これは八折り版171頁で,布装7シリング6ペンスであった。当時の評判としては,「これがマーシャル・ホール先生の見方だ。新しく独創的で,出版の価値がある。彼の研究は不滅であり,科学と人類にとって有用であろう」(Journal Hebdomadaire),「これらの観察は新しく,科学の進歩のために決定的な効果をもつだろう」(ヨハネス・ミュラー教授,Handbuch der Physiologie)などの賞賛の声が上がったという。この書物の140~141頁にパーキンソン病の記載がある。

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 監訳者の野村・金子両教授がまえがきで述べているように,最近の学生は簡便なテキストを好み,記述の多い書物は敬遠しがちである。断片的な知識で満足することなく,知的好奇心を高めるためにも,また脳画像を読み解く力を養うためにも,医学・歯学だけでなくコメディカルの学生・スタッフの必読書として,分子神経科学,臨床神経学の所見も含み内容の充実した本書を推薦したい。

 本書は,Ⅰ.中枢神経系の基本概念,Ⅱ.感覚系,Ⅲ.運動系,Ⅳ.統合系,Ⅴ.アトラスの5つの大項目に分けられ,読者の理解のために工夫がなされている。

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あとがき 糸山 泰人
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 今月号の特集は「パーキンソン病の分子遺伝学」というテーマで,5人の先生からパーキンソン病の分子遺伝学の最新の研究動向をまとめていただいた。1997年に家族性パーキンソン病の家系からαシヌクレインの遺伝子異常が報告され,一躍αシヌクレインを介した神経細胞死の機序解明の研究が開始されたことが思い出される。それからさらにparkin, UCHL1, DJ-1, PINK1, LRRK2, ATP13A2, HTRA2などの遺伝子異常が次々に報告され,その臨床病像の多様性と,遺伝子異常が引き起こす神経細胞死の異なった機序が報告されてきている。私どもパーキンソン病を専門にしない者にとっては,パーキンソン病における遺伝子異常からその神経細胞に至るメカニズムの解明の進歩には驚くべきものがあり,この分野における日本人研究者の貢献の大きさに感銘を受けた。また,パーキンソン病の90%以上を示す孤発性パーキンソン病における,発症感受性因子の遺伝子検索の研究も解説していただいた。これらの多くのパーキンソン病の分子遺伝学から始まる神経変異メカニズムの解析研究の中で,家族性や孤発性パーキンソン病に共通の細胞死プロセスが明らかにされれば,将来的に新しい薬剤開発につながるのではないかと期待される。

 今月号でもう1つ興味を持ったのは,Neurological CPCである。「ステロイドが有効な脊髄炎を繰り返した69歳の女性例」というタイトルであるが,診断と治療に悩んだ末に脊髄生検を行い,病理学的にはシェーグレン症候群を考えたいという内容であった。これは2005年の10月のCPCであるが,2007年の現在は視神経脊髄炎の概念がアクアポリン4抗体の存在で変わりつつあるので,大変興味深く読ませていただいた。それぞれの先生が真摯に事実に向かって意見を述べられている点は,すべて今日的意義を持つコメントであると感心した次第である。

基本情報

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BRAIN and NERVE
59巻8号 (2007年8月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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