言語聴覚研究 4巻1号 (2007年3月)

シンポジウム 成長期ごとの小児・保護者への支援

  • 文献概要を表示

 2003年に日本言語聴覚士協会が行った調査によると,小児言語障害領域で働く言語聴覚士(以下ST)は1,648人で,会員全体の約30%にあたる.本シンポジウム会場の石川県立音楽堂・邦楽ホールは定員700人であるが,かなりの「入り」であった.この集まりをみるだけでも会員の関心の高さを察することができた.その理由は,近年,障害児・者を取り巻く社会環境が法制度や理念を含めて大きく変化し,STが職務内容の拡大に戸惑いを感じているためと考えられた.

 教育領域では,2007年から特別支援教育が導入され,医療領域では,リハビリテーション医療に関する医療保険診療報酬が大幅に改定され,福祉領域では,2005年に発達障害者支援法,2006年に障害者自立支援法が施行された.これら施策の基本理念は地域での自立を支援することである.他の障害者に関する施策も障害者が地域で自立して生活することを支援する方向が明示されている.この動向の中で,本シンポジウムは小児言語障害領域におけるSTの役割について考える時宜を得た企画であった.

  • 文献概要を表示

 障害のある子ども,障害の可能性のある子どもに対しては,保護者への支援も含めた早期からの全面的かつ一貫した支援が必要である.その支援は,必要に応じて乳幼児期に始まり,就学前,就学,進学,卒業そして就労後まで一貫して行われることが大切である.

 支援の最初の入り口の1つが乳幼児健康診査(健診)である.

 軽度発達障害といわれる子どもたちの多くは,「ことばが遅い」,「落ち着きがない」,「コミュニケーションがとりづらい」といった状態を示す.このような状態を的確に判断し,具体的に保護者や関係者をサポートできるのは言語聴覚士(ST)の職種としての特性だが,わが国では健診にかかわるSTの数は極めて少数である.健診とは何かを概観し,STに求められる役割について述べることとする.今後,健診の場へのSTの関与がさらに広がることを期待したい.

  • 文献概要を表示

 統合保育を行っている幼稚園・保育園で通園施設の言語聴覚士が行った支援の状況を報告する.保育者が保護者とともに学習する場として連絡会を設定し,言語聴覚士が実際に園に訪問あるいは,保育者が担当児の療育場面に参加するという,情報共有のもとに話し合いが進められた.その結果,子どもの行動理解の促進,かかわりの実際的な方法の理解など,その後の保育場面への汎化が可能であった.保育者と保護者へのアンケート形式による調査結果では連携の必要性が示されたが,その主な内容は話し合いの回数と職員の資質であった.「困ったときに相談したい」,「コミュニケーションのとり方を知りたい」という意見が多く,言語聴覚士の必要性とともに言語聴覚士が望まれるときに連携できる制度作りが要求された.今回の支援から関連機関と保護者が子どもの情報を共有することが有効であり,望まれる支援は適切なタイミングと実際的なかかわり方の提示であると考えられた.

  • 文献概要を表示

 平成19年度からの特別支援教育の実施に向け,いくつかの地域でその体制作りが試みられている.われわれは川崎市内のA小学校からの依頼により,週1回学校へ出向くという方法をとり,その体制作りに協力してきた.この試みを通して,特別支援教育における言語聴覚士(ST)の役割を検討し報告した.STに期待されているのは,①児童の発達評価,②問題の背景を探る,それらに基づいた③個別指導計画の作成と実行への協力,④個別指導,⑤保護者・教員への説明などである.今後,STの専門性を明確にすることにより,学校教育の中でのSTの位置づけを確立したい.

  • 文献概要を表示

 軽度発達障害を持つ人やその家族への生涯にわたる援助システムとして,NPO法人アスペの会石川,金沢エルデの会が活動している.同じ障害を持つ仲間集団の特徴と,その中で専任言語聴覚士(ST)が担う役割についてまとめた.

 本稿では,会の事業内容と,会のメンバーとSTのやりとりや,メンバー同士のやりとりをSTがサポートする様子を具体的会話例を挙げ紹介する.彼らは仲間活動の中で,定型発達の人たちとの集団では体験しにくい自分らしい表現でのやりとりや,責任ある役割を経験している.そのための専門家の役割として生涯を見通し,また家庭や学校,活動でみせる姿を総合して個人個人への理解を深め,活動準備・環境設定を行う,活動の中でどんなコミュニケーション支援が適切かを見極め取り組む,個々にあった学習の仕方を探り実践していく,などが挙げられた.

  • 文献概要を表示

 「よこはま・自閉症支援室」(横浜市発達障害者支援センター)は,成人期の発達障害を専門とする相談支援機関である.平成17年12月,来談者とその家族を対象とし,来談までの経過や現況についてアンケート方式による生活・就労実態調査を実施した(小川ら 2006,松尾 2006).本稿では,相談概況や生活・就労実態調査の結果をもとに,成人期の来談者にみられる特徴について,①生育歴,②主訴と相談ニーズ,③就労上の課題と対応方法といった3つの側面から概観する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 こんにちは.金沢大学の井上です.今日は人権について「障害のある人の生活を支える」,その基本的視点は何かを考えさせていただきたいと思います.私の専門の法律学の観点からものをみますと,人権が大事,あるいは人権保障を確立するという話になります.皆さんが言語聴覚士としての仕事をされる場合,それ以上に日常生活を送る場合,さらに生きていく基本において人権を考えていただきたいし,皆さんは人権保障のにない手であるし,そうでなければならないと考えています.

  • 文献概要を表示

 アスペルガー障害(AS)児と高機能自閉性障害(HFA)児の認知特徴の相違を知るために,WISC-Ⅲ知能検査結果の分析を実施した.その結果,AS児におけるVIQ優位とHFA児におけるPIQ優位がわかった.群指数では,AS児においては知覚統合が他の群指数より低かったが,言語理解はHFA児に比べ高かった.さらに下位検査評価点に関しては,AS児においては,組合せが著しく低かった.他方,HFA児では,類似,単語,知識がAS児に比べ低い結果となった.これらから,AS児に対しては言語による聴覚的手がかりを活用した支援が,HFA児に対しては視覚的手がかりを活用した支援が有効と考えられた.また,AS児において,一見良好な言語理解を思わせる言語項目の高い値が示されたが,HFA児と同じく社会性の問題を有するAS児の言語については,さらに詳細な検討が必要といえよう.

  • 文献概要を表示

1.はじめに

 栄養サポートチーム(Nutrition Support Team:以下NST)は,栄養管理を症例ごとに適切に実施するため職種を越えて活動するチームである.欧米では,1960年代に中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)の開発とともに医師・看護師・薬剤師・栄養士からなるチームにて栄養補給について検討されたことからスタートした.その後,さらに他の医療関連職種に普及し,現在では術後患者や低栄養患者に対しての栄養管理をチームで実践している.わが国では,長年管理栄養士を中心に栄養ケアマネージメントとして栄養管理が実践されてきたが,1990年代後半からチームによる栄養管理の重要性が叫ばれ,持ち寄りパーティー方式(Potluck Party Method:PPM)のNST運営システムが考案された.その後NSTによる栄養管理の効果が報告されるにつれ,全国の医療施設でNSTが設立されるようになった.2005年12月の段階では,すでに全国684施設で設立され,236施設でNST稼働準備が進められていると報告されている.筆者の勤務する施設では,もともと独自に活動していた「脳卒中科NST」と「腎臓内科NST」が2000年に合併して院内のNSTとして活動を開始し,2002年から全科型NSTへと発展した.筆者は2001年よりNSTの活動に関わっている.今回は,筆者が経験した急性期総合病院でのNST活動を紹介する.

--------------------

  • 文献概要を表示

 第8回日本言語聴覚士協会総会・日本言語聴覚学会は,2007年6月静岡県浜松市のアクトシティ浜松において開催いたします.学会テーマは,平成18年度に行われた医療保険・介護保険の改定の他,特別支援教育の推進といった言語聴覚療法領域を取り巻く環境の変化を見据えながら,障害のある方々のより質の高い生活の実現に向けて言語聴覚士が担うべき役割を考える会にしたいと考え,「言語聴覚療法の更なる普及・向上を目指して」~目標指向の臨床実践~としました.

 特別講演としては,脳科学者としてご活躍の茂木健一郎先生に「脳科学と言語聴覚障害(仮題)」をテーマにお話をいただきます.また公開特別講演として聖隷三方原病院リハビリテーションセンター長の藤島一郎先生には「摂食・嚥下障害の現代医療における動向~嚥下リハビリテーションのポイント~」について,豊富な症例を交えてのお話が伺えることと思います.その他,ポスターセッションとして,効率的・効果的な訓練の実践を目指して「言語聴覚療法のコツとツボ」についての指定演題を募集しますので,ぜひご応募ください.

  • 文献概要を表示

 本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました.本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります.

 購読会員を募集していますので,下記のとおりご案内いたします.

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
  • 文献概要を表示

 2月20日といえば例年ならば厳しい寒さが続く頃ですが,今年は春のような暖かい日が多く,那須の山頂に雪は申し訳程度にしか載っていません.このような傾向はこの冬だけのものではなく,ここ数年栃木県北部でも市街地に積雪を見ることは稀となってきました.この冬はまだ一度も積雪がなく,地球環境の変化は身近なところでも刻々と進んでいることを実感しています.本誌がお手許に届く頃にはすでに桜は散っているかもしれません.

 さて,今号は原著論文1編,金沢における第7回日本言語聴覚学会の講演,シンポジウム,レポートをお送りします.講演はノーマライゼーションと人権に関するもので,言語聴覚療法の根幹にある職業倫理について深く考える機会を与えてくれるものと思います.原著論文とシンポジウムはいずれも小児のコミュニケーション障害に関するものです.原著論文は高機能自閉症とアスペルガー障害の認知特徴を独自の視点から分析し,興味深い知見が述べられています.シンポジウムでは言語聴覚障害がある小児に対し言語聴覚士には何ができるかを成長期にそって各著者が論じています.小児臨床では対象者が将来どのようなライフスタイルを選択できるようになるかを常に考え,長いスパンで支援することが必要ですが,制度的な問題や言語聴覚士の専門性への理解不足などから,現在でも言語聴覚障害がある小児を支援するチームに言語聴覚士は十分入りきれていません.コミュニケーションは生活機能のひとつであり,生活に視点をおいた支援では言語聴覚士を含むチーム連携が不可欠です.各論文はさまざまなチームに言語聴覚士が参加することによっていかに大きな変化が生まれるかを具体的に述べており,今後の小児臨床の方向性が示されています.

基本情報

13495828.4.1.jpg
言語聴覚研究
4巻1号 (2007年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

文献閲覧数ランキング(
6月22日~6月28日
)