言語聴覚研究 17巻2号 (2020年6月)

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 わが国の言語聴覚士の歴史は約60年に及び,幾多の先輩諸氏の努力の結晶として今日の発展はある.その歴史を振り返ることは,変化の激しい時代にあって言語聴覚分野の未来ビジョンを考えるうえで意義あることと考えられる.そこで,本稿では,わが国の言語聴覚士が歩んできた道を言語聴覚障害学の始まり,言語聴覚士の誕生,言語聴覚分野の発展,職能組織の活動に分けてみていくことにする.そして,先達の足跡を辿ることを通して本分野の原点と歴史からみた未来へのメッセージについて考察する.

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 自立語付属語を単位とした平均発話長(MLUw)の初期文法発達の指標としての有用性を検討するために,5名の定型発達幼児の発話データベースを用いて,項どうしや項と述語をつなぐ文法的助詞および動詞活用形の種類の増加とMLUwの上昇との対応関係を分析した.MLUw 2.0までは,MLUwの増加に伴い文法的助詞と動詞活用形の多様化が認められ,MLUwが文法発達速度の個人差と対応していたことからもMLUwは初期の文法発達指標となりうることが示唆された.また,5児に共通して獲得された9種類の文法的助詞および11種類の動詞活用形の獲得時期とMLUwから,最初の動詞活用形が生産的になる文法的萌芽期,多くの文法的助詞や動詞活用形が出現し柔軟に使用される文法的拡張期,さらに獲得が進展し徐々にプラトーに近づく文法的発展期の3段階に分けられることが示唆された.MLUw 2.0以降は文法指標との関連性は失われていった.

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 失語症者のコミュニケーション行動について,半構造化した自由会話場面の観察を通して調査した.また,言語機能の指標である標準失語症検査(SLTA),コミュニケーション能力の指標である実用的コミュニケーション能力検査(CADL),知的機能の指標であるRaven's Coloured Progressive Matrices Test(RCPM)の得点との関連について検討した.その結果,非失語症者に比べ失語症者に多い行動として,知的機能にかかわらず,言語理解力の低い症例ほど会話場面で問いかけられた際に否定的な表情を表出する頻度が高く,言語表出力の低い症例ほど会話場面での表出に際し首を振る頻度が高いことが示された.これらの行動はコミュニケーション能力が低い症例ほど頻度の高い行動とも一致していた.以上の結果は,失語症者とのコミュニケーションの際,着目すべきコミュニケーション行動の具体的特徴を提示するとともに,聞き手の援助技術に示唆を与える.

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 失語症のリハビリテーションの目標はQOLの向上であり,近年,失語症者のQOL研究が散見されるようになった.失語症者は疾患特異的尺度を用いることが適しているが,重度者も実施可能なQOL尺度はない.そこで,本研究では幅広い生活期の失語症者に適用可能なQOL尺度として,健康と直接関連のあるQOLのモデルを基に開発したLife Stage Aphasia QOL Scale(以下,LAQOL)について,その信頼性と妥当性を検証することを目的とする.対象者は失語症デイサービスに通う53名(男性38名,女性15名)である.結果,LAQOLは52名(98.1%)の対象者が回答可能であった.調査項目間の相関分析により選択した11項目について,内的整合性と基準関連妥当性を検討した.Cronbachのα係数は0.86,Stroke and Aphasia QOL Scale-39-Jとの基準関連妥当性はr=0.75と有意な相関を示した.本研究で作成したLAQOL-11は,短時間で実施可能でありかつ重度な失語症者を含めた多くの失語症者を対象とすることができ,臨床上有用性が高いことが示唆された.

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 埼玉県内すべての特別支援学校46校を対象に,言語聴覚士(以下,ST)との連携の実態をアンケートにて調査し,埼玉県言語聴覚士会(以下,県士会)の役割や課題を検討した.アンケートの回収率は100%であった.現在,STを配置・活用している学校は23校(50%)で,うち20校は特別非常勤講師として配置されていた.仕事内容は教員への助言・支援,児童生徒の場面観察評価が多く,言語指導,構音指導,摂食・嚥下指導など多岐にわたっていた.STを活用していると回答したすべての学校からSTの活用には「利点がある」との回答を得た.今後STに期待する役割については,「専門的な視点に基づく具体的な指導と助言の継続」や「教員の指導力向上への貢献」とする意見が多く寄せられていた.これらの調査結果を踏まえ,県士会の役割は,特別支援学校とSTとの連携をいっそう深めていくことや特別支援教育に貢献できる人材の育成であることが示唆された.

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 言語聴覚士(ST)のなかには吃音を有する者が一定数いると考えられる一方で,吃音が就業に影響している可能性も推察される.本研究では吃音のある言語聴覚士(吃音ST)の就業状況を調べることを目的に,25名の吃音ST(男性20名,女性5名,平均年齢29.8±4.6歳)に質問紙調査を実施した.回答者の臨床分野は「小児言語・認知」の割合が高い以外はST全体と同様であった.約半数の回答者が小児臨床にかかわっており,4割の回答者は吃音の臨床を実施していた.勤務をするうえでの困難度は全体的に小さかったが,電話やカンファレンスなどの非臨床場面の業務で困難さがみられた.吃音臨床に吃音STが貢献していることが示唆される一方,吃音STの働きやすさは多職種連携における配慮や電話免除などの具体的調整によって向上する可能性も推察された.

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 舌圧発現時の目標値までの到達時間測定を試み,得られたデータと発声発語機能との関連性およびその性差を検証することを目的とした.被験者は,若年健常成人25名とした.舌圧測定器(JMS社製,TPM-01)を用いて測定した最大舌圧から,目標舌圧を算出し,その目標舌圧までの到達時間を解析した.発声発語機能の評価には,単音節の交互反復運動速度,発話速度および構音速度を採用した.結果,最大舌圧の30%舌圧までの到達時間と発声発語機能で有意な相関関係を示した.また,男性は女性に比べ最大舌圧の30%・90%舌圧までの発現時間が有意に短かった.30%舌圧発現時間は構音機能の基本的能力を反映していると推測され,dysarthriaの評価と治療の今後の研究の方向性を示唆する.

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目次

投稿誓約書

投稿規定

執筆要綱

編集後記 藤田 郁代
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 2020年の春は百年に一度経験するような感染症COVID-19との戦いで始まった.この感染症は2019年11月に中国の武漢市で最初の症例が確認されて以来,世界的に流行し,WHOは3月11日にパンデミックとの認識を表明している.わが国では,2020年2月にクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客に感染を認め,その後,国内でも感染者が急増した.4月7日には政府より緊急事態宣言が発令され,人々は3密を避けた苦しい自粛生活を続けてきた.5月中旬には緊急事態宣言の緩和が全国各地で始まったが,この感染症との戦いはしばらく続きそうである.

 以前に経験したことがない難局を乗り越えるときに,その国の人々の本来の力が試される.その1つは危機を乗り越えるための人々の結束力であり,結束の要となるのはコミュニケーションである.このようなときには根拠を示して透明な情報を迅速に出力し,それを共有して対処法を考えることが重要である.言語聴覚障害がある人々が複雑に変化する情報にどのように対処しているか,非常に懸念されるところである.3密を避けることは必要であるが,今こそ言語聴覚士や会話支援者は言語聴覚障害がある人の情報格差の問題に向き合い,その解消に努める必要がある.

基本情報

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言語聴覚研究
17巻2号 (2020年6月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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