言語聴覚研究 17巻1号 (2020年3月)

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 小児の構音障害でみられる特異な構音操作の誤りは,自然治癒しにくく,構音の練習が長期化しやすい.しかし,適切な治療で治癒可能であり,早期介入で予防可能な言語障害である.今回は,特異な構音操作による構音障害に焦点を当て,言語聴覚士としての留意点とそのアプローチについて検討した.

 特異的な構音操作に対する言語療法を行う場合,1)器質的な問題の有無の確認と他専門職との連携の適否,2)発話の聴覚的評価,3)適正音の構音操作の熟知と,特異な構音障害と適正音を対比した言語療法の立案,4)構音障害の誤学習をさせない早期介入,5)フィードバック手段の工夫,が肝要である.

シンポジウム 失語症者への専門性を活かした地域支援

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 失語症のある人は言語機能の障害だけでなく,復職の問題や社会的引きこもりなどさまざまな問題に直面し,厳しい状況にあるにもかかわらず,これまで失語症に焦点を当てた施策はほとんど行われてこなかった.障害者総合支援法の施行後3年を目途とした見直しが行われ,厚労省は意思疎通支援者養成に関する実態調査を行い,各地で統一して用いることのできる意思疎通支援者養成のカリキュラムを作成した.これに基づき,2016年度にはテキストを作成し,2017年度から日本言語聴覚士協会とともに支援者養成を行う指導者のための研修を開始している.2018年度から,都道府県は地域生活支援事業として,失語症者向け支援者養成を開始することになった.意思疎通支援の側面で当事者である失語症のある人の支援となるよい機会としていくことが重要である.

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 失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として,右手利き左大脳半球一側損傷後に失語症を呈した270例の病巣別回復経過と,その中で言語機能に低下を示した37症例のSLTA総合評価法得点各因子の機能変遷の既報告を俯瞰した.次に,2年以上適切な言語訓練を行った失語症121例について,SLTA総合評価法得点に影響を及ぼす要因を調査した.その結果,1)失語症状の回復は損傷部位や発症年齢によって経過は大きく異なるが,少なくとも6か月以上の長期にわたって回復を認める症例が多いこと,2)言語訓練後に回復を示した機能は脆弱である可能性が高いこと,3)発症年齢,Wernicke領野を含む上側頭回の病変の有無,発症3か月時SLTA総合評価法得点などが予後に重要な因子であること,が示唆された.

 以上のことから,失語症の訓練においては,1)長期にわたって変化しうる失語症状そのものに着目する必要があること,2)病院外来における訓練実施が望ましいこと,が考えられた.

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 地域に戻った失語症のある人の支援を考える場合,治療機関と地域社会の中間地帯に失語症のある人たちが触れ合える場所をどのようにつくるかが重要である.失語症のある人が同じ障害のある仲間と相互交流する活動やグループ訓練は,コミュニケーション面,心理社会的面でポジティブな変化をもたらす.地域の失語症のある人たちに対してこうした介入を行ううえで介護保険を活用した失語症デイサービスが有用である.また,地域で失語症のある人たちが抱えているさまざまな問題には,プロボノとしての支援も大切である.失語症のある人たちが再びコミュニティに結びつくように言語聴覚士が支援することによって,失語症のある人は尊厳を取り戻し,健康で充実した生活を送ることができる.

シンポジウム サルコペニアの摂食嚥下障害,老嚥,オーラルフレイル

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 高齢者では加齢に伴い嚥下器官の構造や生理的機能が変化し,嚥下機能が低下することが知られている.老嚥は嚥下障害の前段階であり,老人性疾患などを契機に嚥下障害を発症するリスクがある.オーラルフレイルとは,滑舌の低下や食べこぼし,わずかなむせ,噛めない食品が増えてきたなど口腔機能の軽微な低下を指す標語であり,口腔機能低下症は検査によって診断される疾患である.老嚥とオーラルフレイル(口腔機能低下症)は可逆的な状態であることから,嚥下機能の低下を早期に発見し,適切な指導とリハビリテーションによる介入を行うことが重要である.

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 サルコペニアの摂食嚥下障害とは全身の骨格筋および嚥下関連筋群のサルコペニアにより生じる摂食嚥下障害のことである.嚥下関連筋群の筋力・筋肉量の評価は,主に舌圧計測器,開口力測定器,咽頭圧測定器,CT,MRI,超音波診断装置を用いた報告があり,いずれも高齢者は若年者に比し嚥下関連筋群の筋力・筋肉量が減弱することを示唆している.近年,診断フローチャートが開発されたが,この診断法を用いた調査では,嚥下リハビリテーション対象者の約30%にサルコペニアの摂食嚥下障害を認めたと報告されている.明らかにされているリスク因子は,低栄養と全身性のサルコペニアである.したがってサルコペニアの摂食嚥下障害に対しては,積極的な栄養療法とレジスタンストレーニングが必要と思われる.今後は,診断法の検証や栄養管理も含めた対処法の開発が望まれる.

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 わが国が目指している地域包括ケアシステムの構築は,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域の包括的な支援・サービス提供体制を確立させるものである.その実現に向けた,各職種の専門性や立場・役割を最大限発揮した体制づくりが急務となっており,言語聴覚士も役割を果たすべきである.つまり言語聴覚士は,地域の中にもリハビリテーションを展開していく必要があり,摂食嚥下のかかわりにおいても,「心身機能」だけでなく,「活動」と「参加」にもバランスよく働きかけることが重要である.さらに予防や健康管理にも介入して,『自立支援』を積極的に進めつつ,早期からサルコペニアやフレイル,ロコモティブシンドロームにも取り組んでいかなければならない.言語聴覚士は,医療機関を中心としてきたかかわりを,地域に発展させていかなければならない.

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 本研究は言語聴覚士の感染対策の現状を把握し,安全かつ質の高い臨床の実施に向けた今後の課題を得ることが目的である.研究方法は2016年1月から4月に石川県言語聴覚士会会員160名を対象にアンケート調査を実施し,分析を行った.調査内容は,感染対策の知識,手指衛生,個人防護具(PPE),感染の危険性についてであった.その結果,回答者の多くが感染対策研修を受講しており,感染対策に関する知識を有する一方で,回答者の80.9%が自身の感染に対する危険性を感じていながらも,飛沫曝露防止としての個人防護具を適切に選択し,装着されていない現状が明らかとなった.さらに,訓練場面では言語聴覚士特有の訓練様式によって感染対策の実施に苦慮していることが明らかとなった.

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目次

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
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 今年は東京でオリンピック・パラリンピックが開催されますが,わが国における夏季オリンピックの開催は本大会で2度目となります.第1回大会は戦後からの復興を果たした1964年に東京で開催されました.この年は,わが国の言語聴覚分野の歴史においても記念碑的な年になります.というのは,この年の秋に笹沼澄子先生によってわが国最初の失語症の言語臨床が開始されたのです.笹沼澄子先生によると,そのいきさつは次のようなものであったということです.当時,東京大学物療内科教授であった大島義雄先生がNew York大学Rusk InstituteからMartha Taylor博士を招き,5日間の失語症講習会を開催されました.このとき,Taylor博士は物療内科の関連病院である長野県の厚生連鹿教湯温泉療養所に赴き失語症患者に面接されました.笹沼澄子先生はその助手としてTaylor博士に同行され,それが縁となってこの年の秋に同病院で失語症の言語治療部門を開設されたということです.

 それから50年以上が経過し,言語聴覚療法を提供する場は大きく拡大してきましたが,問題は量だけでなく質の充実です.どのような時代にあっても,言語聴覚障害者のニーズに応えるには臨床研究の積み重ねが重要です.本誌は,このような研究の成果を発表する場であり,特に基礎的研究に裏打ちされた評価法や治療法の開発,言語聴覚療法の効果の検証,時代の要請に応える専門的サービスの創出に関する研究は本誌ならではのものと思います.

基本情報

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言語聴覚研究
17巻1号 (2020年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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