言語聴覚研究 15巻2号 (2018年6月)

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 正常新生児・乳児の眼と口の連合運動(eye-mouth associated movement1))の研究では,生後3か月で口に近づいてくる示指と乳首の違いを認識するとされている.本研究では,胎生期から乳幼児期に何らかの脳障害を受けた重症心身障害児・者の形態認知に基づく眼と口の連合運動の獲得状況を調査した.対象は非経口摂取者を含む9〜44歳(平均27歳)の20名とした.方法は,口元に接近してくる食物,非食物を目で確認し,開口反応が起こるかどうかを観察した.その結果,発達評価月齢が3か月を超えても非食物に対しても開口反応が起こる例が70%の頻度で存在した.非食物にも開口反応が存在する例では,視覚運動回路は存在しているが形態認知が未発達,または障害されていると考えられる.本研究により,重症心身障害児・者では,形態認知に基づく眼と口の連合運動が必ずしも獲得されていないことが明らかになった.

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 簡易な機器で舌挙上に負荷を加えることを目的とし,ばねばかりを用いた簡易な舌-口蓋接触トレーニングを考案した.本研究では,ばねばかりにより調節した牽引負荷が舌圧に与える影響を検討した.対象は最大押し付け舌圧が各年代の平均値未満であった嚥下障害を呈する患者20名とした.方法は,はかりに固定したガーゼを舌-口蓋接触の力のみで10秒間保持するように指示し,評価者がはかりを牽引した.負荷量は50g,100g,200g,300gの4条件を設定した.牽引時の舌圧最大値,舌圧積分値を舌圧センサシートで記録,解析し,負荷量の増加に伴う舌圧の増加傾向の有無の検定,各条件間での比較を行った.口蓋の正中前方部,左右後方周縁部では,牽引力の増加に伴い,舌圧最大値,舌圧積分値は有意な増加傾向を認めた.また正中前方部の舌圧最大値,舌圧積分値は各条件間で有意差を認め,牽引力の増加に伴って舌圧が増加した.ばねばかりを用いた簡易な舌-口蓋接触トレーニングは舌前方部へ負荷を加えるトレーニングとして利用できる可能性が示唆された.

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 高齢者を対象に,食塊の特性(量,温度,味)が嚥下反射惹起に与える影響を電気生理学的手法と嚥下困難感の主観評価を用いて検討した.

 電気生理学的検討として,試料を指示嚥下する際の舌骨上筋群筋活動と喉頭運動について筋電計と圧力センサを用いて計測した.嚥下困難感の主観評価は,5段階評定尺度法を用いて検討した.

 結果は,極端に少ない食塊量と水に比し味覚溶液で,嚥下合図から喉頭運動開始までの時間と嚥下反射に伴う舌骨上筋群筋活動の開始から喉頭運動開始までの時間が有意に延長した.口腔内に試料を滴下する本研究では,食塊の温度は嚥下動態に影響を与えなかった.嚥下困難感の主観評価では,味の違いのみに有意差を認めた.

 本研究より指示嚥下では,食塊の量や味の有無が,嚥下反射惹起に影響を与えることが示唆された.さらに,高齢者は嚥下運動と嚥下困難感が一致しないため,臨床においては両側面を評価し統合することが重要である.

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 言語聴覚士養成課程を有する高等教育機関(以下,養成校)には,吃音当事者学生(以下,吃音学生)が在籍しているが,吃音が学業や演習・実習上の妨げになる可能性がある.今回,養成校における吃音学生への配慮・支援の実態について検討するために,全国の養成校75校を対象に質問紙調査を実施した.32校(43%)から回答が得られ,吃音学生への配慮・支援の実施校は17校(53%),未実施校は15校(47%)であった.未実施理由は「本人からの要請がない」が多く,「教員の多忙さ」や「マンパワーの問題」「教員の吃音への理解不足」も要因として推察された.配慮・支援の実施内容は「本人から希望を聞く」「吃音の理解と吃音症状に対応した配慮,支援」などが挙げられた.実施内容と先行研究などでの吃音学生の要請内容の相違や,配慮・要請内容実施の場面間の偏りなどから吃音学生と養成校で配慮・支援内容にギャップがあることが示唆された.今後,吃音学生と養成校の現状の両面を加味した配慮・支援の実施モデル作成が求められる.

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 幼少期に言語発達の遅れはあったが,学童期以降は顕著な問題を認めず,青年期に自閉スペクトラム症(ASD)と診断された成人例.言語性IQは正常範囲内だったが,言語聴覚士との会話の中で意思疎通が困難な場面が認められたことから,発達性の言語障害を評価する構文検査(格助詞の補完課題と文の理解課題)を実施した.その結果,格助詞の補完課題(特にかき混ぜ語順文)で大幅な低下を示した.この結果は文法障害を主徴とする特異的言語障害(G-SLI)の特徴によく一致した.同様の検査を,ASDと診断された成人例10例にも行ったが,本例のような大幅な低下を示す例はなかった.以上より,本例はASDにG-SLIが合併した1例と考えられた.言語性IQが正常範囲内でも,コミュニケーションに問題が認められる場合は,コミュニケーション以前の言語機能に問題がないか詳細を調べる必要がある.そのうえで,障害特性に合った援助・訓練が求められる.

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 吃音が1年8か月以上持続した4歳2か月の男児にリッカム・プログラムを実施したところ,吃音症状は持続した.その後,流暢性形成法にアプローチを変更したところ速やかに吃音は改善した.

 本症例の経過から,(1)流暢性形成法が本児の改善に一定の効果があったこと,(2)吃音症状が重度で二次的症状がみられる症例に対しては,流暢性形成法が有効である可能性があること,(3)発話パターンの改変を伴う流暢性形成法を行う際は,リッカム・プログラムの後に導入することが望ましい可能性があること,(4)流暢性形成法を行う際,流暢な発話の般化に時間を要する点について説明する必要があること,が考えられた.

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 リハビリテーション(以下,リハビリ)は発症早期から行うことが推奨されており,言語聴覚士(以下,ST)も可能な限り早期に介入する.脳卒中急性期は意識障害や注意・集中力の低下がみられることが多く,系統的言語検査や訓練を行うことはしばしば困難である.また検査・訓練が,発症直後で混乱・動揺している患者にさらなる心理的なダメージを与え,拒否や抑うつなどを引き起こしかねないことに注意が必要である.急性期失語症リハビリの目的は,短時間のインタビュー・スクリーニング検査による評価を通じて,患者と家族・他の医療スタッフとのコミュニケーション方法を確保し,今後の方針を立てることにある.急性期失語症への実際のST介入を2症例呈示する.患者がその後のリハビリに主体的に取り組めるか,患者と家族が失語症に伴う生活の変化や不安によりよく対処できるか,最初に出会う言語リハビリの専門職である急性期病院のSTの責任は重い.

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 本研究は,地域ケア会議で言語聴覚士が助言した個別ケースの実態把握と助言内容の分析を行い,自立支援における言語聴覚士の役割を明らかにすることが目的である.

 研究方法は2014年4月から2015年3月に大分県下6市町村で,言語聴覚士が助言者として参加した地域ケア会議で検討された121人を対象に分析を行った.

 地域ケア会議に提示された個別ケースに対しての言語聴覚士の助言は,国際生活機能分類では「心身機能・身体構造」「活動と参加」で有意差があった(p<0.001).また,「活動と参加」のIADLの「社会参加」が有意に多かった(p<0.05).「社会参加」の助言は,コミュニケーション面を意識した助言が多く,その内容も自助,互助,共助の幅広い範囲に及ぶことが明らかになった.

 このことは,言語聴覚士が「社会参加」を「コミュニケーションを通して,地域社会での社会的役割の獲得や居場所づくり」として捉え,自助,互助レベルの高齢者の生きがい・居場所づくりが自立支援に必要と考えていることが示唆された.

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1.はじめに

 経済協力開発機構(OECD)教育委員会は,乳幼児期の教育とケア(ECEC)の推進を謳い,この時期の発達が人間の学習と発達の基礎形成段階であり,人生の始まりこそ力強く生きられるように多くの職種が介入すべきである1)と述べている.

 ECEC(Early Childhood Education and Care)とは,施設の編成,財源,サービス提供時間,プログラム内容を問わず,義務教育年齢に達する前の子どもたちの教育とケアを提供するすべての制度・施設を包括すると定義される.OECDがECEC概念を打ち出した背景に,すべての子どもに対して,年齢区分や親の社会経済的地位に関係なく,教育とケアの一本化したサービスを,0歳から就学前まで一貫して受けることのできる包括的な政策が実現されるべきであるという姿勢がある.子どもの成長には様々な機関や人々がかかわっている.発達に特別な支援を必要とする子どもが成長し就労に至るまでには,多くの専門職種が連携することが大切である.

 多くの専門職と言語聴覚士が連携を取り障害児を支援した経験をもとに,児童発達支援事業所における言語聴覚士の支援の実際について報告する.

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目次

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
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 薫風の季節が過ぎ,梅雨の候が近づいてきましたが,6月は「日本言語聴覚学会」の季節です.今年は中野徹先生を会長として,6月22日・23日に北陸の富山市で開催されることになっており,言語聴覚障害に関連する研究の成果が多数発表されることと思います.

 今号には,原著論文4編,症例報告2編,短報1編,調査報告1編,現場最前線1編が掲載されています.これらの論文の多くは昨年までに言語聴覚学会で演題発表された研究であり,学会発表にとどまらず,研究成果を広く共有し,それを臨床に還元するために論文発表に挑まれた著者に敬意を表します.掲載論文の研究領域は発声発語,嚥下,流暢性,失語症,発達,支援システムと多岐にわたり,いずれも社会的価値が高い貴重な知見を得ています.

基本情報

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言語聴覚研究
15巻2号 (2018年6月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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