言語聴覚研究 14巻4号 (2017年12月)

言語聴覚研究優秀論文賞

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 本誌を発行する一般社団法人日本言語聴覚士協会は,「言語聴覚研究」に掲載された原著論文のうち特段に優れた論文に対し「言語聴覚研究優秀論文賞」を授与しています.対象となる論文は過去2年間に本誌に掲載された原著論文のうち,筆頭著者が投稿時点で40歳未満の論文です.選考は本誌編集委員会が基準を設けて厳正に行っています.受賞論文は一般社団法人日本言語聴覚士協会総会・日本言語聴覚学会において表彰いたします.

 「第8回言語聴覚研究優秀論文賞」は,2015年〜2016年(第12巻1号〜第13巻4号)の間に「言語聴覚研究」に掲載された対象論文10編の中から厳正な審査を経て下記の論文が受賞しました.

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1.はじめに

 このたびは,第8回言語聴覚研究優秀論文賞という栄誉ある賞を賜り,大変光栄に存じます.まずは,本研究にご協力をいただいた患者さんや参加者の方々,データ収集にご協力くださった札幌秀友会病院,札幌宮の沢脳神経外科病院,北海道脳神経外科記念病院の先生方,貴重なご示唆を賜りました査読者の先生方,編集委員長の藤田郁代先生(国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科)をはじめ,審査にかかわっていただいた先生方に,心よりお礼を申し上げます.また,本研究は日本言語聴覚士協会平成26年度学術研究助成制度「若手研究コース」の助成を受け,協会員の皆様に支えられて実現できた研究でもございます.助成をいただいているからには,現場の言語聴覚士の皆様に還元できるような知見が得られるようにと,緊張感と責任感をもって研究を進められたことが,このたびの結果に結実したものと存じます.会長の深浦順一先生(国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科),学術研究部長の佐藤睦子先生(総合南東北病院神経心理学研究部門)をはじめ,研究助成にかかわってくださった先生方にも,改めて感謝を申し上げます.

 本稿では,本研究の背景および概要と,今後の失構音研究の展望について述べさせていただきたく存じます.

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 後天性脳損傷による高次脳機能の問題を高次脳機能障害,生まれつきの高次脳機能の問題を発達障害,アルツハイマー病や脳血管障害によって高次脳機能が著しく低下することを認知症と呼ぶ.全国で,高次脳機能障害者は50万人(2008年東京都調査),発達障害者は60万人(2012年文部科学省調査),認知症患者は462万人(2012年厚生労働省研究班調査)と推計されている.そう考えると,子どもから高齢者まで,何らかの高次脳機能の問題を抱えた人々の人口は,実に600万人近くもいることになる.本稿では,生まれつきの高次脳機能障害である発達障害児者のリハビリテーションと支援にどのように向き合えばよいのかについて筆者の考えを述べた.

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 立方体透視図模写(Necker Cube Copying:以下,NCC)は,立方体のサイズについて一定した見解がなく,また児童を対象とした定性的採点方法は確立されていない.本稿では,一辺4cmのNCCを行う児童と,一辺7cmのNCCを行う児童を各10名ずつ2群にし,立方体のサイズに関する検討を行った.その結果,両群に有意な成績の差を認めなかった.つぎに,児童における定性的採点方法の作成を試みた.小学生625名を対象にNCCを実施し,Shimada(2006)が提唱した成人の定性的採点方法で採点したところ,採点不可能な児童が存在した.そこで,奥行きに関する採点基準を新たに追加した結果,すべての児童の採点が可能となった.大伴(2009)の報告と同様に,奥行きを表現できることが児童におけるNCCの発達過程に重要と考えられた.児童を対象にNCCを実施する際は,発達を考慮した採点方法を用いる必要があると考えられた.

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 高齢者医療では言語聴覚士による積極的な口腔ケアが推奨されている.また,口腔ケア非自立者の介助を妨げる要因に咬反射が挙げられる.しかし,咬反射の改善に有効とされるガム・ラビングの詳細な検討はない.筆者らは脳血管障害の後遺症で咬反射が出現した高齢者8名に,ガム・ラビングと口腔ケアを5週間継続し,その効果を検討した.評価項目は咬反射の持続時間,口腔ケア中の開口保持方法,プラークコントロールレコード(以下,PCR)とした.その結果,すべての症例で咬反射の持続時間減少を認めたが,完全に消退した者はなかった.要因として,ガム・ラビングで用いた触圧刺激が低加重であったと推察した.また,咬反射の軽減には少なくとも4週間の訓練期間が必要と示唆された.PCRについては口腔ケアに必要な開口量が得られず,平均61%と歯垢付着率が高かったが,ガム・ラビングの継続的施行で開口保持が容易となり,最終的に34%に減少した.

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 言語聴覚士(以下,ST)を目指す吃音者にとって,吃音の問題は様々な障壁となり,ST養成校における支援が求められる.本調査ではST養成校における吃音者の困難・配慮および吃音STの実態調査を質問紙法により実施した.ST養成校に在学経験のある吃音者27名(男性22名,女性5名,平均年齢29.0±5.3歳)からの回答が得られた.回答者は,臨床実習や検査演習での検査の教示,授業での音読,就職活動や入試での面接など,様々な場面で困難を感じていることがわかり,「吃音の認知」「吃音の理解」「吃音を考慮した評価」「代替手段の利用」などの配慮を必要としていることがわかった.自身の吃音を契機に養成校に入学する者は多いものの,入学後に吃音領域の少なさを知る者も多かった.教員などへの相談により心理的にプラスの影響があったり,環境整備が行われる例も多くみられたが,教員へ相談ができない例もあり,教員の積極的な吃音学生への介入が求められる.

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 地理的定位錯誤を生じた脳血管障害の2例を報告する.そのうち1例では地理的定位錯誤に加えて,重複記憶錯誤を認めた.地理的定位錯誤の成立には,非優位半球の前頭葉機能障害が関与していると考えられた.既報告を含め,重複記憶錯誤を呈した症例はすべて地理的定位錯誤も生じていた.地理的定位錯誤に加えて重複記憶錯誤を生じるには,視覚性記憶障害の関与が示唆された.また,視空間認知機能が保たれていれば,各認知機能が改善してきたタイミングで外泊を行うことで,地理的定位錯誤が消失し,これにより重複記憶錯誤の解消も期待できると考えられた.

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 言語聴覚療法でのモバイル端末(以下,端末)・アプリケーション(以下,アプリ)の使用状況を明らかにすることにより,臨床における端末やアプリを使用する利点や留意点を共有,理解することを目的とした.調査に同意の得られた言語聴覚士に質問紙を送付した.質問内容は回答者基本属性,端末・アプリ関連項目(使用の有無,端末所有者,アプリダウンロード環境と費用負担者)とした.また,使用者には使用しているアプリや使用状況を尋ね,未使用者にはその理由の回答を求めた.247名から回答が得られ,アプリを使用している者は32%であった.病院に比べ施設は使用率が高く,アプリ数は延べ209種と多く,使用者の多いアプリはYouTubeやカメラであった.使用者の多くは継続使用を希望しており,その有効性が示唆された.今後専門性の高いアプリが開発されると在宅や施設でも病院で行った訓練を継続できるようになる可能性もあると考えられた.

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投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
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 本年も,最終号をお届けする季節が巡ってきました.この1年,様々な学会に参加させていただき,最新の研究動向を知るとともに大いに触発されました.中でも,本年9月17〜19日に国際医療福祉大学成田キャンパスで開催された10th Biennial Asia Pacific Conference on Speech, Language and Hearing:APCSLH(第10回アジア環太平洋音声言語聴覚学会学術大会)は非常に有意義で印象深い学会でした.この学会は環太平洋諸国およびアジア諸国の言語聴覚士が構成する学会で,言語聴覚障害学の研究の発展を図り,知識の交流を進めることを目的としています.今回は,日本が開催国となり,大会長は国際医療福祉大学の城間将江教授,会長は聖隷クリストファー大学の柴本勇教授が務めました.本大会はわが国で初めて開催された言語聴覚障害学分野の国際学会となります.当日は,17国から約500人の参加者があり,最先端の研究を行っている各国の研究者による講演,セミナー,シンポジウムが開催されると同時に,口演81演題,ポスター174演題が発表されました.わが国からは,若手研究者を中心として多数の研究成果が発表され,参加者の関心を集めていました.

 わが国の言語聴覚障害研究は,国際的に見てかなり高水準にあると思いますが,その研究成果が海外に発信される量が多いとは言えません.グローバル化が進む現代にあって,研究の発展とその成果の社会への還元は国際規模で考えるべきであり,本分野でも研究の国際協力と国際交流が非常に重要となってきています.本誌は,現在のところ日本語版のみ発行していますが,近い将来,英語版を発行するようになることを望みます.また本誌は英文原稿の投稿を受け付けていますので,奮ってご投稿ください.

基本情報

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言語聴覚研究
14巻4号 (2017年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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