言語聴覚研究 11巻4号 (2014年12月)

言語聴覚研究優秀論文賞

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 本誌を発行する一般社団法人日本言語聴覚士協会では,「言語聴覚研究」に掲載された原著論文のうち特段に優れた論文に対し「言語聴覚研究優秀論文賞」(毎年,原則として1編)を授与しています.選考対象となる論文は過去2年間に本誌に掲載された原著論文のうち,筆頭著者が投稿時点で40歳未満の論文です.選考は本誌編集委員会が基準を設けて厳正に行っています.

 「第5回言語聴覚研究優秀論文賞」は,2012年〜2013年に「言語聴覚研究」(第9巻1号〜第10巻4号)に掲載された論文19編の中から厳正な審査を経て下記の論文が受賞しました.

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 このたびは,第5回言語聴覚研究優秀論文賞を賜り大変光栄に思います.未熟な私が研究成果を論文として書き上げるにあたっては,当然のことながら多くの方々の多大な御支援,御協力なくして完成まで至ることはできませんでした.この場をお借りいたしまして,御尽力くださいました方々に心より御礼申し上げます.また,査読委員の先生方や本論文を御推薦くださりました委員の先生方にも厚く御礼申し上げます.

 受賞論文は,厚生労働省の「感覚器障害戦略研究(聴覚分野)」の一部として行われました.「戦略研究」とは,わが国を支える多くの国民の健康を維持・増進させるために,優先順位の高い慢性疾患・健康障害を標的として,その予後・治療介入および診療の質改善のための介入など,国民の健康を守る政策に関連するエビデンスを生み出すために実施されている大型の臨床研究です.このうち感覚器障害戦略研究は,当時,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学の福島邦博先生を研究リーダーとして,聴覚障害児の日本語言語発達に影響を与える因子を明らかにし,発達を保障する手法を確立することを目的に,難聴の早期発見や,児の持つ認知的な偏り(発達障害など)が与える影響について,国際的なレベルのエビデンスを確立し,より良好な言語発達をもたらす方策の普及を目指して実施されました.実質的な研究期間は平成20年から平成23度末までの4年間で,研究の対象となった児童は聴覚障害児約780名,研究に携わったのは医師74名,言語聴覚士116名,学校教員69名を含む272名が参加しました.

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 嚥下障害,構音障害のリハビリテーションにおいて,補綴装置は代償方法の1つである.上顎骨切除後の鼻腔と口腔の交通,短小な軟口蓋による鼻咽腔閉鎖機能不全など顎口腔領域の器官の欠損による障害は,顎義歯,鼻咽腔補綴装置で代償される.舌切除後の舌運動障害に起因する障害には,舌接触補助床(PAP)が適応される.これは,着脱可能な口蓋部を覆う装置であり,患者の舌が到達しない口蓋部に膨らみを持たせ,構音点を回復し,嚥下運動時に適切な接触が得られる.近年,運動障害性の患者に対するPAPの有効性も多く報告されている.また,軟口蓋の運動障害による鼻咽腔閉鎖不全に対しては,軟口蓋挙上装置が製作される.

 これらの補綴装置には,訓練道具としての利用法もある.補綴装置は着脱でき,患者の状態に合わせて形態を調整することができ,患者負担が少ない方法である.潜在的な適応患者は多いと考えられ,対応可能な歯科医師と言語聴覚士の連携の強化が望まれている.

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 自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD)は,音声言語表出や理解にアクセントを含むプロソディの処理が困難であるとされている.一定のアクセント型を持たない一型式アクセントの方言地域において同音異義語で誤る場合,方言の影響なのかASDの認知特性の影響なのか不明である.本研究は一型式アクセント地域に住むASD児の単語アクセントの聴覚的識別・理解の特徴を明らかにするために,絵と音声のアクセント型が一致する一致条件,絵と音声のアクセント型が一致しない不一致条件,絵と音声(単語)が一致しない統制条件からなる同音異義語の正誤判断課題を用いて,定型発達児・者とASD児を比較し検討した.その結果,一致条件の平均正答数において,ASD児群は一型式アクセント群の成人より有意に低下していることが示された.ASD児は,単語アクセントの聴覚的識別・理解において,方言と年齢の影響を受けているということが示唆された.

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 特異的言語障害の1例を検討した.症例は13歳9か月,右利き女児.知能は正常範囲であったが,言語理解面に比して言語表出面に困難を認めた.その困難の特徴に,受動文の聴覚的理解は比較的良好だが,能動文を受動文に変換して表出することが挙げられた.受動文の表出を促すために,課題文のはじめの文節を聴覚呈示し後の部分を補完させる誘導法と,被動作主への共感を意識させる誘導法を試みた.その結果,後者の誘導法でより正確な受動態表現が可能であった.誤った文を,①能動文への誤り,②格助詞と態の組み合わせによる文法的整合性の誤り,③その他に区分したところ,文法的整合性の誤りがなくなった.それゆえ,われわれは「行為の方向性」の明確化と,「受動態を使う心理的状況」へ誘導することで,自身の経験を思い出し,それによって受動態表現が可能となったのではないかと推察した.

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 オノマトペは音と意味に比較的強い関連があるため,失語症者にとって一般的な語彙に比べ発話しやすいという仮説を検証すべく,失語症者のオノマトペ使用の実態を調査した.方法としては,失語症者173名に実施した,まんがの説明課題(SLTA口頭表出)の結果を収集し,同課題を健常者40名に実施した結果と比較した.その結果,失語症者では健常者に比べて名詞・動詞の表出が少なく,その一方でオノマトペの表出は多かった.この結果から,失語症者では名詞や動詞に比べてオノマトペが喚語しやすい可能性があると考えられた.また,失語症者の特徴として,重度例であってもオノマトペの表出は比較的多く,オノマトペは喚語能力低下の影響を受けにくいと考えられた.さらに,維持期の失語症者ではオノマトペの表出が多い傾向が示され,発症後に言語使用を経験する過程でオノマトペを表出する方略を獲得している可能性があると考察した.

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 チーム基盤型学習(TBL)は,学生の能動的な学習参加の促進を目的とした授業方法である.しかし,国内の言語聴覚領域ではあまり検討されていない.本稿では,TBLによる発声発語障害の臨床解剖学授業の有効性,ならびにTBLでの主体性と最終成績の関係について検討した.学生を成績により3群に分け,TBLでの主体性に関する自己評価を比較した.その結果,最終成績が良好だった学生はTBLでの主体性に関する自己評価も高く,両者には関連性が認められた.また,この授業に対する自由記述意見も併せて分析した結果では,肯定的意見が全体の89.7%を占め,この授業の有効性が示唆された.しかし成績下位群については,主体的な取り組みが最も乏しかったにもかかわらず,TBLを有益な方法であると評価していた.このことから同群の学生にはメタ認知の低さが疑われ,TBLでの学習が悪循環に陥った可能性が考えられた.

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 入院時に経管栄養のみであった回復期脳損傷患者95例を対象に,退院時の経口摂取移行に関してロジスティック回帰分析により予後因子を調べた.対象は,脳梗塞44例,脳出血32例,クモ膜下出血8例,頭部外傷11例であった.28例(29.5%)が経口摂取可能となり,67例(70.5%)は部分的使用を含め経管栄養の継続が必要であった.年齢,両側性病変,唾液のむせ,FIM認知項目が有意な予後因子として抽出された.嚥下機能の評価項目は2段階評価であり,今後これらを多段階にすることにより,感度や特異度をさらに高めることが課題であると考えた.

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 本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました.本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります.

 購読会員を募集していますので,下記のとおりご案内いたします.

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 藤田 郁代
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 師走の足音が聞こえてくる時期となりました.本年を振り返りますと,まず念頭に浮かぶのは日本大震災から3年半しか経過していないにもかかわらず,わが国は本年も大きな自然災害に見舞われ,多数の方の命が失われたということです.来年は平穏で安らかな年になることを望みます.

 本号には,総説「嚥下障害・構音障害に対する補綴装置」と,原著論文として言語発達障害に関する研究,失語症に関する研究,言語聴覚士養成教育に関する研究が,短報として嚥下障害に関する研究が掲載されています.いずれも臨床や教育現場における課題を深く掘り下げたもので,興味深い知見が示されています.

基本情報

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言語聴覚研究
11巻4号 (2014年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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