言語聴覚研究 10巻2号 (2013年7月発行)

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シンポジウム　認知症における言語聴覚士の専門性の追求

座長記飯干　紀代子 10巻2号 , 2013年7月 , pp.61-62

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　平均余命の伸びと，それに連動する高齢者の割合の増加は社会に解決すべき多くの課題をもたらしており，認知症患者に対する支援も喫緊に整理・構築されるべき重要課題の1つである．薬物による治療効果が当面限定的であること，認知症は人生の集大成の時期をどう支えるかという点でより全人的な支援が重要であること，これらを踏まえると薬物を用いない治療的支援，すなわちリハビリテーション(以下，リハとする)やケアといった非薬物療法の持つ意義は極めて大きい．

　厚生労働省は2008年の認知症対策指針の中で，保健・医療・福祉の3領域において，予防，的確な診断，原因疾患・重症度別の治療やリハ・ケアの重要性を強く打ち出している．高い専門性を持った職種が疾患別・重症度別の視点でエビデンスを構築すること，特にリハやケアにおいては個人的な経験や技術の伝承を越えた理論と技術の系統立てた蓄積が求められている．

認知症問題について―神経内科臨床の観点から本村　暁 10巻2号 , 2013年7月 , pp.63-68

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　認知症の諸問題を神経内科臨床の観点から概観した．診断基準：かつてはDSM-Ⅲのように，アルツハイマー病の症状を基にして記憶障害を強調した認知症の診断基準が用いられてきた．最近のNIAAの基準では生活機能の低下を軸とした新たな診断基準が提唱されている．認知症症候学：認知機能障害，精神症状，神経症候からなる．変性性認知症の症候の多様性については，進行性健忘，進行性失語，進行性視空間障害，進行性行動障害という神経心理症状からの類型化が可能である．病変の分布を反映したものと考えられる．認知症診療について：〈二重の病歴〉病歴の聴取は，本人(自覚的＝主観的)，介護者(他覚的＝客観的)の2通り行う必要がある．また，夜間の症状悪化など日内変動を捉えるには介護者や家族への問診が重要である．〈多面的接近〉認知症の問題が顕在化するのはさまざまな社会のかかわりにおいてであり，いわゆるチームアプローチの重要性が理解できる．

介護療養病床における認知症者に対するコミュニケーション障害の評価と支援吉森　美紗希 , 藏岡　紀子 , 猪鹿倉　忠彦 10巻2号 , 2013年7月 , pp.69-78

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　認知症は多様なコミュニケーション障害を呈し，言語聴覚士によるコミュニケーションへの介入は必要不可欠である．本稿では，認知症者のコミュニケーション障害に対する当院の評価，支援について自験例を呈示して概説した．評価については，コミュニケーションの基盤である視覚および聴覚機能を把握したうえで，認知・構音・言語機能，行動を評価する．これらの評価結果を基にした聴覚障害を伴う重度アルツハイマー型認知症への補聴器装用では，errorless effortless学習による装用訓練により，注意機能の改善，行動の活性化を認め，補聴器装用の有効性が示された．また，軽・中等度認知症を対象とした集団コミュニケーション療法(以下，グループ訓練)では，文字呈示や音読・復唱を活用した訓練により，見当識改善と自発性向上がみられた．最後に重度認知症への残存能力を活用したグループ訓練の取り組みについて概要を報告した．

介護老人保健施設における実践―言語聴覚士の専門性と多職種間連携上杉　由美 10巻2号 , 2013年7月 , pp.79-86

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　認知症支援における多職種間連携について，老人保健施設における実践を通して述べた．認知症ケアの基本はパーソンセンタードケアであり，その人らしさを中心とした介護である．パーソンセンタードケアは多職種での包括的アプローチで実践され，認知症の人の生活全般における言動・行動の観察が必要である．老人保健施設で暮らす認知症の人へ多職種でかかわる意義は，その人が穏やかに安心して，よりその人らしく生活ができるよう支援することであり，多職種連携の実践では，情報収集・情報共有・コーディネートが重要となる．認知症支援では，認知機能の改善のためにエラーレス学習や間隔伸張法などを活用したより専門的なリハビリテーションアプローチの展開が求められているのではないだろうか．しかしながらその一方で，多職種連携での包括的なアプローチを実践する際には，言語聴覚士としての専門性を強調し過ぎない姿勢も大切と考えられた．

言語聴覚研究優秀論文賞

言語聴覚研究優秀論文賞藤田　郁代 10巻2号 , 2013年7月 , pp.57

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　本誌を発行する一般社団法人日本言語聴覚士協会は，言語聴覚研究に掲載された原著論文のうち特段に優れた論文に対し「言語聴覚研究優秀論文賞」(毎年，原則として1編)を授与しています．対象となる論文は過去3年間(2011年度からは過去2年間)に本誌に掲載された原著論文のうち，筆頭著者が投稿時点で40歳未満の論文です．選考は本誌編集委員会が基準を設けて厳正に行っています．受賞論文は「一般社団法人日本言語聴覚士協会総会・日本言語聴覚学会」で表彰することになっています．なお第2回優秀論文賞および第3回優秀論文賞は東日本大震災により2011年度の日本言語聴覚学会が開催されなかったため，2012年度の第13回日本言語聴覚学会において表彰いたしました．

第3回言語聴覚研究優秀論文賞を受賞して福岡　達之 10巻2号 , 2013年7月 , pp.58-60

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　このたびは，第3回言語聴覚研究優秀論文賞を賜り大変光栄に存じ，心より感謝申し上げます．また，ご選考いただきました諸先生方には改めて深謝いたします．

　本研究は，私が兵庫医科大学ささやま医療センターに在籍していたとき，嚥下障害の臨床において感じていた疑問が発端でした．すなわち，嚥下機能の評価項目は様々ありますが，嚥下障害を有する患者の多くに随意的な咳嗽能力の低下が認められます．咳嗽は気道内の異物や分泌物を排出するための生体の防御反応であり，嚥下障害患者では，喉頭内に侵入または誤嚥した唾液や食物を排出するのに重要な機能と考えられます．咳嗽の評価は，気道防御の感受性をみる知覚的側面と咳嗽の強さをみる運動的側面の両面から行うことができます．咳嗽の知覚的側面を評価する方法としては，クエン酸などの薬剤をネブライザーで吸入させて咳反射の惹起性を観察する咳テストが知られており，肺炎発症のリスク評価や不顕性誤嚥のスクリーニングに有用であることが報告されています．一方，咳嗽の運動的側面を評価する方法としては，咳払いの強さを主観的に評価する方法やピークフローメータを用いたPeak Cough Flowの測定がありますが，得られた評価と嚥下機能との関連については未だ明らかにされていません．また，随意的な咳嗽は，主に誤嚥物の喀出能力として評価される場合が多いですが，嚥下障害の重症度や誤嚥との関連について検討した研究は少ないのが現状です．

原著

低出生体重児の哺乳障害に対する言語聴覚士による介入の試み宮﨑　泰広 , 熊倉　勇美 10巻2号 , 2013年7月 , pp.87-94

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　口腔期の問題により哺乳量が確保できない低出生体重児7例を対象とし，哺乳時の問題点と訓練についてまとめた．哺乳時の問題点は，①口腔外にミルクが流出する，②吸啜するもののミルクが減らない，③哺乳を一定時間継続するとむせ込む，であった．これらの問題点について，吸啜反射時の哺乳運動について検討を加え，哺乳時の乳首の調節と非栄養性吸啜訓練にて哺乳障害の改善をはかった．口腔外にミルクが流出する原因は哺乳時の舌背位置の問題であり，舌背位置を水平に誘導できる長めの乳首を使用した．吸啜するもののミルクが減らない原因は吸啜力の低下であり，吸啜力向上のために硬めの乳首を使用した．哺乳を一定時間継続するとむせ込む原因は吸啜と嚥下動作の連動困難であり，硬めの乳首で孔の調節にてミルクの流出量を調整した．言語聴覚士の介入により，対象児全例の経口哺乳が可能となり，特に乳首の選択の重要性が確認された．

Social-Conversational Skills Rating Scale（会話における社会的能力についての評価スケール）日本語版の作成濵田　賀代子 , 濵田　正 10巻2号 , 2013年7月 , pp.95-102

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　幼児における言語の社会的使用(pragmatics)を評価するにあたっては，assertiveness(自分から会話を開始する能力，発信性)とresponsiveness(相手の話題から外れることなく応答する能力，応答性)という2つの独立した能力を測定することで，臨床的に有用な結果が得られる．そうした目的で開発されたSocial-Conversational Skills Rating Scale(SCRS，会話における社会的能力についての評価スケール，Girolametto 1997)の日本語版を原著者の承諾と協力を得て作成した．SCRSの日本語訳を英語に逆翻訳して原著者に返し，必要な修正を行い，日本語版の内容的妥当性を確保した．またSCRS日本語版を70名の乳幼児に実施し，Cronbachα係数と再テスト法によって高い信頼性を持つことを確認した．SCRS日本語版は乳幼児期のpragmaticsの評価法として今後使用が可能である．

ALADJINを活用した学齢期児童の言語性コミュニケーションを構成する言語ドメインの検討杉下　周平 , 藤吉　昭江 , 田口　智子 , 古西　隆之 , 大森　佳奈 , 笠井　紀夫 , 福島　邦博 10巻2号 , 2013年7月 , pp.103-108

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　言語性コミュニケーションの側面として「質問されたことに正確に答える能力」に着目し，日本語言語発達検査パッケージALADJINを活用して，学齢期におけるその発達の推定を試みた．対象は年長から小学6年生の児童414名である．方法は，帰結変数に質問-応答関係検査，説明変数にPVT-R，WFT，STAの理解，産生課題を用いて重回帰分析を行った．そして，標準回帰係数をもとに日本語言語コミュニケーション発達評価指標(Japanese-linguistic-communication index：JIN)を仮定し，質問-応答関係検査との相関と年齢による推移を検討した．その結果，質問-応答関係検査の予測変数としてSTA産生課題，WFT，PVT-Rが抽出された．結果から算出したJINは，質問-応答関係検査と相関を認め，年長から6年生までの月齢に比例してスコアが増加した．以上より，JINが言語性コミュニケーションに必要とされる能力を反映し，6年生まで適応できる可能性が示唆された．

重度聴覚障害者1例に対するエレクトロパラトグラフィを用いた構音の評価・訓練の試み内山　美保 , 中村　晴江 , 藤原　百合 , 小島　千枝子 , 長谷川　賢一 10巻2号 , 2013年7月 , pp.109-117

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　重度聴覚障害者1例について，発話の不明瞭さの要因を探るために，発話明瞭度・受聴傾向の評価およびエレクトロパラトグラフィ(EPG)・サウンドスペクトログラフを用いた構音運動の分析を行った．その結果，①硬口蓋化の際の構音点の前方への移動，②摩擦音・破擦音での狭めの構え・雑音成分の減少，摩擦時間の短縮，③有声破裂音でのVOT延長が確認され，受聴傾向と構音運動の誤り・未熟さとの関連が示唆された．

　その後，EPGを中心とした視覚的フィードバック訓練を実施し，訓練場面では構音運動の改善を認め，単音節明瞭度は48.4％から57.7％へと向上したが，受聴傾向に著変はなかった．EPGによる視覚的フィードバックは，摩擦音での狭めの構えの形成や構音点の分化を促す際に有用な手段であった．今後，発声機能や聴覚印象などEPGに表れない特徴に関するフィードバック方法や日常会話への般化に向けた訓練を検討する必要性が示唆された．

短報

小児科クリニックにおける言語聴覚士の取り組み内山　井津子 , 吉岡　玲子 10巻2号 , 2013年7月 , pp.118-123

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　地域の小児科クリニックに言語聴覚士(ST)が配置されてから15年間の受診児の動向と業務実績を分析し，小児科クリニックにおけるST業務とその役割について考察した．

　受診児は年々増加傾向にあり，発達障害児の療育ニーズが高まってきた．ST業務として当初は個別療育のみ行っていたが，集団療育や関係機関との連携へと広がった．また，療育以外に，個別健診での発達評価や地域の保育園健診での言語スクリーニングも行うようになった．小児科クリニックにSTが配置されることで，対象児は身近な場所で個別のニーズに合わせた専門的な療育・支援を受け，保護者はより具体的で，きめ細かな育児支援を受けることができるようになった．

　今後，さらに小規模医療機関でSTが活躍し，言語聴覚療法や療育の場が地域に広がることが望まれる．

広汎性発達障害への理解促進の試み―「自閉症に関する質問」を用いて岩崎　淳也 , 草野　義尊 10巻2号 , 2013年7月 , pp.124-129

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　広汎性発達障害(pervasive developmental disorders：PDD)児の支援を考えるうえで，保護者をはじめとする周囲の人間が，PDDの特性や適切な対応について理解することが非常に重要である．筆者はPDDに関する質問および解説を作成し，言語聴覚士(ST)養成校の学生に実施した．その結果，PDDに対する誤解として，①話をするときは必ずアイコンタクトを取らせることが重要，②引きこもりになりやすい，③パニックになると暴力など問題行動を起こすことが多い，といった点が挙げられた．本質問を実施することは，これらの誤解を解消し，周囲の理解を促進する一助となると考えられた．

リポート「現場，最前線」

世界保健機構国際分類ファミリー世界年次会議に出席して佐々木　隆典 10巻2号 , 2013年7月 , pp.130-133

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1．はじめに

　筆者は2012年10月13日から19日までブラジル，ブラジリアで開催された世界保健機構(以下，WHOと記す)国際分類ファミリー(以下，FICと記す)年次総会に参加する機会を得たので，その会議の内容を紹介したい．FICとはWHOの定めるFamily of International Classificationsの略称で，われわれリハビリテーション従事者になじみの国際生活機能分類(ICF)と国際疾病分類(ICD)を中心とする国際分類群のことである．

　WHOは世界各地の大学，病院，保健関連機関などと協力し，これらの国際分類の改定や新しい分類の開発を常に行っている．現在19の協力センターが世界中にあり，日本では厚生労働省内部に協力センターがある．筆者は2010年から2012年まで国際協力機構の中米コスタリカにおけるICFを応用したプロジェクトに参加した経験があり，そこで知り合った米州保健機構のICF推進担当官に招待され「ICFの地域に根ざしたリハビリテーション(Community Based Rehabilitation：CBR)への適応」について今回の年次会議で紹介することとなった．

　FICには様々な分科会が存在し，それぞれのタスクを実行している．筆者は主に生活機能分類グループ，教育普及委員会，電子媒体・ターミノロジーグループのセッションに参加した．そこでのトピックを紹介する(図1)．

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「言語聴覚研究」購読会員のご案内日本言語聴覚士協会 10巻2号 , 2013年7月 , pp.134

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　本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました．本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります．

　購読会員を募集していますので，下記のとおりご案内いたします．

投稿規定 10巻2号 , 2013年7月 , pp.135

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執筆要綱 10巻2号 , 2013年7月 , pp.136

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投稿誓約書 10巻2号 , 2013年7月 , pp.137

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編集後記藤田　郁代 10巻2号 , 2013年7月 , pp.138

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　梅雨期に入っても雨量は少ないのですが，樹々の青葉は茂り，どんよりとした雲の間から顔を出す太陽の光は力強く，自然界の生命を身近に感じるこの頃です．

　さて言語聴覚障害学分野では将来が期待される若手研究者や臨床家が着実に育ってきています．本誌では，このような方々の研究に向けての真摯な努力と優れた研究成果に敬意を表するとともに今後の発展を祈念して「言語聴覚研究優秀論文賞」を設け，毎年1名の方を表彰しています．今号には第3回優秀論文賞を受賞された福岡達之氏の随想が掲載されていますのでご一読下さい．

基本情報

言語聴覚研究
10巻2号
(2013年7月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：1349-5828 日本言語聴覚士協会

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