日本災害看護学会誌 26巻3号 (2025年5月発行)

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巻頭言

第8回　世界災害看護学会国際学術集会（WSDN2024）を振り返って神原　咲子 26巻3号 , 2025年5月 , pp.1-3

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　2024年11月29日から12月1日、神戸市看護大学およびJICA関西を会場として、第8回世界災害看護学会国際学術集会（WSDN2024）を開催いたしました。日本を含む14の国と地域から、400名を超える参加者にご参集いただきました。本学会は仙台防災枠組の最終フェーズとSDGsの移行期を見据え、「人間の安全保障」を基軸に、地域に根ざした災害看護の実践と政策の橋渡しを目指し、「変化するリスク環境における災害看護の再考—地球と人々の健康のプライマリ・ヘルスケアからソーシャル・イノベーションへ—」をテーマに、災害看護の役割と未来について、多様な視点から議論を深めました。

報告

国内看護系大学学士課程における災害看護教育の実態調査—2022年度Webシラバスレビューより田中　加苗 26巻3号 , 2025年5月 , pp.4-15

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抄録

目的

　国内看護系大学の看護基礎教育で教授されている災害看護教育の実態を明らかにする。

方法

　国内看護系大学学士課程のWeb上で公開されているシラバスを検索し、2022年度開講科目を対象に、災害看護学の科目有無、科目区分、単位数、対象学年、時間数、評価方法情報を収集、集計した。到達目標、授業計画の文字データは、KH Coderを用いた計量テキスト分析を行った。

結果

　295課程の内、191課程で災害看護独立科目の実施が確認され、4年生対象、1単位15時間設計がその多くを占めた。到達目標では9つ、授業計画では5つのグループが共起ネットワークにて形成され、関連させて教授される傾向にある概念の関係が示された。

結論

　災害看護科目設置課程数は増加傾向であるが、演習・実践時間の少なさや災害準備期・慢性期の教授割合の少なさ等の課題が明らかになり、今後のカリキュラムデザイン、コースデザンへの示唆を得た。

防災福祉コミュニティ形成を目指した「地区防災関係者との協働によるまちの減災ナース育成研修」実践報告網木　政江 , 牛尾　裕子 , 斎藤　美矢子 , 村上　祐里香 , 緒方　彩乃 , 榊原　弘之 26巻3号 , 2025年5月 , pp.16-27

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要旨

目的：地区防災関係者との協働によるまちの減災ナース育成研修の結果と企画・実施の評価をすることにより、防災福祉コミュニティ形成に資する知見を得ることである。

方法：2022年A市で研修を実施した。受講者14名に無記名自記式アンケート調査と、協働した地区防災関係者11名にグループインタビュー調査を行った。

結果：アンケート回収率は92.7％、研修内容は90％以上の者が理解できており、受講者・地区防災関係者と関係性を築けた者は72.8％であった。受講者は防災・減災に関する課題解決に向けた取り組みと、その具体的な方法を提案することができた。研修企画・実施について地区課題との適切性、受容の認識、採用の意思が確認された。実施可能性として、まちの減災ナースとの活動が述べられた。

結論：研修は、受講者にとって研修目的に即した成果を得られた。協働した地区防災関係者から受け入れられ、受講者と地区防災関係者との連携・協働の関係づくりにつながり、防災福祉コミュニティ形成のきっかけとなった。

資料

地域住民の災害リスク認知と災害に備えた健康管理に関する準備行動の関連佐藤　祐貴子 , 脇　幸子 , 安藤　敬子 , 簀河原　靖子 , 原田　千鶴 26巻3号 , 2025年5月 , pp.28-39

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要約

目的：地域住民の災害リスク認知と災害に備えた健康管理に関する準備行動の関連を明らかにし，教育プログラム開発の資料とする．

方法：A病院外来診療科通院中・B市避難訓練参加の地域住民を対象とし，質問紙にて自記式無記名調査を行った．

結果：災害リスク認知と災害に備えた健康管理に関する準備行動には関連を認めなかった．健康管理に関する準備行動について，治療薬使用者は，持ち出し物品を準備し，医療者へよく相談していた（p＜0.05）．防災教育の受講経験者は，健康管理に関する持ち出し物品と定位置化を行えており，医療者への相談の割合も高かった（p＜0.01）．全体として医療者への相談は1割にとどまった．

結論：災害リスク認知と準備行動の関連は認めず，災害リスクを正しく判断し行動を決定する力の促進が重要である．治療薬使用者の相談状況や準備行動を促すため，平時からの災害時に向けた薬剤管理指導や，「話し合うきっかけ」づくりが必要である．

特集　第26回年次大会

学会企画

災害看護研究における倫理について考える今津　陽子 26巻3号 , 2025年5月 , pp.40-57

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学会企画の趣旨について

　災害看護倫理検討委員会では、災害看護研究における倫理的課題を考慮し、適切に研究を実施し、災害看護学の知を構築することを目指して、所属施設で研究倫理審査が受けられない会員、および、学会としての研究を対象とした研究倫理審査体制の整備に取り組み、2024年10月より倫理審査を開始いたします。それに先立ち、本学会企画のセッションでは、「災害看護研究における倫理について考える」をテーマに、まず、学会として整備した倫理審査体制についてご紹介いたします。続いて、研究倫理の審査体制および教育に精通し、多数の論文を執筆されている松井健志先生よりご講演いただき、その後、災害倫理検討委員会委員を含めて意見交換を行ないます。このセッションを通して、私たち看護職が災害看護研究を行う上での倫理的課題について理解を深め、また、倫理的課題への感度を上げ、支援活動を知とし、そして、学問としての災害看護学につなげていく機会としたいと思っています。

学会特別企画　令和6年能登半島地震報告会　パネルディスカッション

少子高齢化・人口減少社会における災害対応の課題と学会の役割酒井　明子 , 増野　園惠 , 藤田　さやか , 佐々木　久美子 , 網木　政江 , 宮前　繁 , 室崎　益輝 26巻3号 , 2025年5月 , pp.58-78

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Ⅰ．はじめに

　令和6年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」に対して、学会では1月2日から先遣隊を現地に派遣し、事態の把握に努めるとともに、現地での支援を開始しました。2月からは『能登半島地震災害看護プロジェクト』を開始し、現地の関係者とともに被災者の健康を守り、地域コミュニティの早期の復旧・復興を目指して支援に取り組んでいます。しかし、被災地の大半が先に細く伸びる半島にあり、また、少子高齢化、過疎化が進行する地域で発生した今回の地震では、支援に携わる私たちもこれまでに経験としたことのない新たな課題を突きつけられています。本日のパネリストは、能登半島地震の被災地で、発災直後から活動を続けている4名です。それぞれ学会のプロジェクトメンバーとして現地活動をしています。また、先遣隊あるいは各委員会の委員としての立場もあります。本日はプロジェクトの現地活動メンバー及び委員会委員として、テーマである「災害対応の課題と学会の役割」という点から発言をお願いしています。

緊急レポート

令和6年能登半島地震災害看護プロジェクト1年報告会酒井　明子 , 澤味　小百合 , 中村　真寿美 , 佐々木　久美子 26巻3号 , 2025年5月 , pp.79-94

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Ⅰ．はじめに

　令和6年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」は多くの人命や家屋への甚大な被害をもたらしました。その上、復興途上にあった被災地は令和6年9月に豪雨災害に見舞われ、いわゆる『二重被災』に苦しむことになりました。少しずつ気持ちを立て直し前に進もうとしている矢先のことで、被災された方々の気持ちを思うと言葉を失ってしまいます。

　学会は、発災翌日の1月2日より石川県珠洲市内で先遣隊活動を開始、2月10日に「令和6年能登半島地震災害看護プロジェクト」を立ち上げました。そのもとで、被災地の状況に合わせ自治体や関係団体とともに住民の方々の健康を守り、地域コミュニティの復旧・復興に継続的に取り組んできました。

　本日の1年報告会は、最初に学会の災害看護プロジェクト活動の報告、次に「能登半島地震で看護はどう動いたか」をテーマに、被災地での2か所の医療機関における看護の責任者としての経験をお話いただきます。

基本情報

日本災害看護学会誌
26巻3号
(2025年5月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：1345-0204 日本災害看護学会

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