HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY 27巻1号 (2020年3月)

特集 子宮内膜症・子宮腺筋症の新たな展開

特集にあたって 大須賀 穣
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女性の社会進出が進んだ現代において,生殖年齢において多くの女性の健康を損ない,かつ社会経済学的にも大きな問題をもたらしている疾患の代表が子宮内膜症・子宮腺筋症である。古くより子宮内膜症・子宮腺筋症は謎の疾患といわれ,発症機序,病態などにおいて未解明の部分が多く,決定的な治療法はいまだ確立していない。しかしながら,近年の多くの発見と新たな治療薬の登場,治療法の改良により新たな局面を迎えていることは確かである。病因・病態において以前より内分泌学的異常,免疫学的異常,遺伝子・エピジェネティクス異常が指摘されていたが,関連の基礎的な学問の発展のおかげで,子宮内膜症における病因・病態が掘り下げられ,より深い理解が進んでいる。また,子宮内膜症・子宮腺筋症の臨床的問題としてはこれまで疼痛と不妊症が中心的課題であったが,悪性腫瘍,心血管障害,周産期異常,稀少部位子宮内膜症などが子宮内膜症・子宮腺筋症に関する新たな問題として浮上している。

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子宮内膜症の生物学的特性で最も重要な点はホルモン依存性であり,その発生・増殖・進展にエストロゲンとプロゲステロンが深く関与する。病巣局所ではエストロゲン産生が亢進しており,その受け手となるエストロゲン受容体の発現/機能異常が知られている。また一方で,卵巣から分泌されるもう1つのステロイドホルモンであるプロゲステロンに対する応答性の低下に伴い,結果的にエストロゲン活性が増強している。これらの系は治療における直接のターゲット因子でもある。本稿では,これら内分泌学的異常を理解することで子宮内膜症・子宮腺筋症の病態に迫る。「KEY WORDS」エストロゲン産生,アロマターゼ,エストロゲン受容体,プロゲステロン抵抗性

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子宮内膜症の発症には,骨盤内の免疫寛容が強く関与していると考えられている。樹状細胞,マクロファージなどの抗原提示細胞の機能不全,PD-1/PD-L1系の異常,腸内フローラの関与など,最近のトピックをまとめた。一方,子宮腺筋症は高頻度に子宮内膜症を合併し,子宮内膜症と同様の免疫異常の報告も多いが,臨床背景が異なる複数の亜型が存在するため,今後はそのタイプごとに免疫異常を考察する必要性がある。「KEY WORDS」免疫寛容,制御性T細胞,Th17,M1/M2マクロファージ,腸内フローラ

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子宮内膜症・子宮腺筋症の発症には,遺伝子の異常や,後天的に変化しうるエピジェネティックな要因の関与が推察される。前者には一塩基多型(SNPs)や遺伝子変異が,後者にはDNAメチル化修飾,ヒストン修飾,non-coding RNAによる制御が含まれる。これらの子宮内膜症・子宮腺筋症の発症・進展への関与の最新の知見に加え,当研究室で子宮内膜症の病態解明を目的とした研究の最新の成果について概説する。「KEY WORDS」遺伝子変異,エピジェネティクス,DNAメチル化,エストロゲン,マスターレギュレータ

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子宮内膜症は性成熟期婦人の約10%に発生する慢性,持続炎症性疾患であり,月経血の逆流による正所内膜組織の腹膜への接着・増殖・進展がその病因の1つと考えられている。臨床的には月経困難症,不妊症,あるいは内膜症関連卵巣癌への進展を起こす最もQOLの低下を招く疾患である。本稿では,子宮内膜症と関連する悪性腫瘍に関して今までに解明された発癌機序と今後の展望について概説する。「KEY WORDS」子宮内膜症,悪性腫瘍,1型卵巣癌

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子宮内膜症患者は慢性的な炎症の活性化,抗酸化因子の減少による酸化ストレスの亢進,内因性NOS抑制因子の上昇などにより,血管内皮機能は低下している。血管内皮機能の低下は将来の心血管疾患(CVD)の発症リスクといわれており,疫学研究においても子宮内膜症はCVDリスクであることがわかっている。外科的に子宮内膜症の病巣を除去すると,血管内皮機能が改善し,炎症マーカーも低下することが報告されている。また低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)は子宮内膜症術後の再発予防効果があるのみならず,血管内皮機能の改善効果もあるので,CVDリスク低下の可能性がある。「KEY WORDS」子宮内膜症,炎症,心血管疾患,血管内皮機能,ホルモン

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近年,子宮内膜症・子宮腺筋症罹患女性において,妊娠中期以降の周産期合併症(流・早産,前置胎盤,胎児発育不全,妊娠高血圧腎症など)の発症リスクが増加することが明らかとなってきた。また,腹腔内出血などの稀ではあるが重篤な合併症についても知られるようになっている。今後は,重症度,病型,治療歴などにより疾患を細分化して予後を示す必要があり,周産期合併症を惹起する機序を解明していくことが期待される。「KEY WORDS」流産,早産,前置胎盤,胎児発育不全,胎盤形成

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胸腔子宮内膜症は,月経随伴性気胸,喀血などの臨床症状を呈する胸腔内の子宮内膜症のことである。月経随伴性気胸が最も頻度が高く,9割が右側に発症する。また,Diagnosis Procedure Combination(DPC)データより,女性の自然気胸全体では40歳にも発症年齢のピークがあり,月経随伴性気胸が関与している。一方,月経随伴性喀血は,若年発症が多く左右差はない。治療については,月経随伴性喀血はホルモン療法が奏効するが,月経随伴性気胸は再発率が高く治療に難渋することが多い。特に,月経随伴性気胸は再発率低減を目指した治療法を確立していく必要がある。「KEY WORDS」月経随伴性気胸,月経随伴性喀血,子宮内膜症,胸腔子宮内膜症,DPC

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子宮内膜症および子宮腺筋症に伴う月経困難症に対する治療薬として,低用量ピル(OC)と同一成分の低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(LEP)は,副作用の発生頻度が少なく,長期投与が可能な治療薬として定着した。最近,連続投与が可能なLEPが保険収載され,月経困難症治療の選択肢が増した。「KEY WORDS」LEP,連続投与,血栓症

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子宮内膜症・子宮腺筋症に対するプロゲスチン療法は,高い有効性とともに長期的な安全性に優れる。プロゲスチンは多種多様で,低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)の主成分でもあるが,本稿ではプロゲスチン単独で用いられる代表的なものとしてジエノゲスト,レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS),ジドロゲステロンについて採り上げ,その特徴と子宮内膜症・子宮腺筋症の治療における位置づけ・使い分けについて解説する。「KEY WORDS」子宮内膜症,プロゲスチン療法,ジエノゲスト,レボノルゲストレル放出子宮内システム,ジドロゲステロン

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性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト製剤は長らく子宮内膜症に対する薬物療法の中心薬剤であったが,副作用のため長期投与が困難であった。低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)およびジエノゲストに薬物療法の首座を譲ったが,今なお限定的な使用法において効果を発揮する。経口投与可能なGnRHアンタゴニスト製剤では,エストロゲン抑制に用量依存性があり副作用の軽減が期待できる。選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM),選択的プロゲステロン受容体修飾薬(SPRM)においては,国内外で子宮内膜症・子宮腺筋症に対する治療薬として承認されたものはないが,組織選択性を利用し副作用を抑えた子宮内膜症治療薬の開発が期待されている。「KEY WORDS」GnRHアゴニスト,GnRHアンタゴニスト,SERM,SPRM

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近年,組織透明化技術がめざましい発展を遂げ,組織解析において有用な技術として注目を集めている。組織透明化技術の有益性は,立体的な組織を切片化することなく全体像を描出できる点にある。血管やリンパ管などの管腔構造や,神経軸索などの連続する構造体の立体構造解析,さらに連続する構造体に関わる細胞の位置,数,距離などの解析に威力を発揮する手法であると考えられる。本稿では,組織透明化の原理と,実際のマウス卵巣透明化および卵胞構造の3次元イメージングについて紹介する。

ホルモンQ&A 瀧内 剛
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不育症の定義は統一されておらず,診断・治療の方針を決定する際に苦慮することも少なくないが,リスク因子に準じた適切な治療を提示し実践することが必要である。“不育症”は単一の診断名ではなく,複数の病態が含まれる。日本生殖医学会編『生殖医療の必修知識2017』では「妊娠はするが流産・死産を繰り返して児を得られない場合」と定義されている1)。厚生労働省不育症研究班(2008~2010年度)では,「妊娠はするけれど2回以上の流産・死産もしくは生後1週間以内に死亡する早期新生児死亡によって児が得られない場合」を不育症と定義している2)。欧州生殖医学会では不育症(recurrent pregnancy loss;RPL)を,3回以上の連続した化学流産を含む妊娠のロス(pregnancy loss)と定義している3)。一方,米国生殖医学会ではRPLを,2回以上の子宮内妊娠確認後の流産と定義しており4),わが国でもこれを踏襲して,「生化学的妊娠は不育症の診断時の妊娠回数として考慮しない」とすることが多いが,明確な基準は定まっていない。

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個体の成長と生命の維持,生殖とはtrade-offの関係にある。つまりヒトおよび動物は生存期間の大部分を個体の成長・維持に心血を注いでいる。これはいわば現実への投資活動といえる。他方,生殖は子孫を残すものであり,当人および当該種の未来への投資といえるが,これには相応の時間やエネルギーを費やすことで,ときに個体の成長・維持を犠牲にすることもある。ただし,生殖へのエネルギーの投資の仕方は性差がある。たとえばメス/女性においては妊娠,出産,授乳などに多大なエネルギーを注ぐが,オス/男性では女性の関心を引くこと,異性をめぐる同性との熾烈な競合,母親と子孫の食糧や居住環境の確保などのために懸命な努力を強いられる*1。ともあれ現実への投資,未来への投資のいずれを選択するかはホルモンに代表される内因性物質が鍵を握っている。

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基本情報

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HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY
27巻1号 (2020年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1340-220X メディカルレビュー社

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