化学療法の領域 34巻3号 (2018年2月)

特集 マイクロバイオームと生体恒常性・疾患

特集扉

  • 文献概要を表示

 腸管内に細菌が生息していることは古くから知られていたが,現在では我々ヒトはホモ・サピエンスという動物(Eukaryote)と,その個体に生息する多様なProkaryoteの両者で構成された複合生物であるとさえ言われる。皮膚,腸管,鼻口腔,上気道,生殖器など,外界と交通のある器官に住みついている細菌を主体とする微生物叢は細菌だけとは限らず,より広範にマイクロバイオーム(Microbiome)と呼ばれるようになってきている。ヒト自身の総細胞数の10倍にも及ぶとされる常在共生細菌叢は,人種や年齢,個体によってその組成が微妙に異なり,我々の健康に深くかかわっている。本特集では,ヒトのマイクロバイオームがどのように我々の健康や恒常性維持に関与し,一方でその乱れがどのように疾患の発生にも関与するかをまとめ,理解を深めたい。

  • 文献概要を表示

 培養法からはじまったヒト腸内マイクロバイオーム解析は,培養を介さない手法によって,ようやくその全貌が解明された結果,現代医療のトップランナーとして腸内マイクロバイオームが重要視されている。さらに生活習慣が進展との関連を解明する手段として用いられている。筆者は2,806名の健常成人の腸内マイクロバイオーム解析により得られたOUT(operational taxonomic units)と生活特性との関連性を解析の結果,8パターンに分類した。これらの腸内マイクロバイオームと生活習慣との関係は健康のQOL(生活の質)向上など予防医学の推進において重要な役割を担うことになるであろう。

  • 文献概要を表示

 常在細菌叢をもたない無菌生物に既知の微生物を感染させた生物をノートバイオート(gnotobiote)と呼び,その学問体系をノートバイオロジー(Gnotobiology)と呼ぶ。1943年,米国のReyniersとTrexlerによりスチール製無菌飼育アイソレーターが作製され,ニワトリおよびラットの長期間にわたる無菌環境下での飼育および継代が可能となった。以来,ノートバイオロジーは,医学,薬学,歯学,獣医学,農学,栄養学,水産学,理学など幅広い学問領域にて学際的な研究が展開された。無菌動物の特性を評価する初期の研究から,ノートバイオートを用いた常在細菌叢の生体へのかかわりについての研究が進展した。特に,ノートバイオロジーが感染症学・免疫学・微生物生態学・臨床医学などの研究領域に応用され,多数の新知見が得られた。今後さらにオミックス解析や分子遺伝学へのノートバイオロジーの応用が期待される。

  • 文献概要を表示

 腸内フローラの確立は胎児期にはじまる。生後早期の大腸菌群やブドウ球菌などの通性嫌気性菌群の生着に続いて,生後6カ月目までにビフィズス菌がほぼ最優勢となり,3歳時にはFirmicutes門やBacteroidetes門を2大優勢嫌気性菌群とする成人型の腸内フローラが確立する。高齢化にともない嫌気性菌群が減少し,大腸菌群などの通性嫌気性菌群の比率が高まる。生活習慣病をはじめとするさまざまな疾患において腸内菌叢異常が認められる。小児や高齢者におけるプロバイオティクスの継続摂取による腸内フローラや腸内環境の改善および,臨床におけるシンバイオティクスの有用性(感染性合併症予防につながる腸内フローラ異常の改善)が報告されている。

  • 文献概要を表示

 腸内細菌叢解析を中心とした先駆的な研究により,ヒト共生細菌叢(ヒューマンマイクロバイオーム)が疾患の発症のみならず,生体機能の恒常性維持にも重要な働きをしていることが明らかとなりつつある1)。本稿では,ヒトの皮膚(スキン)マイクロバイオームの組成とその恒常性について概説した後,皮膚の免疫機能に与える影響や,疾患や健康との関連性などについて述べる。

  • 文献概要を表示

 近年の次世代シークエンサーの出現とともに確立された「メタゲノム解析」により,腸内マイクロバイオームを中心とした生体各部位におけるフローラの解析が行われ,Synbiosis,つまり共生細菌の重要性が認知された。その結果,そこで生じるDysbiosisが各種疾患と深くかかわっていることが明らかとなってきた。すなわち腸内フローラのDysbiosisは,炎症性腸疾患,がん,動脈硬化,糖尿病,肥満などの疾患と関係しているとされ,腸内フローラの変化は疾患の結果ではなく,むしろ原因となり得ると考えられるようになった。口腔の二大疾患,う蝕と歯周病も口腔フローラのDysbiosisによって発症することが解明されており,最近の基礎研究や疫学調査から,口腔の感染症は単に口腔のみに留まらず,さまざまな全身疾患の誘因となることが明らかとなっている。高齢化社会におけるQOL(quality of life)の維持と医療費削減を実現するためには,中高年の口腔の機能維持と全身の健康管理がきわめて重要となる。それを実現するために,国民の口腔ケアに対する啓蒙活動の促進と,医歯薬連携を中心としたさまざまな取り組みが必要となる。

  • 文献概要を表示

 腸内細菌と過敏性腸症候群(IBS)に関する知見が蓄積されつつある。感染性胃腸炎後にIBSが発症する感染後IBSの概念は腸内細菌叢の変化とIBS発症の関係を示している。さらに,非吸収性経口抗菌薬のrifaximinがIBS症状を改善すること,IBS患者にプロバイオティクス投与で腹部症状が改善すること,fMRIでプロバイオティクスが内臓知覚に関与する脳機能を変容させることから,腸内細菌は内臓知覚受容機構に影響を及ぼし,IBSの病態に深くかかわる可能性が考えられる。我々は,脳内オレキシンシグナルの低下が内臓知覚過敏を引き起こし,IBSの病態形成に関与するとの仮説を提唱している。腸内細菌による脳胃腸軸の機能変化がIBSの病態を引き起こすというダイナミックなメカニズムが想定される。

  • 文献概要を表示

 腸内マイクロバイオームと循環器疾患との関連調査研究が進み,特定の菌種や腸内細菌代謝物と疾患発症との関係が報告されている。我々は冠動脈疾患の発症と腸内細菌叢との関係を調査して報告した。さらに,その結果を用いて疾患発症リスク評価に使用できないか?という取り組みを行った。本稿では口腔ならびに腸内マイクロバイオームと動脈硬化を中心に循環器疾患との関連性に着目して,これまで報告されている研究成果を紹介し,マイクロバイオームを臨床医学の中で検査することの意義についても考察したい。

  • 文献概要を表示

 腸内共生細菌の低分子代謝産物は腸管より吸収されると宿主細胞に直接的に作用する可能性が高い。特定可能な水溶性代謝産物だけでも200種程度存在するが,その半数以上が腸内共生細菌の影響を受けている。現時点で,腸内共生細菌の作用で食物繊維類から産生される短鎖脂肪酸による免疫修飾作用や,コリンやカルニチンから生成されるトリメチルアミンとアテローム性動脈硬化の関連性など意義深い研究成果が存在するが,他の代謝産物の知見はほとんどなく,まだ黎明期と言える。筆者らは,多数の代謝産物から多岐にわたる機能を有するポリアミンに着目し,腸内共生細菌のポリアミン産生を高める手法の開発に取り組み,マウスの寿命伸長効果が得られることを見出した。

  • 文献概要を表示

 ヒトの消化管には100兆を超える細菌が存在し,その数は人体を構成する細胞数を凌駕する。宿主は腸内細菌叢からさまざまな恩恵を受けており,腸内細菌叢が乱れ,Dysbiosisの状態になると疾患を引き起こすと考えられるようになった。動物実験の結果から,抗菌薬で腸内細菌叢のDysbiosisを誘導すると腫瘍微小環境が変化し,発がん頻度やがん免疫の効果も変化することが実証されている。臨床の場で使われている免疫チェックポイント阻害薬や,臨床試験中のT細胞移入療法の効果は腸内細菌叢に大きく影響を受ける可能性が高い。また,従来の細胞傷害性抗がん剤はがん免疫を増強することがあるが,この増強効果も腸内細菌叢により修飾される。腸内細菌叢が免疫系を介して発がんやがん免疫にどのような影響を与えるか最新の知見を概要した。

連載 感染症診断と病理

  • 文献概要を表示

 細胞標本だからだとか,古いHE染色標本が1枚しかないからとか,シランコートスライドでないからといった理由で,追加の特殊染色や免疫染色をあきらめていないだろうか。こうした状況に役だつ「細胞転写法」を中心とした実務的な工夫を述べてみたい。応用例として,細胞転写法による破損標本の修復例を冒頭ページ図に示す。

連載 連載・私達の研究(180)

CA-MRSAの特徴と多様性 山口哲央
  • 文献概要を表示

 わが国においても薬剤耐性(AMR)アクションプランが決定され,薬剤耐性菌対策の必要性が高まってきている。我々は,医療現場においてもっとも遭遇する機会の多いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の分子疫学解析や薬剤耐性,病原性を中心に研究を進めている。MRSAは,かつては医療関連感染症の起因菌として考えられていたが,近年では市中感染型MRSA(CA-MRSA)や家畜関連MRSA(LA-MRSA)など,姿を変えてさまざまな環境に出現してきている。特にCA-MRSAは重篤な感染症を引き起こすことがあり,わが国においても徐々に増加傾向にあることから,対策を練る必要がある。

連載 忘れられない症例(5)

私を育ててくれた症例 角田隆文

連載 エッセイ(303)

感染症と教育 千酌浩樹

  • 文献概要を表示

グラム陰性菌に関連した嚢胞性繊維症に対するイブプロフェンの抗菌薬効果ほか6報

巻頭言

巻末資料

抗癌剤略号早見表

抗癌剤併用療法略号早見表

抗菌薬略号早見表

バックナンバー

バックナンバー

基本情報

09132384.34.3.jpg
化学療法の領域
34巻3号 (2018年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0913-2384 医薬ジャーナル社

文献閲覧数ランキング(
11月5日~11月11日
)