胃と腸 7巻1号 (1972年1月)

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 近年早期胃癌の診断も,対象が広がりについては2cm以下,1cm以下のものへと驚くべき速さで進歩してきている.

 一方,Ⅱcの診断も深いⅡcから浅いⅡcへと,だんだんⅡbに近づいてきて,浅いものへのアプローチもX線学的,内視鏡学的方面からようやく検討されるようになってきた.

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 近年,臨床的に診断されて手術された早期胃癌の症例数が急増するに伴い,Ⅱc(またはⅡa)とするのには,あまりにも凹凸の差が軽微であり,X線で現わすのにも非常に骨が折れるといった症例がかなり集ってきた.そこで,私どもは,これらの症例を純粋のⅡbと判定するのには躊躇するが,Ⅱbに準じた表現,例えばⅡb様病変として取扱った方が現実にそうのではないかといった考えから,昭和43年10月の第6回日本内視鏡学会秋季大会(松本)に「ⅡbのX線診断の可能性について」と題して報告した.が,果して,佐野量造先生をはじめとする諸先生から批判を受けた.供覧した症例はⅡbではなくてⅡcであるというのが主要点であったと思う.当然のことである.しかし,その後,早期胃癌研究会などに提出される症例などをみていると,Ⅱbと判定された症例も,私どもの集めた症例と大同小異のようである.

 一方,癌研病理の中村恭一は,エネルギッシュに胃の切除標本を,詳細に,検索して,5mm以下の微小胃癌を多数集めていた.そこで,昭和42年の夏に,X線および内視鏡のフィルムと病理の資料を持ち寄り,微小胃癌がX線および内視鏡フィルムにどのように現われるものかretrospectiveに検討してみた.この成績は,芳しいものではなかったが,昭和43年の7月の胃癌研究会(仙台),および,昭和44年4月の放射線学会総会(米子)で発表した.

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 近年Ⅱb型早期胃癌の報告例が増加してきたがまだそのX線,内視鏡とも確たる診断基準が示されてはいない.

 Ⅱbを探し出そうという努力は,単に診断限界をのばすという興味だけではなく,胃癌の初期像の検討,胃癌の発育の研究のみならず切除範囲の決定というpraktischの要求に対しても答えることができる.

 しかし,まず困ることはⅡbといっても人によりその肉眼的判定には少なからず解釈の相違がみられることである.

 1962年の内視鏡学会分類によるⅡbの定義を振り返ってみるに,肉眼的にみて表面平坦で胃癌の初期像を想定させるものという位で,それ以上の細かいとりきめはなかったように記憶している.

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 わが国における胃癌のX線・内視鏡診断学の進歩にはめざましいものがあり,早期癌が数多く発見されている.そして,診断学の進歩は全体的にみた胃癌の予後改善に大きく寄与している.現在では,診断の困難な形態変化の弱い“所謂Ⅱb型早期癌”および“小さな癌”をいかにして発見すべきかが問題となっている.このように,形態面からの胃癌診断学は極限の追求ともいうべき方向に向っている.しかしながら,臨床的に診断困難な“Ⅱb型早期癌”および“微小癌”は,病理形態学的に診断という点においては問題とならない.このことは,病理形態学は癌を顕微鏡で直接認識しうるという手段から考えて自明である.また,癌の組織発生という点についても,癌は胃の粘膜から発生するものであるから,すべての胃癌はⅡb(村上教授のいう癌発生点の状態)から出発して,癌が大きくなるにしたがって他の型に変化して行くということも自明である.

 このように,Ⅱbは臨床的には“診断困難な”ということで重要であるが,病理面においては“癌の一つの存在様式である”ということだけである.ここで,筆者らはⅡbの病理形態の記述のみではなく,診断困難な癌すなわち“Ⅱb型早期癌”および“微小癌”というものの病理形態学的な面を若干述べてみたい.“Ⅱb型早期癌”に加えて“微小癌”をも対象としたことは,“診断困難な癌”という条件によって制限された集合において両者は同類であり,それらを概観することは臨床病理として意味があると思われるからである.また,早期胃癌分類法を全早期癌に適用する場合には,癌の大きさの点を無視することができないから(後述).

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 座談会の筋書きをのべよう.これに目を通してから読まれると,理解に便な点もあると思われます.

 いよいよⅡbの診断に挑戦することになった.むずかしいⅡbだけあって,現状の診断成績は,自慢できるものではない.ではどうしよう.

一頁講座

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 胃内視鏡検査が終ったあとの患者の処置はそれぞれの内視鏡室で決められたルールを下に適切に行なわれていると思う.事後の患者処理がうまくゆかないと折角の内視鏡検査の成功もだいなしになって,患者の不満をまねくことになる.多くの患者を検査する病院ではそこまで医師の注意が廻らないため,ともすれば検査後の処理が紋切型で不親切になりやすい.必要な検査後の注意は術者自身がわかりやすく話しておいた方がよいように思う.

 胃内視鏡を抜去したあとは,すぐ所謂“膿盆”を渡し,口腔内にたまったものをださせ,口のまわりの粘液をぬぐいとらせる.大切なことはここで検査に対するねぎらいの言葉をかけてやることであって,検査に十分協力してくれたため胃のなかの観察が非常にうまく行なえたことを話して賞讃する.

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 純粋のⅡbは稀であるが,ⅡcやⅡaなどに随伴して現れるⅡbは稀ではない.しかし,その肉眼診断や範囲の判定は非常に困難で,それらの内視鏡診断,肉眼診断法の開発が急がれている,このAH法の大きな目的の一つは,実はこのⅡb診断の開発にあるのである.Ⅱc(本シリーズ第3回目),Ⅱa(第4回目)で既に述べたように癌粘膜の特徴は,正常胃小窩模様(FP),胃小溝模様(SP)の異常な乱れ,不明瞭化,消失,胃粘膜のヘマトキシリンに対する染色性の不規則化,不染化,異状な大小不同,不正形の類絨毛(Villoid)状凹凸の出現などが主な所見である.しかし,これらの変化のうちⅡcに現れやすいもの,ⅡaやⅠに現れやすい所見に多少差がある.異常に大きい不正形の類絨毛状の凹凸やポリープ状の凹凸はⅠやⅡaに現れやすいもので,Ⅱbに現れることはまずないが,その他の変化は何れもⅡbに現れる.実例を供覧する.

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 近年,小児外科分野の著しい進歩に伴って,横隔膜ヘルニア,とくにBochdalek孔ヘルニア(胸腹裂孔ヘルニア)の新生児期治験例の報告が数多くみられるが,成人例はまれのように思われる.最近,われわれは29歳女性に発症した本症の1治験例を経験したので,2,3の文献的考察を加えて報告する.

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 Ⅰ. 症例

 患 者:K. W. 29歳 ♀.

 主 訴:心窩部痛.

 家族歴:特記することはない.

 既往歴:昭和42年6月頃から1日数回,食事と無関係の心窩部痛が起るようになり,その後,次第に心窩部痛が増強し,回数も増加してきた.昭和45年11月6日朝,列車内で悪心,意識混濁を起こし,某病院に入院.胃潰瘍と診断された,内科的療法を受けるも症状が軽快せず,昭和46年2月19日,当センターに入院した.

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 Ménétrier病の問題点の1つとして,本症の癌化の問題は古くから論じられてきた.本症の2.7~8%に胃癌の合併が報告されている.しかしこれら症例の大多数は進行癌との合併例であり,これらの胃癌が明らかにMénétrier病を基盤として発生したものであって,胃癌の結果巨大すう襞が生じたのではないと断定することはしばしば困難である.本症の癌化を論ずる場合,本症と初期胃癌の合併例の検討はきわめて重要と考えられるが,文献的にそのような合併例はきわめてまれである.

 著者らは最近本症と早期胃癌の合併例を経験したので報告する.

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 1950年 Gardnerによって初めて遺伝的疾患で軟部組織腫瘍,骨腫,多発性結腸polyposisの三症候を有するものをGardner症候群として記載して以来,現在までに100例にみたない甚だまれな疾患である.最近われわれは家族的発生は認められなかったが前額部および下顎部の対称性骨腫,腹壁に生じたDesmoid,左半結腸に多発性polyposisを有しGardner症候群と思われる1例を経験したのでこれを報告し若干の文献的考察を加える.

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 難治性胃潰瘍の局所注射療法の成績をどのように扱ったらよいのか甚だ面倒である.いずれも経口投薬を行なっているのでその方の効果もいくらか算入せねばならないであろうし,注射したからといって注射薬剤による効果とばかりも言えない.詳しく知りたい方は,治療53巻3号に並木正義先生達の行なった治療法の結果が詳細に報告されているので,読んで頂きたい.今のところこれ以上の内容のレポートは出ていないと思う.

 私達の経験について述べると次のようになる.X線写真上直径8mm以上,40歳以上で,3カ月以上open ulcerであった例を選び,その潰瘍が活動期である時期から局所注射療法を開始し,週1回づつ注射を行なう.

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 昭和46年8月下旬から9月下旬にかけてオーストラリヤのシドニー大学医学部postgraduate committeeの招聘により消化器癌の診断治療に関するpostgraduateの教育を担当するため渡豪した.

 真夏の東京を飛びたち15時間で肌寒い晩冬のシドニー空港に到着,シドニー大学医学部postgraduate committeeのdirector Nelson教授,Piper教授,Dr. Nagyらの出迎えを受け,挨拶を交すや早速テレビラジオのインタビューで一寸面くらった.

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欧文目次

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 電子顕微鏡を用いて細胞の微細構造の変化を追求することは,現在では臨床医学の分野でも広く研究に利用されている.臨床医学における研究者は,長く生体の生化学に深い関心をもってきたが,分子生物学や細胞生物学の進歩とあいまって,今や生化学的な所見を細胞形態学とむすびつけなければならない.そのような立場で,臨床医学にも電子顕微鏡という方法論が急速に発展してきたと考えられる.

 このたび医学書院から,東京大学病理学教室太田邦夫教授の編集によって「電子顕微鏡による細胞組織図譜」第6巻「腫瘍」が出版されたことは,腫瘍学に関係する臨床医としてよろこびにたえない.本図譜は,東京大学解剖学教室山田教授,東京大学生理学教室内薗教授および,慶応大学病理学教室渡辺陽之輔助教授の総編集になるものであり,その第6巻は最終巻である.本図譜の目的とするところは,もちろん臨床医学に関係する研究者のみならず,電子顕微鏡を使って研究にたずさわる人々に対して標準的なテキストとすることにある.この意味で,日本の腫瘍研究の指導者である太田教授が,第6巻の編集の責をとられたことは意義深い.

編集後記 崎田 隆夫
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 早期胃癌の各型の診断はめぐりめぐって,遂に本号で平坦型Ⅱbがとりあげられるに至った.或る意味で,早期胃癌の診断はまず完成した形となり,それらは整理に整理を重ねられて,きわめて理解し易い内容となった.即ち完成という言葉が使われ得るわけであるが,勿論まだ今後に残る課題は幾つかある.そしてそれの最も重要な課題の1つが,このⅡbの診断ということになる.

 ⅡaにしろⅡbにしろ,その凹凸が僅かとなってⅡbに近づくほど,その癌という質的診断はむずかしくなってくると一般論としていってよいであろう,X線,内視鏡の臨床面より,更に切除肉眼標本からも全く凹凸のわからないものを典型Ⅱbと定義しようと先般なったようであるが,臨床的に診断できないものを典型Ⅱbとして,それの診断にいどむのもよいであろう.現段階ではX線内視鏡とも,アレア(胃小区)の分析を進めているが,これは現在唯一のⅡbを診断し得る手段かもしれない.しかし,初期の胃癌はpeptic ulcerationの危険に常にさらされ,その成長の経過は必ずしも簡単な形をとらないと想像される.我々はこの意味で,従来よりはるかに多数例の臨床症例の観察に目を向けると共に,最近成功した実験胃癌を莫大に駆使し,胃癌の組織発生の解明の方向に進まなければならない.これがⅡbを解決する決め手ともなろうし,或は,治療から癌の予防という或る意味で,核心的な問題を生み出すことになるかもしれない.ともあれ,このⅡbという重要問題に真正面からとりくみ始めた本号の各論文を賞味していただきたいと思う.

基本情報

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胃と腸
7巻1号 (1972年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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