胃と腸 7巻2号 (1972年2月)

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 日本における早期胃癌の診断学の進歩は顕著なものであるが,まだ多くの問題を残している.その一つにⅢ型早期癌の診断がある.本論文ではⅢ型早期癌の症例を見直して,診断学をもう一度考え直してみることにする.

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 近年の胃疾患に対する診断学の進歩によって,早期胃癌は,特殊な技術を用いなくても,いわゆるroutine検査の中から数多く発見され,確実な診断がつけられるようになってきている.しかし早期胃癌を肉眼型別にわけて考えてみると,なお鑑別診断に苦しむ症例が決して少なくない.特にⅡb型の診断は,今後検討されるべき多くの問題が残されているが,ここでその対象としてとり上げるⅢ型も確定診断の困難な型に属していると思われる.このⅢ型の診断について,症例の検討を加えながら,問題点を幾つかあげてみたい.

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 早期胃癌の肉眼分類によれば,陥凹型病変の代表的なものとしてはⅡcとⅢ型早期胃癌があげられており,Ⅲ型は理論的にはⅡcを伴わない潰瘍性早期癌である.しかし臨床的には,これと良性潰瘍との鑑別は困難であり,私どものところではⅢ型早期胃癌は診断されていない.

 従って私どもの症例で,かつてⅢ型のstageがあったと推定される悪性サイクルを示した陥凹型早期胃癌について,retrospectiveに検討し,果してⅢ型といえるstageがあったか,Ⅲ型の特徴的内視鏡所見があるか,Ⅲ型は内視鏡的に診断可能か等について検討した.

Ⅲ型早期胃癌の診断 福地 創太郎
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 まえがき

 早期胃癌診断学の進歩により,最近ますます微細病変が発見されるようになったとはいえ,今日のX線および内視鏡による早期胃癌診断の規準は,隆起型においては,隆起の形態と表面粘膜の性状による鑑別診断であり,陥凹型においては,潰瘍の併存の有無を問わず,Ⅱc病変を見出すことに帰するといってよいと思う.過日の第13回日本内視鏡学会総会における,“Ⅱbをめぐって”の展示シンポジウムにおいても,Ⅱbの臨床診断に対するアプローチが論ぜられたが,一定の拡がりを有する類似Ⅱb(一部にⅡaないしⅡc的要素があるが,全体としてほぼ平坦な病変)や,随伴Ⅱb(明らかなⅡaやⅡcの周囲に随伴するⅡb)は診断しえても,単独の典型Ⅱb(これは事実上大部分が5mm以下の微少病変である)の診断は現段階ではきわめて困難であることが明らかにされた.しかもこれらの類似Ⅱb病変で,臨床的に癌を疑う根拠になった所見は,X線では,淡い陰影斑,胃小区の乱れや平低化など,内視鏡では,発赤や褪色,光沢の消失などで,このような変化は,Ⅱc内面の変化や,Ⅱa表面の変化のさらに微細な表現と解釈されるものも少くなく,実際に臨床的にⅡaないしⅡcと診断されたものもある.従って,今日の早期胃癌病変の診断は,ⅠないしⅡaおよびⅡcの診断と,それらの延長上にある,粘膜表面のさらに微細所見の把握に依拠しているといってよいと思う.

 Ⅲ型早期胃癌は,潰瘍辺縁に限局して癌巣を有するが,肉眼的に明らかなⅡcを有しないものであり,いわばⅢ+Ⅱbと称することができる.このように純粋なⅢ型に属するものは,実際にはかなり頻度が少いようである.潰瘍辺縁の癌巣はしばしば癌性びらんを形成し,Ⅲ+Ⅱcの形態をとることが多い.従って,殊に潰瘍癌の問題を論ずる場合,Ⅲ型を広義に解釈し,Ⅲ+Ⅱc型も含めて論ぜられる場合もある.しかし,臨床診断の立場からみると,潰瘍辺縁のⅡcを見出すことが,潰瘍の良性悪性を鑑別する診断の決め手であり,従って,明らかなⅡcを伴わないⅢ型が良性潰瘍との鑑別がきわめて困難である事実を考慮すると,たとえ頻度が少くとも,Ⅲ+Ⅱc型と区別して,如何にして純粋なⅢ型を発見するか,診断上の問題点とこれに対する臨床的対策を講ずる必要があるように思われる.殊に最近では,胃生検の活用により,潰瘍の良性・悪性を術前にかなり確実に鑑別しうるようになると共に,多くの胃潰瘍が比較的容易に瘢痕治癒しうる事実が明らかになって以来,良性の胃潰瘍は,難治性のものや,合併症を伴うものを除いて,原則として内科的に治療し経過を観察することが多い.このような立場からみると,良性潰瘍と鑑別困難なⅢ型早期胃癌を,臨床的に如何にしてチェックするかはきわめて重要な問題となっている.

 以下,このような見地から,Ⅲ型早期胃癌の臨床診断の問題点を述べると共に,胃潰瘍の生検成績から,Ⅲ型の頻度と潰瘍の癌化の問題について若干の私見を述べたい.

Ⅲ型症例

Ⅲ型早期胃癌症例 古沢 元之助
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 早期胃癌の肉眼型Ⅲについては,種々の論議があるが,ここでは病変の肉眼形態を一応Ⅲ型としてもよいと思われる症例を示すことにした.

 九大第2外科で,昭和35年から同45年までの11年間に手術された早期胃癌134例(140病変)のうち,Ⅲ型早期胃癌に相当するものは6例で,早期胃癌病変の4.3%であった(表1).この6例のⅢ型早期胃癌症例を表2に示したが,この表中の2例(症例5,6)を供覧する.

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 Ⅰ.Ⅲ型早期胃癌の概念について

 内視鏡学会で最初に出された早期胃癌肉眼分類の規約によると,「ⅡcとⅢ型の区別は陥凹の深さがおよそ(肉眼的にみて)粘膜層に止まっているか否かによる」と約束された.「胃と腸」の冒頭にかかげてある英文の基準によると,「陥凹の深さが粘膜下織を越えているか否か,すなわち,固有筋層に達しているか否かによる」と記載されている.内視鏡学会の規約がその後改訂されたということを聞いていないので,英文にする際の誤訳かもしれない.しかし,組織学的にはⅡc様陥凹の一部が粘膜層を越えていても,潰瘍としての肉眼的特徴を示さないと,単にⅡcと判定されることが多い.明らかにⅢ型と判定されるものは大体深い潰瘍を形成しているものであって,多くの場合その陥凹は粘膜下織を越えている.こういったことから,実際には期せずして「胃と腸」の冒頭にかかげてある基準に従った判定がなされていることが多い.今かりに前者の基準を内視鏡学会基準,後者を「胃と腸」基準と呼ぶことにして,そのいずれがより実際的かについて考察する.

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Ⅲ型早期胃癌は数が少なく,多くの問題を含んでいる.この日は,Ⅲ型の抱えている難しい問題点――Ⅲ型と潰瘍との関係,肉眼分類と組織学的診断とのつながり,Ⅲ型の時間的変化,biopsyを含めた診断の可能性,など――を彫りさげた.Ⅲ型の考え方や診断をめぐって議論白熱し,長い座談会になった.

 村上(司会)Ⅲ型の早期胃癌の座談会を始めたいと思います.お話の筋道を予め立てないで,おもしろそうな話題からお始めいただければたいへんありがたいと思います.

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 9月1日は朝9時から夕方5時半まで当地のgastroenterologistが多数集まり,Royal North Shore hospita1のNorman Nock lecture theaterにおいてAdvanced day course in upper gastrointestinal cancerが行なわれた.

 私は(1)Early gastric cancer: Its etiology, pathology and treatment,(2)Diagnosis of gastric cancer radiology,gastroscopy,gastric biopsy and exfoliative cytology,(3)Esophagoscopy,fiberduodenoscopy(FDS)and endoscopic pancreatocholangiography(EPCG)と題して1時間ずつ午前中2回,午後1回と計3回のlectureとその後discussionを行った.

研究

Ⅲ型早期胃癌について 横山 秀吉
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 昭和37年早期胃癌の全国集計が施行せられ同時にその内視鏡分類が制定されてから10年を迎えようとしている.この間胃潰瘍と癌の問題も潰瘍が先行か,粘膜癌が潰瘍化するのかの論争となり,またその経過観察の上からも所謂悪性サイクルの観念が現われる等色々の事柄が出てきた.早期胃癌の分類についても内視鏡分類が今日では普遍化されて参ったが,必ずしも満足なものとは言えない.とくにⅢ型早期胃癌というものについては私は今日なおかなりの抵抗を感じているものである.以下このような点に関してⅢ型早期胃癌についての私の考えを説述したい.

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 最近多発胃癌の症例報告が増加しつつあるが,われわれも特異な形をしたⅡa様進行癌とBorrmann Ⅱ型との多発進行胃癌を経験したので報告する.

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 小腸の局在性の器質的病変は非常にまれで,しかももっとも有力な診断法であるレ線検査によっても病変を的確に把握することが困難なことなどから,この種の病変の診断はしばしば不正確なことが多い.著者らは約12年間の経過中に,腹痛,下痢,貧血,浮腫,低蛋白血症などを呈し,この間虫垂および胃切除術を受けたが症状の改善はみられず,輸血などの対症療法を繰りかえしていた患者を経験した.種々の検査を行ない,蛋白漏出性胃腸症を呈する回腸の出血性病変と考え開腹した結果,限局性回腸炎とも結核性病変ともいえない非特異性多発性回腸潰瘍と診断した症例を経験したので報告する.

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 胃のReactive lymphoreticular hyperplasia(以下RLHと省略)が,内視鏡で悪性腫瘍(早期胃癌,胃悪性リンパ腫)と紛らわしい所見を呈するというので,最近にわかに注目されるようになった.

 我が国では1966年に中村氏らが本症について報告し,その時初めてこの疾患の概念が一応確立されたといえる.最近つぎつぎに本症例が報告されているので,この疾患は今まで考えられていたほどまれなものでは無いようである.

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欧文目次

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 George N. Papanicolaouがヒトの腟塗抹細胞で女性性周期や閉経期に関する論文を発表し始めたのは1933年頃からであるし,子宮癌細胞診は1941年以降であるから,wet smearとしてのPapanicolaou法は今日で既に40年の歴史を持つといってよいであろう.一方dry smearに対してエオジンとメチレン青の混合によって生じるラヅールを主体とするMay-GrünwaldやGiemsaの方法はPapanicolaouよりも更に20年から10年以上古い歴史を持っている.いずれもが光顕レベルでの単一細胞染色法,固定法としてほぼ完成された手技といってよい.したがって,そこからは細胞に関する実に多様で豊富な形態学的情報をとり出すことができるものだという感を近頃ますます深めている.それはPapanicolaouの方法がわが国に入って来た昭和20数年頃の予想を遙かに上廻っているばかりでなく,もはやこの方法がかっての血液形態学の隆盛を上廻る実用性と広い応用性を確立したことを意味している.この方面の学会活動では剥離細胞学国際学会が1962年に発足し,のち2年毎のInternational Academy of Cytologyに変って第4回が昨年ロンドンで盛大に行なわれたし,日本臨床細胞学会とそのスクリーナー部会の活動も目覚しい.日本臨床細胞学会と日本臨床病理学会共催の細胞検査士資格認定試験も今年12月で第4回を迎えようとしているところであるが,今までに送り出した合格者数137名は決して多いとは言えぬとしても,その人達の能力は国際水準をたしかに抜いており,近々実現する国際的統一資格認定についても何等遜色なしと考えている.スクリーナー養成学級も増加しつつあり細胞診に対する社会の需要は一層大きいという実状である.

 細胞診関係の著書も近年急激に増加して来た.いま10指に余る力作が世に出て大いに売れているらしい.それらの著者がいずれも油の乗り切った細胞診指導医であり,今日に到る経験の蓄積が堰を切って溢れ出した様相を呈しているのは一種の壮観でもある.

編集後記 城所 仂
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 早期胃癌の肉眼型分類が決められてから10年になり早期胃癌の症例数は膨大になった.それに伴って種々な形の早期胃癌が報告されたが,Ⅲ型早期胃癌の報告はきわめて少ない.

 厳密に取り扱えば扱うほどⅢ型は難かしい問題を含んでいることは諸家の等しく認める所である.

基本情報

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胃と腸
7巻2号 (1972年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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