胃と腸 5巻3号 (1970年3月)

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はじめに

 胃癌が確実に早期診断できるようになった現在でも,胃肉腫のX線診断の水準は,まだ進行癌の水準にとどまっている.今までに胃肉腫の報告例は極めて多数あるが,早期胃肉腫の報告例は極く少数である.

 胃肉腫についての文献は,2つに大別することができる.1つは,単に少数の自験例の報告に終るものである.もう1つは,自験例の不足を補うために,できるだけ過去の文献を集め,それに記載されている多数の症例を検討することによって,胃肉腫の全貌を明らかにしようとするものである.この2つは両端であるが,このような検討の積み重ねによって,胃肉腫についての理解は深められ,そのX線診断も,一応研究つくされたともいえそうである.しかし,何と言っても,胃肉腫の発生頻度が少ないために,自験例が少なすぎる.また,胃肉腫は,組織所見にしても,肉眼所見にしても,複雑,多様である.そのためか,進行胃癌のBorrmann分類のように,また,早期胃癌の肉眼分類のように,広く一般に採用されているような肉眼分類はない.肉眼所見はX線診断の基礎になるものであるから,肉眼分類が共通でないということは,お互いの症例を比較検討するさいに,非常に困るのである.それに,胃肉腫には,胃癌ばかりでなく,良性の隆起性病変や良性潰瘍,巨大ひだ(皺襞),梅毒など,鑑別診断がむずかしい胃疾患が多数記載されている.さらに,胃原発性の悪性リンパ腫の予後が,他臓器原発の悪性リンパ腫に比べて,統計的に良好なのは,肉腫と診断されているもののなかに,臨床的ならびに病理組織学的に悪性リンパ腫と鑑別診断が困難な良性疾患,つまりreactive lymphoid hyperplasia(Smith-Helwig),reactive lymphoreticular hyperplasia(中村ら)が含まれているからであるといった報告もある.

 このようなわけで,既にKonjetzny(1921)が胃肉腫のX線診断にたいして批判的態度をとっていたが,最近の成書をみても,同じような傾向がみられる.Prevôt-Lassrich(1959)やTescbendorf(1964)は,胃肉腫と胃癌との鑑別診断はできないといっているし,Frik(1965)は,組織診断―手術・生検―のない最終診断は正確でないといった意見である.

 この間,胃肉腫のX線症状と臨床症状とを組み合せることによって,胃肉腫の診断を向上させようとする研究もなされてきたが,この方面からの研究も,それほどよい成績は上らなかった.

 しかし,胃肉腫は,胃癌に比べて,手術の遠隔成績が良好であり,悪性リンパ腫には放射線感受性があるといったこともあって,積極的に胃肉腫をX線診断しようという努力も絶えずあった.このような立場からみると,少なくとも,ある種の胃肉腫のX線診断は可能のようにも思える.

 ところで,胃肉腫の初発部位は,粘膜下層および筋層で,粘膜から発生するものは極めて少ないといわれている.また,異論はあるが,Hesse(1912)によれば,胃肉腫の初発部位は,粘膜下層65%,筋層24%,粘膜および粘膜筋層7%,漿膜下層4%である.とすると,胃肉腫では,胃癌のような早期診断はむずかしいであろう.以上が,胃肉腫X線診断に関係のある事項のあらましである.どうも,混乱していて,明快ではない.この傾向は,悪性リンパ腫で特に著しい.そこで,今回は,紙数の関係で,胃の細網肉腫のX線診断について検討することにする.

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はじめに

胃肉腫は,従来比較的まれな疾患とされ,その臨床診断は困難で,殆どが癌と誤診され,手術または剖検標本の組織学的検討によって,初めて正診が下されていた.しかし,近年X線,内視鏡,特に細胞診と生検の進歩普及により,漸次術前に正診が得られるようになって来た.

 筆者らは,1965年1月より1969年8月に至る約4年8カ月間に当科において内視鏡検査を実施し,手術あるいは剖検,一部は生検により,組織学的に胃肉腫と診断された16症例を経験した.

本稿においては,これら症例の主として内視鏡所見,一部内視鏡を用いた細胞診ならびに生検成績について検討し,併せて文献的考察を試みた.

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はじめに

 胃疾患診断学が著しい進歩をみせ,種々の疾患の鑑別診断がかなり正確に行なえるようになって来ている現在において,なお診断が比較的難しいとされているものの一つに,胃肉腫がある.これは,その発生頻度が,胃癌腫に比べて0.5~3%(Palmer1),Gtitgeman2),Balfour3),梶谷4),山形5))とかなり低いために,多数の症例を集めて,その診断学的事項を検討するという機会が少ないためと考えられるが,現在でもなお,X線内視鏡的診断法では,胃癌との鑑別は特有な場合を除いては,困難とされている.

 昭和33年に,筆者の1人信田が津田6)と共に,細胞診(Abrasive Balloon法)により診断可能であった胃細網肉腫の1例を報告したが,これが幸いにも,この分野の診断可能例の第1例となった.その後,阪7),山田8)9),山形10),綿貫11),信田,津田12)らにより,それぞれ細胞学的に診断可能であった胃肉腫,特に胃悪性淋巴腫症例が報告されて,この分野の腫瘍の胃癌との鑑別には,細胞診が重要視されるようになって来た.信田12'は既に自験例5例を,その細胞学的所見をまとめて発表してあるので,本稿では,その後経験した2例の胃悪性淋巴腫症例と,1例の胃平滑筋肉腫症例の細胞像を述べ,また,この分野の診断における直視下生検の意義についても触れたい.

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はじめに

 胃に生ずる肉腫は,一般に知られているものでは悪性リンパ腫(細網肉腫,リンパ肉腫,ホチギン病)と滑平筋肉腫がもっとも多く,その他,稀に報告されるものとして,神経性,血管性,脂肪性肉腫などがある.

 悪性リンパ腫と滑平筋肉腫で代表される胃肉腫の胃悪性腫瘍に占める頻度は1~4%前後である.国立がんセンターで7年間に手術(試験開腹を含む)された胃肉腫は32例で,この間に手術された胃悪性腫瘍は1,600例をかぞえるので,その頻度は2%近くである.

 32例の胃肉腫のうち,悪性リンパ腫はやや多く18例,滑平筋肉腫は14例であった.

 今回は悪性リンパ腫と滑平筋肉腫の臨床と病理の問題点に触れ,その他の稀な肉腫については他の機会に譲ることにする.

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 綾部(司会) 今日は司会を承りましたが,私は胃肉腫のことを特に研究しているわけでございませんので,甚だ司会が拙いと思いますが,御協力をいただきたいと思います.今日お集まりの先生方は,皆々一騎当千の方々ばかりでございますから,充分にお話し合いいただき,胃肉腫の現状というものを浮き彫りにしていただくと,大変有難いと思います.

 それでは話し合いの前に,各施設の主なデータを披露していただいて,それをもとにして進めた方が材料があるという意味で,分かりやすいのじやないかと思います.ひとつがんセンターの方から….

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はじめに

 早期胃癌の診断に関する研究は著しいものがあり,Ⅱb型早期胃癌についての報告も多数みられる時代になった.本症例は,切除胃肉眼所見上,病巣を指摘できるⅡb+Ⅱa型早期胃癌であるが,術前に確診しえたので報告する.

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症例

 患者:43歳男

 主訴:3カ月来の心窩部膨満感

 術前診断:幽門前庭部小彎前壁よりのⅡc型早期胃癌

 手術:昭和44年3月16日

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はじめに

 最近における胃集団検診の普及は,目ざましいものがあり,多数の胃癌が,その症状発現の以前に発見されるようになってきている.

 特に,比較的自覚症状の少ない,隆起性病変の発見例数の増加に伴ない,Ⅱa型早期胃癌と異型増殖(ATP)が,診断上,あるいは病理組織学上の問題点として,取り上げられてきている.

 今回供覧する症例も,千葉県対ガン協会で施行した胃集団検診で発見され,Ⅱa型早期胃癌か,異型増殖かで問題となった小病変の1例である.

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はじめに

 周知のように,アメリカでは胃癌の死亡率は年年低下し,発生頻度は日本のそれと比べて極めて対照的である1)

 筆者らの消化器科では,1967年9月中旬よリオリンパスGTF-Aによる胃内視鏡検査をはじめ,1968年末に約400件を経験した,アメリカにおける代表的消化器科として,日々多数の腹部症状患者を扱っているが,医療体制の差異と非常に高い医療費のため,日本の大病院が扱っている患者数に比べたら数分の一である.また胃鏡検査は日本におけるほど一般化されていず,未だに患者は選択されたものが対象である.したがって,この期間内に胃内視鏡を受けた総患者数は344名であった.このうち,悪性腫瘍は20例,全患者の5.8%に当る.その内訳は胃癌17例,細網肉腫1例,ポジキン病1例,胃平滑筋肉腫1例であった.胃癌17例のうち,次に述べる症例以外はすべて進展癌であり,いずれも癌病巣自体が患者の主訴に関連していると思われる.

 ところが最近,主訴胃出血で緊急外来をおとずれた患者において,当初出血性のポリープを胃角部後壁に発見し,5カ月後に噴門部附近後壁に内視鏡的にⅡa様病変を疑い,組織学的に1型早期胃癌であった症例を経験したので,その興味ある発見までの経過と,アメリカにおける早期胃癌発見の困難さに触れてみたいと思う.

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はじめに

 胃好酸球性肉芽腫がKaijer(1937),Herrera(1948),Vanek(1949),本邦では中島(1951)により始めて報告されて以来,相次いで多数の報告を見るに至ったが,Van Thiel(1960),Ashby(1964)らのAnisakisに関する報告が出るにおよんで本邦における胃好酸球性肉芽腫の多数のものが海産魚類に広く分布するAnisakis線虫の幼虫によるものであることが明らかにされ,生鮮魚類を好んで摂取する本邦においてにわかに注目されるに至った.

 筆者らは最近びらん性胃炎に伴った線虫侵入後比較的短時日の胃Anisakis性好酸球性肉芽腫の1例を経験したので報告する.

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はじめに

 アミロイドージスは剖検により診断されることが多く,生前診断の困難な疾患のひとつとされているが,近年,生検診断の発達により生前診断の報告例を次第に増してきた1).筆者らは最近,熊本県荒尾地区において,直腸生検により家族性原発性アミロイドージスの1家系を診断し得たので報告する.

技術解説

Ⅴ型胃カメラの特徴 内海 胖
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 これが技術解説の本格的な論文となると,たいへんな頁数を要します.現在,グラスファイバーの応用により,大きな発展を示していますが,なかなか最終決定には至りません.

 それはさておき,順を重ねて,Ⅰ~Ⅳ型,そしてようやくⅤ型の胃カメラが一般化され,ルーチンに使われるようになりました.

診断の手ほどき

異型上皮巣について 高木 国夫
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 診断の手ほどきの欄で,今までは,早期胃癌がとりあげられてきましたが,今回は,隆起性病変で,隆起型早期癌との区別が困難な異型上皮巣をとりあげてみました.

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欧文目次

編集後記 高田 洋
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 昨今,各地の研究会や症例検討会で普通の癌とは違った様相を呈する症例に出くわす場合,その鑑別診断上,必ず加えられる項目のうちに胃肉腫とreactive lymphoreticular hyperplasiaがある.本号のテーマとして胃肉腫がとりあげられたのも,症例数は少ないながらも複雑な病像を呈する本症を術前に正確に診断しようとする願いからである.熊倉・春日井・信田・佐野博士らによる綜説は,それぞれの立場から従来の難解な病型分類を整理され,胃肉腫の有する癌と違ったパターンを明快に呈示され,かつ本症診断の可能性を示唆された点は大変心強く感ずる次第である.経験例が少ないだけに,読者にとっても教えられるところ,大であろう.

 症例報告においても,小さなⅡaに合併したとはいえⅡbを術前に診断したもの(氏家),潰瘍を合併しない診断の難しい1cm以下の小さいⅡc(小野),集検で発見した小さいⅡa(伊藤)などの早期胃癌症例の報告は,改めて読者のファイトを呼びおこさずにはおかないであろう.また珍しく,シカゴ大学からの報告を頂いたが,米国における胃癌診断の現況を知るにつけてもわが国における診断水準の高さを再認識すると共に一層の努力を期待するものである.石山,小鶴両氏の症例も興味深い.

基本情報

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胃と腸
5巻3号 (1970年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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