胃と腸 5巻13号 (1970年12月)

今月の主題 胃潰瘍の再発・再燃

総説

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 胃潰瘍は再発・再燃を起しやすい疾患であることは諸家の一致した見解であり,Bockus1)や丸谷2)は「胃潰瘍は再発しやすい疾患であり,胃潰瘍の再発を防ぐことは,活動性潰瘍を治すことよりも難しい」と述べているが,実に胃潰瘍は治りやすいが,また,きわめて再発を起しやすい疾患であり,これを防止することは至難のわざである.

 筆者らは「胃潰瘍は癌化するかどうか」の問題に興味をもち,果して潰瘍患者から癌患者が多発するかどうかを調べたいと考え,昭和36年4月,当院が開設されて以来,筆者らの取扱った胃潰瘍患者を丹念にfollow upして来た.その1つの副産物として,胃潰瘍の再発の実態をかなり,明確につかむことができた.今日はその再発の問題についてのみ言及してみたいと思う.

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 胃潰瘍瘢痕の経過観察の目的1)2)5)は,瘢痕癌の問題,再発の実体,線状潰瘍のなりたちなどをさぐろうということにある.

 再発については,本誌(1966)2)に,再発はないと発表したことがある.筆者らは,個々の瘢痕の経過をX線的に追求するという立場から,再発を潰瘍が再び潰瘍化してくること,と定義している.そして,瘢痕の経過をみていると,ちがった部位に潰瘍が発生してくることはあっても,瘢痕そのものが潰瘍化した例はなかったのである.

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 胃潰瘍患者のとりあつかいにあたって,もっとも重要なことは,胃潰瘍がその患者にとってどれだけのハンディキャップになっているか,そしてこれからの患者の一生を通じてどれだけの肉体的精神的,および社会的なハンディキャップになっていくかを注意深く評価し,それに対する十分な対策をたてていくことである.長期間漫然と薬の投与を続けるのみであったり,あるいは胃潰瘍を発見するとすべて胃切除をおこなったりするのはいずれも適切な配慮を欠除しているといわねばならない.いいかえれば,胃潰瘍の治療は再発・再燃の予測とそれを未然に防ぐための配慮が基礎となるものであるが,これには多くの困難な問題が含まれている.それは,単に投与する薬物の種類・量・投与方法などの問題だけでなく,患者の生活や性格などすべての面を含んでいるからである.

 潰瘍が瘢痕化したのちに,さらに治療を加えているにもかかわらず再発する場合が稀ならずある反面,何ら治療を加えないにもかからず,自然治癒する症例のあることも事実であり,この間の事情を一層複雑なものにしている.

 これらの問題の解明には,胃潰瘍の自然の経過を知ることが必要であると考えられるので,筆者らは,胃集検で発見された胃潰瘍のうち,治療をおこなっていないものをとりあげ,これらの経過を検討することにより,胃潰瘍の再発・再燃の問題への一つのアプローチを試みた.

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 胃潰瘍には無症候性に経過して自然治癒に至る症例も存在するが1)2),愁訴をもって来院する病院症例では治療開始後僅か2週間で治癒するものから5年以上も未治癒のまま経過するものまで,種種の治癒傾向を有する潰瘍症例を対象にしなければならない.そのため患者の既往,胃局所・全身的諸因子を考慮して,まず潰瘍の再発・再燃を含めた治癒傾向を予測し,各症例に適した治療法を設定する必要がある.

それに先だって,胃潰瘍の内視鏡所見と予後の推定3)4)5),あるいは潰瘍の経過に及ぼす心身医学的側面6)などに関して考察すべきであるが,すでに幾度か報告してきたので省略し,ここではまず治癒後の管理に必要な再発の問題について略記するとともに,胃潰瘍治療に関する基礎的問題ふれてみたい.

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 最近,多発早期胃癌の報告がさかんとなってきた.多発早期胃癌の術前診断はむずかしいと言われ,本症例でも術前Ⅰ型のみの単発早期胃癌として手術し,他の部位にⅡc型早期胃癌を発見したものである.

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 早期胃癌の診断は,二重造影法や胃内視鏡の普及発達により決してむずかしいものではなくなりつつあるが,前壁早期癌を正確に描出,診断することは容易ではない.とりわけ胃微細病変の質的診断に偉力を示す二重造影法も前壁は極めて弱く熊倉らが新たに前壁二重造影法を考案するまでは報告例が少なかった.本誌上には早川ら,および藤田らの報告があるが,最近熊倉らが前壁Ⅱc症例を集計したところ,昭和43年1月までに22例に達しているという.

 最近,筆者らも典型的所見を呈する前壁Ⅱc型早期癌を経験したので報告したい.

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 胃の各種診断法の進歩と共に,切除胃の綿密な検索により,最近,稀な胃疾患が発見されることが多くなってきた.たとえば,胃癌と胃の非上皮性良性腫瘍の両腫瘍が,同一胃に共存することは稀であるが,とくに併存する非上皮性良性腫瘍に癌浸潤のみられた症例の報告は文献的に見当らない.

 筆者らは,このような2例を経験し,次いで良性腫瘍と癌とが近接して存在した1例も得たので,これらを報告し,その癌発生などに関して考察を加えた.

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 胃内視鏡検査の発達普及と共に,胃粘膜下腫瘍に関する報告が著増しているが,胃グロームス腫瘍についての報告は,わが国では庄司1)(1962年)より柴田2)まで(1969年)10例を数えるに過ぎない.筆者らはこのたび2個の胃粘膜下腫瘍を同一胃に認め,1個はグロームス腫瘍であり他は平滑筋腫であった例を経験したので報告する.

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 1.Ⅱcと萎縮性胃炎の違いⅡcの範囲は全周性に追跡できること一

 “癌は一つの領域をつくっている”これはごく常識的なことなのですが,案外このことはⅡcと良性の粘膜萎縮との鑑別点として気づかれていないようです.一つの潰瘍に集中する数本の粘膜ひだがあるとします.その1本に“やせ”を見出したときに隣のレリーフの“やせ”,次の“やせ”へと順次にこの変化を追ってゆきますとⅡcの全周が連続性に追跡することができます.私達はこれを「Ⅱcの全周性変化」とよんでいます.これに反して,良性の萎縮性胃炎ではときに1本のレリーフにⅡc似た“やせ”または中絶の変化をみることがありますが,この変化は2~3本のレリーフの“やせ”につながっても,その次のレリーフには“やせ”がなく,円滑に良性の粘膜ひだの性状を示して潰瘍縁に終ります.つまりⅡcに類似した粘膜ひだのみせかけの“やせ”は非連続性で全周性にやせの範囲を追跡することはできません.このようなⅡcに類似した部分的な萎縮性胃炎の“やせ”はしばしば若い人または粘膜萎縮の少ない人の胃角部附近の潰瘍にみられます.

 次に,それでは癌が潰瘍の片側性のみに存在し,2~3本のレリーフに限局しているような例ではどう判断するかという問題が当然,生じてきます.この場合もⅡcの範囲は潰瘍縁を含めての全周性という意味で理解できます.

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 最近,早期食道癌発見の機運が昂まって来て,山形1),中山らをはじめとする早期食道癌症例の報告も次第に数を増しつつある.

 細胞診の立場からみると,食道癌の細胞診はむしろ胃癌のそれに比べて容易である.それは口腔より比較的近い部位にあること,また細胞が消化液などにより障害されることが少ないことなどである.以下に食道癌細胞診の要点をのべる.

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 前回までは,大腸癌の鑑別診断について,日常あまり積極的にとりあげられないような症例を中心に解説してみました.今回からは,大腸癌そのものの診断について,辺縁の変形と病変の大きさについて考えてみたいと思います.

 同じ管腔臓器でも,大腸は胃とちがい,狭く,ほぼ一様な内腔を形成しているので,病変の大きさと所見のあらわれ方には,一定の法則性があります.したがって,X線像では,まず,辺縁の変化に注目する必要があります.そこで,はじめに,癌のなかでも変形が一側にしかあらわれない症例について考えてみることにします.

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杉村らはN-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(以下NGと略)によって,ラッテの腺胃に高率に胃腫瘍を発生せしめることに成功(この詳細は本誌3巻809~816参照)して後,引続き犬にNGの投与を開始した.我々は臨床家の立場から,X線や内視鏡,生検など人の胃癌の診断技術を応用し,犬を屠殺せずに,胃癌の発生或は胃癌の経過を追求するために,研究所の杉村らと一致協力して,この研究を推し進めている.犬胃は形態的には人胃に比較的よく類似しており,検査方法やX線写真の読影上は人胃での経験をほぼ応用できるが,技術的に困難な点も少なくない.以後3回に分けてその方法及び成績につき略述してみたい.

 勿論,この実験が直ちに人の胃癌に結びつくとはいえないが,少なくとも犬胃については胃癌の発生の状況や初期像,更には経過観察のできることは,ひいては人の胃癌の発生や経過を研究する場合に大いに役立つものと思われる.

研究

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 胃潰瘍は適切な保存的治療によって容易に縮小消失せしめることができる反面,また,しばしば再発しやすく,中には保存的治療に抵抗して長い経過をとるものも多いことも,よく知られている事実である.このことから,胃潰瘍は内科的疾患として保存的に治療するべきか,あるいは外科的疾患として積極的に切除するか,種々の見解が対立している.

 病理学的立場から,小出,村上らは,Ul-Ⅰ,Ⅱ,Ⅲなどの浅い方の潰瘍は別として,Ul-Ⅳの深い潰瘍は完治しにくいことを指摘したが,このことは現在広く支持されている.胃潰瘍の経過は,種種の精神的社会的な環境状況が動因として複雑にからみ合うので,一概に論ずることはできないが潰瘍そのものの性質によっても違うことは確かだといってよい.したがって,この点で,実際の潰瘍患者について,ある程度その潰瘍の運命を推測できるようなよりどころとなるものがあれば,臨床家にとっては大変都合がよいと思われる.そこで,臨床的な立場からも,難治性潰瘍の問題がUl-Ⅳの診断の問題とより合わせて論ぜられてきた.

技術解説

胃潰瘍の内視鏡診断 福地 創太郎
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 胃潰瘍は胃の病変の中でも,ありふれた疾患であり,胃の内視鏡検査を手がける者にとって,その診断は初歩的なイロハに属することのように思われるが,実際には,胃潰瘍といっても急性潰瘍もあれば慢性潰瘍もあり,大きさ,深さ,形態は種々様々であり,さらに胃潰瘍の病期に応じて,また再発再燃を反復することにより,その内視鏡像は千差万別の変化を示すものであり,その経過中のある時点においては,悪性変化と紛らわしい所見を呈する例は決して少なくない.

 一方,早期胃癌の中でも,陥凹型早期胃癌の多くは,その病変内に潰瘍を併存しており,潰瘍ないし潰瘍瘢痕を母地にして癌が発生するか,あるいは表在性の癌病巣に二次的に潰瘍が生ずるか,いずれにしても,この種の病変の多くは,良性潰瘍との鑑別診断が問題になる.また梅毒,結核や胃肉腫あるいはreactive lymphoreticular hyper plasiaなど,潰瘍性病変を主体とする病変は多い.

印象記

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 第2回世界内視鏡学会第1部は,ローマで7月1~3日に行なわれたが,第2部が7月9~11日コペンハーゲンのUniversitetspackenのDrsted Instituteで開かれた.ローマの豪華なホテルと対照的に,簡素な大学のゼミナール講堂の5つを使用して行なわれた.世界消化器病学会の直前ということもあり,熱心な参加者でどの講堂も一杯であった.ローマでは開会式には5~600人位はいたはずの参加者は,学会になると各会場とも,30~50名に減っていたのに反し,コペンの場合は何れも終始超満員であった.

 Wiebenga会長の挨拶で始まり,Schindler Memorial Lecturesが行なわれた.最初の講演者が田坂定孝先生で,日本で開発された胃カメラから始まり,ファイバースコープ,直視下生検細胞診,十二指腸ファイバー,胃粘膜温度の測定,グラスファイバーの改良に関する基礎的実験等々,進歩した新しい内視鏡の変遷と,将来への展望が述べられ,日本のこの方面での基礎的,臨床的研究を遺憾なく紹介され,格調高い,そして内容豊かなもので,教育的であり,多くのこの方面の外国の研究者を刺激するところがあった.第2の講演者はアメリカのColcherで,内容は殆ど記憶していないほど貧弱で,ただ警告として,データの収集のための内視鏡検査は避けるべきで,この検査は患者の診断と治療に直結していなくてはならないと述べていた.第3の講演者は,ドイツのHenningで,結局Schindler先生の人格と業績を称え,内視鏡の器械がもっと安くなること,それと同時にこれを駆使できる専門家の養成が急務であると述べていた.

診断の手ほどき

大きなⅡa型早期胃癌の診断 田中 弘道
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 隆起性病変のX線診断は的確な圧迫検査を行なうことに尽きるのであり,病変の発見にも質診断においても最も優れた検査法であることは周知の通りである.

 しかし,病変が大きくなると部分的圧迫像になって全体像の把握が困難になり,進行癌を早期癌と,あるいは早期癌を進行癌と誤ることも考えられる.こんな場合には,充盈像の辺縁所見の読影が大いに参考になるが,二重造影像が診断の決め手になる場合が少なくない.

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欧文目次

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 Bonn大学のBecker教授の編集になる耳鼻咽喉・気管食道疾患アトラスが,最近わが国において長崎大学後藤敏郎名誉教授および九州大学医学部耳鼻咽喉科,菅文朗博士により翻訳出版された.

 本書の発刊に際し,私はこれを通覧し,書評を書く機会に恵まれた.私自身は元来が外科医であり,気管食道の分野には外科的立場から従来興味をもっているが,耳鼻咽喉科領域に関しては全くの素人に等しい.ところが,本書をひもといてみて驚いたことには,そこに何とも美事なアトラスが多数に多種類にわたり整然と並んでいることである.

編集後記 五ノ井 哲朗
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 この号の主題〔胃潰瘍の再発・再燃〕は,また本年度の消化器,内視鏡合同秋季大会のシンポジウムのテーマの一つでもあった.凡そ30年もの間,あまり抵抗もなく受入れられてきたAlthausenの潰瘍再発率,およびその内容が,この数年間多くの研究者によって再検討されるようになってきたが,その一応の成果が4編の綜説に代表されている.

 これらの論文,および先の学会のシンポジウムを通じて,もっとも気になることは,研究者により,用語,検討の視点,従ってまたその成績にも相当のくい違いがあって,読者が混乱されるのではないか,ということである.しかし,事実は一つである筈で,これらのくい違いがどこから来ているかを吟味して頂ければ,かえって,再発・再燃についての現在の問題点が明瞭に浮き彫りにされるように思われる.

基本情報

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胃と腸
5巻13号 (1970年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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