胃と腸 38巻10号 (2003年9月)

今月の主題 胃腺腫の診断と治療方針

序説

胃腺腫の診断と治療方針 川口 実
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 「胃と腸」30年間の歴史の中で “胃腺腫” が主題として取り上げられたのは2回目である.1987年「胃の腺腫とは―現状と問題点」(22巻6号)として取り上げられただけである.

 ところが,現在では腺腫と考えられる病変(一部は腺腫とは異なる狭義の良・悪性境界領域病変も含まれていたと思われるが)を “胃良・悪性境界病変” として1975年(10巻11号「胃の良・悪性境界領域病変」)と1994年(29巻2号「胃良・悪性境界病変の生検診断と治療方針」)に2回主題として取り上げている.

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 従来胃の腺腫はほとんどが腸型形質であると考えられていたが,染色法の進歩によりかなりの例が腸型とともに胃型形質を有することがわかってきた.今回,胃腺腫69例(隆起型37例,陥凹型32例)と胃粘膜内癌72例(隆起型46例,陥凹型26例)に対して,CD10,MUC2,human gastric mucinを1次抗体として SAB法を用いた免疫組織染色を行い,完全腸型,不完全腸型,胃型,分類不能型の4型に分類し,腺腫と癌の形質発現の比較と形質発現と組織像(特に villous 構造とPaneth細胞の出現)の対比を行い,さらに免疫染色によるp53蛋白発現も検討し,腺腫の癌化の危険因子について考察した.腺腫では完全腸型46%,不完全腸型48%,胃型4%,分類不能型1%.癌では完全腸型24%,不完全腸型51%,胃型24%,分類不能型1%であり,腺腫は癌と比較し有意に完全腸型が高頻度で胃型が低頻度であり,形質的に異なった腫瘍である.腺腫の肉眼型(隆起型と陥凹型)では形質発現に差はなかった.Paneth 細胞は癌(3%)より腺腫(36%)癌で有意に高率に出現し,Paneth細胞と刷子縁(CD10陽性)の出現に相関を認めた.villous構造は,腺腫より癌で高頻度にみられ,ほとんどが胃型形質を有していた.さらに,villous構造のものは高頻度(56%)にp53蛋白が散在性に発現していた.胃腺腫において villous構造は胃型の形質を発現し癌化の危険因子であり,完全腸型のもの(特にPaneth細胞が出現するもの)は癌化の危険が低いと考えられた.また,隆起型と陥凹型で癌化の危険性には差はないと思われた.

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 胃腺腫の代表的なものは異型上皮あるいは扁平腺腫と呼ばれ,小腸型の形質を発現することが多い.胃型の腺腫も発生するが,非常にまれなものとして扱われ,まとまった報告はなかった.今回,われわれは日独共同で幽門腺型腺腫を集積し,その特性を臨床病理学的・分子病理学的に検索した.幽門腺型腺腫は淡明~時に好酸性の胞体を有する背の低い円柱細胞からなる大小の管状腺管の密な増生する隆起性病変で,多くが胃上部に発生していた.腺管は MUC6 強陽性で,表層被蓋上皮が MUC5AC の腺窩上皮型の形質を発現した.ペプシノーゲン I は陰性であった.したがって,この病変は胃底腺粘膜の幽門腺化生に関連して発生すると考えられる.一見異型性には乏しい病変であるが,粘膜内浸潤癌または高度異形成と言える病変を伴う症例が全体の20~30%程度存在した.また,5例を対象にして comparative genomic hybridization法を用いて染色体異常を解析したところ,4例で染色体異常を認め,うち3例では胃癌で一般的に証明されることの多い17p,17qと20qのgainを認めた.この病変の存在を念頭に置き,特に胃上部の半球状~結節状隆起性病変については,幽門腺型腺腫を鑑別診断の 1 つに挙げ,生検組織診で示唆された場合には積極的にpolypectomy/EMRによる診断的治療をすすめ,浸潤癌の存在の有無を調べる必要があろう.

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要旨 胃腺腫の長期経過を明らかにするために,30か月以上(平均69か月)経過観察された胃腺腫90症例 107病変の内視鏡および生検組織像の経時的変化を遡及的に解析した.全107病変のうち,増大を28病変(26%)に,癌化を15病変(14%)に認めた.両群はオーバーラップしており,癌化例のうち13例(87%)は経過中に増大していた.増大群,癌化群ともに初回検査時に病変が大きいもの(16mm 以上)と高度異型成分の存在が高頻度であった.Kaplan-Meier法で検討した結果,高度異型成分の存在,粗大結節状表面,16mm 以上の大きな病変そして経過中の増大が有意な癌化危険因子であった.このような危険因子を有する腺腫に対しては,積極的に内視鏡的切除を行うべきと考えられる.

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 狭帯域フィルター内視鏡(narrow band imaging ; NBI)システムとは,面順次式電子内視鏡のRGBに従来と異なる狭帯域フィルターを用いた光源装置であり,拡大電子内視鏡との併用により粘膜微細構造および粘膜表層の毛細血管像を明瞭に描出可能である.NBI 併用による拡大内視鏡観察をした胃腺腫 16例と隆起型早期胃癌24例を対象に,粘膜微細構造を “small round”,“round or oval”,“tubular”,“irregular” の4パターンに,毛細血管像を血管像が不明瞭,周囲粘膜と類似の血管像,走行や形状が不規則な異常血管像の3パターンに分類して検討した.その結果,粘膜微細構造が比較的整った “small round”,“round or oval”,“tubular” の多くは組織学的に腺腫であり,粘膜微細構造に乱れのみられる “irregular” パターンおよび異常血管像の出現は悪性である確率が高いことが明らかになった.従来から言われてきた胃腺腫と隆起型早期胃癌の内視鏡的鑑別の指標に加え,NBI 併用拡大内視鏡観察によって微細な所見を客観的に診断することにより病変の精緻な診断が可能なことが示唆された.

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 胃腺腫に対する内視鏡的治療の意義について臨床的検討を行った.対象とした症例は,当院にて発見された胃腺腫1,121例のうち,内視鏡的切除(以下ER)が施行された118例を対象に病変の大きさ,内視鏡所見の変化および病理組織学的所見について検討した.ERが施行された118例のうち,腺腫例が75例,腺腫内癌と診断された症例は43例であった.病変の最大径と病理組織所見の関係では,10mm 以下の症例では,腺腫内癌の症例は28%であったが,11~20mm では49%,21mm 以上では23% と,腫瘍径と癌の合併頻度に相関はなかった.内視鏡所見の変化は,腺腫例では形態的変化がなかった症例は79%であった.増大例は9%であり,隆起の表面に陥凹を伴った症例は5%,発赤陥凹例は5%であった.一方,癌合併例では,形態変化のなかった症例は65%であった.増大例は12%,陥凹を伴った症例は9%,発赤陥凹例は7%であり,癌合併例で腫瘍の増大や発赤・陥凹を伴う頻度が高かった.生検による病理組織所見とERの病理組織所見を比較検討した結果,ER前の生検による腺腫および腺腫内癌の正診率は71%であった.正確な診断と治療を行うには,total biopsyという観点から,積極的に内視鏡的切除を行うべきであると考えている.

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 1997年から2001年の間に生検によって胃腺腫と診断され,1年以上経過観察された150例177病変を対象に臨床病理学的所見およびその経過を評価し,胃腺腫の臨床的取り扱いについて検討した.経過中,最終的に癌と診断された病変は30病変(17%)であった.28例にEMRあるいは手術が施行され,その結果,深達度sm1の1例を除く27例がmの高分化型腺癌で,内視鏡治療(EMR)のみで根治可能な病変であった.組織学的には,全例低異型度高分化型腺癌であり,89%(25/28)において腺腫様の成分を伴っており,初回生検所見は,この腺腫様の部分と一致していたことより,これらは真の癌化よりは当初より癌であった可能性が高い.最終的に癌と診断された病変は,それ以外の病変に比し腫瘍径2cmを超える病変や,陥凹を有する病変,また高度異型腺腫が多く,これらは癌を示唆する危険因子と考えられた.危険因子を有さない胃腺腫は原則的に経過観察とし,癌が証明された時点でのEMRで対応可能と考えられた.

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 胃腺腫のEMR材料を用いて,腺腫と高分化型管状腺癌の鑑別目的に分子生物学的検討を行った.胃腺腫34病変および粘膜固有層に限局する高分化型管状腺癌 28 病変(低異型度癌19病変および高異型度癌9病変)で,HE標本で腺腫と診断した病変はいずれもp53陰性(p53陽性腫瘍細胞が25% 以下),かつ cyclin E陰性(cyclin E陽性細胞50%以下)であり,p53陽性とcyclin E陽性の少なくともいずれか一方が認められた病変は,腺腫の可能性はなく,高分化型管状腺癌と診断可能であった.分子生物学的解析は従来の病理形態診断と相補的でかつ形態診断を裏付けるものであり,腺腫と高分化型管状腺癌の鑑別診断に有用である.

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 川口(司会) 本日はお忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます.本日は,「胃腺腫の取り扱いの現状」の座談会を開きたいと思います.胃腺腫は,決してまれではなく,むしろ頻回に遭遇する疾患ですが,私が20何年か前国立がんセンターに行ったとき,佐野量造先生や廣田映五先生から,そのころは異型上皮巣と言いましたが,その肉眼所見は褪色調で,扁平隆起で,菊花状を呈すると教えられました.しかし現在内視鏡をしていると半球状の小さい白色調の,それこそ腸上皮化生と鑑別を要するような腺腫もあるし,3,4cmの大きさがあって,顆粒が集簇したような腺腫もあり,かなり幅が広い病変だということがわかってきました.それから組織診断にしても,いわゆる紡錘形の核が基底側に沿った典型的な腺腫から少し核が丸くなってくるようなものも腺腫と診断されることもある.そういうことで,結構幅が広い病変だろうと思うようになりました.したがって,今までのように画一的な治療法ではなく,内視鏡所見,大きさなどによってそれぞれの治療法が選択される時代ではないかと思われ,今回の企画になったわけです.今回はTable1, 2のように31施設の先生方にアンケートを行い答えていただきました.今日お集まりの先生方にはアンケート結果をお配りしてありますが,それに左右されることなく実際にどういう基準でどういう治療をしているかを述べていただきたいと思います.腺腫を隆起・平坦型のものと,潰瘍を伴う陥凹型のものと分けて,最初は隆起・平坦型の腺腫を,こういう所見があった場合に治療するということを述べていただきたいと思います.それもいろいろな条件があると思います.

隆起・平坦型腺腫の取り扱い

 長南 小腸型の特徴は何かと言いますと,先生が今おっしゃったように,褪色・扁平隆起ですね.それはある程度の大きくなれば粗大顆粒状ですし,小さいものであれば顆粒1つ分とか,顆粒2つ分というのもあります.そういう褪色調で均一なものが普通です.それから外れる所見が出たときに治療します.例えば発赤が出た場合.ただ,中心が少し陥凹している腺腫は斜めから観察すると中心部分がやや発赤調に見えますから,同じ発赤でも中心から外れるような発赤が出てきた場合です.あとは丈の増大.経過観察中に丈の高い部分が出てきた,あるいは全体的に分厚くなってきた,そういう形態変化が出たときに治療します.

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食道の観察

 1. 下咽頭~食道入口部

 内視鏡を食道へ挿入する場合,前もってマウスピースを噛んでもらい内視鏡を挿入すると舌,舌根部,喉頭,左梨状窩,食道入口部の観察が行いやすい.しかし右梨状顆は見ていないので,挿入時または抜去時に見る必要がある(Fig. 1).

 2. 食道入口部~頸部,上部食道

 頸部食道は,常時収縮しているためと感受性の高い場所であるため,患者が動揺している挿入時にはなるべく早く通過する必要があるので,抜く際に見ると良い.この際,送気または嚥下反射により開大させ,収縮と開大両者で観察しながら少しずつ抜いてくる.この領域に多いのが血管腫と粘膜筋板由来の筋腫で,前者の場合は送気し過ぎると隆起が不明瞭となるため送気量には注意が必要である.入口部直下には 2.7~22.9 % の確率で異所性胃粘膜島がみられる1)2).楕円形で両側にみられる場合,地図状にみられる場合(Fig. 2).平坦な場合,ビロード状粘膜を呈する場合などがある.食道癌との鑑別点は,異所性胃粘膜島は,周囲に白濁した縁取りがある,多発する,平坦で底面がスムーズ,色調が一定の淡い赤色などである.鑑別が困難な場合は生検が必要である.この部位を十分に観察するためにはキャップを用いると良い(Fig. 3).また必要により鎮静剤の投与を行う.

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 患者は61歳の男性.主訴は便潜血反応陽性精査.注腸X線検査ではS状結腸に最大径7mm,多方向よりひだ集中を伴う陥凹性病変を認めた.ひだの先端は腫大し,中央にほぼ均一に淡くバリウムの溜まりを認めた.内視鏡検査では辺縁に隆起を伴う不整形の陥凹性病変として認められた.陥凹部の大半は発赤調であるが,拡大観察を行うと大半は無構造で一部に絨毛状構造を呈していた.陥凹辺縁の不整像は認めなかった.当初,粘膜下層深部まで浸潤するIIc型早期大腸癌を疑い外科的切除も考慮したが,生検結果で腫瘍の所見は認められず経過観察とした.6か月後の内視鏡検査にて瘢痕化を確認している.大腸に単発,孤立性に陥凹性病変を認めた場合,このような良性潰瘍の存在も念頭に入れ,診断にあたることが肝要であると考えられた.

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 患者は69歳女性で慢性関節リウマチのために治療中であったが,新鮮血下血のために当院に紹介された.大腸内視鏡検査,注腸X線検査で,左半横行結腸に限局した全周性潰瘍を認めた.当初は虚血性大腸炎を疑ったが,病変部からの生検で赤痢アメーバ虫体が証明されたことから,アメーバ性大腸炎の診断が確定した.本症例の画像所見はアメーバ性大腸炎としては極めて特異な像を呈しており,画像所見のみでは診断が困難であった.しかし,潰瘍底の厚く汚い壊死物質の存在と粘液付着からアメーバ性大腸炎を最初から念頭に置くべきであったと反省させられる.生検にあたっては,特に壊死物質や粘液を狙って採取する必要がある.

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 患者は28歳,男性.主訴は嘔吐,右側腹部痛,下痢,体重減少.2001年8月中旬より主訴が出現し,同年12月中旬,症状が悪化し入院した.腹部単純X線写真で上行結腸の短軸方向に走る線状の石灰化像を認め,注腸造影で上行結腸から横行結腸までの腸管壁の硬化と著明な管腔の狭小化,拇指圧痕像がみられた.大腸内視鏡検査では横行結腸中央部の腸管の著明な狭小化のため,同部位より口側へ挿入できなかった.また,同部位の粘膜は浮腫状で浅い潰瘍が散在し,暗青色を呈していた.腹部 CT では上行結腸から横行結腸まで腸管壁の著明な肥厚と上行結腸では腸管壁内の線状の石灰化像がみられた.生検標本の病理所見では,粘膜内では血管周囲に高度の膠原線維の沈着を認め,粘膜下層には静脈血管の線維性肥厚と狭窄,閉塞像が認められ,小動脈にも同様の線維性肥厚が認められた.以上より phlebosclerotic colitis と診断した.本症例は本邦報告39例目であり若干の文献的考察を加えて報告した.

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欧文目次

編集後記 滝澤 登一郎
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 胃の腺腫という概念は,1975 年の「胃と腸」10 巻 11 号において,渡辺英伸らにより最初に提唱された.当時,同一の病変は“異型上皮巣"(atypical epithelial lesion ; ATP)や“IIa-subtype"など一種の綽名で便宜的に診断されていたが,病変の性質を規定せずに,自由度を持たせて観察してみようという配慮があったものと思われる.これに対して腺腫という病理診断は,病変を良性腫瘍と確定することを意味しており,画期的な診断名の提唱であった.その後,EMR の普及に伴い,胃の腺腫という概念も定着し,現在では腸型腺腫と胃型腺腫に亜分類され,病理診断として一般に使用されている.胃の腺腫の大半は腸型の腺腫であるが,当初から低異型度の高分化腺癌との鑑別が問題になっていた.腫瘍細胞の核の形状と配列,絨毛状の増殖構造の有無,病変の大きさなどが鑑別点として指摘されていたが,今回の特集においても同様の見解が示された.腺腫と病理診断された病変に対して,切除を施行するか否かの問題は,少なくとも腸型の腺腫と診断された場合に限り,臨床医の判断に任せて良いと考える.しかし,最近注目されている胃型の腺腫の場合は,症例数が少なく,診断基準も確定されていない.また,胃型の高分化型癌が胃型の腺腫と誤診される可能性もあり,臨床医は十分に留意して治療にあたる必要がある.胃の腺腫と診断されても,腸型腺腫と胃型腺腫は全く異質の病態である.診断に携わる病理医は,この点を十分に考慮して,腸型・胃型の別を診断に明記すべきであろう.

基本情報

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胃と腸
38巻10号 (2003年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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