胃と腸 13巻11号 (1978年11月)

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 食道・胃境界領域の胃癌は臨床病理学的にも特徴があり,また診断学が進歩した今日にあってもいまだにX線診断上問題の多い胃癌である.

 そこでまず食道・胃境界領域の定義に関して考えてみると,その領域を胃のどの部位までにするかは異論の多いところであろうが,食道胃接合部の周辺がいまだにX線診断の困難な部位のひとつであるという事実を考えれば,食道・胃境界領域を食道にきわめて近接する範囲に限定したほうが臨床的に役立つと思われる.著者らは,X線上の胃の形態と切除標本とを対比して胃を細かに区分し,そのなかで噴門口に水平な線と胃角から小彎線上の口側に1cm寄った点から大彎側に向かって胃角の垂直線に対し30°の角をなす線との間にある胃体部を横に四等分した内の最上部にあたるいわゆる噴門下部が,食道胃接合部(切除標本上は線,X線上は噴門口)からおよそ2cm以内に含まれるので,食道胃接合部から2cmの範囲を食道・胃境界領域として取り扱うのが,特にX線診断の立場からみて意味があるものと考える.

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 食道噴門部癌の診断には,接合部領域の小さい癌の診断から,開胸か開腹のみかという外科的治療の適応の決定まで,幅広いものを含んでいる.まずX線検査がなされるが,接合部領域の診断には特殊な工夫も試みられている.このことは内視鏡検査でも同じで,器種の選択,観察時の慣れなど,多少の努力が必要になってくる.ファイバースコープの改良と普及で,それほど特殊部位扱いされなくなってはいるものの,無神経では困る接合部領域の内視鏡診断である.

食道噴門部領域における内視鏡

 この領域の内視鏡検査には,食道ファイバースコープ,胃ファイバースコープの両者が従来より用いられ,その境界の領域ということで,両者より関心が向けられてきた.X線上,下部食道に癌の浸潤が考えられ,狭窄所見のある場合は,前方視の食道ファイバースコープの適応であり,接合部以下の病変を予想する場合は胃ファイバースコープでの検索が主体であった.しかし最近では,食道から十二指腸球部までを1本の内視鏡で観察する前方視のPan-endoscope(GIF,PFS)が普及し,食道や噴門は“上部消化管検査の際の通り路”という考えも盛り込まれて,噴門部領域もPan-endoscopeで観察される機会がふえている.

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 胃には噴門と幽門という2つの門がある.幽門はピロルス(門番)であるが,「幽」の字は火の消えるさまをあらわす「ほのぐらい」とか「かすかな」という意味があり,細くせまくなってゆくということをあらわす言葉である.必要に応じて門の開閉を行う門番(ピロルス)という言葉もなかなかうがった表現ではある.

 噴門はカルディアともいわれているが,噴門のほうがはるかにいい言葉である.噴門はもともと「ホン」(息を急にふき出す音)からきたもので噴出する門ということになる.「Cardi」は「心(しん)」の意味で「胃の心(しん)に接する部分」ということから噴門とcardiaが同じ場所に用いられるようになったのであろう.

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 食道胃境界領域癌のうち,癌の中心が食道胃接合線より2cm以内の胃に存在する腺癌(以後,噴門部胃癌)に注目し,その統計的ならびに組織学的特徴を述べ,さらに,癌の組織発生,特に分化型癌と腸上皮化生との関係について,幽門部の癌(腺癌)と比較しながら考察したい.

噴門部胃癌(腺癌)の特徴

 1955年から1974年の20年間に癌研病院において切除された胃癌のうち,最大径10mm以上の腺癌を有する症例は4,247例で,男が2,671例,女が1,576例である.前述のように噴門部を食道胃接合線より2cm以内と限定し,癌の占居部位を癌巣の中心部位で表わすと,噴門部癌は,男が2.8%,女が1.6%であり,男女とも胃癌全体の数%にすぎなかった(Table 1).

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 司会 今回『胃と腸』で「食道・胃境界領域癌の問題点」について特集を行うことになりました.きょうはこの問題についての座談会を開いて,問題点について探ろうというわけです.

 胃の上部の問題は8年前『胃と腸』で「高位の胃病変」という特集が持たれました(第5巻9号,1970年).そして,1978年1月28日に第30回の胃癌研究会があって,その主題が「食道・胃境界部癌」ということで討論がなされた.この主題を今回『胃と腸』で扱い,それについて各種の問題点を探ってみようじゃないかということできょうお集まり願ったわけです.

印象記

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 胃癌研究会の印象記が本誌にのったことはあるいはないのではないかと思う.しかし,第31回胃癌研究会(当番世話人 札幌医大・和田武雄教授)は主題が早期胃癌だけに限定され,たいへん盛会であった.したがって,『胃と腸』の読者で御出席できなかった諸先生に,たいへん雑然とした記事になるかもしれないが,どんな問題が討議されたかお伝えすることにしよう.

 研究会は8月25日,札幌グランドホテルが会場であった.7:55が開会であるため,24日JAL519便で東京をたった.羽田空港で『胃と腸』編集部の人と会った.テーマが早期胃癌だけに,勉強にゆくのだと張切っていた.

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 癌の転移は,手術法の進歩,放射線療法や制癌剤の改良などをもってしても,なお治療の真正面にたちはだかる.ここでは食道・胃境界領域の癌の転移にかかわる経路について,臨床胎生学的,解剖学的観点からその要点の2,3をさぐりたい.

食道・胃境界領域の間膜の変容と所属リンパ節の帰属

 癌根治手術では癌巣の剔除,すなわち原発巣の除去と所属リンパ系統の廓清がなされる.リンパ系統廓清がとくにその核心をなすが,これをen blocに(過)不足なく徹底的に行わなければならない.ここでは,「リンパ節」といわずに「リンパ系統」の廓清と表現した.これは,リンパ節のみならず,それらをつなぐリンパ管,さらに組織内を四通八達する毛細リンパ管網などをen blocに除去しつくしたい意からである.

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 胃のリンパ流の研究は生体または胎児死体に色素や墨汁を注射し,その移動を観察して行われた1).一方,甲状腺実質内に油性造影剤を注射すると頸部リンパ節が造影されることが知られている2).われわれはこれにヒントを得て,3年程前内視鏡的に胃粘膜下層に造影剤を注射してみたところ,局所リンパ節が写し出されることを発見した.今回,この方法(Endoscopic Lymphadenography of Stomach)を用いて,噴門,胃体上部から左右噴門,脾門,膵上縁,左胃動脈などへのリンパ流を検討したので3),造影手技,色素によるリンパ流,胃癌の転移率などの成績4)とともに報告する.

造影剤5)

 ヨードをケシ油に溶かした油性の造影剤「リピオドール」を用いた.これは単独では血漿中で大きな油滴となり,リンパ管に流れていかないため,多価アルコール脂肪酸エステルの非イオン性表面活性剤であるTween20,40,60,80を種々の濃度で混和し,より小さな油滴となる条件を求めて実験した.その結果,10mlのリピオドール入りアンプルに,オートクレブ滅菌したTween80を1.0ml(10%になる)加え,攪拌器で5分以上混和したものが成績がよかったので,この配合で臨床実験に用いた.なお,造影剤による組織反応や副作用は現在まで経験していない.

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 Peutz-Jeghers症候群は,口唇,口腔粘膜,四肢末端部の特有な色素斑と消化管ポリポージスを伴い,しかも常染色体性優性遺伝を示す疾患である.そしてその色素斑から,消化管ポリポージスを発見しうるという,いわば全身症候性疾患と考えられる疾患である1).われわれは,幼児例を含む7家系12例について全身の検索と病変の経過観察を行い,若干の知見を得たので報告する.

対 象

 対象は,過去14年間に国立がんセンターを受診した7家系12例である(Table 1).年齢は1~40歳にわたり,男性6例,女性6例である.

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 中年以降の皮膚筋炎には悪性腫瘍が高率に合併する1~5)15).しかしその多くは胃癌などで,膵癌の合併例は稀である.近年,遠隔臓器癌の胃転移の報告が散見されるようになってきたが6)16),食道転移の報告は少なく,本邦報告例は戦後7例7)8)17)~19)にすぎない.膵癌食道転移の報告例は内外とも非常に少ない8)9)

 著者らは最近皮膚筋炎例の食道にⅡa+Ⅱc様の小癌巣を認め,剖検上それが膵体部癌の食道転移であった例を経験したので報告する.

症 例

 患 者:71歳 男 会社役員

 主 訴:皮疹と瘙痒

 家族歴・既往歴:特記すべきものなし

 現病歴:1975年11月頃より顔面・手背に発赤腫脹,両手背の潰瘍が出現,12月には肘・膝関節突起部の上面にも紅斑びらんが出現,嗄声となり,某病院で加療したが軽快せず,微熱もみられるようになり,1976年2月16日,本院皮膚科に入院した.体重減少,黄疸,腹痛はない.

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 胃の平滑筋芽細胞腫は,1960年Martin1)により.平滑筋腫瘍の中に特殊な細胞形態をとる一群が認められ,それらはmyoid tumorとして報告されたが,1962年にStout2)によりその呼称が与えられた稀な疾患で,平滑筋肉腫とは臨床的にも異なった経過をとる.特に予後に関してはほとんどが良好であり,ときに転移再発を起こすこともあるpotentially malignantな腫瘍である.最近われわれは2例の本症を経験したので若干の文献学的考察を加えて報告する.

症 例

〔症例1〕

 患 者:木○秀○ 54歳 男 公務員

 主 訴:上腹部不快感

 現病歴:上記主訴以外に特に自覚症状はなかったが,職場の胃集団検診にて幽門部の陰影欠損を指摘され当院を受診した.

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 わが国における胃病変の診断は,X線,内視鏡の普及とともに発展し,その質的診断も生検,拡大観察,実体顕微鏡観察,色素撒布などの補助手段の開発と相まって著しく進歩した.この経験の集積を通常のX線,内視鏡の判読の向上に役立てねばならない.今回われわれは臨床経過,検査成績,X線,内視鏡にて質的診断が困難な形態を示した症例を経験したので,その問題点について考察を加えて報告する.

症 例

 患 者:72歳 男性 会社役員

 家族歴:特記すべきものなし

 既往歴:62歳,急性肝炎の診断にて自宅療養し治癒.66歳,糖尿病を指摘され,現在食餌療法のみで可とされている.

 現病歴:約2年前より飲水時の前胸部閉塞感を自覚していたが,症状増悪しないままに放置していた.1977年6月,全身に皮疹を来たし,近医受診,同じ頃,心窩部鈍痛も自覚していたために,消化管透視を受け,慢性湿疹,胃潰瘍の診断を受け,通院開始した.2カ月後再び消化管透視を受け,Borrmann 1型胃癌と診断され,本院へ紹介された.これまでに食欲不振,体重減少はなく,便通異常,下血にも気付いていない.

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 虚血性大腸炎は種々の原因による大腸虚血の結果起こる非特異性炎症性疾患とされている.その概念は1960年代に提唱されたが,本邦での報告例は18例にすぎない1)~8).またそれらの病理学的所見は比較的簡単に記載されているように思われる.われわれは狭窄をきたした虚血性大腸炎の1例を経験したので,その病理学的所見に重点をおいて報告する.

症 例

 患 者:75歳 男性

 主 訴:腹痛

 既往歴:73歳の時,老人検診にて高血圧を指摘された.以来,時々降圧剤を服用していた.

 家族歴:特記すべき事項はない

 現病歴:1976年9月25日,夕食前に降圧剤を服用したところ,同日午後6時頃より突然腹痛が起こり,嘔吐,下痢も出現した.血性下痢,血便はなかった.近医を受診し,入院精査の結果,①イレウス(結腸癌の疑い),②心房細動の診断にて当院外科に紹介された.前医での検査成績は白血球増多(10,100,好中球89%)を除いて著変はなかった.

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 十二指腸乳頭部病変の診断能は,十二指腸ファイバースコープ,内視鏡的逆行性胆膵管造影法(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography,以下ERCP)の開発以来,飛躍的進歩をみた1)~6).十二指腸乳頭部癌の報告もそれを契機に増加したが,まだ多くは黄疸を主徴として発見されたもの7)~10)で,黄疸もなく,乳頭部に限局した早期癌の報告例はまだ稀有である.

 最近われわれは黄疸のない,乳頭部癌を術前診断し,根治手術を施行した早期癌と考えられる症例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

症 例

 患 者:T. I. 45歳 家婦

 主 訴:心窩部痛

 既往歴・家族歴:特記すべきことなし

 現病歴:1975年5月頃より心窩部鈍痛,左背部苦痛あり,某医受診し,胆囊と胆管が腫れているといわれ,薬物療法を受け,自覚症状は治癒した.同年12月末に再び同様症状が出現し,同医を訪れ,当院での精密検査を勧められて,1976年1月24日当院第1内科を受診した.

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欧文目次

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Multiple Adenomatous Neoplasms Arising in Columnar Lined (Barrett's) Esophagus: G. B. Mc Donald, et al (Gastroenter. 72: 1317~1321, 1977)

 円柱細胞(バレット)食道は,胃液の食道への逆流に対する修復反応としてしばしばみられる.その上皮は特殊な円柱細胞型から胃底腺型,接合部型まで種々ある.食道の原発性腺癌は,円柱上皮に関連して起こることから,バレット食道は前癌病変ではないかとの仮説が出されている.著者らはバレット食道の1例を経験し,そこに腺腫性過形成から上皮内癌にいたる腫瘍変化をみている.

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Microgranulomas in Grossly Normal Rectal Mucosa in Crohn's Disease: H. Rotterdam, et al. (Am. J. Clin. Path. 67: 550~554, 1977)

 肉芽腫は口腔内から肛門にいたるどこからでも出るクローン病の特徴的所見である.S状結腸鏡とX線的な所見の有無にかかわらず,直腸生検では肉芽腫はほとんど発見されない.頻度は0~8%である.著者らのシリーズで,内視鏡的に異常のない直腸生検の連続切片で,成熟した肉芽腫よりも高頻度に微小肉芽腫が見つかった.

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 わが国では食道内視鏡は,以前は「食道鏡」として独立したものが用いられていたが,現在では上部消化管内視鏡の一部として,直視型あるいは斜視型ファイバースコープを用いての,胃または十二指腸内視鏡に付随するものと考えられている傾向がある.もちろんレントゲンで食道に異常を認める時には食道を重点的に観察はするが,その時でも食道用スコープを使うことはほとんどない.

 一方,欧米では食道内視鏡を独立した分野とみなす傾向が強く,現にこの本の著者のうちG. Millerは消化器病専門医であるが,M. Savaryはローザンヌ大学の耳鼻科主任教授である.

編集後記 高木 国夫
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 食道と胃の境界領域癌は,食道を専門とする側と胃を専門とする側の両者の接点として共通に取り扱う必要がある.この部の癌は圧倒的に進行癌であり,早期癌は稀で,そういう症例報告がなされている現状である.胃癌研究会で取り上げた機会に,この部に発生した癌の診断,治療の問題点について検討をお願いしたわけである.

 主題は,X線・内視鏡による診断,外科手術ならびに病理面からの検討であり,座談会では,噴門部癌を中心とした検討というよりも,種々の問題点が提起されたといわなければならない.また研究では噴門部のリンパの流れや,この部の胎生学的検討の新しい基礎的なアプローチが報告されている.

基本情報

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胃と腸
13巻11号 (1978年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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