臨床検査 63巻9号 (2019年9月)

今月の特集1 健診・人間ドックで指摘される悩ましい検査異常

佐藤 尚武
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 臨床検査が広く利用されている分野として,医療における利用以外に健康診断(健診)や人間ドックがあります.しかし,健診や人間ドックにおける臨床検査の目的は健康状態のスクリーニングであり,一般の医療とは視点がやや異なっています.基本的に健康人(とみられる人)を対象とする健診・人間ドックでは,検査値異常がみられた場合の考え方も,一般の医療とはやや異なる場合があり,どのように対処すべきか迷うことも多いと思われます.本特集では,健診や人間ドックにおいて検査異常がみられた場合の考え方や対処法について,専門家の視点から解説していただきました.

 健診や人間ドックの現場で臨床検査に携わっている方も数多くいらっしゃると思います.そのような場面で検査値異常を認めた場合,その考え方や対処に関し,本特集を参考にしていただければ幸いです.

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Point

●日本臨床検査標準協議会(JCCLS)の共用基準範囲と,日本人間ドック学会と健康保険組合連合会のメガスタディーによる基準範囲は,集団の特性を示すものであって,健常者と非健常者の境界を示すものではない.

●健康診断の判定に使われる用語は,施設によって異なることがあるし,同じ用語であっても定義が異なることがある.

●健康診断の判定は,さまざまな情報から決定されるため,検査結果が同じでも判定が異なるのは不思議ではない.

●日本人間ドック学会による判定区分は,基準範囲や臨床判断値から新規に作成されており,判定を決定する際の目安として使いうるが,値の妥当性の検証が必要である.

聴力低下がみられたら 田山 二朗
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Point

●人が聴取できる周波数は20〜20,000Hzにわたるが,日常会話は主に250〜4,000Hzの間で行われる.

●健診・人間ドックで行われる聴力検査(選別聴力検査)では,1,000Hzで30dB,4,000Hzで30dB(高齢者では40dB)の検査音が聴取できないときに異常とされる.

●加齢や騒音による聴力低下(難聴)は,人の会話域をはずれた高音域から始まり徐々に進行するために気が付きにくい.

●選別聴力検査で異常がみられた場合には,耳鼻咽喉科医の診察を受け,難聴の原因と程度を診断し,必要に応じ,手術や補聴器など適切な対応ができるように配慮する.

心電図に異常がみられたら 石坂 裕子
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Point

●健診の受診者は無症状な人が多く,心電図は正常範囲,軽度の異常の人が多い.

●健診では頻度の低い病的異常所見を認識し,情報を共有することが重要である.

●健診で心電図異常を認めるときは,前回受診時の心電図との比較,症状の有無の確認が重要である.

血算値の異常がみられたら 加藤 淳
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Point

●貧血がみられたら,まず網赤血球数と赤血球指数〔平均赤血球容積(MCV),平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)〕を測定して,貧血の原因を鑑別する.

●白血球増加では白血球分画を測定し,増加している白血球の絶対数をみて何が増加しているのか明らかにする.

●血小板減少がみられたら,まず偽性血小板減少症がないか末梢血塗抹標本で確認し,さらに凝固系に異常がないか確認する.

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Point

●「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」では,動脈硬化性疾患予防のためのスクリーニングにおける脂質異常症の診断基準として,空腹時採血で高LDLコレステロール(LDL-C)血症,境界域高LDL-C血症,低HDLコレステロール(HDL-C)血症,高トリグリセライド(TG)血症,高non-HDLコレステロール(non-HDL-C)血症,境界域高non-HDL-C血症の6つを挙げている.

●家族性高コレステロール血症(FH)は,①高LDL-C血症,②早発性冠動脈疾患(CAD),③腱・皮膚黄色腫を3主徴とする主として常染色体性遺伝性疾患であり,早期診断と早期治療が重要である.

●家族性Ⅲ型高脂血症はbroad β病とも呼ばれ,健常者ではわずかしか存在しない中間体のリポ蛋白〔中間比重リポ蛋白(IDL)やカイロミクロンレムナント〕が蓄積する高脂血症である.その基盤にアポリポ蛋白E(アポE)の異常(代表はアポ蛋白E2/E2)が存在する.

●non-HDL-Cとは総コレステロール(TC)からHDL-Cを引いたものであり,HDL以外のリポ蛋白に含まれるコレステロールの総和を意味する.non-HDL-Cは,カイロミクロン,超低比重リポ蛋白(VLDL),レムナントリポ蛋白(カイロミクロンレムナント,VLDLレムナントないしIDL),LDL,リポ蛋白(a)〔Lp(a)〕などの動脈硬化惹起性リポ蛋白に含まれるコレステロールの総和となり,LDL-Cよりも動脈硬化性疾患の発症予測度が優れるという報告も多い.

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Point

●人間ドックでは,血清リウマトイド因子(RF)として,免疫グロブリンM(IgM)型RFが定量反応として測定される.

●RFは,関節リウマチ(RA)の診断のために重要であるが,他の疾患,健常人でも陽性になることがある.

●RAの診断のためには,二次検査として,抗シトルリン化ペプチド抗体(ACPA),C反応性蛋白(CRP),赤血球沈降速度(赤沈)も調べる必要がある.

腫瘍マーカーが高かったら 宮地 勇人
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Point

●腫瘍マーカーの多くは,感度と特異度の点から早期癌の発見や予後改善に対する有効性は明らかでない.

●腫瘍マーカーは,年齢,性別,習慣などによる生理的変動や,技術的変動を示し,健常者で高値を示す場合がある.

●腫瘍マーカー上昇は,組織の炎症や肝・腎機能障害,糖尿病などの代謝,排泄の変化によることがある.

●対象とする癌のリスクが高い場合,すなわち有病者の率(有病率)が高い患者群では,検査結果が陽性の場合に癌と診断できる確率(検査の陽性予測値)が高まる.

今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

関谷 紀貴
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 わが国における結核罹患率は低下している一方,近年は非結核性抗酸菌症の増加が公衆衛生上の課題として認識されています.全ての医療機関・診療科に受診する可能性があり,完全な治癒が見込めない症例も少なくないことから,今後は経時的な有病率の上昇が見込まれます.また,100種類以上にのぼる菌種,免疫不全患者における多彩な臨床像など,単一疾患として捉えることが難しい点にも留意が必要です.

 今回の特集は,非結核性抗酸菌症の疫学,診断,問題となる主な疾患に対する理解と知識のアップデートを目的としています.

 疫学,分離培養・同定/遺伝子検査・薬剤感受性試験に関する稿は,非結核性抗酸菌症の国内外における現状把握に加えて,臨床検査技師として留意すべき実務上の注意点を整理していただくうえで大変有用です.また,広く知られている呼吸器感染症に加えて,皮膚・軟部組織感染症,血流感染症,HIV感染者における特徴の解説では,多様な菌種と患者背景が生み出す疾病スペクトラムに注目してご覧いただければ幸いです.非結核性抗酸菌症を有する患者の検査実施に際し,臨床現場との効果的なコミュニケーションを行う一助となることを願っております.

非結核性抗酸菌症の疫学 南宮 湖
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Point

●非結核性抗酸菌(NTM)症は感染症法で指定されておらず,また,その診断基準の特性から,継続的なサーベイランスが困難である.

●近年,実施されたわが国における各種の疫学調査から,わが国は世界のなかで,NTM症の罹患率・有病率が最も高い国のうちの1つであることが判明した.

●世界的にもNTM症の患者数の増加が注目されており,公衆衛生上の観点から,今後も注視する必要がある.

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Point

●非結核性抗酸菌は顕微鏡下では結核菌と区別できない.非結核性抗酸菌と同定されるまでは結核菌と同じ生物学的危険性をもつと考えて検査を行う.

●非結核性抗酸菌の分離培養では,分離が想定される菌種の特性を考慮して培養温度や期間を追加・変更する必要がある.

●比較的希少な菌種を含め非結核性抗酸菌の同定には質量分析装置の有用性が高い.

●非結核性抗酸菌の薬剤感受性試験は基本的に最小発育阻止濃度(MIC)測定である.また,遅発育菌と迅速発育菌では培地の組成が異なる.

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Point

●非結核性抗酸菌(NTM)は,培養可能な抗酸菌群において結核菌群を除いた菌種全てを総称しており,自然界の土壌,水系などに常在し,ヒトへの曝露は頻回に起こっていると考えられる.

●MAC(Mycobacterium avium complex)症はクラリスロマイシン(CAM),エサンブトール(EB),リファンピシン(RFP)に加え,病状が重篤な場合アミノグリコシド薬を併用するが,菌陰性化しても再燃は高率に生じる.

●M. kansasii症は治療に反応し,RFP耐性でなければイソニアチド(INH),RFP,EBを用いて治療する.

●M. abscessusは3つの亜種に分かれ,マクロライド耐性遺伝子の発現があると難治であり,現在わが国で保険収載されている薬剤では治療効果は十分とはいえず,外科治療の適応を早期に考慮する.

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Point

●皮膚非結核性抗酸菌(NTM)症は原因菌種が多く,その同定には培養,DDH法,PCR,DNA sequencing,質量分析法などでの検査を行う.

●主に皮膚裸露部の小外傷から感染が成立し,皮疹が出現するが,内臓病変から皮膚へ播種することもある.

●治療は複数の抗菌薬で加療し,耐性菌を出現させない.そのほか外科的切除や温熱療法などもある.

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Point

●非結核性抗酸菌(NTM)血流感染症の背景には,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症を代表とする細胞性免疫不全の存在を考える.

●NTM血流感染症の背景となる病態として,後天性免疫不全である抗インターフェロンγ(INF-γ)抗体保有者や先天性免疫不全であるメンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症(MSMD)などがある.

●特に迅速発育菌はカテーテル関連血流感染症などの医療関連感染による血流感染症を生じうる.

●BACTECTMMyco/F Lytic Culture Vialsなどの抗酸菌血流感染症検出のための検査資材を提供できる体制構築が不可欠である.

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Point

●ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の治療〔抗レトロウイルス療法(ART)〕は劇的に進歩し,HIV感染症は死に至る病から慢性疾患に移行している.

●進行した後天性免疫不全症候群(AIDS)では非結核性抗酸菌症を高率に合併し,全身播種型が多く予後不良であった.

●ARTにより非結核性抗酸菌症の合併も減少し,予後も改善している.

Essential RCPC・11

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症例

40歳代,女性.

追悼

山中學先生を偲んで 河合 忠
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 東京大学(以下,東大)名誉教授・元本誌編集主幹の山中學先生は,2019年4月27日午前6時5分ご逝去されました.享年92歳.大正,昭和,平成と3つの元号にわたって激動の時代を生き抜かれ,平成時代の最後の3日間を残し,令和時代を迎えることなく,天寿を全うされました.ご本人の遺志で家族葬が執り行われたとの訃報を,学会事務所を介して知りました.臨床検査医学会の発展を支えられたパイオニアの重鎮をまたお一人失い,深い悲しみと寂しさを覚えています.

 山中先生は東大医学部医学科を卒業後,母校で内科学を専攻され,1962年,若くして助教授として徳島大学医学部附属病院に赴任され,10年間,検査部の中央化と発展に取り組まれました.その優れた実績により徳島大学教授に昇格されましたが,翌1972年母校の東大教授・医学部附属病院中央検査部長に抜てきされ,1984年には文部省令による初めての医学部臨床検査医学講座の教授として,近代化が進行中の臨床検査界をリードされました.当時,1965年ごろから始まった大学改革を叫ぶ学生運動はその極に達し,東大ではついに“安田講堂事件”にまで拡大しました.その影響で学内は大きく混迷しており,東大に移られた先生は中央検査部の組織改革に加えて,総長補佐として大学全体の立て直しに大変なご苦労をされました.加えて,先生の専門分野である血液学・血栓止血学の関連学会で多くの役職,学会長を務められ,幅広い分野で業績を上げられました.そして日本臨床病理学会では幹事(現・理事に相当),評議員を務められ,特に担当役員,委員長として学会組織改革と近代化を進められた功績は極めて大きく,名誉会員に推挙されました.

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目次

書評 野村 岳志

書評 鍋島 茂樹

バックナンバー一覧

次号予告

あとがき 河合 昭人
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 みなさんは“ブライトンの奇跡”という言葉をご存じだろうか? あるスポーツの歴史を大きく変えた4年前の戦いのことである.そう,それは英国時間2015年9月19日にイングランド南部ブライトンで行われたラグビーワールドカップ2015プールBの南アフリカ対日本戦で,日本が過去2度の優勝を誇る世界ランキング3位(当時)の南アフリカを34—32で破る大金星を挙げた試合のことだ.

 この試合,まず日本は10—12という2点のビハインドで前半を折り返した.後半も日本は南アフリカに食らいつき一進一退の攻防が続き,28分には五郎丸歩選手が自らトライ&ゴールを決めて,試合は29—29の同点となった.しかし,このままでは終われない南アフリカは32分,日本陣深くのペナルティーキック(PK)で攻めるのではなく,ペナルティーゴール(PG)を選択して29—32と勝ち越しに成功し,そのまま逃げ切れると考えたに違いない.その後,日本は試合終了直前に同じように訪れた敵陣深くのPKのチャンスで,PGではなくスクラムを選択.このとき,現場の空気は騒然とした.なぜなら,残り時間はほぼなく,PKを選択すれば99%の確率で同点となって試合終了を迎えることができるにもかかわらず,トライをすることで勝利を目指したのだ.これはトライできなければ負けてしまうことを意味する.南アフリカ戦であれば,同点で終了するだけでも偉大なことと皆が思ったかもしれない.そう,グラウンドの15人以外は…….ヘッドコーチのエディー・ジョーンズさえも頭を抱えていた映像を今でも覚えている.日本代表は試合開始前から,この試合の目標を勝つことに設定していたのだ.したがって日本代表は,その目的達成のために必然的な選択をしたにすぎない.そして,スクラムからトライを決め,勝利することができ“ブライトンの奇跡”と呼ばれるようになった.このとき,私はたまたま息子と試合を見ていた.それまでラグビーをテレビ観戦することなどなかった.失礼ながらあまり興味もなかった.しかし,試合が進むにつれ,気持ちが高揚していくのがわかった.スクラムを選択したときは,鳥肌が立ったのを覚えている.勝利の瞬間,息子とともに大喜びをしたものだ.今年,その興奮が日本で見られると思うと興奮がよみがえってくる.日本代表には,この4年間でさらに成長した姿を皆に見せてほしい.がんばれニッポン!

基本情報

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臨床検査
63巻9号 (2019年9月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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