臨床検査 45巻5号 (2001年5月)

今月の主題 在宅医療

巻頭言

  • 文献概要を表示

 21世紀は,これまでにない高齢化社会を迎えることになる.そして,20世紀後半から医療の在り方が,問い直され,厚生省でも「健康日本21」の政策を提唱することになった.基本は二次予防から,一次予防への転換であり,国民それぞれが,現在置かれている健康状態を質的に,数値的に把握し,目標値を定めて健康を管理する立場にある.

 一方,高齢化社会を迎え介護という医療と密接な関係にありながら,医療行為とは異なる切り口を要求される現実が新たに現れてきた.これには,社会構造の変化も関係がないわけではない.介護という古くから家族という共同体の中で実施されてきたものが,核家族化という時代を迎え,組織的に体系的に地域共同体の中で実施する必要が生じたのである.そして在宅(居宅)療養という中で,医療と,介護が共存する形でサービスを受けることが余儀なくされることになった.

総説

在宅医療のあり方 山中 崇
  • 文献概要を表示

 要介護高齢者および慢性疾患患者の増加,および医療や介護をめぐる制度改革,社会状況の変化に伴い,在宅医療が見直されている.在宅医療は生活の場で展開される医療であり,医療関係者に望まれることは,セルフケアを基本として,患者,家族の想いを大切にしながら,安全に,しかもできるだけ快適に療養することができるように見守ること,適宜ニーズに基づいた援助を行うことである.

  • 文献概要を表示

 在宅療養の場への訪問看護がどのようにして制度化されてきたかを概観し,現行の訪問看護制度内容を紹介した.また,訪問看護において行われている看護内容について厚生省のとりまとめた統計を示し,さらに訪問看護事例を用いて具体的に紹介した.介護保険制度発足後の訪問看護の置かれた立場や動向に言及し,ヘルパー業務や,従来からの保健指導との関連について論じた.

  • 文献概要を表示

 在宅医療は,その対象者と介護者のQOLの向上を目指して実施されている.介護保険が実施され,在宅医療の推進に大きな弾みがついたが,在宅ケアにかかわる制度や組織についての問題点も浮き彫りになってきている.

臨床検査技師の在宅医療への参加においても,制度上の大きな課題が残されている.ここでは,臨床検査技師として参加している岩手県立大迫病院の在宅医療の現状を報告し,その実践から得た種々の課題について考察を加えた.

各論

  • 文献概要を表示

 退院計画は入院中の早い時期から,患者・家族の抱える個々の種々な問題を整理し,どのような対応をすべきかを,医療チーム全体で,患者・家族の生活という広く,多面的な禎点からアセスメントし,実施していくことがポイントである.そして,訪問看護婦は在宅に移行しても,退院計画を継続し補いながら,フィードバックしていくことで,さらに充実した退院計画が立てられるよう検討を加えていくことも大切である.

  • 文献概要を表示

 介護保険制度の施行により病状安定期の医療は医療保険から切り離され,在宅では訪問看護等は要介護度別の給付限度額の範囲内でヘルパーらとともに提供されることになった.一方,急性期病院では,今後入院患者に占める高齢者の割合は高まるが,在院日数を短縮させる診療報酬の圧力はますます高まる.そのため,亜急性期ケアにおいて在宅と施設の各機関との密接な連携システムが必要になるだろう.

  • 文献概要を表示

 近年,在宅医療が急速に普及する中で,在宅人工呼吸療法患者は加速度的に増加しつつある.しかし,生命維持管理装置である人工呼吸器を医療従事者が常駐しない環境の中で使用する在宅人工呼吸療法では,患者や人工呼吸器を含めてその安全性を十分に確保しながら実施することが重要であり,支援体制や緊急時のバックアップ体制および人工呼吸器の保守管理体制などを整備することが必要である.

在宅リハビリテーション 畑野 栄治
  • 文献概要を表示

 在宅リハビリテーションの目的は障害を持ちながらも生き甲斐のある生活,尊厳のある生活,一社会人としての生活再建すなわちノーマライゼーションの実現である.要援護者を在宅介護サービスの受け手としてとらえるのではなく,社会資源を利用することによって1人の有用な社会人として引っぱり出す積極的なアプローチが求められる.そのためには生活状況を直視し障害を持つ人々やそれを取り巻く環境に対して働きかけて調整を行い,本人の希望する自立した生活が再建可能なように側面から支援の手をさしのべる.

かかりつけ医の役割 山本 勝
  • 文献概要を表示

 21世紀の超高齢社会においては,これまで以上に,多くの要介護者および患者が住み慣れた自宅で在宅ケア(以後,在宅医療等を含む)サービスを受けることを望むようになってきている.そこで,より安全で良質の在宅ケア・サービスの提供における地域関係者間の協力・連携の必要性と実態について考察するとともに,在宅ケアシステムにおいて中心的役割が期待されている「かかりつけ医」の役割内容と望ましい態度・考え方について紹介する.また,かかりつけ医の円滑で効果的な活動推進のための各種支援システムについて提案する.

話題

在宅医療と透析 前田 憲志
  • 文献概要を表示

1.はじめに

 わが国の医療制度は国民皆保険の推進とともに医療施設での医療が中心に行われてきたが高齢化の急速な進行と慢性疾患中心の疾病構造の変化,さらに介護を必要とする症例の増加に伴って,在宅医療が推進されて来ている.

 慢性腎不全に伴う,透析療法では長期に治療を継続する必要があり,家庭血液透析(home he-modialysis;HHD)が欧米においては1964年に開始され1),わが国においても1968年から行われている2).また,持続携行式腹膜透析(continu-ous ambulatory peritoneal dialysis;CAPD)は1976年に米国において創出され3),わが国では1984年より健康保険の適応となっている.これらの治療法は両方とも高度な技術を在宅で行うものであるが,わが国の在宅医療の中では最も長い歴史を有しており,これらの経験は今後の幅広い在宅医療の発展に役立つことも多いと考えられる.

ケアプランと医療 竹内 孝仁
  • 文献概要を表示

1.はじめに

 ケアプランの対象とするものは生活の全領域における支援である.これらは表1に示すように8領域に分かれ,それぞれが複数のニーズに細分化されるというのが筆者の従来からの主張であり「竹内式」と呼ばれる理論の骨格である(表1)1,2)

 ケアプランをつくるためには,「ニーズ」を発見する必要があり,これは利用者の日々の状態に対する情報収集と評価から行われ,この作業をアセスメントと呼んでいる.

  • 文献概要を表示

1.在宅チーム医療のニーズが高まる

 1948(昭和23)年に始めて医療法が施行された.それによると患者はベッド数19床以下の診療所で主として通院診療を受けるか,ベッド数20床以上の一般病院またはベッド数100床以上の総合病院で外来,入院診療を受けるのかいずれかとなり,当時は,在宅でチーム医療を受けることなどは想定されていなかった.ところが,戦後の患者の多くは在宅療養を続けており,医師は急変時のみ往診という形で患者にかかわることになっていた.これは入院ベッド数が多くないことと入院医療費が高額なことの両者により患者は仕方なく在宅療養を続けていたのであり,医師は急変時のみならず定期的に往診をするといった今日のような在宅医療を行っていたのが実態である.在宅往診では薬の服用方法や栄養指導,看護・介護,機能回復法などは医師1人のかかわりの中で患者が管理され,指導されていた.

 ところが1961(昭和36)年に国民皆保制度が発足し,医療費の患者負担が少なくなり,医療保険料徴収に見合う医療の場供給の必要性から全国的に入院ベッド数が増加したことにより,多くの患者が入院診療が受けられるようになった.入院医療の増加は年毎に増え,例えば患者の死亡場所についての調査では1970(昭和45)年に自宅が56.6%であったものが1992(平成4)年では20.1%と22年間で約1/3に減少している1)

  • 文献概要を表示

1.はじめに

 Point of Care testing(POCT)には医療の現場で医師,臨床検査技師,看護婦などの医療スタッフが,簡便な操作で迅速にデータを得ることができる小型多機能分析装置などを使用し実施する臨床検査,ならびに患者自身が簡易検査セットを利用し在宅で利用する自己検査などがある.病院ではPOCTは,外来の診療中にその場で測定結果を得ることを目的とする簡易検査や迅速検査,入院患者の検査データのモニタリング,救命救急センター,ICU,CCU,手術室における緊急処置のための検査データを得る目的などで利用される.今後中央検査室や検査センターで実施されるルーチン検査と,医療の現場でリアルタイムに提供されるPOCTのデータを使い分け治療,診断に効果を上げてゆくことが必要である.

 ここでは現在の在宅医療の現場でのPOCTの状況,併せて今後のわが国の在宅におけるPOCTのあり方についても考えてみたい.

在宅酸素療法 茂木 孝
  • 文献概要を表示

1.はじめに

 在宅酸素療法は慢性呼吸不全に対する最も基本的な治療法としてすでに広く普及している.またその生命予後に対する改善効果については慢性閉塞性肺疾患(COPD)に関するものが英,米から発表されているが,いずれもパイロット的なstudyにすぎず長期的な改善効果の意義は確立されていない.在宅酸素療法は生存期間の延長だけでなくQOLの向上も目的としている.本稿ではわが国における在宅酸素療法(home oxygen therapy; HOT)の歴史を振り返りながら将来の展望について解説する.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・17

無鉤条虫・有鉤条虫 藤田 紘一郎
  • 文献概要を表示

 無鉤条虫Taeniarhynchus saginatus感染はアフリカ,南米,東欧などに多くみられる.終宿主はヒト.ヒトとウシとの間で感染が回っているサナダ虫である.成虫は3~7m,片節数約1,000,頭節には4個の吸盤を有している(図1).片節は後方に行くにしたがって縦長の長方形になり,生殖器が退化した受胎節へと続いている(図2).排出された受胎節の動きは活発で,片側20~30本の子宮側枝を形成している(図3).片節には子宮孔を欠くため,虫卵は産下されない.虫卵は子宮内では棘状の突起を持つうすい卵殻に包まれているが,外界では卵殻は破れて幼虫被殻が露出した状態で観察される(図4).ヒトから排出された片節中の虫卵を牧草などとともにウシが食べると,小腸で虫卵中の六鉤幼虫が孵化し,腸壁から血行性,リンパ行性に身体各所の筋肉内に移行して,無鉤嚢(尾)虫となる.ヒトは牛肉を生または半調理で食べ,筋肉中の嚢虫を摂取して感染する.無鉤条虫寄生による症状はほとんどない.近年,海外で感染して国内に持ち込むケースが増えており,輸入感染症として重要である.

 有鉤条虫Taenia soliumもヒトだけが終宿主の寄生虫である.ヒトとブタとの間で感染が回っている.中南米,アフリカ,インド,中国,韓国に多く分布している.成虫はヒトの小腸に寄生し,体長2~5mである.

コーヒーブレイク

臨床検査・奥の細道 屋形 稔
  • 文献概要を表示

 昨年の暮れから春にかけて新潟は久方ぶりの大雪に見舞われた.暖冬予報とか地球温暖化などはどこへ吹っとんだかと思われる寒気と雪のダブルパンチであった.そのはしりの晦日に凍てついた道で車を避けるはずみに転倒し右のくるぶしを骨折した.それから生まれて初めて1か月余をギプスをはめられたベッド生活を強いられた.

 痛みとか歩行不能はともかく自由を束縛されるのは思ったより苦しいものである.そして時間だけが過ぎてゆく.論語の中の"逝くものはかくの如きか昼夜を舎(お)かず"という一節を思い出し,深々たる雪とともにものの過ぎてゆく気配に耳をすませる生活であった.今迄も何遍読んだかわからないが藤沢周平の小説に片っ端から読みふけった.いい加減な文章は一つもなく静かに心にしみ入る物語ばかりで,自らは弱者の文学といっているが芯の強い,人に癒しを与えられる作家であることを再認識し,退屈しなかった.

  • 文献概要を表示

 昨年の8月16日の朝日新聞の片隅に湯川れい子氏の20世紀最大の歌手であるエルヴィス・プレスリーという記事を眼にし,ふと懐しい思いに馳せられて筆をとった.

 1992年9月彼が住んでいたテネシー州のメンフィス(Memphis)にある全米No.1の小児癌センターSt. Jude Children's Research Hospitalを見学する機会に恵まれた折,エルヴィス・プレスリー記念博物館を訪れた.まず博物館行きの広いバスの停留場にある彼が愛用した巨大なピンク色のオープンカーに驚かされた.世界各地からの見物客がバスの順番を待っていた.漸く数台目のバスに乗れた私たちは数十分後広い敷地に建てられた豪華な博物館に到着した.内部には彼の生前の驚異的な活躍を示す数々の写真やきらびやかな衣装が所狭しと飾られ,豪華な音楽室や球つき場など全盛時代の彼の生活が偲ばれた.また中庭にある彼の墓石の周りには訪れた人達による多数の色とりどりの美しい花が飾られていた.

シリーズ最新医学講座―免疫機能検査・5

老化と免疫機能 鈴木 英年 , 山下 昭
  • 文献概要を表示

はじめに

 『年をとるそれはおのれの青春を歳月の中で組織することだ』という文章は,折々の歌1)の著者大岡信が,フランス詩人ポール・エリュアールの詩句を何とか日本語に移そうと試み,結局未完の訳に終わったものである.偶然にも,この詩人が逝った1952年に,ピーター・メダワーは老化という未解決の問題に言及している2).さらに翌1953年,"Phenomenon of Man"と呼ばれた彼とその仲間たちは,生後間もなくのマウスに同種抗原を持った成熟マウスの骨髄細胞を注射するという歴史的なプロトコールにおいて,ドナー抗原特異的免疫寛容が成立するという報告をして3),1960年ノーベル賞を受賞した.新生児期になぜ免疫寛容が誘導されやすいかという論点において,それが単なる免疫機能の未熟性のためではなく,新生児期の正常免疫系に対し質的にも量的にも過剰のアロ抗原に曝されるためという報告もある4).このことは新生児期が免疫学的に特別な時期ではないということを示唆している.では老年期には,一体どのような免疫機構が存在しているのであろうか.老年期免疫系が死の準備段階として消極的な意味で機能しているのか,あるいは積極的な意味で活き活きとした免疫系が躍動しているのか,いずれにせよ『新生』の対極にある『老年』期には多くの問題点が内包されている.

 すべての生物は生後平等に与えられる時間のなかで年を重ね年老いてそして死を迎える.

トピックス

カスパーゼ 内山 安男
  • 文献概要を表示

1.アポトーシスとカスパーゼ

 細胞は,それ自体が持ち合わせる機構によって積極的に死に行く場合がある.この細胞死は,積極的な細胞死(active cell death)と呼ばれ,環境の変化によって死に至るネクローシスと異なる.active cell deathの主たるものは,形態的に定義されたアポトーシスと呼ばれる死であり,今日ではこの死にかかわる機構とその実行因子について分子生物的な解析が進んだ結果,大きな進歩を遂げている.アポトーシスは胎生期の形態形成に伴う細胞死,成熟した組織の細胞更新に伴う細胞死などの生理的な細胞死に加え,癌化した細胞や神経変性疾患などの病的な細胞死にみられる現象である.アポトーシスの過程に入ると細胞は縮小化して,核クロマチンが凝縮し,ついには細胞が小片に断裂して周辺の食細胞に貪食される.この一連の形態変化を引き起こすのが細胞質に存在するプロテアーゼで,通常は前駆体として存在し,さまざまな細胞死のシグナルが入ると活性化される.アポトーシスを実行するプロテアーゼが最初に見い出されたのは線虫で,その発生過程でみられる細胞死の責任遺伝子として同定されたCED-3である1).哺乳類におけるCED-3のホモログとしてインターロイキン1β変換酵素(ICE)が見い出され2,3),その後さまざまな名称を付けられた遺伝子が報告されるに至った.

  • 文献概要を表示

1.MSSAとMRSAに対するバンコマイシンの感受性

 メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対するバンコマイシンの抗菌力を比較すると,MSSAに比べMRSAの方が若干の活性低下が確認されている.もし,バンコマイシンの耐性化が進行していなければ,MRSAもMSSAも同じ感受性を示さなければならない.なぜなら,MRSAの耐性メカニズムはペニシリン結合蛋白2'(PBP2')に依るものであり,この耐性メカニズムはバンコマイシンには何ら関係ないからである.しかし,MRSAとMSSAに対する感受性の差は事実であり,この事実を踏まえたうえでバンコマイシンのMRSAに対する耐性化を議論する必要がある.

  • 文献概要を表示

1.加齢黄斑変性(age-related macular degen-eration)とは

 加齢黄斑変性は白人に多く,欧米では60歳以上人口の失明原因の第一位だが,近年,わが国でも増加傾向にあり,高齢者失明の代表疾患である.

 角膜,水晶体を通過した光は網膜に投射される(図1).網膜の中央部はやや黄色調を呈することから黄斑部と呼ばれ,その中心が中心窩である.中心窩には光のレセプターである視細胞が密集し,最も感度が高い.網膜の外側には脈絡膜という血管に富む組織があり,視細胞に栄養を与える(図2).網膜と脈絡膜間には網膜色素上皮細胞と呼ばれる一層の上皮層があり,両者の物質交換を制御している.

Evidence-Based Laboratory Medicine 河合 忠
  • 文献概要を表示

1.なぜ今EBLMが注目されるのか

 Evidence-Based Laboratory Medicine(EBLM)を「根拠に基づく臨床検査医学」と訳している.まだ,多くの人たちに耳慣れない熟語であろうが,ここ数年来徐々に臨床検査分野で使われるようになっている.1990年に入って,EBM(根拠に基づく医療)が急速に世界中で注目されるようになった.しかし,EBMでは主として治療法についての研究が行われている.正しい治療のためには,臨床検査の利用によって正しい診断がなされなければならない.臨床検査が過少であっても,過剰であっても問題である.従来,"最小限の検査を実施し,その結果を最大限に臨床診療に反映させる"ための研究が十分になされてこなかった.臨床検査の専門家の間でもそうした研究に重大な関心を寄せなかったこともその一因であろう.近年,ようやく臨床検査の適切な効率的利用が真剣に討議されるようになった.そこで,まず注目されたのがEBMで行われた過去に出版された論文から最強の根拠を探り出す系統的再評価(Systematic Review)のアプローチである.すなわち,臨床検査に関する過去の文献を批判的に吟味し,現時点での最善の結論を導き出す「臨床検査の系統的再評価(Systematic Reviewing in Laboratory Medicine;SRLM))が提案された.その手順が表1である.

  • 文献概要を表示

1.はじめに

 膵β細胞は血糖降下ホルモンであるインスリンを産生し分泌するために特異的に分化した細胞である.その分泌は,血糖により厳密に調節されており,その結果,正常人の血糖は一定に保たれる.一方,糖尿病はインスリンの絶対的あるいは相対的な分泌不全に起因する高血糖状態がその病態の本質であり,遷延する高血糖は血管病変を主とする数々の合併症を引き起こす.現在,臨床の場では,その低下したインスリン分泌,および作用を補うことによって,血糖を正常化することを目標とした治療が行われているが,血糖の完全な正常化を達成するのは難しい.特にインスリン分泌の完全に欠如したI型糖尿病の場合,通常,1日4回のインスリン注射と頻回の自己血糖測定を余儀なくされるが,このような多くの負担にもかかわらず血糖の正常化は容易ではない.これは現在の治療が主に,インスリンの補充により行われているためである.

 理想の糖尿病治療とはインスリンの補充ではなく,血糖応答性のインスリン分泌作用を持つ類β細胞の補充である.現在行われている膵β細胞の補充療法は膵,および膵島移植のみであるが,糖尿病の罹患率を考えるとドナーの数が極端に少なく,一般的な治療となるとは考えにくい.そうしたなかで,遺伝子導入を用いて非β細胞を類β細胞化し,膵β細胞の補充に使おうとする試みがなされつつある.本稿では,類β細胞化の現在までの知見と将来の展望を述べたい.

カナダにおける遠隔医療 渡辺 邦彦
  • 文献概要を表示

1.カナダ―国と国民

 カナダは世界で2番目に面積の大きな国であるが,人口はわずか約3,000万で,国民はこの広大な国土に散在して居住している.国の政治構造を形作っているのは,連邦政府ならびに10の州政府と2つの準州政府である.国土がこのように広いため,カナダでは物資の輸送および人々の間の相互連絡のための交通通信組織が国の基幹構造(インフラストラクチャー)をなしている.19世紀の鉄道と運河交通に始まって,20世紀になるとハイウエー,電話システム,無線システム,光ファイバーネットワークなどが次々に実用化された.その結果,カナダ人は,電話システムから衛星通信に至る分野で極めて専門的な能力を獲得することになった.

 現在カナダでは,「情報通信技術(ICT)」に関連する新しい科学技術分野が年間650億カナダドルの産業を形成しており,40万人を超えるカナダ人がこの分野で働いているが,この額はカナダの民営セクターのR&D (研究開発)支出の39%に当たる.今後,保健医療システムは,このICTの最も重要なユーザーの一つになると考えられる.

質疑応答 免疫血清

  • 文献概要を表示

 Q HIV抗原抗体でp24抗原が出現し,IgG HIV抗体が出現するとp24抗原が消失するのは何故でしょうか.お教え下さい.

質疑応答 診断学

  • 文献概要を表示

 Q ミトコンドリアDNAとゲノムDNAはどのように異なるのでしょうか.

基本情報

04851420.45.5.jpg
臨床検査
45巻5号 (2001年5月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

文献閲覧数ランキング(
5月25日~5月31日
)