臨床婦人科産科 44巻8号 (1990年8月)

特集 初期発生学の進歩と臨床

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 卵の成熟はダイナミックで複雑な過程を経て完成し,受精へと至る。この過程は,第一には年,月,日といった時間的な意味でタイムリーでなければならないし,内分泌変化のように卵周囲の微小環境としてもタイムリーな変化がなければならない。このようなタイムリーさに障害があると卵の老化が起こると考えられる。

 多くの主として動物実験のデータから卵の老化に注目が集められて久しいが,その臨床的意義についてはなお漠然とした概念しかないのが現実である。

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 最近卵管の生殖生物学上における意義が再認識されてきている。その理由の一つとして,卵管性不妊への対応として画期的な成果が報告されている体外受精—胚移植法の臨床成績が国際的なサーベイランスにおいても成功率が10〜15%と低く,in vitroにおける条件設定の再評価の必要性が指摘されてきたことがあげられる。

 卵管はいうまでもなく精子と卵子を包括し,受精から着床までを円滑に行わせる環境を提供する重要な役目を負っている(図1)。

Pregnancy lossをめぐる諸問題

Pre-implantation 大浜 紘三 , 竹中 雅昭
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 一般に自然流産率は10〜15%とされるが,これは臨床的に妊娠の診断がなされた後の流産の頻度である。しかし実際にはこのような臨床的流産の他に臨床的に確認し得ない早期の妊卵の死亡があり,しかもこの時期の死亡率(早期の流産率)は臨床的流産率よりも高いと推定されている。このような臨床的に診断される以前の妊娠あるいは流産は,occult pregnancy(abortion),men—strual abortion,preclinical pregnancy(abortion),subclinical pregnancy(abortion)などと呼ばれるが,臨床的に認められる流産とは異なって,患者自身が妊娠にまったく気づかず,通常の月経あるいは遅延月経として見逃されてしまうため正確な頻度を求めることや原因を究明することは困難であった。また,患者にとっても何らの肉体的あるいは精神的障害を感じることがなく,そのため産婦人科臨床面からもほとんど問題にされることはなかった。しかし,体外受精の実施をきっかけとして,初期胚の帰結については大きく注目されるところとなり,現在では,これに関する知見をふまえた上で不妊や流産の治療・管理を行うことが必要とされるようになった。今回,pre-implantationでのpregnancy lossについて依頼されたが,implantation後の早期のlossとの明確な鑑別などが困難なこともあり,本稿では両者を含めたpreclinical abor-tionという面から考察してみることにする。しかし,上述のように,これに関する直接的アプローチは現在なお困難であり,そのため間接的な研究の結果から導かれる推測的な考察にならざるをえないことをご承知おき願いたい。

Post-implantation(着床後) 佐治 文隆
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 Early pregnancy lossの正確な頻度は不明であるが,臨床的に妊娠が確認された症例における自然流産率は約15%と考えられている。しかし自然流産が起こる頻度は理論的にはこの値よりも高いとされており,全妊娠の78%もの高値になるともいわれるが,その大部分は妊娠が確認されず,従って流産と確認されないままに経過していると考えられる1)。本稿では着床後(Post-implantation)に起こるearly pregnancy lossについて,その診断基準や発現頻度を概説する。

臨床研修セミナー 手術手技

IV.子宮脱の手術

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 日本婦人の平均寿命は80歳をこえ世界一になった。萎縮性外陰・腟炎,骨粗鬆症および性器の下垂・脱は致命的な病気ではないが,高齢婦人がより快適に,またactiveに生活する上で克服すべき重要な疾患と思われる。前二者が薬物療法で治療効果が期待できるのと異なり,性器下垂・脱は手術以外に有効な治療法はない。本稿では,性器下垂・脱の病理,発症機序,治療原則を,森ら1)が最近提唱した骨盤ヘルニア管理論の立場で記述し,ついで私達が実際に行っている性器脱手術術式の理論・コツを記した。

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 子宮脱の手術術式には,大別して子宮全摘出を実施する手術術式と子宮を保存することを目的としたManchester手術ならびに高齢者で性生活の断絶も考えられ,かつ高度の合併症を有する患者に実施される腟閉鎖術がある。子宮下垂・脱は子宮頸部付着諸靱帯,すなわち膀胱子宮靱帯,基靱帯,仙骨子宮靱帯と恥骨頸部筋膜などの弛緩が主たる原因とする考えが多い。子宮下垂・脱には直腸脱を伴う場合がある。この直腸脱の原因として肛門挙筋の弛緩,離開が原因と考えられている3)

 一方子宮下垂・脱の原因として骨盤ヘルニア管の理論7)に立つ考えもある。この場合,肛門挙筋板の弛緩は重要な原因のひとつとなるものと考えられる。

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 子宮脱の本質が骨盤底におけるヘルニア現象である以上1),腟式にヘルニア臓器を還納しヘルニア門を閉鎖し,弛緩した支持組織を補強することが根治に直結するのは理の当然である。性交機能を保存するためには,これに加えて腟管を生理的位置に保持するという条件を満たさなければならない。弛緩した前腟壁に対しては前腟壁整形術,後腟壁に対しては後腟壁整形術が有効であり,子宮の脱出に対しては腟式子宮全摘+基靱帯断端・腟断端固定で“腟の吊り上げ”がはかられ,子宮頸部の延長に対しては頸部切断+基靱帯・残存子宮頸部前面縫合(Manchester手術)で“子宮の吊り上げ”が効果が期待できる。しかし,ヘルニアの修復補強を十分に施行しようとすればそれだけ腟管は狭小となり浅くなり,性交機能を保持する腟の大きさを残そうとすると,上記の手法では吊り上げ効果が十分ではない。性交機能のある腟(functional vagina)の保存は子宮全摘術の既往者の腟脱の修復の際とくに難しい。そこでヘルニアそのものの修復はほどほどにしておいて,腟上端を確実に吊り上げ固定する手法が求められ,過去において種々の手法が試みられてきた(図1,2)。その中から現在筆者が最も有用であると考え日頃採用している腹式および腟式の腟吊り上げ術(図2E,F)について述べる。

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 子宮脱あるいは下垂の治療法は手術療法以外にはない。子宮脱があると排尿障害や排便障害を伴うことが多いので治療の必要がある。しかし,下垂の場合には何らの自覚症状もないことがあるので,このような場合にはただちに手術をすることなく経過をみるのも一つの方法である。

 さて,手術方法には種々の方法があるが,従来から行われてきたDoleris法(子宮内靱帯腹壁固定法)やGilliam法は再発率が高く,現在あまり行われていないようである。著者は完全子宮腟脱に対しては腟式子宮全摘に前腟壁形成術や後腟会陰形成術を施行しているが,性交を望む場合あるいは若年者に対してManchester手術を,高齢者で合併症のある場合には侵襲の少ないNeugeber Le Fort法を施行している。今回は著者の実施しているManchester法の実際について記述したいと思う。

Le Fort中央腟閉鎖術 高島 英世
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 Le Fort中央腟閉鎖術はLe Fort1)が1877年に発表した簡単,迅速,安全かつ優れた効果のある子宮脱に対する手術術式である。この手術は主に高度の子宮脱がある高齢で性交の必要がなくなった婦人に対して行われる。最初の報告以来手術侵襲が少なく,局所麻酔下でも可能という安全性から広く普及するとともに術式の改良も試みられてきた。

 子宮脱の病因論に基づいて,腟式単純子宮全摘除術,前後腟壁形成術,肛門挙筋縫合からなる標準術式あるいはマンチェスター手術などが現在子宮脱手術の主流となっているが,今日なおLe Fort手術は適応に制約があるものの利用価値のある優れた方法である。本稿は本術式を解説するとともに当院における成績を述べ参考に供したい。

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 正期産の羊膜炎につき母体および新生児感染の両面から検討した。対象は正期産例のうち胎盤・臍帯の病理組織学的検査より羊膜炎と診断された79症例である。コントロールとして組織学的検索で羊膜炎がない181例を用いた。母体側からは①初・経産,②分娩所用時間および破水後分娩までの時間,③羊水混濁の有無,④分娩時出血量,⑤白血球数,CRP,⑥胎盤および卵膜遺残の有無,⑦その他の産褥の異常等について評価した。その結果,初産例,前期破水例,前羊水の混濁を認めた例に羊膜炎が多く,母体発熱が37.5℃を越えた例,母体白血球数が15,000/mm3以上の例も有意に羊膜炎が多かった。破水後分娩までの時間が12時間までの例は羊膜炎が少なかった。出血量,胎盤および卵膜遺残の有無,その他の産褥異常については羊膜炎発症頻度に差が認められなかった。

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 卵巣の間質細胞山来腫瘍(線維腫,莢膜細胞腫)について臨床的に検討し,悪性腫瘍との鑑別点を考察した。対象は線維腫21例,莢膜細胞腫6例であった。全充実性卵巣腫瘍に占める割合は22.4%で,良性充実性卵巣腫瘍に対しても77.1%と大部分を占めた。

 線維腫では特異的症状に乏しいが,莢膜細胞腫では高エストロゲンに伴う症状に注意すれば診断はかなり絞られ,子宮内膜癌の合併に注意する必要のあることが示唆された。

 術前に悪性らしいと診断する要素は①閉経後の高齢者,②巨大な骨盤内腫瘍,③超音波and/or骨盤CTでmixed pattern,④血清CA−125の100 U/ml以上の高値,⑤Mcigs症候群の合併,⑥子宮内膜の悪性所見の6項日で②,③,④,⑤の4項目はとりわけ悪性卵巣腫瘍と考えられやすい要因と思われた。CA−125と画像診断との有機的な組み合わせによる診断効率向上の必要性が示唆された。

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 Basic fetoprotein(BFP)の腫瘍マーカーとしての有用性と産科領域における測定意義に関し検討を加え,以下の結果を得た。

 健常婦人の血清BFP値は75.4+6.0ng/mlであり,加齢にともないBFP値は低下した。月経周期では,卵胞期→黄体期→月経期とBFP値は順次上昇し,女性の性周期とBFP値との密接な関わりが示唆された。Mean+2SDをcut off値とした場合のsensiti—vityは,子宮頸癌55.0%,子宮体癌50.0%,卵巣癌45.0%であった。また子宮および卵巣の良性腫瘍におけるfalse positiveは,各々29.4%,43.8%に認められた。卵巣癌では,明らかな組織特異性は認められなかった。正常妊娠経過中のBFP値は,160ng/ml前後の値を示し,妊娠週数による大きな変動は観察されなかったが,産褥1週目にBFP値は若干上昇した。初期異常妊娠例で,予後良好例と不良例との間にBFP値に解離(P<0.001)が認められ,これら症例での予後判定の有用性が示唆された。

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 最近,従来からのAIHにより妊娠が困難な症例に洗浄・濃縮精液を卵管内に直接注入しようという試みがなされている1,2)。子宮鏡下で行う場合はHIT(Hysteroscopic Insemination into the Tubes)と呼ばれるが,私どもはJansen-Anderson's Catheterの改良型のものを超音波ガイド下に卵管に挿入し精液を注入しているため,これらを総称して卵管内人工受精(IFIH,Intrafallopian Insemination with Husband's Semen)と呼んでいる。卵管内に注入できる精液量は限られているうえ,感染などの副作用を防止することがIFIHには特に留意されなければならない。また,精液中には受精阻害物質などが存在しており,精液中から活動精子を取り出し,確実に卵管内に注入する事が重要である。これらの操作は外来レベルで行われるものであるから,日常診療に用いられるべく簡便でなくてはならない。

 体外受精・胚移植(IVF-ET)および配偶子卵管内移植(GIFT)の際にも良好な活動精子の選別が妊娠率の向上をはかるための重要な因子の一つである。そのためには簡便にして安定した結果を得るための条件として品質の良い精子選別用培養液を用いる事が重要である。

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 不妊症患者の治療に際し,患者のホルモン動態の把握は必須であり,今日まで種々の測定法が開発されて臨床への応用がなされてきている。測定感度の優れたRIA法や特異性の高いIRMA法は広く利用されているが,特殊な設備が必要であるためにどの医療機関でも容易に迅速にデータを得ることが出来ない欠点があった。そこで最近では,尿中LH測定のためのSPIA法(ゾル粒子免疫測定法)や簡易EIA法が迅速性に優れているために注目されて来たが,定量的な測定値が得られない欠点がある。また,不妊症の治療の際には各種のホルモン製剤の投与を伴う場合が多いことから,交差反応性の少ない測定系であることも強く要求されるようになった。

 我々は今回特異性の高いモノクローナル抗体と高比重ラテックスを用いたラテックス凝集法による尿中微量LHの半定量試薬「ハイツインクロンLH‘栄研’」と同微量hCG半定量試薬「ハイツインクロンhCG‘栄研’」を排卵期及び妊娠初期に応用したので報告する。

基本情報

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臨床婦人科産科
44巻8号 (1990年8月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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