臨床婦人科産科 38巻6号 (1984年6月)

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 心臓脱とは,本来心臓のあるべき縦隔洞より心臓が逸脱して,体外あるいは胸腔外に存在する場合をいい,稀な先天性心臓奇形である。

 症例は,25歳,3回経妊3回経産の妊婦。20歳で3,380gの男児,22歳で3,590gの女児,23歳で3,780gの女児(いずれも妊娠40週)を分娩したが,異常を認めていない。月経歴は,初経13歳,30日周期,整,6日間持続,月経量は中等量で経時障害はない。昭和56年12月25日より6日間を最終月経として妊娠。昭和57年2月23日(妊娠8週3日)に当科初診。4月20日(妊娠16週4日)に胎児スクリーニング検査として,超音波電子スキャンを施行した際,児頭は不明であり,児体部頭側に直径19mmの嚢胞状echoを認めた。この時には心臓は?幹内で拍動していた(図1)。児頭の奇形を疑い,妊娠20週に再度検査施行。児頭輪郭の不鮮明,Midline echoの欠如の所見を得,無脳児と診断した(図2)。また,胎児の胸郭内に心臓を認めることが出来ず,胎児?幹外に拍動する心臓を検出し(図3,4,5),胸郭へ連続する大動脈の像も得られたため(図6)心臓脱と診断した。

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 近年,ステロイド産生臓器におけるcholestcrol代謝調節機構の理解が大いに深まった。外因性のcholesterol,即ちlipoprotein-carried cholestcrol (lipo-chol)の基質としての重要性が認識されたことに因るところが大きい1)。卵巣内分泌研究者もreceptorを介してのlipopro—teinsの摂取と代謝,lipo-cholによるde novoのchole—sterol合成とsterol ester貯蔵の調節に注目した。卵巣におけるcholesterolからのsteroid hormonesへの合成経路はほぼ明らかにされているが2),卵巣細胞によるcholcsterolの摂取と代謝を調節する要因については未だ明確にされていない。卵巣におけるsteroid代謝に関する従来の論文の多くは単に14C-acetateのsterolsやsteroidsへの取り込みを扱っているだけで,lipo-cholの基質としての,またcholesterol代謝調節因子としての重要性を考慮していない。したがって,再評価されなければならない論文も多くあると思われる。本論文ではlipo-cholの重要性を考慮に入れて主に卵巣の組織,細胞におけるlipoproteinsの摂取,de novoのsterol合成ならびにsterolsの代謝に関与する各種の酵素,および細胞内でのcholesterolの移動について論じたい。

明日への展開--ヒューマンバイオロジーの視点から 子宮

Ⅱ.内膜

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 1978年のSteptoeとEdwardsによる体外受精卵での最初のベビー誕生以来,既に約500名にも及ぶ体外受精(in vitro fertilization)卵のベビーが出生し,1984年にはオーストラリヤで,提供卵子を夫の精子で体外受精させたベビーも誕生したと報告されている。これらの事実は,卵管の欠如や閉塞による不妊婦人の治療法としては,医学的,社会的,倫理的並びに法律的な問題を別として,画期的なものであろう.しかしながら,受精卵の着床,胎児の成育,出生に至るnatural internal envi—ronmentとしての子宮の機能の重要性は,いささかも変わるものではない。子宮は,子宮内膜と子宮筋層から構成されており,妊娠—分娩の全期間にわたり生理的に機能しているが,子宮内膜は,受精卵の着床期に,子宮筋層は,胎児の分娩期に重要な役割を演じている。一方,子宮の各組織は,エストロゲン,プロゲステロンの影響下に直接的あるいは間接的にその機能が修飾されている。

 本稿では,生体内でリン酸化反応を通じ種々の酵素活性を調節しているprotein kinase,エネルギー源としてのg1ycogen量を制御しているglycogen代謝関連酵素および種々のsteroid sensitive productsがエストロゲソ,プロゲステロンの影響下にいかに変動し,それがどのような生理的意義を持つかという問題について最近の報告や著者らの成績などを紹介する。

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 ヒトを生物学の視点から考えるに,ヒト子宮内膜ほど興味に満ちたものはない。内膜は種属保存のための妊卵の着床の場であり栄養の場でもある。その内膜を調節しているのは主にsteroid hormoneである。そこで,このsteroidの作用部位であるsteroid receptor (estrogenreceptorはER, progesterone reccptorはPR, androgenreceptorはARと略す)の面より逆にsteroidの作用様式を内膜で考えてみた。

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 生殖生理にはたす子宮内膜(内膜)の意義はひとえに妊卵の着床とその維持に尽きるといってもよく,妊娠成立の第一段階である。

 では,このような妊娠成立に重大な意義を有する内膜がどのような過程を経て着床準備状態を形成していくのであろうか。また理想的な着床環境とはどのような状態であろうか。

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 子宮内膜(内膜と略)は子宮の内面を被う粘膜組織であり,卵巣ステロイドのtarget tissueとして増殖,分化(分泌)を周期的に繰り返している。この特性は哺乳動物にほぼ共通して見られるが,ヒトを含む最も高等な霊長類では,分化した内膜は受精卵着床が起こらないと崩壊剥脱し,出血する。これは,内膜海綿層の血管系(コイル小動脈,静脈洞)の特異構造によるものであり(Markee,1948;Bartelmez,1957),黄体の衰退が関与している。自他覚的には月経として認識されるが,これは高等な霊長類だけにみられる大きな特性である。

 内膜のもうひとつの生物学的特徴は異所性に発育しうるということである。生物学の常識として臓器あるいは組織は発育,増殖の限度を心得ており,(contact inhibi—tion),他の領域を侵すことはない。この規制の歯止めがきかなくなったのが悪性腫瘍である。ところが内膜あるいはその類似組繊はエストロゲン刺激に呼応して異所性に発育し,浸潤性に増殖しうる性格をもっている。これがエンドメトリオージスであり,benign cancerともいわれる所以である(Greenblatt,1976)。

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 最近,わが国においても子宮内膜癌の増加傾向が認められているが,今後さらに環境因子の変化や高齢者の増加などに伴って,その傾向は助長されるものと思われる。内膜癌の治療法に関しては,欧米でも,手術と放射線療法のいずれに主体をおくものもあり,しかも一定した方式は示されていない。しかしながら,手術可能例であれば,一般に手術を行った方が放射線療法よりも優れているというものが多い。FIGO癌委員会のAnnualReport3)をみても,手術に比べて放射線療法は治癒率の低いことが指摘できる。これらの治療に加えて,化学療法,免疫療法あるいはホルモン療法なども併用されることがある。

 治療に際しては,内膜癌の蔓延形式や生物学的態度をよく心得ておく必要がある。本稿では,そのために必要な基本的事項とそれに伴う治療法に関する基準および問題点について概説する。

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 正常月経周期では図1の如く間脳—下垂体—卵巣系のリズムのある内分泌変動下にあって,子宮内膜はとくに卵巣ステロイドの直接の影響を受けて日々変化を示す。

 通常,月経発来は性ステロイドの血中レベルが急激に消退するための消退出血であり,内膜の機能層の全面的剥脱であり,それは動静脈吻合部に分布する副交感神経synapsでacetyl—cholinが生成され,らせん動脈→静脈湖間の短絡,動脈の攣縮,静脈性欝血などによる内膜の虚血性壊死によるといわれている。しかしこの変化は性ステロイドとくにestrogen分泌により内膜が再生を開始するので4-5日の中に消失する。

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 月経困難症(dysmenorrhea)とは,月経に随伴して生じる不快な症状を包含した一種の症候群で,臨床的に原発性と続発性の2つに分類される。原発性月経困難症は機能性または本態性月経困難症とも呼ばれ,骨盤腔内に器質的な病変が認められない。続発性月経困難症は子宮内膜症,骨盤内炎症,子宮筋腫,IUDの挿着などが原因となる。頻度からみれば原発性のものが圧倒的に多く,生殖年齢に達した女性の約半数は程度の差こそあれ,月経困難症を経験し,そのうちの約1割は1ヵ月に1〜3日は仕事や学業を休まざるを得ないとされている1)2)。おそらく,これは単独疾患による女性の病欠の原因としては最多であろう。

 ところが,原発性月経困難症はこのように婦人科疾患の中では重要な位置を占めているにもかかわらず,つい最近までは原因についての究明がなされず,治療面でも強力な鎮痛剤や抗うつ剤などによる対症療法の域に留まっていた。1960年代に導入された経口避妊薬による排卵抑制療法は,有効な治療法としてははじめてのものであったが,その作用機序は不明のままであった。

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 prolactin (PRL)は本来,ヒトを含む哺乳動物において乳汁分泌を誘起する催乳ホルモンとして知られ,ラットやマウスなどではさらに黄体維持作用もあり,生殖現象に関わるホルモンとして把えられてきた。ところが比較内分泌学の進歩に伴いPRL類似物質(組織化学的にカーミンやエリスロシン親和性)が各種脊椎動物の下垂体に存在し,魚類にまでさかのぼってPRLの祖先ともいうべきホルモンが見出されることが明らかとなった1)

 脊椎動物は数億年を費やし水棲から陸棲へと進化してきたが,PRLはその間の環境の変化に対応しうるようにその作用部位や作用様式を変え種属の維持をはかってきたのである。すなわちPRLの作用は非常に多岐にわたり,その作用の変化を系統発生的にたどると哺乳類が進化してきた軌跡を垣間見ることが可能であるといっても過言でない。

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 月経用のタンポンはわが国でも広く用いられて来ているが,月経中や月経時のタンポン使用中の腟内の生理的状態については未だ明らかにされていない。近年,タンポン使用者にtoxic shock症状を示す症例が報告されるようになるまでは1),月経用タンポンについてほとんど医学研究者の関心を示されなかった。

 Wagnerら2)は腟壁表面の酸素および炭酸ガス濃度を測定するために,子宮腟部から離れたところで陰裂より7〜8cmの腟壁に2つの電極を挿入し,椅子に横たわり本をよんだり,いねむりをしたり,テレビをみたりしている間の90分間測定した。その後10〜15分間休憩してからタンポンを挿入した。こうして更に90分間測定した。タンポンはTampax標準型,Playtex標準型などを用いた。これらのタンポンの中に含まれる空気の量を乾燥時のタンポンの容積—乾燥時のタンポンの重量(gram)  乾燥時タンポン材料の密度    (1.35 gm/ml)にて測定した。

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 Carcinoidは,婦人科領域においては,卵巣19)のみならず子宮頸部1,17,23)においても報告され,種々のpeptidehormoneやamineを産生することが知られているが8,9,13,15,21),子宮内膜における報告はない。しかし,近年,電顕的に神経分泌顆粒を有する銀好性内膜癌が報告された24)。さらに,本腫瘍はAPUD (Amine Pre—cursor Uptake and Decarboxyladon)15)能力を持つことが示され6),APUD系細胞より発生する腫瘍(APUDoma)との関連が注目され,ホルモン産生腫瘍の可能性が示唆されている7)

 我々は最近dopamineを産生する子宮内膜銀好性腺癌を経験し,その細胞像を検討する機会を得たので報告する。

基本情報

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臨床婦人科産科
38巻6号 (1984年6月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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