産科と婦人科 90巻8号 (2023年8月発行)

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特集　これからの性教育―タブー視せずにポジティブに捉える―

ねらい五十嵐　敏雄 90巻8号 , 2023年8月 , pp.817-817

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　「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」という性教育の国際基準の改訂版がユネスコから発刊されている．年代別に何を具体的に教えるべきかが示されており，幼少期から指導項目に性行為が含まれ，相手の同意を尊重することの大切さ，責任ない立場で妊娠することの意味が教えられる．一方，日本では学習指導要領に「はどめ規定」なるものが存在し，学校教育では性行為を教えられない状況にあり，中学1年生で受精や妊娠を学ぶが，性行為が何かを学ばないまま，中学校3年生で性感染症とコンドームの使用方法を学ぶ．また男子は射精が何かも教えられないまま夢精を経験する．今までも教育現場では性行為を正しく教えようとする動きはあったが，2003年の七生養護学校事件などで教育委員会や保守派の国会議員の反対を受けて性行為を教えることは禁じられてきた．しかしながら，最近は教育現場だけでなくPTAからも適切な性教育に対する要望があって産婦人科医や助産師に講演依頼があり，草の根的に課外活動で希望者に対して性教育が行われている．確かに学校で性行為について聞きたくない子どももいるだろう．そうしたなか，文部科学省は2023年4月から「生命（いのち）の安全教育」という性犯罪・性暴力対策を目指した精一杯の性教育をスタートさせた．

Ⅰ．現状と問題点と未来

1．性教育の未来へ向けて「生と性の健康教育」安達　知子 90巻8号 , 2023年8月 , pp.821-826

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要旨

　性教育は人が生きていくために必須の教育である．思春期の子どもたちの性の現状と現在行われている性教育のカリキュラムは大きく乖離している．ここから性教育の現状と課題を示し，今後の性教育は，今まで重きをおかれていなかった人間関係性を重視した包括的性教育でなければならない．そのためには，①思春期の子どもたちは性的に活発であることを認識し受け入れること，②男女の関係が対等な男女共同参画社会を目指すこと，③多様性を意識した教育であること，以上が必要である．

2．日本の性教育の歴史・現状と課題北村　邦夫 90巻8号 , 2023年8月 , pp.827-834

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要旨

　わが国の近年の性教育を振り返ると，純潔教育，セクシュアリティ教育，エイズをテーマにした人権教育と変遷するも，国会を巻き込んだ性教育バッシングによって大きく後退することになった．最近では，包括的性教育，生命（いのち）の安全教育など「性教育ブーム」の到来を感じさせるが，インターネットやSNSを通じた性の氾濫など懸念される事態がないわけではない．日本の性教育はこれからどこに向かおうとしているのか．ここでは，わが国の性教育の歴史的変遷を踏まえた現状と課題についてまとめた．

3．海外の性教育の現状―国際セクシュアリティ教育ガイダンスを踏まえて― 門間　美佳 90巻8号 , 2023年8月 , pp.835-846

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要旨

　国際セクシュアリティ教育ガイダンスは，セクシュアリティ教育にかかわる世界の国々の専門家の研究と実践を踏まえて作成された手引書である．

　性教育の基本課題と具体的な実践ポイントを明示され，性教育スタンダードとされている．2020年にはセクシュアリティ教育を「人権，ジェンダー平等」という枠組みの中で再構築し，「性と人間関係」について包括的に学べるように，著者にとっての利益が最大となるように改訂された．

　日本でも第1版の日本語訳が2017年に，第2版が2020年に出版され，普及してきている．

　本稿はこのガイダンスを中心に，先進国の性教育の状況を解説する．

4．日本の性暴力の現状とその被害者支援―ワンストップ支援センターからの報告― 加藤　治子 90巻8号 , 2023年8月 , pp.847-851

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要旨

　性暴力被害者支援のためのワンストップセンターは，2010年に性暴力救援センター大阪・SACHICOにはじまり，2018年には全都道府県に設置された．しかし，ほとんどが相談センターを拠点とする連携型にとどまり，病院拠点型は10カ所に満たない．被害直後から産婦人科医療を軸とした「性の回復」のための診療と支援を提供できる病院拠点型センターの設置，あるいは，拠点病院化を目指し，包括的かつ総合的な支援を提供できる体制づくりが必要である．

Ⅱ．性教育の実際

5．日本産婦人科医会作成性教育スライド「思春期ってなんだろう性ってなんだろう」の活用江夏　亜希子 90巻8号 , 2023年8月 , pp.853-856

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　1980年代後半以降，女性の社会進出が進むにつれ性交経験の低年齢化が問題となり，性教育の重要性が増した．ところが2000年代に入って吹き荒れた「性教育バッシング」により，学習指導要領で「はどめ規定」とよばれる制限がかかり，学校現場では産婦人科医を外部講師とする性教育のニーズが高まっている．そのような背景から2003年，日本産婦人科医会学校保健委員会が作成し，適宜改訂を行っている性教育スライドについて紹介する．

6．学校医と養護教諭のための思春期婦人科相談マニュアルの活用宮国　泰香 90巻8号 , 2023年8月 , pp.857-860

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要旨

　子どもたちの健診や健康管理に携わっている学校医や養護教諭の方々が，第二次性徴や月経などに関する子どもたちの疑問に対して答えられるような資材として，『学校医と養護教諭のための思春期婦人科相談マニュアル』を日本産婦人科医会より発刊している．思春期の子どもたちの性に関する様々な疑問に対して説明できるようにまとめている．性教育を行う際や外来診療，家庭内でも役立てていただけるのではないかと考える．

7．＃つながるBOOKの活用高橋　幸子 90巻8号 , 2023年8月 , pp.861-865

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要旨

　コロナ禍における妊娠不安相談が増加したが，背景には性教育の知識の不足があることが指摘されている．「＃つながるBOOK」は人権とジェンダー平等を基盤にした包括的性教育とSRHRに即した高校生向け性教育冊子として作成された．学校教育における学習指導要領には「はどめ規定」があり，教員が正面から性教育を行うことが難しいとされ，産婦人科医等による外部講師が求められている．性教育講演会や外来診療のなかで，ご活用されたい．

8．学習指導要領を超えた性教育―東京都での取り組み（中学・高校）― 塚田　訓子 , 長岡　美樹 , 山田　正興 90巻8号 , 2023年8月 , pp.866-871

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要旨

　東京産婦人科医会は，都立高校と公立中学校へ産婦人科医を派遣し，性教育事業を行っている．2019年3月に東京都教育委員会が「性教育の手引」を改訂し，学習指導要領に示されていない内容についても，事前に保護者の理解・了解を得た児童・生徒に指導を実施することが可能となった．2022年からは新たに都立高校でのプレコンセプションケアに関する講演会，産婦人科学校医を任用する事業も開始している．東京都での性教育のこれまでの取り組み，現状，今後の課題について述べる．

9．家庭と連携した学校における性教育―集団指導と個別指導― 井上　聡子 90巻8号 , 2023年8月 , pp.872-878

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要旨

　産婦人科医師が家庭や地域と連携した学校における性教育に参画する意義は，子どもたちに科学的，現実的な視点から，性と生殖の健康と権利について学習指導要領に縛られず包括的に伝えることにある．教職員，保護者とともに，さらには診療のなかで培ったほかの専門職との連携を活かして，日本中のすべての子どもたちが知り，学び，選択する権利が保障される社会づくりに果たすべき役割は何か．性教育の現状を整理し，将来を展望する．

10．性暴力防止のための生命の安全教育の取組―絵本「おしえて！くもくん」の活用― 小笠原　和美 90巻8号 , 2023年8月 , pp.879-884

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要旨

　性暴力の暗数は多く，その全貌は社会が認識しているよりはるかに深刻である．幼い頃の継続的な性被害は，被害者を長期間苦しめる極めて重大な人権侵害であり，政府は「生命（いのち）の安全教育」を打ち出して，小学校入学前から学齢期に応じて，子どもたちを被害者にも加害者にもしない対策に取り組むこととした．教育の教材やツールとして，絵本やCAP（Child Assault Prevention）の活用を勧めたい．

11．「生命の安全教育」の特徴と「期待」艮　香織 90巻8号 , 2023年8月 , pp.885-889

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要旨

　「生命の安全教育」は，性犯罪・性暴力対策の一環としての取り組みである．同事業を進めるにあたり，前提として必要な人権教育や包括的性教育が十分に保障されていないといった問題にどのように切り込んでいくかが問われる．啓発・教育において，実践を編むにあたっては，性の健康は基本的人権であり，性教育は権利の保障であるという基本理念のもとに，教材の「構成・内容」を多角的に捉え，違いを前提に議論を重ねる必要がある．これには学内外の連携が必須となる．

Ⅲ．教員・助産師・家庭による性教育

12．学校と連携した性教育を行うために赤澤　宏治 90巻8号 , 2023年8月 , pp.890-896

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要旨

　学校においては，寝ている子どもを健全なあるべき姿にいかに上手に起こしていくかという視点が必要であり，有効で適切な性に関する指導を着実に実践する必要がある．学校は学習指導要領に基づいて教育内容を定めており，外部講師による指導も同様である．実際の指導においては，①児童・生徒の発達の段階を踏まえること，②学校全体で共通理解を図ること，③保護者の理解を得ることなどに配慮することの3点が大切である．外部講師が学校での性教育を行うにあたり，最低限の知るべき内容をあげる．

13．男子の性教育今井　伸 90巻8号 , 2023年8月 , pp.897-901

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要旨

　男子の性的活動性は二極化してきており，男子性教育では，性的に活発な男子群と恋愛や性行動に消極的な男子群に配慮した内容が求められる．性機能障害による男性不妊が増加しており，原因の多くは性の知識不足と射精の練習（経験）不足に由来する．そのため，様々な情報源の活用法を伝授しつつ，様々な情報発信源に正しい性に関する情報を発信するなどして実践的な知識の充実を図る性教育と，射精教育の充実が求められている．

14．助産師による性教育―20年間大切にしてきたこと，現在強化していること― 川島　広江 90巻8号 , 2023年8月 , pp.902-907

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要旨

　自己肯定感の低さは，逸脱行動，相談行動の回避等と関係し，ジェンダーバイアスは，性行動の自己決定，デートDV等と関係する．日本の子どもは，自己肯定感が低く，ジェンダーバイアスの強い社会で生きている．これら日本の特徴を踏まえ，助産師として豊かなセクシュアリティで生きるために性教育に取り組んできた．また近年，学校・教員との協働を超え，生徒を含めた協働に取り組んでいる．

15．「男女のミゾ」の正体―男女の相互理解のために― 黒川　伊保子 90巻8号 , 2023年8月 , pp.908-913

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要旨

　人間の脳の中には，「とっさに使われる思考回路」が2種類あり，それぞれに準じた対話方式2種がある．人は時と場合と立場によっていずれかを採択し，対話に臨むのである．そして，話者同士が異なる対話方式を採択すると，話がすれ違い，互いに相手が「ひどい人」「愚かな人」にみえてくる．さらに夫婦は大抵異なる回路を選びあうのである．人工知能研究の末に発見した「男女のミゾ」の構造を本稿で明らかにする．

連載　弁護士が答えます！法律にまつわるあれこれ

ネット上の問題投稿に対してとり得る手段は？水上　裕嗣 90巻8号 , 2023年8月 , pp.914-915

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Q　インターネット上のあるサイトに，当院を誹謗中傷する口コミが投稿されているのをみつけました．そのような投稿を削除してもらうにはどうしたらよいのでしょうか？

症例

子宮体部原発と考えられた悪性リンパ腫の1例田島　朝宇 , 柴田　三郎 , 眞田　功 , 大河原　進 90巻8号 , 2023年8月 , pp.917-924

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要旨

　子宮体部を原発とする悪性リンパ腫（ML）の症例を経験した．MRI検査および腫瘍マーカーより子宮肉腫を疑い手術を施行したが病巣の摘出は不可能であり，病理組織検査からMLの診断に至った．化学療法，放射線療法を行うも初回治療開始から9カ月で死亡した．子宮体部原発のMLはまれな疾患であるが予後不良のため，本疾患を念頭においた診療が重要であると考えられた．

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目次 90巻8号 , 2023年8月 , pp.818-819

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お知らせ 90巻8号 , 2023年8月 , pp.925-925

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お知らせ 90巻8号 , 2023年8月 , pp.926-926

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お知らせ 90巻8号 , 2023年8月 , pp.927-927

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投稿規定 90巻8号 , 2023年8月 , pp.928-929

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投稿論文チェックリスト 90巻8号 , 2023年8月 , pp.930-930

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投稿同意書 90巻8号 , 2023年8月 , pp.931-931

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バックナンバー 90巻8号 , 2023年8月 , pp.934-934

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本号掲載広告一覧 90巻8号 , 2023年8月 , pp.935-935

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次号予告 90巻8号 , 2023年8月 , pp.936-936

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基本情報

産科と婦人科
90巻8号
(2023年8月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0386-9792 診断と治療社

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