臨床泌尿器科 75巻9号 (2021年8月)

特集 ED診療のフロントライン―この一冊で丸わかり!

企画にあたって 辻村 晃
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 勃起不全(ED)に対する治療薬としてきわめて高い有効性を有するシルデナフィルの承認後,ED診療は急激に変化を遂げ,はや20年以上が経過しました.その間,EDという疾患が一般社会に広く認知されるようになりましたが,それでもEDを自覚した男性の5%程度しか医療機関を受診していないともいわれています.

 ただし最近では,EDを単なる陰茎の病態と考えるのではなくて,全身の血管性疾患の一症状として捉えるようになっています.つまり,動脈硬化により冠動脈や脳動脈が狭窄を来し,心筋梗塞や脳梗塞を発症する前に,さらに血管径の細い陰茎への血流が低下することでEDが発症するという考え方です.EDのリスクファクターには高血圧,糖尿病,脂質異常,肥満などがあり,生活習慣病であるメタボリックシンドロームとの関連性も注目されています.さらに,前立腺肥大症に基づく下部尿路機能障害(LUTS)や前立腺癌に対する治療も,EDのリスクファクターの1つです.また,加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)の主な症状として,うつ症状とともにEDが挙げられており,これらの相互関連性も指摘されています.男性不妊症の原因でEDを含めた性機能障害が占める割合は,この20年近くで4倍になっています.すなわち,EDは心血管系疾患やメタボリックシンドローム,LUTS,LOH症候群,うつ症状,男性不妊症のいずれとも関係性が深く,もはや単なるQOL疾患という位置づけではありません.

〈EDの病態〉

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▶ポイント

・勃起不全(ED)をみたら,背景にある糖尿病をはじめとした生活習慣病にも注意する.

・生活習慣病の治療による薬剤性のEDを見逃さない.

・虚血性心疾患を引き起こすリスクが高いため,動脈硬化への治療や生活指導も検討する.

メンタルヘルスとED 織田 裕行
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▶ポイント

・勃起不全(ED)とうつ病には関連があり,その関係は双方向性のものである.

・EDかうつ症状が認められる男性に対しては,もう一方の存在を確認することが重要である.

・「精神疾患の診断・統計マニュアル」に性機能不全群が含まれており,メンタルヘルスと性機能不全は関連が深い.

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▶ポイント

・前立腺癌根治療法後には手術療法,放射線療法などいずれのモダリティであってもEDが発生する.

・ED発生の観点については,ロボット支援手術の開腹手術に対する優位性,放射線治療の手術療法に対する優位性は特に示されていない.

・放射線治療後のEDに対しては,PDE5阻害薬が有効であることが多い.

性腺機能低下症とED 小林 皇
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▶ポイント

・加齢による男性ホルモンの低下に伴い,種々の症状が出現するLOH症候群の症状の1つにEDがある.

・本邦の疫学調査では,年代別に男性ホルモン低下と性機能症状の出現にばらつきがある.

・小児期から成人期に移行する性腺機能低下症には,適切な管理法に関する医学的根拠は乏しく今後の重要な課題である.

男性不妊症とED 今井 伸
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▶ポイント

・男性不妊症の原因に占める性機能障害(EDと射精障害)の割合は,近年増加してきている.

・男性の精液中の精子濃度および総精子数は,世界的にみて経時的に緩やかに減少傾向にある.

・若い男性の生殖機能や勃起機能に影響を及ぼす生活習慣や環境因子について,注意する必要がある.

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▶ポイント

・排尿障害と勃起不全(ED)は年齢,リスクファクター,病因など共通している部分が多い.

・排尿障害の治療薬でEDの副作用が起こりうる.

・一方の症状があるときはもう一方の症状を有している場合が多く,泌尿器科医として積極的に両者に関わる必要がある.

薬剤性ED 末富 崇弘
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▶ポイント

・薬剤の開始後4週間以内に勃起不全(ED)が発症した場合,または治療開始と性的副作用の発症に強い時間的関係がある場合,EDは薬剤誘発性とみなされる.

・薬剤性EDを疑った場合は,薬剤の変更または中止を検討するが,変更・中止は困難な場合が多い.

・薬剤性EDに対して,硝酸薬との併用などの禁忌がない限りは,PDE5阻害薬の処方が推奨される.

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▶ポイント

・EDの病態に基づいた適切な治療を提供する.

・PDE5阻害薬の禁忌や副作用に注意する.

・PDE5阻害薬内服時の注意事項を理解する.

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▶ポイント

・PDE5阻害薬が正しく処方されたものかどうかの確認と,PDE5阻害薬の再度服薬指導は重要である.

・PGE1の陰茎海綿体注射は効果が高い.

・陰圧式勃起補助具は有効手段だが,生産が終了している.

・ED難治症例の最終手段として,陰茎プロステーシスがある.

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▶ポイント

・プラセボと比較し,有意な勃起の改善を認めるサプリメントがある.

・勃起不全(ED)に関して,内服で症状を改善させることが重要である.

・PDE5阻害薬に加えてサプリメントを併用することにより,勃起不全の改善が認められる.

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▶ポイント

・低出力体外衝撃波治療は,多くの基礎研究によるエビデンスが蓄積されており,PDE5阻害薬と異なる再生医療の観点から有効な治療選択肢である.

・血管性勃起不全(ED)を対象としたランダム化比較研究も行われており,有意な治療効果が報告されている.

・軽症EDやPDE5阻害薬有効症例で治療効果を認め,重症EDもしくは糖尿病の既往がなければ長期効果も期待できる.

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▶ポイント

・視診でおおよその見当をつけ,陰茎海綿体内血液ガス分析とカラードプラ検査を行い虚血性持続勃起症かどうかの診断をすみやかに行うことが重要である.また,CTアンギオグラフィが診断に有用なことがある.

・虚血性持続勃起症は救急対応を要するものであり,脱血,生理食塩水で洗浄を行い,交感神経刺激薬を陰茎海綿体内に投与しながら,脱血・洗浄を継続する.それでも改善に乏しい場合は外科的治療に移行する.

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▶ポイント

・ペロニー病は陰茎海綿体白膜に線維性硬結が形成される良性疾患である.

・症状は硬結の触知,勃起時痛,陰茎彎曲,勃起不全などである.

・治療には保存的治療と手術があり,急性期は保存的治療を優先する.

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私信として,HoLEP(経尿道的ホルミニウムレーザー前立腺核出術)において,膀胱頸部に輪状切除を加えることで良好な成績が得られることを耳にした.標準的TURPで膀胱頸部の切除については,「膀胱頸部の必要以上の切除は膀胱頸部拘縮を起すことがあるので執拗な切除は不要との意見が多い.著者らは通常は膀胱頸部だけを最初に切除せず,膀胱頸部にかけたカッティングループを一気に精阜の付近まで一筋の切除を加えている.こうした切除を繰り返していくうちに自然に膀胱頸部は全周に切除されていく.その際,輪状線維膜の露出を目安として深く切除しないよう心掛ける.―Urologic Surgeryシリーズ1より」と成書のなかで記載した内容に通じる手法であり,我が意を得たとの思いであった.膀胱頸部の切除は内尿道口の開大が目的であり,同時に,前立腺肥大症の線維筋性型分症と考えられる膀胱頸部硬化症(bladder neck contracture : BNC)の存在を念頭に置いている(土屋文雄説1963年,水本竜助説1964年).

 ところで,昨今,BNCの病名を聞く機会が少ない.その原因には何があるのであろうか? BNCは,膀胱頸部の開大不全や硬化狭小(拘縮)化を主病変として,ほかに下部尿路閉塞症状を来すような明らかな器質的疾患を有しないものと定義されているが,本症の病態,病因について統一した見解は確立されていない.内視鏡的には,膀胱頸部の堤防状膨隆・挙上を認め,組織学的には粘膜下の結合織の増生が著明で,筋線維の萎縮膨化など退行性変化とともに間質の線維の増生が観察されている.しかし,このような器質的障害にBNCの原因を求める方向から,機能的失調に主眼を置く考え方に変化してきている.その背景には,尿流動態検査法による病態解析が大きく寄与している.本症は膀胱内圧上昇から最大排尿率が得られるまでの時間,最大開口時間の延長が特徴的であるといわれている.そこで,前立腺肥大症と同様に保存療法としてαブロッカーによる作用が期待されるが,改善効果は決定的でなく,最終的には外科治療が必要になると指摘されている.

連載 医薬系プレゼンテーションの技術―知れば,学べば,必ず上達!・第20回

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質問のパワー

 今回からは今までの“プレゼンテーションの技術”のノウハウ(本幹と枝葉)と異なり,プレゼンテーションの末端(味)についてお話ししていく.

 プレゼンテーションにおいて「質問」と聞くと,聞き手から話し手へ質問をするといったイメージであろう.しかし,プレゼンテーション中に話し手から聞き手へ質問をすることがあっても不思議ではない.あなたのプレゼンテーションの中に目的をもった質問を取り入れることにより聞き手に当事者意識を持たせることは,聞き手を惹きつけるテクニックの1つだ.そもそもプレゼンテーションは一方通行であってはならない.いかに双方向にプレゼンテーションを行うことができるかが,そのプレゼンターの本領が問われる.あなたはビジュアルスライド,言語テクニック,非言語テクニックを駆使して自分のストーリーの中に聞き手を巻き込んでいく.まるで聞き手と会話をしているかのように.もし,聞き手を,会場を巻き込むことができれば,あなたのプレゼンテーションは必ず成功する.そこで今回と次回の2回に分けて,聞き手を惹きつける,巻き込む「質問のパワー」のtips and tricksについてお話しする.

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 泌尿器科は,新生児から高齢者まで幅広い年齢層を対象とした診療科ですが,対象疾患も泌尿器悪性腫瘍から下部尿路機能障害,小児泌尿器疾患,女性泌尿器疾患,腎機能障害,腎移植,内分泌疾患,外傷など,多岐にわたります.通常診療においても,これらの疾患に対する幅広い診療を行う必要があります.加えて当直の際には,経験する機会が少ない疾患や教科書にあまり詳細に記載されていない疾患に対する診療を行わなければならないことがあります.日中ですと上級医に相談すればよいですが,当直時には自分自身で判断しなければならないケースも珍しくありません.一方,経験する機会が少ない疾患や病態については,上級医であっても治療方針の決定に苦慮することも少なくないはずです.

 本書は総論から始まり,外来診療および入院診療で緊急で対応しなければならない疾患,さらに泌尿器科医が対応に苦慮する疾患まで,非常に良くまとまって解説されています.経験する機会が少ない疾患はもちろんですが,当直で経験する可能性のある各種疾患についても,「絶対に見逃してはいけないポイント」や「診療のフローチャート」が記載されていますので,限られた時間のなかで診療方針を立てる際に役に立つと思います.また,救急外来で診る可能性のある急性期の疾患や,近年泌尿器科でも使用頻度が増えている悪性腫瘍に対する分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの有害事象への対処法は,通常の外来診療でも重宝できるかと思います.一方,超高齢社会を迎えた現在は高齢者の外科治療の機会が増えていますが,各種の術後合併症に対する対処法は,入院患者のケアに役立ちます.さらに,泌尿器科医があまり得意としない精神疾患や皮膚疾患に対する診療のポイントも詳細に記載されています.

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 薬学教育6年制を経た薬剤師が誕生して10年がすぎた.その数は約9万2000人を超える.この数字は現在医療に従事している薬剤師の約40%に当たる.この間に医薬分業の指標である処方箋発行率は75%を超え,街の薬剤師は処方箋を扱うのが主たる業務になった.また病院では薬剤師が病棟にいるのは特別なことではなくなった.評者が薬剤師になったばかりの1985年頃,薬局薬剤師は医薬分業を,病院薬剤師はクリニカルファーマシーをめざして病棟業務を,それぞれ目標に頑張っていた.それがある程度達成され,教育制度も臨床を重視する6年制へと移行したわけである.

 薬剤師を取り巻く状況の中で免許を取得した新人は保険薬局でも病院でも患者に向き合いながら薬物治療に関わることが日常になっている.しかしながら,保険薬局や病院は薬学生の実務実習を受け入れていくことに精いっぱいで,卒後の研修には手が回らなかったのが実情である.卒後研修は制度的には確立されておらず,オンザジョブトレーニングに頼っているのが現状である.

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 「物語能力(narrative competence)」は,臨床に携わる医師や看護師にとって大切なものです.しかし,どうしたらその能力を身につけることができるのかは,誰も教えてくれませんでした.

 物語能力とは,「患者の病気の背後に隠れた物語(ナラティブ)を感受し,その物語に心を動かされて,患者のために何かをなすような関係を作っていくための能力」であると,ナラティブ・メディスンの提唱者であるリタ・シャロンは定義しています.

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 泌尿器科は,新生児から高齢者まで全ての年齢層を対象としており,扱う領域は,悪性疾患,尿路性器感染症,腎機能障害,腎移植,下部尿路機能障害,内分泌疾患,性機能障害,小児・女性泌尿器など,多岐にわたります.教育病院,市中病院,民間病院,クリニック,それぞれの施設やそれぞれの地域において特徴的な医療を行っており,泌尿器科疾患の全範囲に常に触れているわけではありませんので,全ての最新知見に精通している泌尿器科医は決して多くないと思います.一方,診療ガイドラインの改訂や取扱い規約の改訂は,以前よりも間隔が短くなっており,各自の守備範囲としている領域においても,全ての改訂内容をフォローできている専門医は決して多くはないことと思います.インターネットが身近に利用できる環境が整い,検索すれば最新情報を入手することは可能ですが,あまりなじみのない領域ではキーワードすら思いつくことができず,自分の知識をアップデートするのはなかなか容易ではないのが現実ではないでしょうか.

 本書では泌尿器科診療の全ての領域にわたって,最新情報として押さえておくべきポイントについて,それぞれの専門家がコンパクトにまとめて記載しています.セッションの冒頭で,以前の常識(平成の常識)と現在の常識(令和の常識)がコラムとしてピックアップされています.これまでの常識について,「確かにそうであった」とうなずきながら読むことで,読者はここで安心することができます.そして,これまでの診断や治療の変遷を踏まえて読み進めることで,新しい常識を吸収しやすくなっているのが,本書の特色だと思います.診療ガイドラインや取扱い規約が改訂されて多数出版されていますが,本書では現在の常識として改訂ポイントをピックアップして記載しているので,最新の知見と改訂ポイントを一読で確認することが可能です.本邦の各種診療ガイドラインにおいて,EAUやNCCNガイドラインのような小まめなアップデートは,現実的には困難です.そのような現状ですが,次の診療ガイドラインが出版される前に,WHO分類のアップデートに伴う知見や海外のエビデンスを基にした知見など,すでに日常診療として実践されていることが多々あります.また,新規治療薬の国内承認が相次ぎ,用法追加承認もしばしば行われています.診療ガイドラインでは追いついていない治療方法についても,本書では新しい常識として取り上げられており,up to dateの診療を患者に提供する際の根拠として利用することが可能です.

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目次

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 近藤 幸尋
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 日本でフルーツ王国として上位に挙がる都道府県として,山形・福島・山梨・岡山県などがあります.山形は洋梨,サクランボ,ブドウ,リンゴなどが有名ですが,奥羽山脈や朝日連峰などの山々からミネラルたっぷりの水が流れ込む立地とはっきりとした四季,特に夏の昼夜の寒暖の差が大きいことが,果実栽培に向いている理由だそうです.

 小職の勤務する日本医科大学は,第二次世界大戦時に山形に疎開していた関係で,関連病院が今でもいくつか存在しています.そのため,毎年山形の病院から医局にサクランボを送っていただいています.しかし,今年のサクランボは不作のようで,山形県内の収穫量は昨年の73%にあたる約9500トンで,1万トンを割るのは1996年以来とのことです.1万トンに近い収穫量ながら少ないとされるのは,それだけ日本人の胃袋に入るばかりか,現在の山形のサクランボは輸出品にもなっているからだと思われます.

基本情報

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臨床泌尿器科
75巻9号 (2021年8月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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