臨床泌尿器科 71巻6号 (2017年5月)

特集 症状と向き合う漢方の処方─“二刀流”それとも“一刀流”?

企画にあたって 皆川 倫範
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 宮本武蔵の二刀流は「二天一流」と呼ばれる流儀で,右手の大太刀と左手の小太刀で戦う剣道の流派である.他方,日本の医師免許は西洋薬と漢方薬の両方を処方できる“二刀流”ライセンスである.当たり前のようだが,国際的にはそうでもない.中国や台湾では,漢方薬の診療を行うには別の教育を受ける必要があり,それぞれが特化されている.西洋と漢方の“二刀流”診療ができるのは,本邦の特徴であり長所である.

 しかし,「日本の医師が皆二刀流で診療しているか?」というとそうでもない.「あの人は漢方が得意だから」といわれる一部の医師だけが“二刀流”なのである.それどころか,あまりに得意すぎると“一刀流”になってしまう.そして,完全にそれぞれの診療体系を尊重した形で“二刀流”を実践すると,多少の無理が生じる.その主たる原因として,処方基準が異なる点が挙げられる.西洋医学では処方基準が診断名にあるのに対し,漢方医学では処方基準が体質と症状にある.それらを別々に取り扱うのが混乱のもとかもしれない.また,「証」や「陰陽」など,不慣れな概念を無理に診療に持ち込もうとするのも問題である.症状はともかく,体質といわれても多くの泌尿器科医には困る話である.もともと,漢方医学は画像診断などがないところから組まれた医療体系で,証や陰陽は処方の打率(奏効率)を上げる1つの工夫である.現在の医療においては,通常の診療である程度の検査をすれば,ある程度の疾患や病態が絞れてしまう.

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▶ポイント

・泌尿器科の領域のなかでは,下部尿路症状に処方してみるということが漢方使用としてはハードルが低い.

・下部尿路症状に対する最も代表的な処方は腎気丸系統〔牛車腎気丸(ごしゃじんきがん),八味地黄丸(はちみじおうがん)など〕で,清心蓮子飲(せんしんれんしいん)も覚えておいてよい処方である.

・その他,精神安定作用や体を温めることを目標として,西洋薬にない効果を得ることもある.

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▶ポイント

・漢方薬を用いることで,西洋医学で治しにくい病態(冷え,腹痛,便秘)に対応できる.

・西洋医学にない概念 : 同病異治(同じ病気でも異なる薬で治す),異病同治(異なる病気でも同じ薬で治す).

・服用方法を工夫することで,小児患者にも漢方薬は投薬可能である.

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▶ポイント

・過活動膀胱には牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)がよく使用され,作用機序も明らかになってきている.

・再発性膀胱炎や女性の陰部不快感など,西洋薬では対応できないものに対しても漢方治療は有用である.

・漢方治療は,西洋医学的な視点だけにとらわれずにさまざまな方面からその人にあった治療を行える手段として有用である.

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▶ポイント

・泌尿器科領域のうち,男性性機能障害,男性不妊症,男性加齢性腺機能低下症候群といったアンドロロジー領域においては,漢方薬も有力な治療法の1つである.

・漢方薬は,主体となる治療法と相補的に使用可能で,疾患によっては高い有効率も期待できる.

・副作用は比較的軽微であり,患者満足度も考慮して,漢方薬の投与を検討する.

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▶ポイント

・食前に漢方だけ内服していると水分の取り過ぎになってしまう.「食後・1日1〜2包でもよし」とし,食前,通常使用量にこだわらない.

・目標は症状緩和であり,透析という大太刀に,漢方という小太刀を合わせて,高齢者を細く長く補っていくという考えが重要である.

・まだ知られていない小太刀があると思われ,エビデンスを自分で積み上げていく必要がある.

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▶ポイント

・抗がん剤の副作用は多岐にわたるが,西洋薬のみではコントロールが難しい場合がある.

・悪心・嘔吐に対する六君子湯(りっくんしとう),末梢神経障害に対する牛車腎気丸(ごしゃじんきがん),下痢に対する半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう),関節・筋肉痛に対する芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)は,種々のがんにおいて副作用の改善効果を示している.

・作用機序の違いから西洋薬との“二刀流”診療によって,より安全で効果的な副作用管理が可能となる.

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▶ポイント

・分子標的薬における手足症候群は抗炎症作用と水滞,瘀血に対する方剤が有用であった.本稿ではガイドライン推奨の治療に加え,柴苓湯(さいれいとう)と桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の併用により軽快した症例を提示した.

・口内炎に対しては,半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)の含嗽や塗布,立効散(りっこうさん)の有用性が報告されている.

・がん患者には補剤や駆瘀血剤の処方が勧められている.

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▶ポイント

・がん終末期に起こりうる症状をできるだけ予見し,遅滞ない対処を心がける.

・漢方薬も症状に適合したものを,早め早めに投与する.

・そのためには,がん患者の予後予測が重要となる.

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▶ポイント

・全身倦怠感の存在は,心身への過負荷と不快感を惹起し,活動能力・活動意欲の低下へとつながる.

・新薬を使った治療法は,攻撃目標や特定の作用点がないため不可能である.

・サイエンス漢方処方からみると,漢方薬は変調を来したシステムが正常に働くように仕向ける応答を引き出しているので,全身倦怠感を改善させることができる.

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▶ポイント

・冷えの概念は主に東洋医学・漢方医学で発展したが,科学的にも研究対象となりうる万国共通の身体的特徴ないし症候である.

・冷えはそのものだけでなく,頻尿や便秘などさまざまな臓器機能障害の誘因となりうるので,冷えの問題を解決することはほかの症候・症状をコントロールする治療ターゲットとなりうる.

・頻尿と冷えの関連に注目して漢方薬を用いることは,診療の幅を広げるので有意義である.

専門医のための泌尿器科基本手術

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ポイント

・経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of bladder tumor : TUR-BT)の目的は,筋層非浸潤性膀胱癌の完全な切除と,癌の適切な評価(深達度,悪性度)である.

・高精度の内視鏡システムとモニターは,質の高いTUR-BTの達成に重要である.

・TUR-BT標本の評価においては病理医との適切な連携が必須である.

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ポイント

・経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of bladder tumor : TUR-BT)は泌尿器科における確立された基本術式であるが,基本の手順をルーチン化し,踏襲することによって,本術式の目的である完全な切除と正確な診断を確実に達成できるようにする.

・穿孔を回避しつつ,病理学的評価に適した標本を採取するための切除ラインをイメージし,イメージ通りの切除を達成することが重要である.

・頻度が高く確立した術式であるがゆえに,チェックポイントを意識し確実に実施することで,思わぬ失敗を回避することにつながるかもしれない.

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 本書は,筆者の國頭先生が「死に臨んだ患者さんにどう対応したらよいか」について,看護大学の一年生,つまり,ついこの前まで高校生だった人達と問答したり対話したりした様子をまとめたものである.死にゆく患者さんと話をするのは,がん領域の医療者であっても,しんどいことである.私も昔,乳がんで骨転移のある患者さんに「良くならないのだったら,いっそのこと早く死にたい」と言われて往生した.医療者がへどもどする姿がみっともないのは自明であり,なるべく避けているのが無難でもある.「この病院ではできることがなくなりましたので,転院をお勧めします」という常套句は患者さんが言われたくないセリフの1つであるが,医療側にとっては救いの抜け道であるが故に,今日もどこかで「がん難民」が生まれているのだろう.

 しかし,「それをやっちゃあ,おしめえよ」と國頭先生は言う.「“どうせ治らないから”といって患者を見放すことは許されない.死んでいく患者といかに向き合い,少しでもベターな“ライフ”を過ごしてもらえるか,というのは我々の使命である」と序盤から活を入れる(「はじめに」より).理由も単純明快で,患者さんは死を迎えるその日まで生き続けるわけだし,果てしない孤独と山のような不安を抱えながら歩くのはつらかろう,だからそれを理解している人が三途の川の手前までついて行かなきゃいけないのは道理でもあり,人情でもある.それに,心を穏やかに保てさえすれば限られた時間を豊かに過ごすことができるだろう.おお,シャクにさわるくらいかっこいいではないか.実際は,かわいい学生たちに囲まれて,やに下がっているひひジジイにしか見えないのだけれど.それはともかく,問題はどうやって実現するかだ.出される課題は,先生が監修されたTVドラマ『白い巨塔』(平成版)などに登場する,「恩知らずで,気紛れで,偽善者で,尊大で,臆病で,自分勝手で,欲張りで,厚かましくて,けちで助平で馬鹿」な(p.248)患者や家族と医療者が織りなす,リアルでややこしい事例である.さあ,みんなどうする?

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次号予告

編集後記 近藤 幸尋
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 「今年のゴールデンウィークは,凄い」「月曜日と火曜日を休むと9連休」といった航空会社や旅行会社のコマーシャルを尻目に,ゴールデンウィーク後に米国泌尿器科学会があるためそんなに休んでいたら大変だと考えております.

 「大変だ」と最近考えることの1つとして,腎癌に対する免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブがあります.このニボルマブはチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)に加わる新たな治療薬ですが,効果もあれば副作用のバリエーションも豊富で,患者側からはTKIの副作用よりも軽く,食欲もあり快調との声も聞く薬剤です.このニボルマブは,発売当初は悪性黒色腫に対する希少疾病用医薬品のため高い薬価がついていましたが,肺癌の適応拡大により一気に使用量が増えました.薬価が1か月で約300万円,1年間で約3500万円もかかるために,「この一剤を契機として,国が滅びかねない」と危機感が出て,この春に薬価が削減されました.当初25%の削減と思われていましたが,財務省の後押しで一気に半減しました.

基本情報

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臨床泌尿器科
71巻6号 (2017年5月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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