臨床泌尿器科 48巻8号 (1994年7月)

特集 新しい自律神経機能検査と泌尿器科領域への応用

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 ヒトの交感神経機能の測定は,従来から末梢効果器での反応を測定することにより行われてきた。すなわち心拍数,血圧,末梢血流量,発汗量などの安静時活動を測定し,Valsalva法,起立負荷,温熱負荷などを与えた際における変化量の割合を安静時活動との関係で評価してきた。現在,日本自律神経学会が編集している自律神経機能検査1)のマニュアルには46にわたる生理学的検査法が記載されているが,マイクロニューログラフィー以外のすべての方法はこの従来からの概念を踏襲している。

 これに対し,マイクロニューログラフィー(microneurography,微小神経電図法)による交感神経活動の記録は,1968年にスウェーデンでHagbarthとVallbo2)により初めて報告され,ヒトの交感神経活動を電気生理的に直接記録する方法として用いられるに至っている。本法によってヒトの交感神経機能の変化をリアルタイムで直接観察し得るようになった。マイクロニューログラフィーによる交感神経活動の研究は,その後,Wallinら3)により進められた。日本でもわれわれの研究室をはじめ,各施設で本法を利用した研究が行われている。最近,アメリカ合衆国,カナダ,イタリアでもマイクロニューログラフィーによる研究が盛んとなり,特に循環器領域,高血圧領域での研究が多く行われている。

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はじめに

 自律神経系の作用は申すまでもなく,心臓や呼吸器,消化器,尿路生殖器,汗腺などの運動や分泌を意志とは関係なく制御しているものであり,生体のホメオスターシス(恒常性)維持機能に重要な役割を果たしている。自律神経の中枢は脳と脊髄にあり,その生体諸臓器の調節機能のための情報は交感神経と副交感神経の遠心路を通って末梢の効果器に伝えられる1)。この遠心路の情報量を評価して,自律神経に関連する諸疾患の診断,治療,予後の判定に役立つ検査法が自律神経機能検査法である。この検査法も臨床検査方法論の基本として,当然ながら特異性,再現性のほか,被検者への侵襲が少なく,簡便であることなどに重点が注がれ,新しい方法論が改良,開発されながら今日に及んでいる2)

 本稿では,筆者らの開発した手掌部や足底部の精神性発汗量を連続的に記録することの出来る装置3,4)の概要とその装置を用いた自律神経機能検査法の有用性について解説し5,6),最後に泌尿器科領域への臨床応用について考察したい。

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はじめに

 排尿機能とは膀胱での尿貯留(蓄尿)とその周期的な排出(排尿)であり,自律神経と体性神経の両方の支配下で行われている。近年の神経生理学的研究から,排尿反射は単なる脊髄反射ではなく,脳幹部の橋排尿中枢を経由する長経路の反射であることが明らかとなった1,2)。橋排尿中枢は前頭葉を初め脳内各部位の調節作用を受けており2),これら神経経路のどこかに障害があると排尿異常を来たす。一方,勃起に関する神経支配も脊髄や末梢では排尿とほとんど同じ神経を介して行われている。

 排尿機能評価は膀胱内圧曲線や外尿道的括約筋筋電図測定といったいわゆるurodynamic studyにより,勃起機能評価は陰茎周径増大変化測定(penile tumescence monitoring)や陰茎硬度測定(penile rigidity curve)などにより行われている。しかし,機能障害の原因となる神経病変部位を詳細に検討するには,末梢神経伝導速度や誘発電位測定などの神経生理学的検査が必要となる。

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はじめに

 機能的電気刺激(Functional Electrical Stimu-1ation;FES)は,失われた生体機能を再建することを目的として行われる,電気刺激療法のことをいう。最近では,脊髄損傷などで麻痺した上下肢の機能を電気的刺激を用いて再建しようとする試みが発展しつつあるが,本邦では半田,星宮らの仙台FESグループの業績が,世界的にも高く評価されている1,2)。FESは,整形,脳外科領域のみならず呼吸器,循環器,感覚器などにも応用されており,泌尿器科的にもすでに数十年の歴史をもつが,本領域での電気刺激(特に尿失禁に対する治療)は,四肢のFESで行われているような,高度な動作の再建ではなく,むしろ治療的電気刺激(Therapeutic Electrical Stimulation;TES)の範疇に分類されるべきものと思われる。本稿では,泌尿器科領域における電気刺激療法の中で,主として尿失禁に対しての加療を概観するとともに,筆者らの得た最近の知見についても若干触れることとする。

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はじめに

 いわゆる心不全に至った重症患者において,右心不全と左心不全の違いにより治療方法が相反する場合がある。また左右いずれかの心不全は速やかにかつ容易にもう一方の心不全を引き起こし,両心不全に陥りやすいといわれている。そのような場合は右心機能と左心機能の分離評価の上に,経時的変化を監視する必要がある。

 前記二つの病態では結果的に全血管内血液量が体循環と肺循環との間で移動が生じている。すなわち左心不全では血液量が肺循環に向かってシフトし,また右心不全では体循環に向かってシフトする1)

レーザドプラ血流計測法 辻岡 克彦
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はじめに

 血流計測は,循環動態の解析に重要であるが,先端技術の導入により計測法が進歩してきた。血流の計測には,生理学的に二つの側面がある1)

 第一は,エネルギー供給という側面であり,この場合は臓器血流の計測が重要である。すなわち,血流量,特に平均血流量が計測対象となる。第二は,血管内部における血流の流れを流動態学的に解析する血行力学的側面である。この場合は,拍動性の血流速度あるいは血流速プロフィルの計測が重要であり,電磁血流計,超音波ドプラ血流計,それにレーザドプラ血流計が用いられる。

手術手技 基本的な手術・3

腎部分切除術 秋山 隆弘
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 腎癌を主な対象とした腎部分切除術の諸手術々式の手順を紹介する。腫瘍の性状によりいくつかの切除様式から選択ができること,術式による腎血流遮断の要否,切除後の血行と尿路の両面からの断面処理法について述べる。また,本法の適応決定に必要とされる術前評価,手術上必要な腎血管系の理解,阻血腎組織障害の防止,術後の注意点などについても併せて述べたい。

コメント・1 増田 富士男
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腎部分切除術の問題点

 無症状の小腎細胞癌が偶然に発見されることが多くなり,腎細胞癌に対して腎部分切除術の施行を考慮する機会が増してきた。秋山先生の「腎部分切除術」は手術手技を具体的に,詳しくかつ解りやすく述べられており,腎部分切除術を行う泌尿器科医にとって有用なものと考えられます。秋山先生の考え方や手術手技は,原則的には筆者のそれと同じですが,最近の6年間に腎細胞癌21例に対して行った腎部分切除術の経験をもとに,日頃考えている2〜3の問題点について述べてみたい。

コメント・2 眞崎 善二郎
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 腎部分切除術は腎保存を目的としたものであるため,少なくとも手術そのものの技術的問題や阻血に伴う障害などによって腎を失うことは是非とも避けたいものである。したがって一層の慎重さを必がけるべき術式である。基本的には秋山先生の方法あるいは方針と大きく異なることはないが,われわれが常日頃留意していることを述べる。

講座 泌尿器科領域の光学的ME機器・1

レーザー治療の基礎技術 荒井 恒憲
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はじめに

 従来から泌尿器科領域はレーザー尿路結石破砕に代表されるように,レーザー治療の先進的応用分野である。最近,前立腺肥大症のレーザー治療の発展によって,改めて泌尿器科領域のレーザー治療が関心を集めている。本稿では今回より始まる講座「泌尿器科領域の光学的ME機器」の初回として,レーザー治療の基礎原理を平易に解説する。泌尿器科領域では一般の外科術中にレーザーを切開,止血・凝固に使用する場合もあるが,本シリーズでは管腔臓器である尿路系の特性を生かしたレーザー治療・光診断を主題とする(図1)。

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 当科における過去1O年間の初発表在性膀胱癌59例を,遡及的に解析した。無処置群(13例),アドリアマイシン注入群(15例),マイトマイシンC注入群(8例),(2″R)-4′-O-テトラヒドロピラニルアドリアマイシン(THP-ADM)注入群(20例)の初回再発率および平均再発期間は,それぞれ61.5%,11.3か月,53.3%,14.3か月,37.5%,16.3か月,15.O%,28.7か月であった。Kaplan-Meier法による実測非再発率は,THP-ADM群が無処置群に比し有意に高かった。再発例の検討で,多発性腫瘍が単発性に比し有意に多く再発しており,腫瘍数が初回再発の危険因子として重要であると考えられた。制癌剤感受性試験を施行した14例では,症例間で感受性に大きな差を認め,感受性も高いと判定された制癌剤による治療成績は極めて良好であった。

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 陰茎・陰嚢剥皮症に精巣複合脱出症を合併した稀なスキー外傷例を経験した。症例は23歳の男性で,転倒した際に外れたスキー板がスキーウエアを破り,症例の大腿部から会陰部を通過し受傷した。手術により左精巣を還納・固定し,創縫合し合併症なく治癒した。精液検査は3か月後に正常値に回復した。ルーズなスキーウェアは,鋭利な先端が引っかかりウエアを突き破る危険性が増し,本例のような外傷を引き起こす可能性がある。

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 非触知停留精巣の2例に対して経鼠径的に腹腔鏡検査を行った。片側停留精巣症例では患側の鼠径管を切開し,直視下にヘルニア嚢からトロッカーを挿入し腹腔鏡検査を施行した。両側例では一側の精巣を触知したため,その精巣固定術の途中でヘルニア嚢から腹腔鏡検査を施行し,対側の非触知精巣を観察した。本法は直視下にアプローチできるため安全な方法であるばかりでなく,通常の臍下縁からの腹腔鏡と比べても観察に関しては遜色ない。

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 43歳男性。主訴は,夜間頻尿,残尿感,尿失禁。高血圧,代謝性アルカローシス,血漿レニン活性高値,両側の水腎水尿管,膀胱拡張が認められた。特発性中枢性尿崩症と診断し,1—amino−8—D arginine vasopressin(DDAVP,デスモプレッシン)点鼻開始2か月後,症状は軽快した。また,尿路拡張は軽減し,血圧は正常となり,レニン活性の正常化とともに代謝性アルカローシスも改善した。

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 去る5月14日から6日間,米国サンフランシスコで行われた第89回AUAに参加する機会を得た。米国のみならず,日本からの約140名をはじめとして,世界各国からも多くの泌尿器科医が参加した。学会は5月14日と15日に80から成る教育プログラムと卒後プログラムが用意され,5月15日から特別講演,パネルディスカッション,そして約1,200の一般演題が10余りの会場に別れて行われた。私は5月14日に現地入りし,17日に自身の発表があり,すぐに帰国しなければならないという制約があったので,前立腺癌の早期診断,前立腺肥大症のレーザー治療などを中心に聞いた。

 前立腺癌は,米国男性の癌死の上位を占め,依然として増加傾向にある。そして,その腫瘍マーカーであるPSAが世界的に普及していること,また,より感度の高い測定キットが普及しつつあることから,早期の前立腺癌の診断あるいは前立腺全摘後の再発を早期に発見するための有力な武器となっており,ここ数年本学会のトピックスを独占しているといっても過言ではない。今回はPSAを中心とした診断に関する目新しい報告はなかったようであるが,米国における医療費の増大と,それに対するクリントン大統領の医療保健制度を背景としたためか,前立腺癌の診断と治療をめぐる医療経済効率に関する報告が多く,私はとくに16日に行われた"To treat or not totreat"というパネルディスカッションを興味深く聞いた。

病院めぐり

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 倉敷中央病院は,山陽本線倉敷駅の近く,「白壁の町くらしき」という観光名所,美観地区の近くにあります。岡山市の後楽園,倉敷の美観地区(大原美術館を含めて),そして瀬戸大橋をみるというのが一般的な観光ルートのようです。

 当院は,1923年(大正12年),倉敷紡績社長,故大原孫三郎氏により,倉紡中央病院として創立され,数年して倉敷中央病院と改称,独立採算制となり,昭和9年,財団法人に改組,財団法人倉敷中央病院となっています。本年6月2日には71回目の創立記念日を迎えました。

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 日本泌尿器科学会総会における卒後・生涯教育プログラムは,私のように第一線で臨床に携わっている医師にとっては大変勉強になり,第7回目から積極的に出席聴講しています。第4日目(4月9日)の早朝には同時進行で「泌尿器科手術とコツ」の教育プログラムも行われ,こちらのほうにも出席したかったのですが,あえて「保険診療と泌尿器科」のほうを選びました。と申しますのは,ホルモン抵抗性再燃前立腺癌あるいは進行性膀胱癌に対するエトポシドによる治療が保険上妥当かどうかを知りたかったからです。

 本プログラムで,有吉朝美先生は医師裁量権について「診断名には裁量はない。正しいか間違いかのいずれかである。しかし実際の臨床における医療内容はきわめて多様でファジーなことが多く,数学のように論理的で正解は1つだけということはない。個人差の大きい患者の治療のために,検査の種類,治療の組み合わせなど,多数の選択肢の中から裁量しなければならない。このような裁量こそが医師に委ねられた最大かつ本質的な業務である」と述べられておられます。

基本情報

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臨床泌尿器科
48巻8号 (1994年7月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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