病院 72巻5号 (2013年5月)

特集 これからの看護教育と病院

巻頭言 神野 正博
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 社会保障・税の一体改革が想定した2025年.この年,わが国では少子化とともに,いよいよ団塊の世代が後期高齢者(75歳)に突入する.高齢社会では,認知症人口の増加が危惧され,また一体改革が目指す在宅医療の充実や地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みが求められている.

 一方,医療は進歩する.最先端の工学,化学や情報技術の恩恵に加えて,免疫学の進歩は移植医療を発展させ,分子生物学の進歩は遺伝子治療,そして注目されている再生医療などへと発展することだろう.

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 これからの看護教育を考えるにあたり私(井部)にとって原点となる2つのことがらがある.1つはフランスの病院での体験である.2004年に医療安全を確保するためにどのような看護体制をとっているかを視察しにパリの病院を訪れた.われわれ一行は,セーヌ河畔に位置する夕方のムラン・ミューロ病院にいた.看護学生が1人いたので看護教育について尋ねた.彼女は学校に入って手洗いなど基礎的なことを習うとすぐに臨床に出る.臨床のナースが先生のようなものであると言う.また分娩室で勤務していたベテランの助産師は,いつから独り立ちしたのかというわれわれの気弱な質問に,「卒業した翌日からよ」と言い,「学生の時にそのための準備をしてきたわけだから」と胸を張った1)

 2つ目は,日本看護協会の調査報告である.新卒看護師の70%以上が「入職時1人でできる」と認識している技術が,看護基本技術103項目のうち4項目であったというデータである.それらは「基本的なベッドメーキング」「基本的なリネン交換」「呼吸・脈拍・体温・血圧を正しく測定」「身長・体重を正しく測定」であった(2002年 新卒看護師の『看護基本技術』に関する実態報告書)2)

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■変わりゆく臨地実習

 看護基礎教育の特徴の1つは,臨地実習のウエイトが大きいことである.看護学は実践科学と言われているので,実践において〈看護の知と技とアート〉を統合したケアを,患者の個別性を考慮して提供できる基本的実践能力を養うことが大きな目標となる.

 しかしながら,実際の臨地実習では,学生が患者の個別的ケアを実践する状況が十分に整えられているとは言い難い.筆者は,これまで30年にわたり実習病院における臨地実習に携わってきたが,ここ数年,臨床現場の著しい変化は,学生の教育に大きな影響をもたらしている.

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 2009年7月15日,「保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律」が一部改正された.そして2010年4月1日,新たに業務に従事する看護職員の臨床研修が努力義務化として始まった.この法改正の目的は,新人看護職員研修を充実させ,看護の質の向上,新人看護職員の離職防止をはかり,国民に対して安全で安心な医療を確保,提供することにある.

 筆者は,急性期病院の看護管理者であり,厚生労働省の新人看護職員臨床研修検討会の委員を務めさせていただいた.検討会では,臨床現場の調査を踏まえ,現場が抱える問題が議論され,制度の創設に至る過程に関わることができた.さらに現在では,実地指導者,教育担当者・責任者の研修に携わっている.

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 公益社団法人日本看護協会(以下,本会)は,2012年4月に「継続教育の基準 Ver.2(以下,本基準)」を公表した.これは2000年に作成した「継続教育の基準」を,この十数年の経過とこれからの看護を取り巻く環境の変化を踏まえて見直したものである.本稿では,本基準に加えられた「継続教育における今日的課題」の中から新たな取り組みを志向する課題を中心に述べる.

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■高度実践看護能力の養成事業に取り組むきっかけ

1.時代の急激な変化

 医療の高度化・複雑化,高齢化,疾病構造の変化,医師・看護師不足などの諸問題が顕在化し,医療提供体制や医療現場にも変化が求められている.このように変化するニーズに対応するための方法やシステムづくりは,ハード面を整備することで,ある部分まで取り繕うことは可能と考える.しかし,人材養成は,教育に時間と手間がかかるため,時代のニーズに追いついていかない.したがって「医療崩壊」という言葉で医療関係者に語られてきた病院医療の,人材面での実態改善にはまだまだ格差が生じている.このような時代に,国立病院機構が病める人や家族に少しでもよい医療を提供しようと考えて,近年取り組んできたことを報告したい.

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 医療・看護・介護の連携・連続については,結果としての医療費抑制への期待もあって近年さらに意識が高まっている.地域連携は紹介状と患者のやり取りによる病診連携,あるいは開放型病棟の普及と共同指導が1つの流れであったが,共同指導やそのベースになる開放型病棟は,日本型の医療体制にあっては患者負担の増加を招くこと,診療所の医師の多忙などを表面的な理由としてなかなか浸透せず,多くの連携の拠点となってきた病院では,ある意味で手詰まりの状況となっている.

 このような状況にあって,一方ではDPC(Diagnosis Procedure Combination)の普及が急性期病院の在院日数を劇的に減少させたが,他方で直接住居に戻れる状況まで待っての退院ではなく,次の病院への転院を前提としていることが少なくない.極端な場合,入院時点で2週間後の転院先を患者家族が探して確保することが入院の条件とされているということさえある.このような患者を引き受ける亜急性期あるいは回復期,さらには慢性期を担う病床は数的にも十分であるとは言えず,また老健や特養は入所待機者が多く適切な療養ができる環境を得ることは相当に困難な状況となっている.

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 上尾中央医科グループ(AMG)は,1964年12月開院の上尾中央医院(上尾中央総合病院の前身)を発祥として50年目を迎えようとしている.開設時16床だったベッド数も,2013年3月1日では9167床.現在関東地区を中心に病院数27,老人保健施設20,老人福祉施設2,その他訪問看護・介護ステーション,グループホームなどを展開している.「愛し愛される病院・施設」を理念とし,「医療・福祉・教育」の3本柱を掲げ,日々,努力を惜しまず邁進している.

 職員教育は,非常に重要で組織運営には欠かせない.看護局では「看護職員キャリアラダー」を数年前に作成した.個人の段階的な成長と自身のやりがいにつなげたいと願い,概論的ではなく「明日から実行できる研修」を実施している.

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 「安い・近い・親切」,月9,000円とは何の価格と考えますか? これは春日部市立看護専門学校の授業料である.自治体行政の経営自体が厳しいこの時代に,春日部市が看護師養成のために年間約1億円を計上し,全国でも珍しい授業料である.さすがにこの価格は今年4月からは少し値上がりの予定であるが….

 春日部市は関東平野のほぼ中央,埼玉県の東部に位置する.人口は約24万人,世帯数約10万世帯が暮らし,古くは日光街道の要所地点,現在は都心への通勤圏内のベッドタウンとして発展し,アニメの「クレヨンしんちゃん」のまちとして知られている.春日部市立病院と看護専門学校の沿革は表1に示すように,病院設立55年,看護学校設立40年という歴史がある.時代や環境の変化のなか,ほとんどの公立病院の看護学校は役割を終え廃校に至ったが,春日部市は春日部市立看護専門学校と市立病院を独立させて維持運営している埼玉県内でもめずらしい自治体である.

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 長田病院は福岡県柳川市にある182床のケアミックスの病院で,看護体制は7対1である.少子高齢社会を迎え,医療介護を取り巻く環境は,ますます厳しく,柳川市の高齢化率は2014年度29.5%と推計される.その中で地域ニーズにあった医療サービスを提供していくためには,医療の質を向上させる必要があり,そのための人材育成が求められる.

 当院では,職員1人ひとりの強みを活かす組織づくりを目指しES(従業員満足)からCS(顧客満足)を向上させるために,加点主義人事考課制度を導入した.人材の育成と活用を行うため「働き甲斐を支援する」「働きやすさを支援する」「体系的な教育システムの構築と運用」の3つに分けて対策を行ったのでここに述べる.

グラフ

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 1953年に79床で開設した聖マリア病院は,地域社会のニーズに合わせて発展し,今や1354床を有する.診療圏は久留米市を中心に福岡県・佐賀県全域,さらに大分県や熊本県の一部地域にも及ぶ.

 本年1月,同院の新棟が稼働した.救命救急や集中治療室,検査,手術室,病棟等から成る.患者への目配りがしやすいレイアウト,ICタグを利用したセキュリティ,陰圧等の空調による感染対策をはじめ,「安心・安全や働きやすさ」を重視した設計で,機能的に造られている.色調もフロアの用途に合わせて爽やかかつ落ち着いた雰囲気だ.

連載 アーキテクチャー 第220回

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■プロジェクトの背景

 心臓血管研究所付属病院は,第一生命保険株式会社の寄付により1959年に設立された財団法人心臓血管研究所が運営する循環器専門の病院である.既存建物の設備老朽化に伴い,近接した今回の敷地に移転新築が決定された.建て替えの基本方針として,稼働病床数は減らさずに建物規模を大幅に縮小し(延床面積20%減),運営上も無駄をなくして,効率性と機能性を向上させ,さらに患者にとってもスタッフにとっても魅力ある病院とすることが求められた.

 敷地は正面側に六本木ヒルズの建物群が並んでいるが,反対側は閑静な住宅街になっていて,建築基準法の日影規制のために,北面・西面で各階セットバックが必要となり,階高も低くおさえなくてはならないという,病院建築にとってはかなり厳しい制約条件があった.これらの条件を克服して,エビデンス(根拠)に基づく計画を推進し,建築主の納得がいくプランを実現させるまで,数多くの打合せを重ねた.

連載 世界病院史探訪・2

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ディヴリィ(トルコ)

 人口1万4000人の小さな町ディヴリィ(Divrigi)には,世界遺産のウル・ジャーミィ(大モスクの意味)があり,往時はモスク兼病院であった。メンギュジュック朝の総督(Mengucek Bey Ahmet Shar)とその妻により,1228年に建てられた.丘の中腹に位置し,北側がモスク,南側に病院の入口がある.

 美しいイスラム紋様が刻まれたアーチ形の病院門を入ると,中は100畳位の広さの病室が1つあるだけで,中央に菱形の石風呂が設置されている以外,現在は何も置かれていない.

連載 決算書類を読みこなす・5

管理会計 牧 健太郎
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■管理会計とは

 本年1月号の連載開始時に管理会計の定義を明らかにしました.管理会計とは,会計データの報告先として病院の経営者を想定するものです.したがって,極言すれば,経営判断に資する結果が得られるのであれば数値の客観性・確実性・検証可能性は問いません(とは言っても,根拠が全くなく,蓋然性も評価不能なデータを基に経営判断を行うことはできませんので,これは文字通りの「極言」です).

 様々な事業体や様々な経済環境において経営判断に資する情報を得るために,管理会計の実務や研究は発展してきました.したがって,細かなバリエーションを含めると,無数と言っていいほどの管理会計手法が存在します.

連載 診療情報管理の最前線・7

医師と診療情報管理 髙橋 長裕
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 筆者が診療情報管理士の資格を取得したのは2005年,千葉市立青葉病院に副院長として勤務していた時である.当時,同病院には非常勤職員の診療情報管理士が1人いるのみで,しかも家庭の事情でいつ辞めるかわからないという状況であった.何とか常勤の資格者を確保したかったのだが,自治体病院の人事は現場からの声がなかなか担当部局に伝わりにくい.診療情報管理士の常勤化は実現せず,それならばいっそ自分で診療情報管理士の資格を取ろうと考え,1年間の通信教育に挑戦したのである.

 ICD10による病名コーディングについては,かつて勤務していた施設では退院サマリーの病名欄に自分で病名コードを付すよう担当医に義務づけられていたこともあり,ある程度の知識はあった.しかし,体系的に勉強するのは初めての経験で,特に自分の専門と関係の薄い分野では多分に面食らうところがあったが,医療全般についておさらいになる部分が多くあり,大変勉強になったというのが正直な印象である.

連載 アンケートが現場を変える―短期集中型業務改善・2

アンケートのねらい 阪本 研一
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 前回,美濃市立美濃病院(以下,当院)は2003年6月の新築移転に際して特別な診療方針の転換はなく,移転前6か月の時点でも具体的な業務改善策が検討されていなかったことを説明した.

 2003年1月に当院へ赴任した筆者は,病院の内外環境と移転への準備状況を徐々に理解するにつれて,「移転に際して職員は変化を求めていないのか?」という素朴な疑問を持つに至った.仮に,旧病院と全く同じ内容の診療を新病院で展開するとしても,新病院に対する市民の期待は大きく,少なくとも移転直後には患者数の自然増が予測される.ほぼすべてが新規購入された医療機器と,医師も含めてほとんどの職員が使用経験のないオーダリングシステムを用いて,診療を円滑に行うことができるかどうかが危惧された.

連載 鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・68

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 絵本『いびらのすむ家』は新聞やラジオで紹介され,特に関西が拠点のあるラジオ局は,アナウンサーによる朗読付きで絵本を紹介してくれた.途端に問い合わせが殺到し,午前6時前から午後6時過ぎまで,電話が鳴りやまない.しかも1人ひとりの電話が長く,内容も問い合わせを超えた身の上話.これならばアンケート調査も可能ではないかと勇美記念財団に助成を願い出たところ,受理された.

連載 リレーエッセイ 医療の現場から

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 私は二分脊椎症による水頭症と肢体不自由があり,義務教育は養護学校で過ごし,2003年に高校を卒業しました.必要な介助やサポートを受けながら,自分に必要なことは自分で決定し,少しずつ行動の幅を広げていきたいと考え,大学に進学しましたが,自分には不向きな学習スタイルだとわかったので,前期まででやめました.そしてその年の8月,聴覚異常を感じ,半年ほどで聴覚を失いました.

 ブログという存在に出会ったのは,20歳の頃.きっかけは,養護学校時代の友人から「よかったら見てね」とURL付きのメールが送られてきたことでした.それまで,ブログという言葉はなんとなく聞いたことがあったものの,それほど関心はなかったのですが,友人の言い回しなどの面白さに,一気に引きつけられました!

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書籍紹介

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 このたび医学書院より『研修医のためのリスクマネジメントの鉄則─日常臨床でトラブルをどう防ぐのか?』が出版された.著者の田中まゆみ氏とは数回しかお会いしていない.いずれも研修医を対象とした研修会においてであったと記憶している.

 その研修会ではピカピカの研修医に対し,医療界のガイダンスやオリエンテーションをはじめ,医師としての基本的な姿勢,「今日からは学生ではなくプロフェッショナルな“ドクター”ですよ」と“刷り込み”的な講義が2日間続いた.この第1日目の講師に田中氏と私が前になったり後になったりして講演したのである.この研修会では,残念ながら2011年に亡くなられたCOMLの辻本好子さんも患者の立場から講演され,大変好評であった.

投稿規定

次号予告/告知板

基本情報

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病院
72巻5号 (2013年5月)
電子版ISSN:1882-1383 印刷版ISSN:0385-2377 医学書院

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