病院 72巻10号 (2013年10月)

特集 地域包括ケアと病院

巻頭言 山田 隆司
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 高齢化が進むとともに,医療や介護サービスを必要とする高齢者は増加の一途をたどっている.これまで医療,介護サービスはそれぞれ共助とも言える保険の枠組みが準備され,その基金のなかで運営されてきたが,高齢化に伴いその仕組みだけでは賄いきれなくなり,一部公助とも言える税金を投入し維持されてきた.その税金負担を拡充することは,基金としてだけでなくサービス利用者,提供者側としても歓迎されることであった.そんななか,利用者はさらなるサービスを求め,提供者はさらなる効率よい事業を考え出す.しかし押し寄せる高齢化はそういった需要の増加を受け止めるだけの限界を超えている.いま,量的なサービスの拡充を図るばかりでなく,限りある資源のなかで質の高いサービスを実現できる新しいシステムづくりが求められている.その解決策の1つが今回の特集企画である地域包括ケアの取り組みである.

 地域のなかの限りある施設,人材,財源をできるだけ有効に活用し,満足度の高い老後の生活を実現するために,地域内での関係者の連携が必要となっている.これまで医療資源に乏しかった地域ではこういった取り組みが進み,モデル的な事例の多くはそういった医療過疎の地域に見られていた.しかし高齢者の問題はいまや1つの地域の問題ではなく,都市部も含めた全国的な課題となっている.そこでは地域内で求められる医療,福祉ニーズに対して今ある資源を再確認し,地域のなかでは満たされにくいニーズに対して単に事業者の利益だけに走らず,お互いの枠組みを超えて補い合いながら自治体と一緒になって地域を支える姿勢が求められている.本特集ではそういった視点から参考となる事例を紹介し今後の示唆としたい.

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 諸外国に例をみない高齢化の進展を踏まえ,高齢者の尊厳の保持と自立支援を目的として掲げ,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることを目指した,地域における包括的な支援やサービス提供の体制・ネットワーク.これが端的に表現した「地域包括ケアシステム」という概念である.

 この地域包括ケアシステムの構築に向けて,国は医療・介護に関連する財政基盤や提供体制整備のための制度づくりに着手し,各地域の自治体,医療介護サービスの提供主体,そして地域住民自身も,それぞれの役割と地域の実情に応じた取り組みの展開が期待されている(図1).進捗のターゲットは,団塊の世代が医療・介護ニーズの高まる75歳以上となる2025年,いわゆる「2025年モデル」である.これらは社会保障制度改革国民会議報告書にも明記されている1)

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 風光明媚な函館山の麓に位置し,今年で創立119年を迎える高橋病院は,種々の施設・在宅サービス事業所を展開し,リハビリテーションを軸として「つながるケア・つなげるリハ」を目指してきた.当法人のキーワードは「生活を支える医療」「連携文化の育成」の2つである.

 超高齢社会で求められる医療とは,慢性疾患を抱える本人の人生,生活をいかに支援していくかであり,疾患が完全に治癒する時代が終焉を迎えつつある現在,医療と介護の結びつきは“連携”以上に“統合”が強く望まれる.

地域包括ケアと介護施設 折茂 賢一郎
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■介護施設の歴史

 介護保険制度が始まるかなり以前(昭和の時代)には,“養老院”と呼ばれるものがあった.これは1932年に施行された救護法で規定されたのだが,利用には所得制限があった.1950年に制定された生活保護法により,養老院という名称は“養老施設”に変更された.その後1963年に制定された老人福祉法によって老人ホーム(特別養護老人ホーム)に改称されたが,画期的なことは,所得制限の廃止と,身体,精神上の障害のため常に介護が必要で,家での介護が困難な人が対象とされたことであった.

 しかし実態は,入所は市町村による“措置”として行われ,その決定は市町村等の福祉事務所が設置する入所判定委員会(自治体職員,医療関係者,福祉関係者,地域の有識者らで構成)においてなされたのだが,明確な判断基準がなかった.その趣旨は“救貧”を目的とし,現在の“契約”による任意・随意の選択によるものとは大違いであった.そして,2000年に始まった介護保険制度により,“介護老人福祉施設”の名称を得て,現在に続いている.

地域包括ケアと在宅医療 髙橋 昭彦
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 在宅医療(狭義)とは,医師が患者宅(患家と言う)を訪問して診療を行うことであるが,現在はグループホームやサービス付き高齢者住宅(サ高住)など,自宅以外のところで暮らす患者も利用できるようになっている.また,対象も高齢者ばかりでなく,がん,神経難病や小児,精神疾患などの患者に対する在宅医療も行われている.在宅医療の対象は,通院が困難な患者であり,年齢や疾患を問わない.

 地域包括ケアには,医療,介護,予防,生活支援,住まいという5つの視点がある1).5つの視点の取り組みが,日常生活圏域において,利用者のニーズに応じて包括的で切れ目なく行われるのが地域包括ケアである.そのなかで,在宅医療は重要な役割を担う.在宅医療は,利用者の暮らしを支えるために必要な医療を適切に行い,多職種チームが安心して動けるように配慮し,看取りにも関わる.

地域包括ケアと多職種連携 秋山 正子
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 2011年の4月2日,震災後間もない岩手県陸前高田市を訪れる機会があった.地域包括ケアの概念を考えるときに,高台にある避難所の市立高田第一中学校の黒板に書かれたメモ書きを思い出す(写真1).

 市街地は津波で流された,市役所機能はほぼ全滅.仮の保健所が中学校の保健室に設置されていた.まだライフラインも復旧せず,電気の通っていない教室では,コピーも動かないし,紙の調達も難しい.そんななかでも,チョークと黒板があれば,頭の整理はできる.みんなの語るエッセンスを書き出し,ガソリンも少ないなかで駆けつけた人々と地域支援会議が進められていった.地域支援会議を開かなければ,みんなバラバラでの支援になり,情報も届かない.市役所の保健師だった佐々木亮平氏をバックアップした中村氏の発案だった.発災後3週間後のことである.

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 人類史上,類を見ない少子化を伴った超高齢化社会が到来しようとしている.根本的な対策が行われないまま少子化と長寿命化が進むと,2010年に23.0%であった高齢化率が2025年に30.8%,2050年には41.0%に到達し,2055年には1人の高齢者を1.3人の現役世代で支える壮絶な未来へ変貌すると推定されている1)

 高齢化対策の核心は,どのような医療,介護,福祉と暮らし,生活支援をどのように保障するかであることは言をまたない.そのためには,都市部の高齢化対策だけでなく,限界集落を含む,地域の共同体をどのように再生するかの議論が不可欠である.この地域再生のための新しい社会システムが,医療,介護,予防,住まいおよび生活支援を一体的に提供する地域包括ケアシステム2)であると言うことができる.

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■地域包括ケアと病院

 地域包括ケアは「住居の種別にかかわらず,おおむね30分以内に生活上の安全・安心・健康を確保するための多様なサービスを24時間365日を通じて利用しながら,病院等に依存せずに住み慣れた地域での生活を継続できる体制」を指す1)

 地域包括ケアにおいては,住民を主体として,健康状態に応じた適切なサービスとケアが切れ目なく提供されることが重要である.病院にとっては急性期医療へのアクセス,医療の機能分担,医療と介護の連携が問題となる.

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■建物の概要

 岐阜シティ・タワーは,JR岐阜駅前の再開発事業として2007年10月に竣工した医療,福祉,商業,住宅の総合高層ビルである.43階建てで,260台収容の地下駐車場,1~2階の商業施設,3階の福祉・医療等生活支援施設,4階の地方放送局本社,5階の分譲エントランス,6~14階賃貸住宅,15~42階の分譲住宅,43階のスカイラウンジ,展望台からなる.

 3階の医療福祉ゾーンには,デイサービスセンター,ヘルパーステーション,訪問看護ステーション,一般診療所,歯科診療所,薬局,整体クラブ,美容室,音楽教室,有料老人ホーム,レストラン,保育所,交流スペース,賃貸住宅エントランス,多世代地域交流コーナーがあり,LSA(ライフサポートアドバイザー)のオフィスがある.

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■梼原町・梼原病院の概要

 梼原町は高知県北西部の愛媛県境に位置し(図1),人口3,745人(2013年5月末現在),高齢化率41%,町域面積の91%が林野で占められている山間の町である.かつて坂本龍馬が脱藩した町としても知られている.町中心部の標高は410mで冬には積雪もある.南国土佐という暖かいイメージとはほど遠く,土佐のチベットとすら言われることもある.

 梼原病院は病床数30床で,すべて急性期の一般病床であり,常勤医師の5人は皆内科医(いわゆる総合医)である.診療科は内科,整形外科,眼科,小児科,精神科(2009年5月から休診中)で,内科以外は他院から派遣を受けて診療をしている.隣町の住民を合わせて約6,000人が梼原病院の医療圏内に住む対象人口である.梼原病院に併設する形で梼原町保健福祉支援センターがある.玄関が共通であり,1つ屋根の下に医療機能を担う施設と保健・福祉機能を担う施設が併存している形である(写真1).様々なケースにおける情報共有や連携体制はスムーズで,保健・医療・福祉・介護が一体となった地域包括ケアの実践がなされている.

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■地域包括ケアとは

 山口によると,地域包括医療・ケアは表のように定義されている1)

 さまざまな疾患や傷病で病院に入院をしていた患者が,退院し,在宅で生活を続けるためには,医療のみを提供しても不可能である.患者や家族に「安心と安全」を保証しなければならない.具体的には,医療サービスに加えて,生活を支える介護サービスが充実していないと,患者や家族は安心して家で過ごすことができない.私たちは「病院は病気を治すところ,家は人を元気にするところ」,「地域全体を病院と考え,家が病室,道路が廊下,電話がナースコール」と捉え,農山村地域における医療・介護を支援してきた.

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 医療法人社団豊生会グループは,東苗穂病院を中心として幅広く事業体を運営しており,「地域のニーズに応えるため」に,透析センター,在宅療養支援診療所,老人保健施設,特別養護老人ホーム,サービス付き高齢者向け住宅,訪問看護ステーションなど様々な施設を中心の東苗穂病院から約4kmの範囲内に展開している.

 「地域に根ざした豊かな医療と福祉を創造する」と掲げられたこの理念には,とりわけ星野豊理事長の思いが詰まっている.この地域で生まれ育った星野理事長は,心臓外科医として働くなかで地域こそが医療の最前線だということを実感し,地元に開業するに至った.しかし,当初から大きな計画があったわけではなかった.「そのつど地域住民のニーズに応えていくのが精一杯で,結果として病院と複数の介護施設が併設され,現在も進行中です」と話す.

連載 アーキテクチャー 第225回

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 2007年,神奈川県川崎市北部医療圏の不足病床数補塡の公募に,福島県郡山市を拠点に世界を見据えて医療・福祉サービスを広域展開する南東北病院グループが,病院開設者として応募し選定された.

 病院の名称は「新百合ヶ丘総合病院」.救急・急性期医療サービスをこの地域に提供すべく,小児科や産婦人科など30に及ぶ診療科を持つ多機能な病院として,2012年8月に誕生した.377床の病床数に比して中央診療部門の設備・面積ウェイトが高く,9室の手術室と2室のアンギオやサイバーナイフなどの先進治療機器などによる高度な医療機能を持つことを特徴としている.

連載 世界病院史探訪・7

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 ベルギーの古都ブルージュ(Brugge)の歴史地区は世界遺産に指定され,日本人を含む多数の観光客が訪れる.1088年に創設された聖ヤンス・ホスピタルは,その旧修道院棟に,ベルギーを代表する画家のひとり,メムリンク(Hans Memling,1430/1440頃~1494)の作品を展示しており「メムリンク美術館」とも呼ばれているが,館内には病室や薬局の歴史的な展示もある(9時半~17時,月曜日休館).

 ブルージュ駅から旧市内へ入り川を渡ると,聖ヤンス・ホスピタルがある.この修道院病院のすぐ南に接して町の防御壁の機能をする堀川があり,シーズン中には観光客を鮨詰めにした観光ボートがひっきりなしに上下している.中世の病院の多くは川に接して建てられた.川を上下する船から税を接収する,収容者が逃亡するのを防ぐ,などの意味があったようだ.

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 わが国の医療施設に医療安全管理者という役割が誕生して15年弱の年月を経た.それから今日まで,2006年診療報酬改定において医療安全対策加算が新設され,2007年「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」が打ち出されるなど様々な取り組みがなされてきた.

 このような情勢のなかで,従来組織の中になかった医療安全管理者という業に就き,自施設の医療安全管理に邁進した数多くの医療安全管理者がいる.しかし,その一方で「悩み」「燃え尽き」「疲弊」した医療安全管理者も存在したことは否めない.なぜ,「悩み」「燃え尽き」「疲弊」する医療安全管理者がいるのか.

連載 二次医療圏データベースの活用・1【新連載】

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■なぜ二次医療圏データベースを作ったのか

 「今後日本の人口は大幅に減少し,後期高齢者は急速に増加する」ということは,読者の皆さんもご存知であろう.そうすると「自分の住んでいる地域はどのように変わり,医療や介護は,どのように変わっていくのだろう」という疑問が湧いてくるだろう.

 これから紹介する二次医療圏データベースをなぜ作ったのか.発端は2010年の春に,これから本格化する日本の劇的な人口構成変化により,日本各地の医療や福祉の提供体制が地域ごとにどのように変わっていくべきかを調べてみたいと思ったからである.

連載 リレーエッセイ 医療の現場から

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 2013年はコクラン共同計画が設立されて20周年を迎える.ドイツ流の実験医学とは異なる実証的な医学の母国英国において,コクラン共同計画は臨床試験の登録制度を基盤に「1つの診療の課題に関して,研究の結果を網羅的に検索し,その中で質の高い(より確かな)情報のみ残し,それを統計学的にまとめる」という系統的レビュー(コクランレビュー)を生み出すことにより,医療のみならず,様々な分野にも応用されることで,意思決定の形を大きく変えた.一方,日本ではこのコクランレビューが紹介されてから10年以上経つが,こういった科学的根拠(エビデンス)に基づく医療に関しては,いまだ誤解が多く存在する.

 臨床試験(ランダム化比較試験)は,ある診療行為の効果を示すのは得意だが,安全面の証明は不得意である.系統的レビューは多くの場合,ある診療行為の効果について検証するため臨床試験が主体となるが,安全面についての系統的レビューは,異なる手法が必要である.このため,臨床試験を主体とする系統的レビューの結果のみでは,意思決定を下すことはできない.

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 2012年にがん対策推進基本計画が刷新され,がん患者の精神的苦痛に対する心のケアを含めた全人的な緩和ケアのさらなる充実に向けた取り組みが始まっている.がん対策基本法の制定以降,がん診療を行う各地域の主要な医療機関に緩和ケアチームなどが置かれ,がん患者の疼痛管理やせん妄およびうつ症状などへの対応が積極的に行われるようになり,がん患者の心のケアの基盤は整いつつある.しかし,がん患者が医療者に望んでいる心のケアの範囲と内容は,もっと多岐にわたっていると思われる.がん診療を行う医療者も,患者が「がん」という病を抱えながら生きていくがゆえに抱えるさまざまな生活上の不安や葛藤をいかに理解し,ケアしていくかが今後のがん診療の中核的な課題であることは理解しつつも,「誰が」「どこで」「どのように」ケアしていくかという点においては,スタッフの専門性や方法論,さらには状況的な制約などから,具体的な取り組みを実行できないジレンマを感じているのではないだろうか.

 このたび刊行された『がん患者心理療法ハンドブック』は,がん患者の心のケアの充実に向けた新たな取り組みへの「道しるべ」になるような,大変優れた解説書である.国際サイコオンコロジー学会(IPOS)公認テキストブックにも指定されており,その内容はがん患者への心理療法の全体像を理解しつつ,かつ各論の重要ポイントをしっかり学ぶことができる構成となっている.

投稿規定

次号予告/告知板

基本情報

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病院
72巻10号 (2013年10月)
電子版ISSN:1882-1383 印刷版ISSN:0385-2377 医学書院

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