生体の科学 64巻6号 (2013年12月)

特集 顕微鏡で物を見ることの新しい動き

特集によせて 馬渕 一誠
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 細胞生物学は顕微鏡の開発によって始まり,顕微鏡技術の発展と共に発展してきた。光学顕微鏡の分解能はAbbeの式 d=0.61λ/n・sinθ によって表され,ヒトの眼の分解能と合わせて0.1-0.2mmほどである。倍率としては最大1,500倍程度が限度である。実際,通常の光学顕微鏡で細胞を見ると,直径1μmぐらいの球形に近いミトコンドリアがかろうじて点に見える程度で,それより細かいものは見えない。しかし,暗視野照明を上手に使えば直径25nmの1本の微小管を見ることができ,蛍光色素を用いれば直径10nm以下の1本のアクチンフィラメントを見ることができる。さらに井上信也博士らによるVideo-enhanced microscopyの開発により,像のコントラストは格段に上昇し,神経細胞の軸索流などの動きをリアルタイムで見ることができるようになった。

 蛍光プローブについても,下村脩博士の発光タンパク質GFPの発見は大きな発展をもたらした。これまで行われてきた化学的蛍光プローブで標識したタンパク質のマイクロインジェクションに加えて,GFP融合タンパク質を細胞内で発現することができるようになった。これと強制的な蛍光退色操作を組み合わせてFRAP観察によりタンパク質の細胞内ダイナミクスが観察できるようになった。さらにR. Tsien博士や宮脇敦史博士らは様々な変異GFPや別種の発光タンパク質の開発によって複数の蛍光,すなわち複数のタンパク質種の同時観察を可能にした。このことはFRETによる細胞内でのタンパク質間の相互作用を可視化することをも可能にした。このように光学顕微鏡の進歩はとどまることを知らない。本特集ではそのような最先端の技術について,各専門家の方々に解説していただいた。

超解像顕微鏡 藤田 克昌
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 光学顕微鏡は医学・生物学研究において欠かせないツールである。しかし,光学顕微鏡の持つ空間分解能は,電子顕微鏡や原子間力顕微鏡には到底かなわず,細胞の内部や表面の微細構造,タンパク質の構造変化の観察などには利用されてこなかった。光学顕微鏡の空間分解能は光の持つ波の性質により制限されている。光は電磁波として空間を伝わるため,その空間分布は波の干渉の結果として形成される。このため光を分子や原子レベルまで集光することができない。

 光学顕微鏡の空間分解能について理論的に説明したのはドイツのアッベ(Ernst Abbe, 1940-1905)である。1873年ごろ,彼は光学顕微鏡では光の波長の半分より小さな構造は解像できないことを導いた。その約100年後,共焦点顕微鏡,2光子励起顕微鏡が登場し,若干の空間分解の向上はもたらされたが,光の波動性がもたらす限界を大きくは超えられなかった。その後も光の限界を超えた解像力をもたらす顕微鏡,すなわち超解像顕微鏡の実現に向けて多くの研究者が努力を重ね続け,2006年ごろから多くの超解像技術が目覚ましく発展した1)。それらは光学的に空間分解の理論限界を破ったわけではなく,蛍光分子の発光特性をうまく利用して,その限界以上の空間分解を得ることに成功した。そのため超解像顕微鏡は蛍光顕微鏡をベースにしたものがほとんどである。

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 一般的に蛍光顕微鏡観察を行う場合,最も簡単なのが固定した試料および生細胞の二次元(X-Y平面)静止画像の取得,次いで生細胞タイムラプス観察であろうかと思う。しかし,細胞内は言うまでもなく三次元構造であり,時間と共にダイナミックに変化している。この変化を正確に捉えることは細胞生物学において重要な課題である。もちろん研究分野や目的によって顕微鏡の使い方は変わってくるが,X-Y平面の情報にZ方向の情報が加われば,新しいこともわかってくる。

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細胞はどれくらい賢いか?

 細胞に外部から刺激入力があると,細胞内への信号伝達が起こる。この信号の強度は,例えば図1の一番上の図の“全体の信号”のように変化するであろう。ここでは,PLCγ(ホスホリパーゼC-γ)が細胞膜にリクルートされてきて,細胞膜中のPI(4,5)P2(ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸)を加水分解してIP3とdiacylglycerol(ジアシルグリセロール)などの2次メッセンジャーを生成するような経路を考えよう(これらは,その後,細胞内Ca2+動員やPKC(プロテインキナーゼC)の細胞膜への移行などにつながる)。縦軸の信号強度は細胞膜上に存在するPLCγの数としよう。細胞全体でのPLCγの応答は10-20分間程度続くことが多い。すなわち,全体で1,000秒とすると,PLCγ各分子(1分子ごと)の細胞膜へのリクルートは図1のモデルAで示すように,同じ程度,または,数百秒のオーダーであろう。

 しかし,このように考えると,実際には大きな問題に出くわす。すなわち,細胞全体のPLCγの応答(細胞膜上のPLCγの数,図1,1番上の図)は強度も時間変化も,よく制御されているはずである。もしPLCγの1分子ごとの細胞膜へのリクルートが図1のモデルAのように起こるとすると,細胞全体の応答曲線を正しく引き起こすことは非常に難しいことである。次の分子をいつ活性化すると,何分後には全体としての強度を正しくできるかなどが,極めてよく調整されていなくてはならないからである。

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 光学顕微鏡における生体試料の観測においては,試料に光を当て,試料により変換された光を観測することで対象の情報を取得する。つまり,物質と光の何らかの相互作用を利用することで,試料内の物質の情報を光の変化として捉えているわけである。例えば光の屈折率の違いから細胞の形態を観測したり,光による励起を利用して蛍光物質の細胞内局在を得たりする。このように考えると,生体物質と光との相互作用の様式が変化すれば獲得できる情報,あるいは見える像も変わってくることがわかる。レーザーの開発により数多くの光と物質の相互作用が明らかにされるなかで,特定の物質にレーザー光が入力すると,その結果としてその第二高調波,つまり振動数が2倍で波長が半分の光が発生する,光第二高調波発生(second harmonic generation;SHG)という現象が見いだされた。この光学現象を利用するのが光第二高調波イメージング,あるいはSHGイメージングである。SHGイメージングは二つの光子と物質との相互作用の結果を可視化するという意味で多光子顕微鏡,なかでも2光子顕微鏡の一種である。しかし,生体イメージングにおいてより広く普及した2光子励起顕微鏡とは異なる物質と光の相互作用に基づいており,よって全く異なる生体情報の獲得を可能にする1)。本稿ではSHGイメージングの原理について概説し,その特徴を活かした生体試料のイメージングへの応用,更にその展開について述べる。

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 機能動作中のタンパク質分子を高い解像度で直接見ることができれば,その機能発現機序の理解は格段に進むに違いない。そのような観察を可能にするには,以下の五つの条件すべてを満たす顕微鏡が必要である。① 高空間分解能,② 高時間分解能,③ 液中試料観察能,④ 実体観察能,⑤ 低侵襲性。ここで実体観察とはプローブを介さずに実体であるタンパク質分子そのものを直接観察することを意味する。これまで利用されてきた顕微鏡は,この五つの条件のうち,いずれかの条件を満たさない。例えば,超解像蛍光顕微鏡1,2)では,④の条件を満たさない。タンパク質分子に付けた蛍光分子の発光位置を高空間分解能で決めることはできても,原理的にタンパク質分子そのものは可視化できない。電子顕微鏡では試料を真空中に置かなければならず,それゆえ,時間分解能を持たない。液中試料も観察可能な電子顕微鏡の開発が進められているが3),高いコントラストと空間分解能を得るに必要な強度の電子線照射は一瞬にして生物試料を破壊してしまう。

 原子間力顕微鏡(atomic force microscope;AFM)は液中にある試料を高い空間分解能で直接可視化できる唯一の顕微鏡であるが,1画像を撮るのに分のオーダの時間が必要であるため,実質的に時間分解能を持たない。しかし,この限界は原理的なものではないため,高速化するための研究が1993年ごろに開始され,初期装置4)の種々改良を経て,2008年ごろに実用レベルの高速AFMが完成した5)。高速性に加え,低侵襲性も同時に満たされた結果,上記五つの条件がすべて満さることとなった。それゆえ,動作中のタンパク質分子を動画映像として見ることが初めて可能になり,例えば,アクチン線維上を歩くミオシンV6),光に応答するバクテリオロドプシン7),回転軸のないF1-ATPaseの構造変化の回転伝搬8),セルラーゼのセルロース分解に伴う一方向運動9)などが観察され,この新規顕微鏡の有効性,革新性が続々と実証されている(総説を参照10,11))。本稿では現状の高速AFMの性能を概説し,ミオシンVの高速AFM観察に焦点を当てて,この新規顕微鏡の威力を示す。

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 タンパク質の研究は,今や1分子のレベルで調べることが可能になっている。試験管の中にあるバルクとしての酵素活性や挙動を調べる代わりに,対象とするタンパク質たった一つを基板に固定し,その性質を調べることができる。この技術の先駆けは細胞骨格に沿って運動する分子モーターであり,ミオシン(myosin),キネシン(kinesin),ダイニン(dynein)といった真核細胞における3大役者の動作する様子が,in vitroの状態,すなわち精製された再構成系において,ありありと捕らえられたのである。これを可能にしたのは光学顕微鏡技術の発展であり,そして物理の技術・知識を得意とする優れた研究者の生物物理学への参入が不可欠であった。この20年の間に,数々の成果が世界から報告され,1分子生物物理学(single molecule biophysics)という分野が確立したが,その中で日本の研究者が果たした役割も決して小さくはない。

 分子1個を対象にして,その運動がつぶさに調べられる時代になったにもかかわらず,数十年にわたる未解決の問題が分子モーターにはある。そう言われると,読者の多くは意外に思われるかもしれない。それが本稿で紹介する“分子リニアモーターの回転”という不思議な現象である。

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 近年,顕微鏡技術や蛍光ラベル技術の進展に伴い細胞内生体分子の高精細ライブ観察が可能になり,細胞や生体分子の機能が次々に解明されている。これまでは観察の対象は主に培養細胞であったが,さらに高次の生命機能を理解するために,現在,より自然に近い状態にある組織や個体内部を高精細ライブ観察する技術が求められている。組織のような立体的な試料の観察には光学切片像を取得できる共焦点顕微鏡が必須であり,高速現象の観察やZスタック(三次元データ)の時系列取得のためには高速な共焦点像の取得が求められる。しかし一般的に用いられる単点走査式のレーザー共焦点顕微鏡(Laser scanning microscope;LSM)の画像取得は走査時間に律速され十分に高速とは言えない。そこで筆者らは,厚みがある試料に適用が可能な高速共焦点顕微鏡の開発にチャレンジした。

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 われわれの身体の機能,生理機能は要素還元的に,身体・臓器・細胞・分子という階層性を持って理解されている。脳・神経系の研究者の多くは,全神経細胞がどのように“配線されているか”という回路網の解読と全神経細胞の活動状態をライブで捉えることができるならば,脳内の情報の流れと処理に関する理解が進み,脳の正常機能のみならず,精神疾患の発症や,その治癒への方途が拓かれると考えるであろう。しかし,現時点で個々の細胞の活動を区別して全神経細胞の活動を可視化する手法は存在しない。また,脳機能の解明には非侵襲的にリアルタイムでイメージングを行うことが必要となる。このためには共鳴イメージング(fMRI),PET,X線CTが広く用いられている。さらに最近では,光トポグラフィーも重要な位置を占めてきた。これらの方法論の問題点としては空間分解能が悪いため,個々の神経細胞の活動を見ることは困難であること,非測定量が一つに限られることが挙げられる。

 このような中で,多光子励起過程を用いたレーザー走査型蛍光顕微鏡(多光子顕微鏡,2光子顕微鏡)は神経科学分野に研究において不可欠なツールの一つになっている。脳機能研究においても,光学顕微鏡の空間分解能は上述の方法論と比較して優れており,個々の細胞の活動や細胞内小器官などの微細な構造のイメージングに用いられてきている。しかし,観察対象は薄いレイヤーに限られており,臓器深部の観察のためには侵襲的な手法を組み合わせる必要があった。その点は現在でも完全に解消されたとは言えないが,非侵襲“的”に臓器深部を観察するための方法論として,多光子励起過程を用いた顕微鏡法(多光子顕微鏡,2光子顕微鏡)が注目を浴びてきている。それは多光子顕微鏡は光学的な観察・測定法であるため,“生きた”対象内部(“in vivo”)で,多種類の分子や細胞の動態を,同時かつ高時空間分解能で計測することが可能という特徴を持つためである(図1)。

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 ここ20年の光学顕微鏡技術の進歩で大きなものに,2光子顕微鏡を使って組織深部が見えるようになったことと,GFP(green fluorescent protein,緑色蛍光タンパク質)を使ったライブイメージングができるようになったことが挙げられよう。特にGFPは当初の分子の追跡マーカーとしての利用から,様々なバイオセンサー開発へと展開し,細胞の形を見るツールであった顕微鏡を,細胞の状態や分子の機能を見るツールへと変化させた。筆者らの研究室ではフェルスター(蛍光)共鳴エネルギー移動(Förster/fluorescent resonance energy transfer;FRET)とGFP技術を用いたバイオセンサーの開発に取り組んできたが,近年,このFRETバイオセンサーを発現するトランスジェニックマウスの開発に成功し,生きたマウスの組織で細胞機能を可視化し,生理的あるいは病的状態で,細胞機能がどのように変化し,それがどのような組織変化をもたらすのかについて研究している1,2)。本稿ではFRETイメージングの概説をした後,FRETマウスを使って得られる知見について述べる。

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 過去数十年の光学顕微鏡の発展は驚くほどのものである。特に解像度の向上は画期的なものである。そのような発展は目覚ましいが,同時に,顕微鏡応用の拡がりにも目を見張るものがある。かつての顕微鏡が,数ミクロンの厚みに切った標本のみを観察対象としていたのに対し,今では,生きた細胞はおろか,生きた個体を丸ごとを顕微鏡観察の対象とする研究が急速な勢いで拡がっている。そのような観察領域では,回折限界を超える極限の分解能を求めると言うよりは,悪い条件下でもそれなりの画像を得られるようにすることが望まれる。すなわち,組織のより深い部位の観察や,動きの多い不安定な状況での観察を実現したいということになる。このようなニーズに応える手段を探すうちに,天体観察で画像の分解能向上に貢献した適応光学系に大きなヒントを受けた。折しも,液晶を用いた空間光変調器の性能が上がってきており,それを顕微鏡に応用することが光学顕微鏡全体の能力向上に繋がることに思い至った。本稿では,その応用について,これまでの研究結果を含めながら,紹介してみたい。

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 光シート顕微鏡法(light sheet fluorescence microscopy;LSFM)とは試料の側面から薄いシート状に整形した励起光を当てることで,共焦点顕微鏡や2光子顕微鏡と同様にピントの合った画像(光学切片)を得る手法である。側面から光を当てるというアイデア自体は古くからあるが,生物学研究のための顕微鏡法としては今世紀に入ってから,欧州分子生物学研究所(EMBL)のErnst Stelzerらによって発表1)されて以降,急速に発展している新しい手法である。光シート顕微鏡はごく最近Zeissから市販が始まったが,筆者はEMBLとの共同研究としてこの顕微鏡を導入し,応用と改良に携わってきた。本稿では筆者らの結果も一部交えて,光シート顕微鏡の特徴と最近の進展について概説する。

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 可視領域の光が生体試料を通過することは難しい。生体組織を観察する際に障壁となる物理的要因は光の散乱と吸収である。特に観察を制限する要素として大きな原因は散乱である。散乱によって光の進行方向が変わってしまい,光が真っすぐに進むことが妨げられる。これによって光学顕微鏡観察が制限される。組織中の光の散乱の原因となる要素を十分に除くことで生体組織は透明化し,光が直進することで組織内部の観察が可能になる。

 本稿では近年行われている生物の固定組織の透明化技術について,われわれが開発したScale法を中心に述べる。なお,ここで述べる透明化技術とは生きている体,組織をそのまま透明にする技術ではない。あくまでも固定化した組織を対象とした技術である。

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 地球上のほぼすべての生物は常に重力がかかった環境で進化してきた。そのため,現存する生物で見られる様々な生理学的な現象は重力の存在を前提にして起こっている。なかでもゾウリムシで見られる重力に逆らって移動する負の走地性(geotaxis)や,植物が重力に対して成長する屈地性(geotropism)などは重力がかかわる生理学的な現象としてよく知られている。しかし,実際にはそのような目に見える現象だけでなく,細胞・個体レベルで起こる多くの現象にも重力が関係しているものと想像される。

 遠心顕微鏡は強い遠心力を試料に与えながら観察できるため,重力が関与する生理学的な現象をより際立たせながら解析する実験に用いることができるが,そのほかにも試料内に存在する物質間の結合力や運動エネルギーの測定などにも応用することができる。そのような通常の光学顕微鏡にはない特徴的な機能を備える遠心顕微鏡は1932年にE. N. Harveyによって初めて開発された1)。E. N. Harveyの遠心顕微鏡はレンズなどの光学部品が組み込まれた円形ステージを装備しており,それが試料と共に回転することで,強い遠心力がかかった環境を作り出す仕組みになっていた。そして,このE. N. Harveyの後にも,試料ステージの回転に空気圧を用いることで焦点位置を安定させ,解像度の高い像を観察できるようにしたものや,微分干渉光学系とビデオカメラを用いて高いコントラストで試料像を記録できる仕様のものなど,これまで様々なタイプの遠心顕微鏡が多くの研究者らによって開発された2-4)

NV中心磁気顕微鏡 荒井 慧悟
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 生体において鉄は重要な役割を果たすが,脳内で過剰に蓄積された鉄は磁気を持ち,アルツハイマー病やパーキンソン病,ハンチントン病などの神経変性疾患を引き起こす可能性がある1)。ところが今日まで細胞レベルでの鉄の獲得機構やその存在形態はほとんどわかっていない。神経変性疾患の原因をより詳しく探るには,どのようにして細胞は鉄を蓄えるのか,また,どのような条件下で蓄えられた鉄が磁気を発生するのかを明らかにする必要がある。

 この問題に取り組む第一歩として,細胞が作る磁場の画像化を可能にするナノスケール磁気顕微鏡の技術が注目を浴びている。既存の核磁気共鳴画像法(MRI)では,光学顕微鏡と比較して低い空間分解能しか得られないため,細胞レベルでの磁場の可視化は困難であった。2013年,筆者らはダイヤモンド中の窒素・空孔欠陥を磁気センサーとして用いた顕微鏡(以下,NV;nitrogen-vacancy,中心磁気顕微鏡)を開発し,生きた細胞が作る磁場の撮影に成功した2)。本稿では初めに高等生物から細菌に至るまでの,磁気を感知できる生物を紹介する。その中でも特に磁性細菌の特徴に焦点を当てて,その応用の可能性を探る。次にNV中心磁気顕微鏡の仕組みを他の磁場測定技術と対比させて解説する。さらに最新の研究成果と共に未来への展望を議論する。

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 質量顕微鏡は物質の同定や構造決定に力を発揮する質量分析法と,微細構造解析を行う顕微鏡法を融合させた解析装置である。質量分析によって得られる生化学的情報と位置情報を組み合わせることにより,検出された質量ごとの分布を可視化する質量イメージングを行うことが可能であり,質量イメージング装置の中でイメージングの解像度が肉眼解像度(100μm)を上回るものを特に質量顕微鏡と言う。質量顕微鏡は物質の質量を直接検出するので抗体やプローブなどによる標識を必要としない。このため対象物質を限定することなく,未知の物質も含めた数千に及ぶ生体分子の検出・同定が可能である。この特徴は,これまで見ることのできなかった脂質や低分子化合物の生体内分布についての新たな知見をもたらしている。本稿では質量顕微鏡の原理について説明すると共に,質量顕微鏡によって得られた生体組織解析の知見や今後の展望について紹介する。

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 哺乳類の脳は複雑な多層構造を有し,運動,情動,記憶といった高次の脳機能を統合している。ニューロンは神経系の基本単位であり,脳機能が正しく発揮されるためには個々のニューロンが胎生期において決められた場所,決められた時期に産生され,移動し,正しい相手と結合して神経回路を構築する必要がある。

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次号予告

あとがき 野々村 禎昭
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 顕微鏡が初めて導入されたのが1596年と言われるから,ざっと四百数年になり,その後ガリレオがここにも登場し見事に使いこなし現在に至っている。顕微鏡のその間の大きな革命は電子顕微鏡の出現であろう。光学顕微鏡に絞れば,位相差顕微鏡,微分干渉顕微鏡,共焦点レーザー顕微鏡の三つが小さな革命と言えるだろうか。

 馬渕一誠教授にお願いして現在の日本での最高のスタッフを考えて企画していただくと共に,最近の光学顕微鏡の進歩を執筆していただいた。馬渕教授も言われているように最近の進歩には日本人研究者の貢献度が高い。このような特集の筆者が多いため多施設から執筆して戴けた。

基本情報

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生体の科学
64巻6号 (2013年12月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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