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細胞生物学は顕微鏡の開発によって始まり,顕微鏡技術の発展と共に発展してきた。光学顕微鏡の分解能はAbbeの式 d=0.61λ/n・sinθ によって表され,ヒトの眼の分解能と合わせて0.1-0.2mmほどである。倍率としては最大1,500倍程度が限度である。実際,通常の光学顕微鏡で細胞を見ると,直径1μmぐらいの球形に近いミトコンドリアがかろうじて点に見える程度で,それより細かいものは見えない。しかし,暗視野照明を上手に使えば直径25nmの1本の微小管を見ることができ,蛍光色素を用いれば直径10nm以下の1本のアクチンフィラメントを見ることができる。さらに井上信也博士らによるVideo-enhanced microscopyの開発により,像のコントラストは格段に上昇し,神経細胞の軸索流などの動きをリアルタイムで見ることができるようになった。
蛍光プローブについても,下村脩博士の発光タンパク質GFPの発見は大きな発展をもたらした。これまで行われてきた化学的蛍光プローブで標識したタンパク質のマイクロインジェクションに加えて,GFP融合タンパク質を細胞内で発現することができるようになった。これと強制的な蛍光退色操作を組み合わせてFRAP観察によりタンパク質の細胞内ダイナミクスが観察できるようになった。さらにR. Tsien博士や宮脇敦史博士らは様々な変異GFPや別種の発光タンパク質の開発によって複数の蛍光,すなわち複数のタンパク質種の同時観察を可能にした。このことはFRETによる細胞内でのタンパク質間の相互作用を可視化することをも可能にした。このように光学顕微鏡の進歩はとどまることを知らない。本特集ではそのような最先端の技術について,各専門家の方々に解説していただいた。
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