生体の科学 21巻7号 (1970年12月)

巻頭言

"形"に魅せられる 石井 善一郎
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 病理学を志した所以や動機を人から尋ねられると当惑してしまうが,ただ何ということなしに生来絵や仏像を観ることが好きだつたので,臨床へ行く前に2〜3年形態医学の空気でも吸つてみようと考えたまでのことだつた。幸か不幸か入室直後からは毎日の様におとづれた病理解剖に従事している間に次第に私の心を捉えたのは人体にひろがる諸病変の肉眼像であつた。特にさまざまな様相を呈して肺にひろがつた結核症の素晴しさは,自分でその組織標本を作ることによつて倍加してきた。

 当時せつせと,あの薄暗い赤レンガの病理学教室に通いつめ顕微鏡を覗いていた新参の私に大きな生き甲斐を感じさせたものは,何にも増して病変そのものの肉眼に直接訴えてくる形態の強烈な魅力にあつた。したがつて病名の分類,診断,病因などを云々することには当時余り興味がもてなかつた。

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 はじめに

 炎症の形態学的見方は19世紀末までにほぼ完成したが,20世紀に入るに及んでその形態学的変化を動かしている化学物質に人々は目を向け始めた。言うまでもなく,ヒスタミンはその最初である。Daleらによつてヒスタミンが発見され,ショックとの関係が注目されたのに始まり,さらに腫れがこの「物質」によつておこることに人々は特別な興味をそそられた。人々は炎症のすべてをヒスタミンで説明しようとし,やがて限界がきた。抗ヒスタミン剤の出現はそれを決定的なものとした。5-hydroxytryptamine(5-HT,セロトニン)も同様の運命をたどつた。

 Menkinは炎症が組織蛋白質の分解と関係し,病変はその分解物であるポリペプチドによつて起こると考え,炎症巣から異なる働きをもついくつかのポリペプチドを分離したが,これは人々の眼をもう一つ物質群へと開かせる結果となつた。不幸にして,それぞれのポリペプチドが純粋でないことが後からわかつたが,彼の努力はやがて,ブラジキニンへと結びついていつた。

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 アドレナリンの受容体が2種類あることを最初に明確に示したのはDale(1906)である。

 彼は,アドレナリンの受容体には,興奮性の作用を仲介し,麦角アルカロイドによつて遮断されるものと,抑制性の作用を仲介し,麦角アルカロイドでは遮断されぬものとの二つがあることをみとめた。Daleの分類は,平滑筋に関する限り,きわめて明快であつたが,心臓の受容体がうまく説明できないという欠点をもつていた。周知のように心臓に対しアドレナリンは,興奮性に働くが,その作用は麦角アルカロイドでは遮断できないのである。Daleは,アドレナリンの反応を,興奮性の反応,抑制性の反応という二つに分けそれぞれに対する受容体を考えたが,これとはまつたく別の観点から,アドレナリンも含め,カテコールアミンの受容体の分類を試みたのが,Ahlquist(1948)である。彼は,以下に示す6つの交感神経アミンに対するいろいろな器官の感受性の強さを比較してみると,第1表のような結果になることをみとめた。

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 〔質問〕

 本来機能的なものであつたAhlquistの分類が,遮断薬の出現によつてより具体的なものになつたというのはどういうことか。

 〔答〕

 この質問に答えるためには,遮断薬の概念を明確にしておく必要がある。薬理学で遮断薬と呼ぶのは,それ自身はまつたく作用がないのに,ある種の物質の作用を特異的かつ競合的(competitive)に抑制する物質のことであるが,このような作用の仕方は,機能的な拮抗という考えでは説明不可能で,これらの物質の拮抗の場としての受容体の存在を強く示唆する。

実験講座 灌流実験法

膵臓灌流 菅野 富夫
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 第1章 これまでの膵臓灌流実験

 膵臓灌流法の目的は,他の器官灌流の目的と同様に,錯綜した全身性の相互効果から切り離して比較的単純な条件下において,しかもできるかぎり生体内諸条件に近い状態に保ちながら,膵臓本来の生理的薬理学的機能を研究しようというところにある。膵臓は内分泌腺,外分泌腺の両器官から構成され,さらに外分泌腺は消化酵素を主に分泌すると考えられている腺細胞と,イオン,水分の分泌に関与していると考えられている介在管と導管という異なつた機能をもつ細胞群から成り立つている。したがつてこれら膵臓の機能の中のどれについて研究しようとするのかによつて実験法が異なつてくる。膵臓灌流は40年も前から行なわれているが20),ここでは最近の新しい灌流法を中心に述べてみたい。

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基本情報

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生体の科学
21巻7号 (1970年12月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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