巻頭言
"形"に魅せられる
石井 善一郎
1
1東京医科歯科大学
pp.445
発行日 1970年12月15日
Published Date 1970/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902875
- 有料閲覧
- 文献概要
病理学を志した所以や動機を人から尋ねられると当惑してしまうが,ただ何ということなしに生来絵や仏像を観ることが好きだつたので,臨床へ行く前に2〜3年形態医学の空気でも吸つてみようと考えたまでのことだつた。幸か不幸か入室直後からは毎日の様におとづれた病理解剖に従事している間に次第に私の心を捉えたのは人体にひろがる諸病変の肉眼像であつた。特にさまざまな様相を呈して肺にひろがつた結核症の素晴しさは,自分でその組織標本を作ることによつて倍加してきた。
当時せつせと,あの薄暗い赤レンガの病理学教室に通いつめ顕微鏡を覗いていた新参の私に大きな生き甲斐を感じさせたものは,何にも増して病変そのものの肉眼に直接訴えてくる形態の強烈な魅力にあつた。したがつて病名の分類,診断,病因などを云々することには当時余り興味がもてなかつた。
Copyright © 1970, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.