公衆衛生 24巻11号 (1960年11月)

特集 社会医学

社会医学研究会の発足 曾田 長宗
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 去る昭和35年7月29日に社会医学研究会が発足し,同日および翌30日に亘つて研究発表会が開かれた。

 その間,社会医学とは何か,わが国内外における社会化医療の状況,中小企業における健康管理,農村の医療保健,団地計画と医療保健対策,保健所活動の再組織,環境衛生監視員制度の検討など,極めて多岐に亘る問題が討議され,他学術集会にくらべ,1題につき数倍におよぶ時間があてられたにもかかわらず,いずれの問題についても討論のつきる所を知らなかつた。

社会医学の定義について 黒子 武道
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 社会医学について本格的な論議が行なわれるようになつたのは今次大戦以後のことである。特に社会医学が医学教育の問題として諸外国においてとりあげられ,また数次の国際会議の主題となるようになつてからにわかに脚光を浴びることになつた。この種の会議においては主として医学校における学課課程の問題として社会医学を取り扱つているのであつて,医学研究の課題としてはむしろ第二義的に討議されたに過ぎないことは注目すべきことであり,社会医学の理解に若干の示唆を与えるものであろう。しかし社会医学がどのように取り扱われるとしても,社会医学の概念や内容の規定が前提となることが当然であつて,事実これらの会議においても毎常論議の中心とされており,しばしば会議用語としての社会医学の定義づけが行なわれた。いずれにしても社会医学が広く社会と関連を持つた医学の領域として,新しい知識の分野を開拓しつつあること,それは公衆衛生や予防医学の伝統的な形式や考え方とは全く異なつた観点に立つており,従つて古い医学や衛生についての基本的かつ素朴な原理と異なつた思考法や技術を要求するものとして社会医学の正当性を認めている点では共通している。

 わが国においても最近,ようやく社会医学についての関心が高まつて来ており,過日,社会医学研究会の発足を見るに至つている。

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I.はじめに

 健康保険は,加入者が必要とする医療を均しく給付することによつて,医療の社会化をはかるものとみなされている。また累進税的保険料と療養給付における機会均等を前提として,加入者間における「所得再配分」の効果が予測されている。

 現行健康保険が果してそれらの期待にこたえているだろうか。たとえば,1人当り給付件数や給付点数は,政府管掌健保では組合健保よりも少ないことや,健康保険組合あるいは国民健康保険において,標準報酬等級が低い階層や保険料負担が少ない加入者に対する給付率が低いことを指摘されている。加入者に対して機会均等であるべき療養給付が階層によつて格差があることはたしかに問題である。

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 医療保障は,すべての国民に平等かつ完全に医療を保障し,その健康の維持と活動力の回復を図るものである。具体的にいえば,単に疾病治療のみでなく,疾病予防にはじまり,治療,さらに社会復帰に至るまでの全範囲を綜合的にとりいれることにより,健康そのものを守ろうとするものであるとして,健康保障という新しい名で呼ばれようとしている。ところが,現在の医療保障を代表するものともいうべき医療保険は,所得保障的色彩が濃厚であり,また保険給付,医療組織その他の実状から,健康保障の理想にはおよそ程遠い。

 この理想と現実のギャップを解消し,いかにして健康保障を実現するかについての私案をまとめたものが,次に掲げる健康保障の案内図である(第1図)。これと医療保険の現状(第2図)を重ね合せた場合,そこにおのずから,現行制度の問題点が浮かび上つてくると考える。

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I.緒言

 近代医学の著しい進歩に伴なつて各科専門医の必要性と専門医による綜合診断の重要性が漸く強調されはじめている。近代医学はその優秀な治療内容を恵与してくれると同時にその診断技術の応用によつて疾患の早期発見,早期診断の可能性をさらに促進したと思われる。しかしながら,近代医学の恩恵がどれだけ一般民衆の中にほどこされているかということになると全く嘆げかわしいのが現状である。近代医学はただに大学病院とか大病院の中にのみ温存なされているべきものではない。われわれ医学にたずさわるものは,この現状を少しでも是正すべき義務があると考える。一方無医村問題となると話は一層深刻である。

 最先端の医学の恩恵はもち論のこと医師の検診さえも満足にうけられないのが現状であろう。厚生省は例年無医村対策に努力されているが,僻地赴任とか,経済問題にからんでその成果もなかなか上りにくいようである。

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1.緒言

 最近の全国死亡の傾向をみると,結核・肺炎・胃腸炎その他細菌性疾患による死亡が著しく改善されたのに対し,老人性疾患および事故・自殺等外因による死亡が増加しているが,高津保健所管内においても同様の傾向がみられる(第1図)。またこれを訂正死亡率でみると,外の死因はすべて全国平均を下回るが,老人性疾患は全国平均より高い死亡率を示し,特に農村地区における高血圧性疾患・心臓疾患の死亡率が高く,これらの地区にあつては40歳〜60歳の比較的早い年代から死亡率が高いなど,老人性疾患に対する予防活動の必要性が痛感される。保健所が現在の人員,設備,業務量などからみて,どの程度,老人性疾患の予防にとり組んでいくべきかについては,種々論議のあるところであるが,いずれにせよ,その地域の実状と必要性にそつて具体策が考えられなければならない。そこで第一段階として,当保健所管内で脳卒中・心臓疾患で死亡した者がどの程度の療養生活をしていたか,病気に対する認識の度合,治療状況,生活規制の有無等を知る目的で,調査を行なつたので,ここに報告する次第である。

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I.前言

 私達は何故特に健康状態と環境因子との関係を追求するか。--私達は農村病院に勤めて,治療だけでわが事終れりとしてるわけにいかない。どうしても農民に対する予防医学的活動をやらなければならない。それには,農民の生活の条件と発病の原因との連関を具体的によく知つていなければならないわけである。

 じつさい,農民の貧しい生活の実情を見れば見るほど,また,農民の発病の模様を知れば知るほど,農村に多いさまざまの病気の原因ないし誘因が彼らの日常のくらしの環境の中に,深く且つ広く根を張つていることを痛感せざるを得ないのである。これを明らかにすることが私達の任務だ。

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I.はじめに

 けい肺は職業病のうちでも最も古くから注目されてきたもので疾病の特質上からも多くの国々においてこれに対する特別保護の法制を有するものも少くない。我が国においても昭和5年以来坑夫労役扶助規則により,戦後は労働基準法制定後において「業務上の疾病として,それぞれ災害扶助,災害補償の対象とされ一定の保護措置がとられてきた。」しかしけい肺が現在の医学のもとにおいても根本的に治癒回復させることが困難な疾病であることから国家的の保護が要望され昭和30年7月けい肺等特別保護法が制定になり,つづいて臨時措置法が施行になつた。さらに昭和35年4月から労災保険法の改正と共にけい肺のみならず鉱物性粉じんによるじん肺に拡大したじん肺法が制定施行になり労働者保護上画期的な発展をとげたのであつた。

 しかしこれらの立法が施行されても実際にけい肺に罹患した労働者がどのように補償をうけているかという現状についての調査研究は少い。私は社会福祉の立場からこの点について若干の調査を行つたのでその結果について報告し,併せてけい肺の補償について私見をのべることにする。

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はじめに

 保健所は漸く一般民衆の生活に浸透してきた。戦後15年を経過し,保健所の仕事は増えるばかり,極端に表現すれば,何一つ満足にできない気がする。

 静岡県の保健所は,職員数が全国に比して著しく少なく,民衆の要求に応じきれない。増員したいが,ただ「人が足りない」だけでほとんど不可能でなる。

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まえがき

 市町村単位の地域社会を人口規模の大きさによつて類型化すると,医療施設および診療医師の分布密度は人口規模の大きい地域社会群ほど密度がたかくて,地域社会の人口規模の大きさと医療施設・診療医師の分布密度は平行する。地域社会の人口規模の大きさというのは包括的に都市性向を表現するものであり,また死亡率・乳児死亡率・住民の消費・所得水準ともきわめて規則的な逆相関あるいは相関関係を認めるのである。このことからわが国の現状では都市性向という基盤の上にたつて,医療施設・医師―死亡率・乳児死亡率―貧困の間に悪循環ともいうべき一定の関係があり,いかんなことながらこのようなゆがんだ諸相をもつ都市集中性が医療施設・診療医師の配置を規定する原則となつている。筆者1)は先にこれらの関係を統計的にあきらかにし,この原則を打破し,公共的社会的努力によつて地域住民のために真に無差別の医療施設・診療医師の分布がなされる必要があることを述べた。

 ところでこのように医療施設・診療医師はあきらかに都市に偏在しているが,実際に施設を利用する患者の動きはどうなのか,国民の医療を考える場合に,受療する患者の実態こそ地域においてわれわれがもつとも知りたいことであり,知らねばならぬことであつた。そこで昭和34年6月17日に行なわれた厚生省患者調査2)の資料をもちいて地域における施設利用患者について以下の推計を行なつたので報告したい。

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 本年,厚生省に公衆衛生教育制度調査委員が設置された。これは公衆衛生活動の第一線の担当職員の量と質が確保されていない点を考慮し,公衆衛生行政に従事する各種職員の教育訓練,身分,資格,処遇等の諸問題を調査,審議しようとするためである。情勢の変化に伴つて行政制度の改革を行うことは望ましいが,この改革が円滑に遂行されるためには,客観的条件の分析とともに,公衆衛生従事者の主体的条件を十分に考慮してゆく必要があろう。換言すれば下から盛上る力によつて民主的な方法で問題の解決を図る必要がある。英国においては,このことが十分に行われて居り,例えば1951年に保健大臣によつて任命された「Sanitary inspectorsの業務の性質,その補充,訓練,資格等についての現状調査のための委員」には第一線担当のChief Sanitary Inspectorが参加し,活動して居る1)。ここでは近畿地区の環境,食品衛生監視員自身が過去において教育訓練,身分,資格,処遇の問題にどのように取り組んで来たかをその自主的な運動の実践を通じてみたい。

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1.社会医学の定義について

東京大学医学部・衛生 黒子 武道

 〔総括〕曾田(公衆衛生院) 社会医学の定義は,きわめて広汎な問題で把握しがたいが,個々の問題の具体的な取扱い方に,社会医学を滲透させていく,そういう行き方が現段階における社会医学の問題であると考えられる。

〔質問〕水野(名古屋大学) 社会医学social medicineのほかに医社会学medical sociologyという言葉があるが,それとの関係は?

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日時 昭和35年7月29日

場所 日本都市センター

創立総会次第

1.開会挨拶

1.議長選出

1.経過報告

1.会則審議

1.世話人選出

1.会計報告

1.昭和35年度予算案審議

1.次回研究会の開催について

1.その他

社会医学研究会第1回研究発表会
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とき:昭和35年7月29日(金),30日(土)

ところ:東京都千代田区平河町 日本都市センター講堂

〔第1日〕

創立総会

研究発表および討議

1.社会医学の定義について東京大学医学都・衛生 黒子武道

2.社会保険医療の分析関西医科大学・衛生 東田敏夫,仲野俊子

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 ホルマリンによる不活性化ポリオワクチン(Salk)が一般に実施され出してからアメリカの麻痺性ポリオ患者が激減したことは周知の事実である。ワクチンにより腸管のポリオヴイールスに対する感受性が弱まり,その結果ヴイールス排泄が減り,ヴイールスに対する曝露の機会が減つたのか。これを調べるために,ワクチン実施歴が明らかなポリオ患者と,ワクチンを実施してない患者とを,その実施をも含めて114家族について委しい調査を実施した。

 被検者全員の糞便からヴイールスの分離と,血清中和抗体価の決定をして,ワクチン実施歴に関する疫学的事項とを照合してみたのである。

基本情報

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公衆衛生
24巻11号 (1960年11月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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