Neurological Surgery 脳神経外科 9巻6号 (1981年5月)

手術室での一言から 倉本 進賢
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 近頃の世の中の移り変りの激しさは目をみはるものがある.脳神経外科手術手技もその1つである.先日,天幕上下に発育した髄膜腫の手術に際して手術用顕微鏡にレーザー装置をつけて手術をした.手術助手をしてくれた若い研修医も,私の横で側視鏡を覗きながら,一所懸命に手伝ってくれた.ところが操作が一段落したところで,ふと横を見ると,手術助手は手洗いしてゴム手袋をはめた両手を膝の上において側視鏡を覗いているのである.私は手術を中断して,外科医は手術中に手を肘より下にさげてはならない,このことは外科手術手技の基本である,ときびしく注意して,改めて手洗いを命じた.もちろん研修医に悪気があったわけではない.どちらかといえば教える側の私に手落ちがあったのであるから,外科学の発達の歴史から説明しなければならないことになった.

 近世の歴史をみると,中世紀の宗教支配からルネッサンスで人々は自然の真相に触れ,人間の本性を覚知するのに眼醒める.そして19世紀に入ると自然科学は急速に進歩するのである.しかし1850年頃の医療の実情は,クリミヤ戦争についてのフランス軍の衛生状態に関する報告書によると,30万人の軍隊に約1万人の戦死者があったが,病気や戦傷による死者は約8万5,000人というように,創傷や伝染病に対して全く無力であった.

総説

椎骨・脳底動脈の血行 石川 進
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I.はじめに

 近年,脳循環・代謝に関する問題は,多くの研究昔の関心の的となり,新しい研究法の導入とともに形態面でも機能面でも著しい発展を遂げてきた.特にpositron emissiom CT等の開発によって,人の脳で三次元的に局所脳血流やglueose代謝が測定できるようになったことは誠に驚異的であり35,46,52),将来これらの方法によって臨床例を対象とした研究が飛躍的に進歩し,病因の解明に,また治療法の改善に大きく貢献することが期待されている.

 ここでは,従来研究対象にされることが比較的少なかった椎骨・脳底動脈系の循環をとりあげた,椎骨・脳底動脈系は小脳,大脳後下面ばかりでなく,生命に直結する脳幹に分布しておりながら,この領城の血流量測定が困難であること,頸動脈系の分布領城に比較するとかなり狭いこと,またそのためもあって椎骨・脳底動脈系の血管障害が比較的少ないこと等の理由から頸動脈系ほど研究対象にされなかったのであろう,もっとも脳底部の血管を直接観察して薬剤等に対する反応性をみるといった目的には,脳表に沿ってかなりの距離を走っている脳底動脈は格好な対象とされ,近年,特にvasospasmの研究において,直接あるいは血管写による観察に,また血管片を採取してin vitroで収縮能を測定する方法に盛んに利用されている10,30,50)

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I.はじめに

 頭蓋内舌下神経鞘腫は稀で,文献上時折り散見されるに過ぎない.最初の報告は1933年de Martelら3)によるものであるが,1969年までには10症例16),現在までおよそ21例を数える.

 本腫瘍は長期にわたる半側舌麻痺およひ萎縮が特徴的であるが,これのみでは医師を訪れる人は少なく,多くは頭蓋内圧亢進や周辺脳幹部の圧迫症状が出現してから来院するため,発見が遅れ,予後が不良となることが多い.それゆえ患者の救命や脱落症状を少しでも少なくするためには早期発見が何より大切である.

海外だより

MalisとDrakeの手術を見て 西本 詮
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 ニューヨークMt.Sinai病院のMalis(Leonard I.)はparasellartumorとacoustic neurinomaの手術で有名ですが,このたびtuberculum sellae meningiomaの手術を見る機会を得ました.手術場は広く,macroの手術もmicroの手術もそれぞれ2台ずつのテレビで見えるようになっているほか,neuroradiology(NR)直結のテレビもあり,手術の様子はNRにそのまま放映されるし,NRのフィルムの所見も手術室のテレビで見ながら討論できるようになっています.MalisとHuang(Yun P.)がお互いに別棟でテレビを見ながら説明し討論する光景はまことに連絡がよく感心させられ主した.また手術台の横にはMalis創案の圧コントロール吸引瓶,bipolarを使用してもテレビの映像が乱れない仕組みの電力盤等を組み合せた移動可能の箱があり(Fig.1),ここから手術用の吸引を行うのみならず,術者や助手のマスクの下にも両側からパイプを入れて吸引し,涼しく快適に眼鏡も曇らずに手術ができるようになりています.ファイバースコープのヘッドランプをつけ,眼鏡には拡大鏡をつけ,両頬には両側から吸引管が入り,まことに物々しく宇宙飛行士を見るような感じです.

 手術は朝9時頃から始まりますが,まずレジデントが開頭します.

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I.はじめに

 著者らはイヌを用い,限局した梗塞病変の作製が困難であるとされていた脳幹部に,天然gutta perchaでcoatingしたシリコンゴム円柱を用いたembolizationの方法で,segmentalな梗塞病変を作製した13,14)

 本論文ではこの方法を用いて,栓子が脳底動脈を閉塞した場合を中心に,栓子の位置,神経症状,病変の大きさならびにその特徴,vital sign等について検討したい.

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I.はじめに

 小児頭部外傷では,成人と異なり,局所神経症状よりも,むしろ頭痛,嘔吐,不機嫌,貧血等,全身症状が前景に出ることが多い.したがって臨床症状のみから頭蓋内血腫や脳挫傷の存在を早期に診断することは困難な場合が少なくない.このような場合,無侵襲のCTが診断上極めて有用であることはいうまでもない.

 本研究では,15歳以下の小児頭部外傷について,急性期から慢性期にいたるCT像を臨床所児,脳波所見等と比較した.

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I.はじめに

 小児の脳血管障害のうち,頭蓋内動脈閉塞性疾患は,小児の急性片麻痺の原因の1つとして大切であるにもかかわらず,これに関するまとまった報告は本邦では極めて少ない.

 そこで,過去11年間にわれわれの教室で経験した小児の脳動脈閉塞性疾患の病態につき検討し,外科的立場から治療についても若干の考察を加えて報告する.

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I.はじめに

 コンピューター断層撮影(CT)の導入によって頭蓋内病変の診断が容易になり,小児においても頭蓋内嚢胞が発見される頻度が高くなった27).頭蓋内の嚢胞性疾患では,CTによって嚢胞の大きさや部位,脳実質や脳室系・くも膜下腔との関係,合併する脳疾患の診断も可能になった10,13,24,27,31,37)

 テント上に襲胞を形成する疾患として,くも膜嚢胞や孔脳症,脳形成不全による髄液腔の拡大が重要である4,10,30).またテント下の嚢胞としては,くも膜嚢胞,Dany-Walker cyst, large cisterna magna,孔脳症等が挙げられる.これらの疾患では,CTによってそれぞれ特徴的な像を示すので診断が可能なことが多いが6,9,28,31,34),ときにこれらの鑑別に困難を感ずることがある.また嚢胞腔と周囲の脳室系,あるいはくも膜下腔との間の交通性の有無や髄液循環動態については,通常のCTのみでは必ずしも明らかにされるとは限らない16).頭蓋内の嚢胞性疾患においては,外科的治療の適応や治療方法の選択のために術前に正確な診断を得ることが重要である.

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I.はじめに

 平時における頭蓋脳穿通創の報告例は稀で,暴力に使用された凶器としてのナイフ等によるもの,また子供が自らの手に持った鉛筆等の先の尖った物の上に倒れ込んで受けた傷,等が一般的である.

 ここに報告する1例は,35cmの角材の柄の付いた,太さ1.5cm,長さ19cmの鉄杭が,偶然空中に放り上げられ,7mも宙を飛んで,校庭で除草作業中の学童の頭部に落下し,これを頭蓋弓隆部から下顎部に至るまで貫き通したものである.

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I.はじめに

 近年,脳内主幹動脈閉塞症の外科的治療は頭蓋内外血管吻合術が一般的である.しかし中大脳動脈三叉部を含む閉塞や,その直後の閉塞においては,上記術式では,梗塞部の血行を確保することは困難であり,血栓摘除術が必要となってくる.中大脳動脈主幹および末梢の閉塞症に対する血栓・塞栓摘除術の報告例は,1954年Welch14)以来比較的多くみられるが1,7,11,15),急性期例に限りてみれば報告例は少なく1,5,15-17),しかもそのほとんどは,術後,出血性梗塞や脳浮腫等の合併症を来たし,予後の悪い例が多い.一方,最近注目されている脳梗塞急性期における自然血流再開例をみても3,4).その臨床症状はむしろ増悪傾向を示すものが多く,急性期における血流再開には未解決の問題を多く抱えているのが現状と考えられる,今回われわれは,中大脳動脈分枝閉塞症において,急性期に血栓摘除術を施行し,良好な機能予後の得られた症例を経験したので,問題解決の一助となればと考え,若干の考察を加えて報告したい.

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I.はじめに

 慢性硬膜下血腫と脳動脈瘤との合併例には両者に因果関係のあるものと,偶然に合併したものとがあるが,いずれにしろ比較的稀なものである.われわれは最近慢性硬膜下血腫と合併した中大脳動脈皮質枝の仮性動脈瘤2例と,慢性硬膜下血腫に偶然合併したと思われる多発性動脈瘤1例,および前大脳動脈分岐部動脈動脈瘤1例とを経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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I.はじめに

 三叉神経鞘腫は全頭蓋内腫瘍の約0.2%を占め,同じ頭蓋内神経鞘腫である聴神経腫瘍に比べ圧倒的に少なく,その比率は約97:3であるとされている12).発生部位から通常ganglion typeとroot typeに分類されているが福,症状の発現時には腫瘍は既に巨大になっており,両者を区別することは困難であることが多い5).三叉神経鞘腫の手術手技について詳細な記載は少ない.これは,聴神経腫瘍の手術に対し各税の方法が報告され,手術に必要なsurgical anatomyが詳細に論じられているのと著しい対照をなしている.

 われわれは最近,中頭蓋窩と後頭蓋窩に拡がった大きな三叉神経鞘腫に対し,まず前頭側頭開頭により中頭蓋窟の腫瘍を摘出し,更にテント切痕より後頭蓋窩の腫瘍を危険のない範囲でできるだけ摘出し,21回目の後頭下開頭経.路の手術で残存腫瘍を全摘しえた.

 この経験に基づき,三叉神経鞘腫に対するtwo-stageoperationの意義とapproachの選択について論じ,更に腫瘍摘出の際に問題となる三叉神経と①内頸動脈のganglial part,②海綿静脈洞,③外転神経,の解剖学的関係を検討し考察を加えた.

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I.はじめに

 外傷性浅側頭動静脈瘻は,Winslow30)以来,本邦報告15例3-15,20,22-28)を含め,現在までに59例1,3-30)を数えることができるが,開頭手術を契機として発生した深側頭動静脈瘻の報告は,現在までみられていない.

 われわれは,開頭手術を契機として発生し,頸動脈撮影にて6年間にわたり,その発達増大が観察された深側頭動静脈瘻の1手術治験例を経験したので症例を報告するとともに,発生原因について若干の考察をする.

先達余聞

Wilhelm Tönnis 飯塚 一
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 1934年3月のある日曜日,ヴュルツブルク西郊,ニコラウスの山上の200年の歴史を持つ礼拝堂をゆっくり降りて来る影が見受けられた.礼拝を終えた入達なら右に曲ってマイン河橋を渡ってせわしく市内にもどる.人一倍大きな若い影はそのまま河畔にそって真っすぐ,ゆっくり歩き続けた.好天気とはいえ,青空は見えず,全天を蔽う青雲は日差しを通すと所々明るく白く映る.厚い外套に包まれたヴィルヘルム・テニス(Wilhelm Tönnis)の体内には燃える大志と,凍てついた心臓が今激しく戦っていた,通りがかりの人がながめたら日曜の散策を楽しむ若い哲学者としか見えないだろう.時折り立ち止って右手の対岸の葡萄畑の丘陵や,左手のマリエンベルクの古城を仰ぎ見る碧い澄んだ目が,いつになく赤く腫れ,涙で濡れていることにも気がつかないだろう.幸福な家庭では才色兼備の夫人と3人の幼ない子供らが,日曜祭日用とって置きの熱い焼肉料理の中食を前に,彼の帰宅を心待ちにしていた,マイン河畔の散歩道の中ほどまできた彼は急に回れ右をした.何の変哲もないこの河畔のこの草原こそは,かつて1870年,X線を発見した若い助手,ヴィルヘルム・コンラート・レントゲン(1845-1923)が,ヴュルツブルク大学理学部に愛想をつかし,その2年後シュトラウスブルク大学に転勤することに決意したゆかりの地であった,しかし,若い外科医にはそんな感傷もなければ,春霞に聾え立つ古城の美しさも全く念頭になかった.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
9巻6号 (1981年5月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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