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「知らず知らず 歩いて来た 細く長い この道 振り返れば 遥か遠く 故郷が見える」は,『川の流れのように』の歌詞である.昭和63年12月に発売されたアルバム『川の流れのように〜不死鳥パートⅡ』の表題曲で,美空ひばりさんの遺作となった本楽曲は,翌年1月11日にシングルとして発売された.昭和64年は1月7日までなので,昭和から平成にかけ元号の変わり目に発売されたことになる.私は,昭和の時代に札幌で医学を学び,平成の時代に北海道で医師として研鑽を積み,令和の時代に関西で後進を指導する立場という僥倖を得た.平成から令和へと変わった年に職場環境ががらりと変化した自分にとって,『川の流れのように』はいろいろな意味で感慨深く感じる曲である.
川が流れるのと同様に,「時」にも流れがある.本原稿を書いているのが令和2年4月で,元号が変わってから既に1年が過ぎようとしている.医師になってから,「時」は常に早く過ぎ去り,年を経るごとに加速しているように感じる.日が積み重なって月となり,月が積み重なって年となり,年が積み重なって10年単位の流れができている——と思えるようになったのは,医師になって約30年が経過した今であって,若い時は振り返る余裕などなく,ひたすら目の前の患者さんに向き合ってきた.医師になりたての頃はプライベートな時間と呼べるものはほとんどなく,今はなきポケットベルという見えない鎖に繋がれていた.“Work-life balance”という言葉は世の中にあっても,自分を取り巻く環境の中にはなかった時代である.平成前半の年越しは,そのほとんどを術場で迎え,令和という新元号の発表時も手術中であった.自身の脳神経外科医人生の中で,転機のカギとなってきたのが常に手術であり,今でもうまくいった手術の場面,痛い目にあった瞬間などが脳裏をよぎることがある.
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