Neurological Surgery 脳神経外科 47巻6号 (2019年6月)

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 この原稿掲載が,平成から現時点では未知の新元号へとなってすぐの初夏の頃だとのことで,あっという間の平成の約30年間を自分なりに振り返ってみたい.

 自身が生まれた昭和が幕を閉じ,平成が始まったのは大学1年生,19歳のときだった.高校時代は部活動や学校行事の運営に没頭していたことなどを言い訳に,将来についてのビジョンをまだもてていなかった自分が,大学入学後に一気に広がった己を取り巻く世界からのさまざまな刺激を受け,医学部に行くことを考え始めたのがちょうどこの頃であったため,平成の30年間は自分の医師としてのここまでの人生と完全に重なる.ちなみに最近の医学生と接すると,皆かなり小さな頃から医師を志して準備してきていることを知り,少し驚かされることが多い.自分の場合,人の命と向き合いたいとの覚悟ができるまでに時間がかかった.

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Ⅰ.はじめに

 WHOの組織分類では,下垂体腺腫は「中枢神経系腫瘍(tumours of the central nervous system)」には含まれておらず,「内分泌腫瘍(tumours of the endocrine organs)」に記載されている.その「内分泌腫瘍」のWHO分類が2017年,実に13年ぶりに改訂され(第4版;Table1),すでにいくつかのreviewも報告されている7,9,10,14,19,23).これまで下垂体腺腫の組織分類に関しては,煩雑で多彩な組織型,組織所見と内分泌所見の乖離(サイレント腺腫など),臨床的aggressivenessの評価法や組織分類そのものの臨床的意義など,多くの問題点が指摘されていた.また組織型の名称の多くは電子顕微鏡所見に基づいた用語であり,一部の組織型の確実な診断には電子顕微鏡検索が必要とされてきた.今回の改訂ではこれらを含めて多くの改善が得られたものの依然として問題点も少なくない.

 本稿では脳神経外科医にとって必要な下垂体腺腫の新WHO組織分類について,その臨床的意義を交えて解説する.なお下垂体後葉系の腫瘍と頭蓋咽頭腫は「中枢神経系腫瘍」「内分泌腫瘍」ともに記載されているが,ここでは後者の立場から記述する.

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Ⅰ.はじめに

 アルテプラーゼを用いた静注血栓溶解療法(intravenous recombinant tissue plasminogen activator:IV rt-PA)は,わが国では2005年に認可され広く行われているが,2010年のMerciリトリーバー(Stryker, Kalamazoo, USA)導入以降行われるようになった血栓回収療法は,新規デバイスを用いた複数のランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)によりIV rt-PAを含む内科治療に優る転帰改善効果が証明され,今や標準治療となった.本稿では,超急性期脳梗塞の再開通療法について,現在までのエビデンスを俯瞰し,現状と課題を述べていきたい.

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Ⅰ.はじめに

 下垂体部腫瘍に対する手術は内視鏡下経鼻手術が主流となってきている.特に,内視鏡の特性である広角・斜視鏡を利用して,これまで開頭手術が行われていた大型の腫瘍や頭蓋底腫瘍も経鼻手術で摘出可能となった.しかし,腫瘍の進展様式によっては,腫瘍の残存や腫瘍周囲の微細血管損傷による術後出血,髄液漏などの合併症が起こるため,これら合併症を回避することが手術成功のカギとなる.

 本稿では,下垂体・傍鞍部腫瘍に対する内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術において,合併症を回避していかに効果的に腫瘍摘出を行うかについて,手術解剖を中心に解説する.

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Ⅰ.はじめに

 経口抗凝固薬の重大な副作用として出血が挙げられる.頭蓋内出血はその中でも重症である.ワルファリン療法中には0.6〜1.0%/年の頻度で頭蓋内出血が起こり16),頭蓋内出血は遷延し増大すると報告されている4).ワルファリン投与中の頭蓋内出血に対しては投与中止とともに,その効果の緊急是正が重要である.

 『脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017対応]』11)においては,血液製剤を用いて可能な限り速やかにプロトロンビン時間国際標準比(prothrombin time-international normalized time:PT-INR)値を1.35以下に正常化することが勧められている1).従来は,PT-INR値によってビタミンKや新鮮凍結血漿の投与が行われてきた.しかし,ビタミンKは効果発現までに数時間を要し,新鮮凍結血漿は輸血準備に時間を要する上に感染や容量負荷の危険があることなどから,必ずしも満足のいく結果は得られていない2)

 プロトロンビン複合体製剤(prothrombin complex concentrate:PCC)はヒト献血由来の乾燥人血液凝固第Ⅸ因子複合体であり,ワルファリンにより抑制される第Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ因子を含有する.PCCは,大出血時の止血効果において新鮮凍結血漿と非劣性を示し,30分以内の急速なPT-INRの是正で優越性を示した13).『脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017対応]』11)においても,PT-INRの正常化には新鮮凍結血漿よりもPCCの使用が推奨されている5,9).これまで,頭蓋内出血に対するPCCの使用は保険適用外であったが,2017年9月より,CSLベーリング社(Pennsylvania, USA)の4因子含有第Ⅸ因子複合体である静注用PCC ケイセントラ®が,ワルファリン関連頭蓋内出血に対するPCCとしてわが国で保険承認され,今後の使用が増加することが予想される.

 今回われわれは,ワルファリン関連頭蓋内出血に対してビタミンK併用下でPCCを投与した11例を経験した.PT-INRの是正効果および転帰について考察し報告する.

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Ⅰ.はじめに

 周期的なラトケ囊胞(Rathke's cleft cyst:RCC)の破裂は強い炎症反応と組織障害を引き起こし,これが反復することで下垂体機能は廃絶に至るとされているため,破裂RCCの診断は重要である.また,慢性炎症はさまざまな病態(腫瘍化も含む)を招来する基本的な病態として知られている5).今回われわれは,無症候性RCCの経過観察中に周期性頭痛と球後痛で発症したRCCの破裂により無菌性髄膜炎,二次性下垂体炎を呈した1手術例を経験したため,その臨床経過・病理像を提示し,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 破裂脳動脈瘤における自然血栓化はよく知られた現象であるが,その多くは巨大あるいは大型の動脈瘤の報告であり4,18),小型脳動脈瘤における自然血栓化の報告は少なく,その自然歴も不明な点が多い2,3,6-9,11-17)

 今回われわれは,後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery:PICA)遠位部に発生した小型破裂脳動脈瘤が自然血栓化し,早期に再開通を来した稀な1症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋外頚動脈瘤は非常に稀な疾患で,頭蓋外末梢動脈の動脈瘤全体の約0.4〜4.0%とされており1,2,6),発生部位は内頚動脈や総頚動脈に多く8,10),成因は動脈硬化や外傷によるものが多いとされる2,13).保存的に加療されることは少なく,外科的な処置が必要とされることが多いが,これまでに標準的な治療法は確立されていない.しかし,急速に増大して破裂する可能性もあるため,迅速な治療が必要となることもある.

 今回われわれは,進行性に増大する拍動性頚部腫瘤で発見された頭蓋外頚動脈瘤の1例を経験したため,自験例と文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 “Carotid web”という名称は1973年にMomoseら14)によって初めて使用され,その後も脳梗塞の塞栓源になり得る病変としていくつか報告されてきたが1-21),まとまった症例数も少なく,その認知度は比較的低いと言える.病変自体が小さいため,超音波検査やMR angiography(MRA)などのsensitivityが低くなってしまい,診断においては正常ないしは軽度狭窄病変として扱われ,その危険性が見逃されている可能性がある.

 今回われわれは,minor strokeおよび治療抵抗性にmajor stroke再発を来したcarotid web病変の3症例を経験し,血行再建術を行うことで良好な結果を得たので,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 大脳皮質下出血は,脳神経外科の日常臨床でよく遭遇する疾患である.本疾患では,血腫の脳への圧排による神経症状を改善する目的で,開頭血腫除去術が行われることがある.脳出血の原因は高血圧性が最も多いが,脳腫瘍からの出血の可能性も念頭に置かなければならない.

 今回われわれは,左側頭葉皮質下出血に対し開頭血腫除去術を行い,術後1年で手術部位に膠芽腫が発生した症例を経験した.術後7カ月の時点で施行された頭部MRIでは腫瘍の所見を認めなかったため,脳出血の原因は腫瘍内出血よりも,手術後,脳出血手術部位に新たに発生した膠芽腫の可能性が考えられた.このような病態の存在は脳出血の術後経過観察方針に影響を与えると考えられるため,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 後下小脳動脈瘤(posterior inferior cerebellar artery aneurysm:PICA AN)は全脳動脈瘤の0.49〜3%を占め18),比較的稀なものと考えられる.その約2/3は椎骨動脈—後下小脳動脈分岐部動脈瘤(vertebral artery-posterior inferior cerebellar artery aneurysm:VA-PICA AN)であり5,12),さらにその末梢に生じた後下小脳動脈瘤(distal PICA AN)は少ない.加えて,distal PICA ANの発生部位は解剖学的特徴から5つのsegmentに分類され13),脳幹部への穿通枝の有無によって治療方法も異なる.今回われわれは,2例のcortical segmentに発生したdistal PICA ANの破裂例を経験したので,その臨床的特徴,診断と治療方法,予後について検討し,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 71歳 男性

 既往歴 2型糖尿病で加療中

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Ⅰ.医療機器開発とは

 脳神経外科領域における医療機器は,脳神経という特殊性ゆえにその他の臓器と相違点が多く,希少疾患も多いため,対象集団が少なくより一層市場が小さくなる.そのため開発企業は限定的であり,さらに企業の開発意欲が高い領域とは言えず,医療機器開発において良好な環境とは言いがたい.一方で,脳神経外科疾患は患者のquality of lifeに直接影響を及ぼすため,低侵襲で有効性の高い治療や根治的な治療が求められており,医薬品以上に医療機器開発が必須の領域でもある.

 医療機器開発の原点は医療現場のニーズや異業種がもつシーズに基づくものであって,医学・薬学のみならず工学的な要素も多く含まれ,製品そのものを構成する素材や材料の幅も広い.そのため医療機器開発においては医療現場のニーズが先行し,それを解決するシーズとの結びつきによるところが大きい.まさに「医工連携」という言葉が現在は当然のように使われる.欧米ではバイオ・メディカル・エンジニアリングという医学と工学が融合した学問が確立している.しかし,わが国の医学はこれまで臨床に重きが置かれ,医療機器開発の学問は育っていなかった.現在は,米国アカデミアのbio-designプログラムがわが国にも取り入れられ,学問として少しずつ育ちつつある.

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目次

欧文目次

ご案内 脳動脈瘤Cross Hands-on 2019

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 若林 俊彦
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 脇目も振らず一心不乱に前進している時期には思いも寄らないこと,あるいはその時期には意に介していないことが,むしろリラックスしているときに突然閃くことがある.その契機は,ちょうど節目時に,一瞬立ち止まって,大きく深呼吸したときなどに起こる.「扉」の武笠晃丈先生は,新元号に変わる時期に,ふとご自身の「平成」時代を走馬灯のように振り返られた.小生よりも1世代も2世代も若く,現在,すでに世界の脳腫瘍研究の権威となられている方でも,このような時代の中で過ごされてきたのだと思うと感慨深い.その行間からは,ここで再び次世代を見据え,これから10年後,国際的な脳腫瘍研究でさらに大きな飛躍をされる新たなる第一歩を踏み出されたのだと感じた.

 まず1本目の総説,西岡宏先生による「下垂体腫瘍の2017年WHO組織分類」は圧巻である.今回の改訂の内容を簡潔に,しかも系統立てて概説してくれている.「内分泌腫瘍WHO 2017第4版」を前にして,内容が十分に理解できずに途方に暮れていたが,この論文のおかげでそのポイントが極めて明快に理解できた.下垂体腺腫もその分泌系で分類されていた時代が終焉を迎え,これからは分子生物学的基盤に基づいた新たな体系が構築され,臨床像ともよく相関するようになったのである.ただし,下垂体後葉系腫瘍や頭蓋咽頭腫などは,まだその端緒に就いたばかりであり,今後の研究が俟たれる.2本目の早川幹人先生による総説「超急性期脳梗塞に対する再開通療法の現在」では,現時点での静脈血栓溶解療法と血栓回収デバイスの最新のエビデンスと今後の課題が端的にまとめられており,「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(平成30年12月14日,法律第105号)に則り,PSCおよびCSC施設の横断的連携整備の課題がわかりやすく解説されている.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
47巻6号 (2019年6月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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