Neurological Surgery 脳神経外科 47巻5号 (2019年5月)

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 今更言うまでもなく,時代は大きな転換期を迎え,先の見通しは立てにくい.その中にあって,「現代社会の種々の矛盾に満ちた現象は,高度成長をなお追求しつづける慣性の力線と,安定移行期に軟着陸しようとする力線との,拮抗するダイナミズムの種々層として統一的に把握することができる」という社会学的記述4)は,説得力がある.超高齢化と人口減少という人口激変期の高台に立って,「新地域医療」について私論を述べたい.

 「社会的共通資本」は,宇沢弘文7)によれば“自然資本”と“社会的インフラストラクチャー”と“制度資本”の3つのカテゴリーに分類される.このうち制度資本は,教育,医療,金融,司法,行政などで,いかなる所有形態であってもその維持,管理はコモンズによって行われる必要がある.コモンズとはもともと牧草地などの共有地,あるいは日本の場合「入会」という意味で,その地域社会の人たちが利用しているので,フリーアクセスではなく,顔と顔との関係等々が出来上がっている人々が管理している.すなわち信託されたものとして適切に管理される.つまり,「コモンズの悲劇」(ギャレット・ハーディン,Science, 1968)というのは,コモンズという共有地の上に,人間のコモンズが形成されていなかったときに生じる悲劇であって実際には起きない1).神野直彦の論述を借りると,医療というのは医者がサービスの供給者,患者がサービスの需要者ではなく,それは市場の取引関係に基づいて提供されるというのではない.医者と患者が共同体をつくって悲しみや痛みを分かち合う,これが医療行為である.つまり健康を取り戻すという共同作業を,医者と患者が「癒しの共同体」をつくって行うこと,これが社会的共通資本の考え方である.

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Ⅰ.はじめに

 経蝶形骨洞手術は,1907年にHermann Schlofferが世界で最初に下垂体腫瘍摘出術の成功例を報告し,1910年にHarvey Cushingと耳鼻科医のOskar Hirschがほとんど同時期に,現在とほぼ同じアプローチ法で初めて手術を行ったとされ,現在ちょうど100年を超えたところである.

 感染症などの合併症の頻度が高く,次第に廃れていった経蝶形骨洞手術が注目を浴びたのは,1960年代後半にJules Hardyが顕微鏡下の経蝶形骨洞的下垂体腫瘍摘出術を報告してからである24).以後“Hardy法”として普及しているが,その後1990年代になって耳鼻科領域で行われた内視鏡を用いた経蝶形骨洞手術の報告以降,その有用性から現在では経鼻的な内視鏡下経蝶形骨洞的下垂体腫瘍摘出術が急速に普及している13,22,49)

 Hardy法による手術法の改良を第2の技術革新とするならば,近年の内視鏡を用いた経鼻手術の普及は第3の技術革新と言える.内視鏡を用いることにより術野の観察性が向上し,トルコ近傍のみならず,第三脳室内や前頭蓋底,斜台部病変に対する経鼻内視鏡頭蓋底手術も急速に発展してきている.このような状況を踏まえ,本稿では経鼻内視鏡手術の現状と将来の展望について解説する.

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Ⅰ.はじめに

 平均寿命が延びて超高齢社会になるにつれて骨粗鬆症性椎体骨折(osteoporotic vertebral fracture:OVF)の症例が増えている.従来,脳神経外科医がOVFの治療に携わる機会は少なかったが,近年腰椎を含めた脊椎手術を行う脳神経外科医が増えており,今後はOVFを伴う脊椎症例を診療する機会が増えると考えられる.本稿では神経脱落症状を呈する胸腰椎移行部のOVF症例に対する外科治療,特に後方除圧固定術と胸腰椎側方椎体置換術を中心に述べるが,治療に必要な病態や診断についても概説する.また,誌幅の都合で本稿では割愛するが,実際の治療に際してはOVFの保存的治療や骨粗鬆症の診断・治療の知識が必須であり,成書を参照していただきたい.

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Ⅰ.はじめに

 もやもや病では,過換気や啼泣によるhypocapniaが虚血発作や脳梗塞発症の引き金になることがよく知られている.そのため,小児もやもや病の血行再建術の周術期管理において,啼泣を回避することが虚血性合併症を予防する上で非常に大切である.特に術直後は,麻酔覚醒時の術後興奮,疼痛,不安により啼泣しやすい状況にある.さらに脳循環動態が極めて不安定なために,啼泣によるhypocapniaにより広範な脳梗塞に至る危険性がある.啼泣を回避し,normocapniaを維持するため,麻酔科の協力を得て,superficial temporal artery(STA)-middle cerebral artery(MCA)anastomosis+encephalo-myo-synangiosis(EMS)終了後,抜管時より翌朝までデクスメデトミジン(dexmedetomidine:DEX)にて持続的に鎮静を行った.

 海外では,DEXのもつ鎮静・鎮痛・臓器保護作用,そして呼吸抑制が少ないという特徴より,小児への投与の有効性が報告されている22,24).日本では2004年から市販されているが,小児例,脳神経外科領域での報告例は少ない.

 小児もやもや病の術後啼泣回避のための鎮静薬として,DEXの有用性を検討したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 くも膜囊胞(arachnoid cyst:AC)は,小児期に多く指摘される良性の囊胞性病変である1).頭部画像検査により偶発的に発見され,無症状で経過することが多いが,囊胞自体の増大や硬膜下水腫・血腫を併発すると症候性となることがある9).頭蓋内圧亢進症状や局所神経症状を呈すれば外科的治療の適応となり,その予後は良好であるとの報告が多い16).しかし,無症候性ACの手術適応は,脳神経外科医のなかでも意見が分かれる18).また,軽微な頭部外傷,特にコンタクトスポーツで硬膜下血腫が合併しやすいともいわれているが,現在のところ,ACの小児へのスポーツ制限に関する明確な基準はない11)

 今回われわれは,うっ血乳頭で発見したACに合併する慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma:CSDH)に対し,外科的介入により良好な転帰を得た1例を経験した.小児におけるACとスポーツとの関連も踏まえ,最近の文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Camptocormiaはギリシャ語を起源とし,kamptosは「曲がる」,kormiaは「体幹」を意味し,日本語では「腰曲がり」と訳される.Bent spine syndromeとも呼ばれ,体幹部が前屈する症状を呈する稀な不随意運動疾患である14,21).パーキンソン病やジストニアなどの不随意運動の一症状として出現することが多く,立位や歩行によって症状が誘発され,臥位や座位によって症状は消失する.Camptocormiaの病態は,パーキンソン病やジストニアによって生じることから,中枢神経起源の不随意運動指令が体幹前屈に関与する筋群へ及ぶことによって生じる不随意運動と考えられるが,未だ明確な病態は解明されていない21).治療は原疾患によりさまざまであるが,レボドパや抗コリン薬,ベンゾジアゼピン系薬などが用いられる.また,ボツリヌス毒素やリドカインの注射も行われるが,いずれの治療も対症的な治療にとどまり反復投与を要し,また効果も限定的である.

 保存的治療に抵抗性のパーキンソン病やジストニアに関連して発症するcamptocormiaに対しては,視床下核(subthalamic nucleus:STN)や淡蒼球内節(globus pallidus internus:GPi)に対する脳深部刺激術(deep brain stimulation:DBS)が用いられる4,6,17,19)

 今回われわれは,ジストニアによるcamptocormiaに対して両側GPi-DBSを施行し,劇的な症状改善と長期的な効果を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Segmental arterial mediolysis(SAM)は,中〜小動脈に特異な病理所見を呈する紡錘状動脈瘤を形成する稀な疾患である6).腹部内臓動脈瘤での報告が多いが7,8),頭蓋内動脈病変の症例も散見される15).今回われわれは,内頚動脈瘤破裂によるくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)発症後,致死的な腸間膜動脈破裂による出血を合併し,剖検にてSAMによる頭蓋内および腹腔内動脈瘤と診断された1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.緒  言

 食道粘膜下血腫は,飲食物や胃管などの機械的損傷によるもの,あるいは抗血栓療法による特発性損傷に分けられる,比較的稀な疾患である.今回われわれは,未破裂脳動脈瘤術後に食道粘膜下血腫を来した3症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 妊娠中に合併する悪性腫瘍の中で悪性リンパ腫(malignant lymphoma:ML)は,乳癌,悪性黒色腫,子宮頚癌に続く頻度である8).その中でも非Hodgkinリンパ腫(non Hodgkin lymphoma:NHL)の頻度は低く,さらに頭蓋内病変での発症は極めて稀である4)

 われわれは,分娩3日後に意識障害で発症し,1カ月を超える精査と診断的治療の末に,脳生検でようやく診断に至った非定型末梢性T細胞性リンパ腫(peripheral T-cell lymphoma not otherwise specified:PTCL-NOS)の1例を経験した.妊娠・周産期における頭蓋内悪性腫瘍の合併は稀と思われがちだが,実際には周産期脳卒中の発症率と同程度との報告がある7).予後は極めて不良となることが多いため,早期診断,早期治療開始が求められる.常に念頭に置いておくべき疾患であり,ここに文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 前大脳動脈(anterior cerebral artery:ACA)系の窓形成は,前交通動脈(anterior communicating artery:ACoA)以外では水平部(A1)に好発し1,7),脳梁下部(A2)についての報告は少ない4).今回われわれは,A2近位端の窓形成部に合併した未破裂脳動脈瘤の極めて稀な1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈症例1〉 42歳 男性

 主 訴 左上肢の異常感覚

連載 臨床研究の知識update

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Ⅰ.はじめに

 2018年5月に次世代医療基盤法(正式名称は「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」)が施行された.「医療」という言葉が入ってはいるものの,多くの医療者にとっては「?」な法律であろう.本稿では,次世代医療基盤法の背景や政策上の位置づけ,また近年よく耳にする「ビッグデータ」や「リアルワールドデータ」との関わりなどについてもふれたいと思う.なお,筆者自身,これらに関わりはあるものの深い専門的知識があるわけではないため,医療者,また臨床研究に携わるものとしてこの程度は知っておくとよいという程度の広くて浅い話にとどまることをご容赦願いたい.

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目次

欧文目次

お知らせ

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 𠮷田 一成
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 『脳神経外科』2019年5月号は,令和元年の第1号となる.令和の出典は万葉集であるそうだが,ある日本古代史の教授は,平和な時代になってほしいという思いが読み取れるという.一方,ある日本文学の研究家は,典拠の文脈から,「権力者の横暴を許せないし,忘れることもできない」というメッセージが隠されているという.行間の読み方は,専門家でも分かれるということか.新しい時代の門出を,国民皆で祝福したいと思うのは私だけであろうか.

 平成の時代,脳神経外科は多様化が進んだ.血管内治療や神経内視鏡手術が普及し,一部の同じ疾患に対する治療法が多様化した.最近ではexoscopeが登場し,従来のmicrosurgeryに取って代わる可能性をも秘めている.本号でもさまざまな疾患が取り上げられている.寺岡先生が「扉」で触れておられるように,地域医療・介護の在り方も超高齢化時代に対応するように変わりつつある.日本の脳神経外科医は,手術や血管内治療など外科的治療にのみ専念することはできず,幅広く脳神経疾患の患者の診療を行っている.平成の時代に,日本専門医機構による専門医制度の改革があった.脳神経外科の専門医制度は,それほど大きな影響は受けなかったが,この時代に脳神経血管内治療や神経内視鏡手術などのsubspecialtyの専門医制度が確立されていき,今後もさまざまなsubspecialtyの専門医制度,技術認定制度が増えるものと思われる.脳神経外科自体が専門性の高い診療科であるが,その中でもより高度な専門性を必要とする時代になった.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
47巻5号 (2019年5月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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