Neurological Surgery 脳神経外科 46巻5号 (2018年5月)

初めての女医 長尾 建樹
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 数年前の,ある老健施設内での会話.

 「ねぇ,俺の名前わかる?」

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Ⅰ.はじめに

 初発膠芽腫に対して,ランダム化比較第Ⅲ相臨床試験によって明らかな治療効果があると判明した治療方法は,2018年初春の現時点で放射線治療26),テモゾロミド(temozolomide:TMZ)21),Novo-TTF(Tumor-Treating Fields)100Aシステム(腫瘍治療電場療法,オプチューン®)22,23)の3つしかない.

 膠芽腫は,形態学的にpseudopalisading necrosis, microvascular proliferation, mitosis, nuclear atypiaを有する神経膠腫である.複雑な脳腫瘍分類の中では診断基準が比較的明快であるが,遺伝子学的にはIDH wild typeのみから成り立っているわけではなく,より予後の良好なIDH mutant typeも含まれるし,MGMT promoter methylationの有無によって治療反応性は異なる.臨床学的にも,年齢,Karnofsky Performance Status(KPS),腫瘍摘出度などの因子が治療成績に大きく影響することも明白である.

 ある治療方法が有効かどうか判明するのには相当の時間を必要とするし,たとえランダム化比較第Ⅲ相臨床試験だと言っても,その研究が行われた段階で判明していない因子が両群間で偏っていれば結果の解釈は難しくなる.そもそもYanらによって,IDH遺伝子異常が神経膠腫形成に大きく関与することが発表されたのは,今から9年前の2009年のことである29)

 今回論点とするカルムスチン脳内留置用剤(carmustine wafers, BCNU wafers,ギリアデル®)は,本来ランダム化比較第Ⅲ相臨床試験によって初発膠芽腫に対して明らかな治療効果があると判断されていた可能性が高い治療方法である.しかし現実にはそうではない.

 この薬剤がどういった経緯で開発され,果たして初発膠芽腫に対してどういうエビデンスレベルにあるのか,また現在標準治療として受け止められているTMZ併用放射線療法およびTMZ維持療法(Stupp regimen)との組み合わせでどういう結果が得られているのかをまとめてみたい.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋骨の外科的固定方法は医療機器の進歩とともに変遷してきた.チタン製プレートが導入される以前は,絹糸やナイロン糸などの縫合糸が使用されていたが,固定力に問題があった10).一方,ワイヤーによる固定も頻用されてきたが,その安定性は完全なものではなかった.チタン製プレートは簡便に使用でき,かつ,剛性固定と安定性が飛躍的に向上したデバイスで,現在では多くの開頭術の際に骨弁の固定に使用されている10,12,15).しかし,小児例では,頭蓋内へ迷入や皮膚からの露出などの問題があり,頭蓋骨の成長障害を引き起こす可能性も懸念されている4,7,16)

 1990年代に入ると,頭蓋骨を固定するための生体吸収性プレートが登場した.生体吸収性プレートは,ポリL-乳酸とポリグリコール酸からなるcopolymerで,頭蓋骨固定後に加水分解とマクロファージによる貪食を経て約1〜2年で吸収されるシステムで,小児脳神経外科領域においては有用性および安全性が確立している3,8).一方で生体吸収性プレートの大きな問題は,その固定方法にある.多くの生体吸収性プレートはスクリューによる固定であるが,セルフタッピング型ではなく,挿入前に頭蓋骨,骨弁のそれぞれでネジ切りを行う必要がある.このステップにより閉頭に要する時間の延長を来す14).またネジ切りの長さが不適切な場合やスクリューの長軸とネジ切りした孔がまっすぐに合っていない場合,容易にスクリューの破損を来す6,13)

 近年,これらの問題点を改善するため,超音波により生体吸収性インプラントを固定するSonicWeld Rx® systemが開発された.生体吸収性のピンを超音波振動装置の先端に取り付け,あらかじめ作製した頭蓋骨のピン挿入孔に挿入する.超音波装置で生体吸収性ピンを振動させると,ピンと骨境界面に生じた摩擦力によりピンが融解し,海綿骨構造の空隙を埋めるように進展して溶着する5).これにより従来必要とされていたネジ切りのステップを省略でき,迅速に骨固定ができる.すでに形成外科では,特に頭蓋骨縫合早期癒合症の症例でSonicWeld Rx® systemの簡便性や固定力の向上に関して報告がなされているが,脳神経外科領域での使用報告はわずかで,国内の使用経験の報告はない2,5,13)

 今回,われわれは,10歳以下の小児の開頭術に際してSonicWeld Rx® systemを導入したので,固定時間や合併症などを従来のシステムと比較検討して報告する.

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Ⅰ.はじめに

 水頭症に対して行われる脳室-腹腔シャント(ventriculoperitoneal[VP]シャント)は,頭蓋内圧と腹腔内圧の差を利用して過剰な脳脊髄液を腹腔に流す治療法である.腹腔内圧は通常ほぼ0mmHgであり5),髄液腔との圧差2〜25mmHgにより,脳脊髄液は脳室から腹腔内へと流れる.

 VPシャントの機能不全の原因として,シャント閉塞,シャント損傷などのほかに妊娠や,小児においては便秘による腹腔内圧の上昇などの機能的原因が挙げられる6).便秘が原因とされるシャント機能不全は小児での報告はいくつかあるが,成人例では報告例は稀である8).今回,われわれは成人で便秘によりシャント機能不全を来し,さらに慢性便秘の解除によりoverdrainage気味になった1例を経験したので,報告する.

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Ⅰ.はじめに

 もやもや病は内頚動脈終末部および前・中大脳動脈近位部が進行性に狭窄・閉塞し,周囲に異常血管網の発達を認める疾患である.治療として浅側頭動脈(superior temporal artery:STA)-中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)bypassを含む血行再建術が行われるが,術後急性期に神経脱落症状の変動が比較的高頻度にみられる.特に60歳以上の高齢もやもや病患者では直接血行再建術後の過灌流の頻度が高いが,厳格な降圧管理中に脳梗塞を生じることもあり,周術期管理には細心の注意が必要である6)

 今回われわれは,虚血型もやもや病に対する二期的両側血行再建術後に,はじめに血行再建術を行った側の低灌流による神経脱落症状を呈した症例を経験した.術後経過および病態について,文献的考察を含めて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Fusobacterium属はグラム陰性嫌気性桿菌で,口腔内などに存在する常在菌であり10),なかでもFusobacterium necrophorumF. necrophorum)とFusobacterium nucleatumF. nucleatum)が重篤な感染症を引き起こす菌種として報告されている3,8).今回われわれは,不衛生な口腔内環境が原因と考えられたF. nucleatumによる小脳膿瘍の1症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 急性硬膜外血腫は生命の危険を伴うため,神経症状などがある場合は速やかに血腫除去術を行うことが推奨されている.一方で,血腫の大きさや神経症状から,保存的に経過をみることも可能である14).通常であれば血腫は数週間の期間をかけて徐々に吸収され,消失していく17).しかし,稀ではあるが,急速に血腫が自然消退する例も報告されている.血腫が消退したのちは,基本的に良好な経過を辿っている.過去に1例だけ,血液凝固能の異常を伴う症例で血腫消退後の再発例が報告されている15)

 今回われわれは,血液凝固能に異常所見がなく,急速に自然消退したのちに再発するという稀な経過を辿った急性硬膜外血腫の1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 本邦における解離性脳動脈瘤は,椎骨動脈系に多く,内頚動脈系に少ないとされ,特に中大脳動脈遠位部では非常に稀である27).一方で,脳動脈解離は若年性脳卒中の10〜25%を占め24),虚血と出血という異なる臨床像を呈し,画像所見が経時的に変化するなど病態が複雑で,診断は必ずしも容易ではない.それゆえ虚血性脳卒中の急性期に脳動脈解離と診断されず,抗血栓薬を使用される症例が少なくないが,瘤形成を伴う脳動脈解離では抗血栓療法を控えるべきとされ17),的確な診断と治療が必要となる.

 今回われわれは虚血で発症し,経過の検査で中大脳動脈遠位部に瘤形成を認め,手術により解離性脳動脈瘤の診断に至った症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 梅毒はTreponema pallidum(Tp)による性感染症の代表的な疾患である.特に神経梅毒は,脳神経,髄膜,中枢神経,末梢神経,血管などあらゆる部位に症状を来す.今回われわれは梅毒に罹患した非HIV患者の脊髄ダンベル型腫瘤に対して脊髄神経鞘腫を疑い摘出術を施行し,術後の髄液検査で神経梅毒による肉芽腫と診断された症例を経験した.本邦では神経梅毒の症例は稀であるが,脊髄病変の鑑別としてその特徴を知ることは重要と思われるため,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 62歳 女性

 現病歴 3カ月前に生体弁を用いた大動脈弁置換術が前医で行われており,ワルファリンを1日2.5mg内服中であった.2015年某日,8:15に左上下肢麻痺・構音障害にて発症した.前医救急搬送となり,MRIにて右内頚動脈(internal carotid artery:ICA)閉塞の診断となった.Prothrombin time-international normalized ratio(PT-INR)が2.02であったためtPA静注療法は施行せず,血栓回収療法を目的に当院に転院搬送となった.

連載 機能的脳神経外科最新の動向

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Ⅰ.はじめに

 脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)は,その最初期には精神疾患および疼痛の治療として臨床応用された2,9).その後,さまざまな抗精神病薬や鎮痛薬の出現によりDBSが大きく普及するまでには至らなかったが,それでも薬物抵抗性の疼痛の治療オプションの1つとして,50年以上にわたり臨床で用いられている.1980年代後半に運動障害に対して臨床応用されて以降,その優れた臨床効果から対象疾患が大幅に拡大し,今日では進行期のパーキンソン病(Parkinson disease:PD)がDBSの主要な対象疾患となっている.

 DBSの発展は,臨床神経学の進歩や神経生理学的な研究成果の蓄積に拠る所が大きく,DBSは局所の神経活動を調節するとともに,刺激局所から遠隔の部位にも影響をもたらすことが明らかとなっている.そのため,神経回路などのネットワークの機能異常を原因とする疾患も潜在的なDBSの対象とみなされており,今日ではPDや振戦を中心とする不随意運動,薬剤抵抗性の疼痛性疾患に加えて,てんかん,強迫性障害やうつ病などの精神疾患5)にもその対象を広げつつある.

 このような臨床的発展のスピードに比べて,デバイス改良のスピードは決して速いとはいえず,長らく改良・発展型の新規デバイスの発売が待望されていた.近年,ようやく複数の機器メーカーから新機能を搭載したデバイスが上市された.それらのデバイスの機能は,理想とする刺激を具現化するためにはまだ不十分なところも多い.しかしながら,従前のデバイスと比較すると格段に機能が拡充されており,すでに臨床効果の改善を多くのユーザーが実感している.

 本稿では,新規デバイスの特性を従前と比較して紹介するとともに,そのデバイスの特性を生かしたPDに対するDBSの現状を解説する.

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 藤岡裕士先生らの「穿頭術前にCreutzfeldt-Jakob病の合併が判明した慢性硬膜下血腫患者の1例」(No Shinkei Geka 45:1011-1014,2017)1)を興味深く拝読しました.慢性硬膜下血腫とCreutzfeldt-Jakob病(以下,CJD)は,神経症状が類似することもあります.転倒後の慢性硬膜下血腫では,「血腫による症状の出現」によるものか,「転倒を来した基礎疾患の増悪」によるものか,を明確に鑑別する困難さを感じるときがあります.本論文は,脳神経外科医を対象とした教訓的症例報告ですが,脳神経外科にコンサルテーションする内科医にも広く読まれるべき重要な論文と思い,筆をとりました.

 頭部CT検査を行った場合,慢性硬膜下血腫を指摘することは比較的容易で,画像所見に診断医の注意が集中しがちです.患者の症状や神経所見のすべてが血腫によるものかどうかの判断は,やや経験が必要かもしれません.一方,CJDは,頭部CT検査で診断することが困難な疾患で,CT所見からはまずCJDの合併の有無を指摘することは不可能です.逆に,CJDを疑わせる急速進行性の認知症や,その他の神経症状がある場合には,診断のため,頭部MRI diffusion画像(DWI)を選択します.しかし,一般医のCJDの遭遇率は低く,「CJDの疑いをもつ」こと自体が難しいかもしれません.プリオン2016東京宣言2)では,世界中の多くの人にプリオン病を知ってもらうことを重要項目の1つとして掲げており,治療研究や国際共同研究と並行して,プリオン病になじみのない医療者にも広く疾患の知識の共有が必要といえます.

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目次

欧文目次

お知らせ

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 𠮷田 一成
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 自分の将来を見通せる年になったせいか,さまざまなニュースに自分の無力感を覚える今日この頃である.世界を見渡せば,北朝鮮の核・ミサイル問題や南沙諸島に人工島を作って領地を広げている中国,情報員の毒殺未遂疑惑で国際社会から非難されているロシアの超長期政権化などが話題となっている.国内では,学園の新設に絡んだ総理夫人の言動に対して行政の忖度があったかどうかで国会が揺れている.国会では,他に審議すべき重要案件が山積しているのではないかと思うのは私だけだろうか.最近では,いくつかの大学病院にも労働基準監督署の監査が入り,是正勧告を受けるなど,増えつつある女性医師も含め,レジデントと呼ばれ長時間労働が当たり前であった若い医師の労働環境の問題も,時々新聞紙面をにぎわせている.超高齢社会となった今,さらに2,30年後には後期高齢者が人口の2割を超えると言われていることなども,われわれ医療関係者にとって身近で深刻な問題である.「不老長寿」は長く人類の夢であった.おそらく今でもそうである.健康寿命は延びたものの「不老」はまだ満足の域に達していないかもしれない.しかし,「長寿」に関しては多くの人たちが現状で十分だと思っているのではないだろうか.今年は桜の開花が早く,本稿を執筆している3月末は既に葉桜となっている.ソメイヨシノの寿命は諸説あるようであるが,60〜130年と,ほぼ現在の人間の寿命と同じくらいらしい.枯れる直前まで花を咲かすことができれば,それでいいのではないだろうかと私は思う.われわれ医療従事者は,疾患を治すため,予防するために日々努力している.今月号も,扉から連載に至るまで,著者らの経験,日々の努力,新しい知見が満載である.最近,脳裏をかすめるものがある.医療経済である.疾患を治すため,治せないまでも生存期間を延長させるために,われわれは日々研鑽を積み,努力している.高度な医療を提供するためには,ときに高額な医療費がかかる.超高齢社会を迎え,医療経済は大きな社会問題となりつつある.われわれ医師の使命は,健康寿命を延ばすことにあるのは間違いなく,これは未来永劫変わることはない.一方で,これからは経済効率のよい医療を提供していくことが,われわれ医師の働き方も含めて,大切なのではないかと思う.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
46巻5号 (2018年5月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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