Neurological Surgery 脳神経外科 46巻6号 (2018年6月)

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 今年の日本脳卒中学会の社員総会で,2019年には脳卒中センターの認定が行われることが報告された.これから1年をかけて一次脳卒中センターや包括的脳卒中センターの要件が検討される.包括的脳卒中センターは,脳卒中ユニットを有し,1年365日あらゆる脳卒中患者を受け入れ,最適な内科治療,外科治療,血管内治療を滞りなく提供する施設である.また診療だけでなく,啓発活動や症例登録なども行い,地域の脳卒中の予防と治療の中核となる.

 脳梗塞の中で最も重篤なものは,塞栓症による急性脳主幹動脈閉塞であるが,血栓回収療法の効果は劇的である.患者が再開通後みるみる回復していくのをみると,緊急の呼び出しに対する葛藤も忘れ,ただちにすべての急性脳主幹動脈閉塞患者にこの治療を提供したいと強く思う.翌日では遅いのだ.脳血管内再開通治療は20年も前から行われていたが,当時は適応が曖昧で時間がかかり再開通率が低く,出血性合併症が多かった.おそらく転帰は自然歴より悪かったであろう.私には内頚動脈終末部の閉塞で搬入され,歩いて退院した人の記憶はない.いまや来院後90分程度でほとんどの症例で再開通が得られるようになった.脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017]では,発症から6時間以内の急性脳主幹動脈閉塞に対し血栓回収療法が推奨されている.さらにいわゆるミスマッチが存在すれば24時間まで効果があることが証明され,米国のガイドラインは改訂された.これほど短期間に治療成績が向上した脳疾患はなく,またこれほどニーズの高い治療もないのではないだろうか.急性脳主幹動脈閉塞に対する血栓回収療法は標準治療となり,適応患者に対して自施設でそれを行うか,ただちに治療可能な施設に転送できる体制を構築しなければならない.

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Ⅰ.はじめに

 脊髄髄内病変の診断においては,真の腫瘍性病変から圧迫性脊髄症,血管病変,感染,炎症,免疫性疾患,脱髄疾患など,鑑別を要する疾患は多岐にわたる2,3,6,8,12,17-19).したがって,良性髄内腫瘍なのか,悪性浸潤性腫瘍なのか,あるいは髄内腫瘍との鑑別を要する非腫瘍性疾患なのか判然としない症例を経験することがある.詳細な病歴聴取および神経診察,血液検査,髄液検査,電気生理学的検査,そして画像検査などを駆使すれば推定可能な場合が多いが,時に判断に苦慮することがある.正確な診断が得られない場合に,ステロイド治療が経験的に実施されるが,意見の分かれるところである.ステロイド治療の効果が明瞭であれば,治療継続は許容されるが,そうでない場合には脊髄生検による確定診断を早々に考慮したほうが安全である.脊髄生検の是非をめぐっては,医療従事者間,あるいは医療従事者と患者間での慎重な議論を要することがある.可能な限り侵襲的な検査を回避し,正確な診断に到達することが最善であることは言うまでもないが,診断の迅速性を優先すべき場合もある.正確かつ迅速な診断が,適切な治療の第一歩であることは論を俟たない.

 髄内腫瘍との鑑別を要する非腫瘍性疾患の各論については成書に委ねるとし1,5,7,9),本稿では脳神経外科医の立場から,①PETによる質的画像診断,②脊髄生検の意義,および③脊髄血管障害との鑑別に焦点を絞り,自験例の提示を交えて記載する.最後にまとめとして,当科での脊髄髄内病変の診断指針を提示する.

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Ⅰ.はじめに

 腰痛や腰下肢痛に対する治療としては,腰椎疾患に軸足が置かれることが少なくない.しかし,腰椎手術後に腰痛や腰下肢痛が遺残もしくは再燃したfailed back surgery syndrome(FBSS)5,35,36,52)に関する詳細な検討や,非特異的腰痛が85%であるとの報告などから,腰痛や腰下肢痛に対する診療において,その他の原因についても留意する必要があることが知られてきている.

 われわれは,腰痛や腰下肢痛診療に際し,上殿皮神経障害や中殿筋障害などの腰椎周辺疾患や,外側大腿皮神経障害や腓骨神経障害,足根管症候群などの下肢の絞扼性末梢神経障害に留意し,診断治療を重ねてきた6,13-15,18,19,21-27,30,41,42,44,46).これらは認知度が高くないものの,その頻度は思いのほか高く,日常臨床で遭遇しやすい.そのためこれらに注目して対応することで,FBSSを減らす一助となることが期待される.さらに,局所麻酔下に低侵襲に治療できる利点もあるため,全身麻酔が躊躇される高齢者や,基礎疾患を併せもつ症例に対する1つの治療選択肢になり得る.

 今回われわれは,腰痛・腰下肢痛患者において,腰椎周辺疾患と下肢の末梢神経障害に関して初診時から十分留意した治療方針の下で治療を行った成績について検討したため報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳卒中発症と気象との関連について,世界中からさまざまな報告が発表されている5,12,15,19).季節との関連を述べている報告は多く,脳卒中全体では一般的に春冬に発症数が増加し,夏秋に減少すると言われている一方,季節性は認めないと報告しているものも多い9,11).さらに季節以外の詳細な気象条件について検討している報告は少なく,臨床の現場では脳卒中の発症と気象条件には強い関連があるという印象を受けるものの,明らかなデータは示されていない.

 本研究では,小牧市民病院における脳卒中入院症例が小牧市周辺地域で発症した患者であるという地域特性を利用し,小牧市の詳細な気象データと脳卒中発症との関連について検討した.

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Ⅰ.はじめに

 中大脳動脈遠位部の脳動脈瘤の報告は稀である4,6,12).遠位部の脳動脈瘤の原因としては感染が多いといわれており1,10,13),解離も稀ながら報告がある5,7,8,11,14,15).ほとんどが破裂による脳内出血やくも膜下出血でみつかったケースでの報告であるが,本症例は未破裂例であり,病理組織では動脈瘤壁の大部分で非常に強い動脈硬化の所見を呈していた稀なケースであった.病理学的知見ならびに文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 もやもや病に対する血行再建術後の過灌流症候群は,成人例の報告で38%に及ぶという報告もあるが12),多くは一過性の症状と考えられている.今回われわれは,多発脳梗塞にて発症した,バセドウ病に合併した類もやもや病の直接血行再建術後に,局所過灌流による血管性浮腫が経時的に増大し,集学的治療を行ったにもかかわらず,脳出血を来し転帰不良となった症例を報告する.

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Ⅰ.はじめに

 類上皮腫は脳腫瘍の中で0.2〜1.8%を占める良性腫瘍である3).組織学的には角化を伴う重層扁平上皮で被覆された囊胞であり,皮膚付属器は伴わない.好発部位としては小脳橋角部,中頭蓋窩,トルコ鞍近傍,脊髄,頭蓋骨板間層などがあり,稀に悪性転化して扁平上皮癌が発生する3).今回われわれは,悪性転化し,髄腔内播種を来したと思われる類上皮腫の稀な1例を経験したため,文献的考察を含めて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 放射線誘発脳腫瘍は放射線治療の普及に伴って世に知られるようになり,小児期白血病の予防的頭蓋照射後,さらには頭部白癬に対する低線量の放射線治療においても脳腫瘍の発生頻度が有意に高いことが報告されている2,11,14-16,18).これらの報告の多くは,小児期の疾患に対する放射線照射後に長い期間を経ての発症であり,長期生存例における問題点の1つとなっている.そのほかにも脳腫瘍に対する放射線治療後に,新たな脳腫瘍が発生することも問題となっている.その代表的な疾患として髄芽腫があり,近年劇的な生命予後の改善により,長期生存例で放射線照射による高次脳機能障害と併せて,放射線誘発脳腫瘍の危険性も考慮する必要がでてきている.同様に,low grade gliomaや下垂体腺腫などの比較的悪性度の低い疾患への放射線照射後の誘発脳腫瘍の報告も散見される19).今後はhigh grade gliomaなどの悪性腫瘍においても,手術による摘出率の向上,新規薬剤の開発,放射線照射技術の発展などにより治療成績の向上が期待されるため,再発と併せて放射線誘発脳腫瘍の危険性も考慮していく必要がある.今回われわれは,壮年期のoligodendrogliomaに対する放射線照射から3年6カ月と早期に発症したradiation-induced meningioma(RIM)を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 髄膜腫の多くは,硬膜内に発生する12).一方,稀ながら硬膜外に発生する髄膜腫も存在し2,4,7-9),それらは原発性硬膜外髄膜腫と呼ばれている7).今回われわれは,intraosseous typeと思われる原発性硬膜外髄膜腫の1例を経験した.本例を呈示し,かつ原発性硬膜外髄膜腫の臨床的事項に関し,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患者1〉63歳 女性

 めまいの精査で発見された多発脳動脈瘤(前交通動脈,左内頚-後交通動脈,左中大脳動脈)の経過観察中に,くも膜下出血(Grade Ⅳ)を発症した.前交通動脈瘤を破裂部位とみなし,左pterional approachを施行した.くも膜下血腫が多く,脳は腫脹していたが,脳室ドレナージ下に前交通動脈瘤へのクリッピング,左中大脳動脈瘤へのクリッピングとラッピング(酸化セルロース綿をフィブリン糊にて固定),左内頚-後交通動脈瘤へのラッピングを終えた.脳表に敷いていた保護シートを除去すると綿片(Delicot 5mm×8mm:American Surgical Company, Massachusetts, USA)の黄色い識別糸がシルビウス裂の中大脳動脈瘤クリップより遠位部から出ているのが確認され(Fig.1A),同糸を深部に辿ったが中大脳動脈瘤ラッピングに用いたフィブリン糊と血腫で組織が剝離できず,綿片本体は発見できなかった.優位半球へのダメージが危惧されたため,綿片回収を断念し,識別糸を切断して閉頭した.

連載 機能的脳神経外科最新の動向

(6)最新の脊髄刺激療法 齋藤 洋一
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Ⅰ.はじめに

 1965年にMelzackとWallがゲートコントロール理論17)を紹介し,太い体性感覚神経や脊髄に対する刺激は細い体性感覚神経のゲートを閉じるため,慢性疼痛を緩和させる可能性が示唆された.1967年にShealyら22)は末期がん患者の脊髄後索に直接プラチナ板電極を埋め込み,100Hzの高頻度刺激を行った.つまり硬膜下腔に電極を入れ,脊髄後索を電気刺激して,良好な除痛効果を得たと報告している.この方法は多くの施設で追試され,その除痛効果が確認されたが,種々の合併症が報告され,現在では用いられなくなった.

 下地ら23)は同じ頃,硬膜外から脊髄を通電刺激する「脊髄硬膜外通電法」を開発した.疼痛部位に相当する脊髄分節の硬膜外腔において,経皮的に硬膜外ブロック用カテーテル内腔に径150〜230μ程度の鋼線を通し,先端を5mm程度露出させて電極とした.硬膜外電極を陰極とし,陽極を体表に置き,電気刺激を行う.当初は,高頻度および直流通電を用いたが,その後,低頻度(1〜5Hz)でも効果があると報告している24)

 1975年にはMedtronic社製の4極白金電極埋め込み型脊髄刺激装置が開発された.これにより長期留置による刺激が可能となり,慢性難治性疼痛患者の社会復帰に有用であったことから普及した.本邦では1992年に保険適用となった(メドトロニックXtrel).

 カナダ,ヨーロッパでは,脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)が最も有効なのは狭心痛とされ,有効率はほぼ100%であり,長期成績も良好である.しかし,米国食品医薬品局(FDA)は狭心痛に対するSCSを認めていない.ほぼ同様の有効性が末梢性血行障害においても認められる.次に有効性が見込めるのが,脊椎手術後症候群(failed back surgery syndrome:FBSS)と複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)である.幻肢痛,脊髄損傷後疼痛に対する有効性は乏しい(Table1)3,16)

 一方,本邦での保険適用は,「慢性難治性疼痛で,薬物療法,神経ブロック,外科手術に抵抗性を示すケース」となっており,本邦では狭心痛に対して行われることはなく,末梢性血行障害に対しても少数例しか施行されていない19).FBSSが最も一般的な適応であり,欧米では敬遠される中枢性脳卒中後疼痛に対してもトライアルが行われている.中枢性脳卒中後疼痛に対するSCSの有効性は,visual analogue scale(VAS)で30%以上スコアが改善するケースが40%と報告されており,運動・感覚障害が軽度なケースである2)

 FBSSとは,適切な脊椎の除圧術がなされたにもかかわらず持続痛を認める場合であり,SCSの有効性は高い16).FBSSに対しては,術者はSCSと除圧術再施行のどちらが適切か再考しなくてはならない.ときには中枢性脳卒中後疼痛とFBSSの鑑別が困難なケースがある.また,パーキンソン病患者は,しばしば腰痛を訴えるが詳しいメカニズムは不詳である.

 定位・機能神経外科治療ガイドラインでは,経皮的トライアルが勧められている1).経皮的トライアルで患者が十分に満足,または納得した場合にSCSシステムの植込みを施行する.近年,SCSシステムは進化しており,電池式と充電式が選択できるようになった.充電式が開発されたことで電気容量の心配がなくなり,24時間SCSを継続的に実施できるようになった.また,MRI撮影に対応したSCSシステムも上市されている.刺激パターンとして,BurstDR刺激が2017年に本邦で承認され,今後,超高頻度刺激の認可も行われるだろう.これらの刺激パターンはparesthesiaがないが,除痛効果が得られるものである.4極でスタートしたリードは16〜32極の多極リードも開発され,形状もさまざまなものがある.そのほかに海外で治験中のものとして,後根神経節を選択的に刺激するSCSシステムがあり,心不全治療のSCSシステムも考案されている.

 現在,本邦で使用されている脊髄刺激装置は,日本メドトロニック,アボットメディカルジャパン,ボストン・サイエンティフィック ジャパン(本邦での承認順)の3社から上市されている(Table2).各社の製品には特徴があり,次項でそれぞれの最新製品を紹介する.

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目次

欧文目次

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 村山 雄一
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 先日,ある高名な名誉教授の先生とお会いした際,しみじみと「もっと若い頃に手術以外の趣味を始めるべきだった」とお話しされていました.専門分野を極めること,後進の指導に人生を捧げたが,それだけではなくプライベートも充実させなさい,とアドバイスをいただきました.脳神経外科が医師の専門の中でも過酷な分野であることは紛れもない事実であり,「働き方改革」が近年の国の重要指針であっても,現役脳神経外科医がゆとりある生活を実現することは容易なことではありません.本号の「扉」では筑波大学の松丸祐司教授が包括的脳卒中センター制度の本邦での導入について紹介されています.脳卒中は時間が勝負であり,いつ来るかわからない脳卒中患者に24時間365日対応するために当直体制を整備し,ほとんどの先生方が当直翌日も通常勤務を行っているのが現状と思います.そこで,脳卒中などの神経系救急医療では,同規模の病院群間でマンパワーに応じた輪番制を導入して,担当を曜日ごとに割り振れば,より効率的な脳卒中診療体制が少なくとも都市部では可能ではないかと考えます.本来,医療は社会のインフラであり公共性が極めて高いはずですが,いつしか高い収益,差別化が求められるようになってしまいました.少なくとも急性期医療は特定の医療機関に負担を集中させるべきではなく,マンパワーに応じた輪番制で負担を皆でシェアすることで脳神経外科医の生活の質の向上を実現したいものです.

 本号では,総説欄において脊髄髄内病変の鑑別について大阪市立大学の髙見俊宏先生にご寄稿いただき,連載欄では最新の脊髄刺激療法と各社の装置の特性について大阪大学の齋藤洋一先生にご解説いただきました.研究では腰殿部痛,腰下肢痛の治療成績が報告されています.脳神経外科医の活躍するフィールドは幅広く,今後も大きく開かれてゆく診療領域であることを改めて感じます.多様な診療領域と,脳卒中などの急性期医療のバランスが取れた脳神経外科が理想であり,今はやせ我慢かもしれませんが医学生や若手医師が憧れるような余裕をみせたいものです.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
46巻6号 (2018年6月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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