- 有料閲覧
- 文献概要
本誌の「扉」欄は,巧成り名遂げた諸先輩たちの含蓄のある内容が記載され,昔から毎号楽しみに拝読していた.そしてその内容と,文章力に感心しながら,いつか自分もこの欄に何かを書けるような脳神経外科医になりたいと思ったものである.そのようなことを忘れかけていた最近,思いがけず「扉」への執筆依頼をいただいた.しかし,いざ書けと言われると,これがなかなか難しい.自身が最近取り組んでいる医療安全や医療制度のことなどを…と筆を執ったが,どうも受け売りが多くなり,いまひとつしっくりとこない.やはり自身が専門としてきた間脳下垂体外科について,最近思っていることを書くのが,その主張に対する賛否は別としても,読者には一番響くのではないかとの結論に至った.
この領域で最も頻度の高い下垂体腺腫(PA)の外科治療は,1907年のオーストリアのHermann Schlofferによる経蝶形骨洞手術(TSS)に始まり,20世紀の初頭には,現在のTSSの基本的なアプローチがほぼ出揃った.しかし,自らもその発展に寄与してきたHarvey Cushingが開頭術の優越性を主張して以来,1930年以降はPAの手術は開頭術が主体となった.その後,1960年代に入り,Jules Hardyが術中X線透視と顕微鏡をTSSに応用したことで,microscopic TSSが一気に北米から全世界に広がり,これがPA手術のgold standardとなった.私が下垂体手術を専門とするようになった時代は,まさにmicroscopic TSSの全盛期であった.そのような中で私は,25年間にわたり,その習得と,さらなる技術の改良を目指して,同世代の下垂体を専門とする人たちと切磋琢磨してきた.その結果,海綿静脈洞浸潤腫瘍に対する積極的な切除,従来禁忌であった鞍上部に主座を置く頭蓋咽頭腫への拡大TSSの応用,それでも切除が困難なものへの開頭,TSS同時併用手術の応用,硬膜欠損部の髄液漏予防に対する自家筋膜硬膜縫合術など,その欠点を補い,克服するために必死に工夫を重ねてきた.そしてようやく,われわれはmicroscopic TSSをそれぞれの視点で極めてきたとの自負も抱いていた.
Copyright © 2018, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.