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Ⅰ.はじめに
最近10年間のがん臨床の進歩は目覚ましく,多くのがん腫で薬物療法レジメンや副作用対策が格段に進歩し,分子標的薬が普及して,さらに免疫抑制薬が導入された.このため,標準治療が次々と確立・改訂されて,がん患者の長期生存や治癒が稀ではなくなり,進行がんの患者においても全身コントロールが良好になった.このようながん治療の急速な進歩に伴って,血液脳関門や血液髄液関門により隔離されている中枢神経系に相対的に合併症が増加し,転移性脳腫瘍,硬膜転移,髄膜がん腫症などの患者に関わる臨床機会が増えている9,25,27).転移性脳腫瘍はがん患者の10〜26%に発生するとされていたが4,12),がん薬物療法の著しい進歩を受けて,多くのがん患者の長期生存が可能になると,薬物の到達や効果が不十分な中枢神経系への転移が増える結果となった27,31).そのうち臨床的な症状を示し,積極的加療の対象となる患者の割合は不明である.現状では,スクリーニング画像や神経学的症状への注意喚起から,転移性脳腫瘍が診断されることは増えているが,集学的治療のなかで外科的摘出術が必要な患者の数が急速に増加しているとは言えない31).それよりも,中枢神経系への転移は即ち積極的治療の終了を意味する時代が終わり,個々の患者の長い治療経過(cancer journey)における,中枢神経系合併症に対する外科治療の質的向上が強く求められるようになっている.
転移性脳腫瘍の患者の治療概念は大きく変わりつつある.従来,脳に転移を来した患者の死亡原因は,原発巣・体幹部病変が約70〜80%に対して,中枢神経死は15〜37%とされ(Table1)2),中枢神経への局所治療は症状を改善させたとしても,生命予後に対する貢献は少ないと考えられていたため,治療成績については軽視されてきた経緯があった.ところが1990年代から,がん治療の目的として,生命予後に加えてquality of life(QOL)と自立生活機能の予後も重視するコンセンサスが形成されてきた.また,中枢神経系合併症の制御が長期生命予後に影響する症例の存在も明らかになってきた7,27).一方,治療手段にも大きな変革が起こり,同じ頃登場した定位手術的放射線治療(stereotactic radiosurgery:SRS)により治療選択肢が増え,2005年以降は分割定位放射線治療(stereotactic radiotherapy:SRT)が可能となって,さらに治療適応が拡大してきた.また,薬物療法は適応が非常に限られていたが,最近は分子標的薬の進歩が著しく,肺がん・乳がんなどで治療アルゴリズムを変え,脳転移をもつ進行がん患者にも薬物の臨床試験が活発に行われ,適応が急速に拡大している.このように転移性脳腫瘍の治療目的と治療手段においてパラダイムシフトが起こるなか,これまでの治療は腫瘍サイズと個数に焦点を当てた1980年代からの臨床試験のエビデンスに従っていたが,現在では臨床腫瘍学の重要な課題として,診療科横断的診断・治療(集学的診療)による,より高い治療目標の設定ならびに個別化が推進されつつある27,30).
転移性脳腫瘍の治療における脳神経外科医の役割も変わりつつある.がんの集学的治療のなかで外科的摘出は,放射線治療・薬物療法に比して侵襲的であるが,病変の確実な除去によりperformance status(PS)を速やかに改善して,患者を再び原発がんの治療へと戻すことができる.さらに外科的摘出術は組織診断が可能な唯一の手段であり,ゲノム医療・個別化の重要性が高まるなか,その有用性が再認識されている.このように転移性脳腫瘍に対する摘出術の精度と信頼性の向上について期待が高まっているが,これまで実臨床の患者における長期観察成績のデータが示された報告は少ない.本稿では,Table1にまとめたように,がん患者の治療結果を体幹部と中枢神経系の問題に分け,脳神経外科手術の関与が大きい指標として,術後早期の死亡・症状悪化,局所再発,髄膜播種に注目し後方視的に分析する.さらに,診療の個別化が進行する現在,転移性脳腫瘍の集学的治療における外科治療の役割を,これまでの文献報告と比較しながら探る.
Metastatic brain tumors are important complications in the overall management of cancers. We sought to determine the risk of local recurrence and leptomeningeal carcinomatosis(LC)in patients treated with surgical resection and adjuvant radiation therapy. We retrospectively reviewed 173 consecutive patients with metastatic brain tumors managed by surgical resection between 2002 and 2015 in a single institution. Eighty-seven percent of the patients underwent postoperative adjuvant radiotherapy. The median overall survival from surgery was 9.8 months. Thirty of 173 patients(17.3%)developed local recurrence and 14(8.1%)developed LC following surgery. Male sex(hazard ratio(HR):2.8, 95% confidence interval(CI):1.0-10.0), colon cancer(HR:6.5, 95% CI:2.2-24.2), and no postoperative radiation(HR:5.6, 95% CI:2.1-13.7)were identified as risk factors of local recurrence in multivariate analysis. Female sex(HR:4.4, 95% CI:1.2-20.9)and recursive partitioning analysis(RPA)class 3(HR:1.0e+9, 95%CI:1.7-)were identified as risk factors of LC in multivariate analysis. Our retrospective review showed that individualized treatment with surgical resection followed by adjuvant radiation therapy is a safe and feasible method to control metastatic brain tumors in the real world.
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