Neurological Surgery 脳神経外科 45巻5号 (2017年5月)

織田信長と人間五十年 園田 順彦
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 小学生のころ,私は歴史小説が好きで,特に織田信長が一番のお気に入りであった.ちなみに晩年衰えた豊臣秀吉,地味な徳川家康は私の好みではなかった.地域差はあるようだが,信長は戦後の日本人の中では圧倒的な人気を誇る武将であり,私も例外ではないということである.さて,当時読んでいた小説の最後のあたりに,信長が敦盛の一節「人間五十年……」に1歳足りない49歳(数えであるから実年齢は48歳)で亡くなったという記載があった.実際の「人間五十年,化天のうちを比ぶれば,夢幻の如くなり」の意味は,人間界の50年は下天においては1日に過ぎないということで,50歳を意味しないのであるが,なぜかこの一文だけが強烈な記憶として私の中に残っている.おそらく多くの改革をなしとげ,天下統一寸前までいった信長は,まだそんなに若かったのだ!という驚きでもあり,己が49歳の時,何をしているであろうかといった思いがあったのだろう.

 先日のことであるが,手術が終わり学生と談笑していた時,ふと今日は自分の49歳の誕生日であることに気が付いた.「信長が死んだ年齢に,ついに自分も……」という思いが約40年ぶりによみがえったのである.思わず口に出してしまったら,「先生はそのようなことを意識していたのですか!」と学生も驚いていたが,突然言われたら無理もないことである.

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Ⅰ.はじめに

 術中運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)モニタリングは,現在の脳神経外科手術における術中電気生理モニタリングの中で,最も重要な役割を担っている.MEPがモニタリングする皮質脊髄路は四肢の随意運動を担っており,その機能障害は日常生活機能の低下と直結しているからである.

 本稿では,術中MEPモニタリングの現状と諸問題を提示する.実際にはこれらの問題すべてが有害というわけではなく,さほど気にせず行われていると思う.また,今回提示する問題点を解決する方法はなく,最適解を出すことも難しいのが現状である.脊髄手術におけるMEPと頭蓋内病変におけるMEPは発想や求めるものが異なり,同一のモニタリング手技として考えることは困難であるため,本稿では頭蓋内病変に対するMEPモニタリングを主として記載することとする.

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Ⅰ.はじめに

 重複中大脳動脈や副中大脳動脈は,脳卒中の診療に際して時にみられる破格であり,剖検上,それぞれ0.7〜2.9%,0.3〜2.7%と報告されている1).前者は前脈絡叢動脈分岐部より遠位の内頚動脈より分岐して側頭葉の先端を栄養し,後者は前大脳動脈水平部より分岐して前頭葉下面を栄養する.いずれも穿通枝を有していることが多い10).内頚動脈と重複中大脳動脈の分岐部に動脈瘤が生じることがあり,これまでは主に開頭クリッピング術が行われてきた.今回われわれは,くも膜下出血にて発症した破裂内頚動脈-重複中大脳動脈分岐部動脈瘤の症例に対してコイル塞栓術を施行したので,症例を提示し,動脈瘤の特徴や治療法について文献的考察を加える.

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Ⅰ.はじめに

 結節性硬化症(tuberous sclerosis:TSC)は遺伝性の神経皮膚疾患で,3.4〜17%に脳腫瘍を合併する3,23).その多くは上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA)で,側脳室前角,特にMonro孔近傍に発生する3,18,19).今回われわれは腫瘍内出血により急性水頭症を来したSEGAの1例を経験した.本症例では緊急避難的に脳室外ドレナージを行ったが,待機的に開頭腫瘍摘出術を行うまでの間に腫瘍内出血を繰り返した.これまで腫瘍内出血を来したSEGAの報告は極めて少なく,渉猟し得た範囲では12例であった1,10,11,13,14,17,19-23).過去の報告例と合わせて,腫瘍内出血で発症したSEGAの病態と治療について考察し報告する.

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Ⅰ.はじめに

 腰部くも膜下腔腹腔(lumboperitoneal:LP)シャント術後の脊髄神経痛は06.5〜11%程度に生じ1-6,9,11-13),通常は一過性であると言われている2,4,6)が,シャントの抜去あるいは再建を要する場合もある1,3,9,11,12).過去の報告では,症状持続期間の程度や抜去のタイミングに関して詳細に記載されたものはない.われわれはLPシャント術後に下肢神経痛を呈し,腰椎カテーテルを短縮することでいったん症状が寛解した後,腰椎カテーテル離断を契機に症状が再燃し,カテーテル抜去を要した1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 心疾患をはじめとする頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)の危険因子を有する内頚動脈狭窄症では,頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)が施行されることが多い.しかし,未治療の大動脈弁狭窄症(aortic valve stenosis:AS)を合併する場合にはCASに伴う徐脈,低血圧により病態が悪化することが知られている10).また,非心臓手術を要する重症ASでは,非心臓手術を中止するか大動脈弁治療を先行させることが望ましいと考えられている5).しかし,内頚動脈高度狭窄症とASが合併した場合の治療方針に関しては,未だ統一した見解はない.今回われわれは,ASおよび対側内頚動脈閉塞症を合併した症候性内頚動脈高度狭窄症に対して,一期的にCEAと大動脈弁置換術(aortic valve replacement:AVR)を施行した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Cisplatinは多くの固形癌に使用される白金製剤であり,その副作用には腎毒性や催吐作用などのほかに静脈血栓塞栓症(venous thromboembolisms:VTEs)があるが,脳静脈洞血栓症の発症は比較的稀である.

 今回われわれは,精巣腫瘍の後療法としてのcisplatin-based chemotherapy中に,脳静脈洞血栓症を発症した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 内頚動脈の巨大脳動脈瘤は治療困難であることが多く,個々の症例で治療法について検討する必要がある.今回われわれは,内頚動脈C2の破裂脳動脈瘤に同側内頚動脈C3-4の巨大未破裂脳動脈瘤を伴った症例を経験した.その治療適応および治療法に関して文献的考察を含めて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 外側大腿皮神経障害は,外側大腿皮神経(lateral femoral cutaneous nerve:LFCN)が鼠径靱帯近傍で圧迫されて生じる下肢絞扼性神経障害の1つである.今回われわれは,手術により良好な経過を辿ったLFCN障害の1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 72歳,女性

 主 訴 けいれん,意識障害

連載 脳腫瘍の手術のための術前・術中支援

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Ⅰ.はじめに

 小脳橋角部には種々の腫瘍が発生し得る.日本脳神経外科学会「脳腫瘍全国集計調査報告2001-2004」によると,小脳橋角部腫瘍は原発性脳腫瘍の11%(1,511/13,431例)を占め,その内訳は,神経鞘腫72%,髄膜腫(WHO grade 1)20%,類上皮腫6%,その他(神経膠腫,上衣腫,髄芽腫,悪性リンパ腫,血管芽腫など)と報告されている.当科において,2013年5月から2015年12月の間に手術を施行した小脳橋角部腫瘍250例の内訳は,前庭神経鞘腫152例(61%),前庭神経鞘腫以外の神経鞘腫31例(12%),髄膜腫47例(19%),類上皮腫9例(4%),その他11例(4%)であった(Table).小脳橋角部腫瘍に対する手術アプローチは,外側後頭下アプローチ(lateral suboccipital retrosigmoid approach:LSO),経錐体骨アプローチ(anterior/posterior/combined transpetrosal approach, transmastoid approachなど)などが選択されるが,前庭神経鞘腫に対しては,当施設ではLSOが多くを占め(96%), LSO以外に経迷路アプローチ(translabyrinthine approach),中頭蓋窩アプローチが選択される.前庭神経鞘腫に対するLSOは,術野が広くオリエンテーションがつけやすいこと,腫瘍の大きさにかかわらず聴力温存の可能性を追求できること,中頭蓋窩アプローチのように顔面神経越しの腫瘍摘出にならないこと,持続顔面神経モニタリングを入れるスペースが得られることなどの利点がある20)

 本稿では,最も頻度が高い前庭神経鞘腫およびLSOのための,術前・術中支援,および,成書に記載されることが少ない術後管理に関して,当施設での実際を中心に記す.

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

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Ⅰ.はじめに

 近年,希少性ゆえに治療や医薬品開発が進まない難病領域において,国際連携による病態把握や医薬品開発の機運が高まっている.その理由の1つに,約8割が単一遺伝子疾患で構成されると言われる希少疾患の病態解明研究により未知の遺伝子機能が明らかになり,その成果がさまざまなcommon diseaseの病態解明と創薬開発に応用できるという道筋が示されたことが挙げられる.日本では,2014(平成26)年5月30日に新たに「難病の患者に対する医療等に関する法律」が成立し,2015(平成27)年1月1日から施行された.さらに,2015(平成27)年4月に発足した国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)は,文部科学省,厚生労働省などがそれぞれのルールの下で実施してきた医療分野の研究開発支援を集約し,基礎から実用化まで一貫した研究開発を推進することを目的としており,難病(難治性疾患),未診断疾患を基幹プロジェクトに位置づけている.難病研究に対する関心は国内外ともに高く,正確な臨床データの収集と情報共有,研究を医薬品,医療機器,再生医療等製品の開発へつなげるための組織構築の重要性が増している.

 希少疾患は,治療法,治療薬が開発されずあまり顧みられることがないという意味合いから“orphan disease”とも呼ばれている.わが国では,歴史的経緯により1972(昭和47)年の「難病対策要綱」に基づいた難病の調査研究支援,医療費負担の軽減など,国際的に先進的なシステムをもっていたが,希少疾患という概念自体が導入されたのは1995年頃からである.海外では,米国と欧州の希少疾患研究における連携と研究資金の調達を主な目的として,2012年に国際希少疾患研究コンソーシアム(International Rare Diseases Research Consortium:IRDiRC)が設立された.わが国もAMEDが新たにIRDiRCへの参加を表明し,国を挙げて難病,希少疾患の病態解明と治療法開発を支援する体制ができつつある.

 難病,希少疾患は遺伝性代謝疾患や神経変性疾患が多く,一般的な脳神経外科医にとって日常診療で経験する機会は少ないが,脳神経外科領域においても希少疾患,難病,特定の臨床亜型が難治性病態であるものが多数存在する.このうち外科的治療が不能な病態は,脳神経外科以外の診療科から関心をもたれることは少なく,診療,研究の対象の狭間としてあまり顧みられていない.このような疾患,病態に対する治療法を検討することも脳神経外科医の責務と言える.そのためには,最新の難病行政や国際的動向を視野に入れ,脳神経外科領域の希少疾患や難治性病態の克服のための研究,治療法の開発を目指す長期的な計画を立てる必要がある.本稿は,難病,希少疾患に関する理解の一助とするため,定義,日本における難病行政の経緯,国際動向について,主にインターネット上で利用可能な資料を整理して記載を行った.また,脳神経外科診療との関わりの具体例として,希少脳血管疾患であるもやもや病を例に説明を行った.

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欧文目次

「読者からの手紙」募集

ご案内 第13回Craniosynostosis研究会

お知らせ

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 𠮷田 一成
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 医学全体における脳神経外科の占める割合は決して大きくはないかもしれないが,本号の原稿を眺めると,脳神経外科の幅の広さ,奥の深さを感じさせられる.脳神経外科治療の要は手術であるが,その手術を安全かつ確実に行うためには,総説や連載で取り上げている術中モニタリングや術前・術中支援が有用である.また,多くの貴重な症例が報告されているが,症例から学ぶことは,時に教科書から学ぶことより実践に役に立つ.本号では,脳神経外科診療と難病行政の問題も取り上げている.希少疾患の病態の解明や治療法の開発のためには,行政の支援は不可欠である.

 「扉」では園田順彦教授が,織田信長が49歳で亡くなったことに触れている.論語には,「四十にして惑わず,五十にして天命を知る」とある.社会のリーダーとなる人が50歳前後に多いことは,昔も今もこれからも変わらないと思う.私は,その年齢をはるかに過ぎてしまった.脳神経外科医を目指したことに惑いはなく,天職だとも思っている.しかし,わが身を振り返ってみると,30年以上,脳神経外科医としての研鑽を積んできたが,専門領域ですら脳神経外科医として完成しているとは言い難く,不得意領域も多々あるのが現実である.少年老い易く,学成り難しである.最近,「病院探検隊」という病院の客観的な評価を行っている方々から,私どもの病院では,「患者目線」での診療が行われていないとの厳しい指摘を受けた.患者は,脳神経外科医であれば,脳神経外科のことはすべてわかっていて,適切な治療を行っているものと信じているのではないかと思う.一人として完成された脳神経外科医はいないと思うが,われわれは常に患者の信頼に応えるべく,精進しなければならない.脳という神の領域は,未知の部分が多い.そして,冒頭で述べたように,脳神経外科という学問は,幅が広く,奥が深い.それが脳神経外科の魅力でもある.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
45巻5号 (2017年5月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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