Neurological Surgery 脳神経外科 44巻12号 (2016年12月)

京都の森と海と大学と 橋本 直哉
  • 文献概要を表示

 私事ながら,大阪から京都に異動して1年が過ぎた.いつかこんな散文を書けるようになれたらいいと思いながら,毎月「扉」を拝読し,脳神経外科医としての25年あまりを過ごしてきた.京都1年の節目に「扉」に寄稿を,との嬉しいご依頼であり,ここは勇んで京都や大学のことから書かねばなるまい.

 私どもの京都府立医科大学の起源は,1857(安政4)年11月に創立された長崎奉行所西役所医学伝習所(現・長崎大学医学部)から遅れること15年,1872(明治5)年11月にさかのぼる.粟田口の青蓮院門跡に「療病院」がおかれ,ドイツ人医師ヨンケル(Junker von Langegg, 1828-1901?)が診療を開始した.天皇が東京へ遷られて,意気消沈した民間京都人による意志と出資から創立されたことが記録に残る.時は廃仏毀釈,門跡だが青蓮院側の財政状況も関与したかもしれない.1880(明治13)年には現在の御所と鴨川の間,河原町通広小路に移され,京都帝国大学医学部(現・京都大学医学部)創立の時を含めて幾度かの「存立危機事態」を切り抜けた,と「京都府立医科大学百年史」(1974年発刊)にはある.最近では,明治〜大正期の大学門,「白い門」が河原町通に面して復元され,昭和初期に建てられたネオゴシック様式の旧図書館棟(京都府指定文化財)は大学本部棟として今も機能している.背後を流れる鴨川を渡って歩けば15分,京都大学医学部は常に「お隣さん」でありつづけた.これほど近くに国立官営の巨大大学があって,京都府立医科大学の存在意義とは何だったのか.先日,思いがけず,おそらくはこれも存在意義の1つではないか,ということに気づかせてくれた旅があった.

総説

脳保護療法の新展開 山下 徹 , 阿部 康二
  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 フリーラジカルスカベンジャーの1つであるエダラボンは,当科の阿部らの論文を嚆矢として1),2001年に臨床現場に登場し,脳梗塞治療に広く使われてきている.著者である山下らは,自然発症高血圧ラットに4.5時間の一過性中大脳動脈閉塞と組織型プラスミノゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator:tPA)静注を行うことで出血性脳梗塞モデルを作製し,エダラボンがneurovascular unit(NVU)の破綻を抑制し,出血性脳梗塞を軽減させることを明らかにして報告した24).エダラボンはすでに臨床現場でtPAと併用され,脳保護療法の新しい側面が臨床データとして示されてきている.また,頚動脈内膜剝離術などの周術期にエダラボンを投与することで,過灌流症候群を予防する効果が基礎的な実験や臨床データから報告されてきている16,21).さらに特筆すべきことに,神経難病の1つである筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)の症状進行を抑制する効果が証明され,実際に臨床現場で使われるようになるなど,エダラボンが臨床現場で使用される場面がますます拡大してきており,その治療効果も注目されている.

 本総説では,近年新たな展開をみせてきているエダラボンなどの脳保護薬について,最新の知見と今後の展望について紹介したい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 トルコ鞍周囲病変さらには頭蓋底外側病変に対する内視鏡下経鼻手術(endoscopic endonasal surgery:EES)の発展は,内視鏡画像の鮮明化や周辺機器の発達のみならず,特に海外から始まった脳神経外科医と耳鼻咽喉科医の知識と経験を活かしたtwo-surgeon technique(four-hands technique)の導入によるところが大きい.内視鏡下経鼻頭蓋底手術の黎明期においては,許容される範囲内とはいえ鼻腔内環境を犠牲にしつつ,術野(surgical corridor)の拡大と重大な合併症である術後髄液漏の予防が優先されてきたが,その後髄液漏予防のためのさまざまな工夫がなされるようになり,鼻腔構造に対する最小限の侵襲と十分な術野確保の両立が図られるようになった.本稿では,EESにおける鼻・副鼻腔に関する基本的手術解剖と生理機能,およびその機能温存の工夫について述べる.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.緒 言

 当施設(公立豊岡病院)は兵庫県北部の急性期基幹病院であるが,出血性脳卒中の入院治療中に肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)を発症したために転帰不良となった症例が2例続いた苦い経験から,深部静脈血栓症(deep venous thrombosis:DVT)を早期発見・早期治療介入することで,PE発症を未然に防ぐための方策に取り組んでいる.

 当施設で実施しているPE予防策において,出血性脳卒中症例におけるDVTとDダイマー値との関連性およびDVTの発症関連因子について後方視的に検討したので報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.緒 言

 頚椎疾患においては上肢以外にも,頭部,顔面,体幹部,下肢などさまざまな領域に痛み・痺れを認め,病変の局在を予想することが困難な症状(偽性局在徴候)を含む場合も少なくない.迅速で的確な診断のためには頚椎疾患における痛み・痺れのパターンに精通する必要がある.今回,当科で頚椎疾患に対して手術を施行した連続症例における痛み・痺れ領域と,その頻度を検討した.また各領域における痛み・痺れの有無と術後神経症状の改善率の関係も検討した.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 小脳橋角部腫瘍の多くは神経鞘腫や髄膜腫などの良性腫瘍であり,悪性腫瘍は稀である9,15).頻度として,75〜90%は聴神経腫瘍であり,転移性脳腫瘍は1%と低い15).また,両側性に発生する場合,神経線維腫Ⅱ型に伴う神経鞘腫がほとんどである9,15).今回われわれは,難聴と顔面神経麻痺が急速に出現し,原発巣の診断に難渋した両側小脳橋角部への転移性脳腫瘍の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 脳室系の閉塞機転を伴わない小型の髄膜腫に水頭症を合併することは稀である.今回われわれは,比較的小さな前床突起髄膜腫に水頭症を合併し,腫瘍摘出により水頭症が改善した1例を経験した.水頭症の成因を含め文献的考察を加え報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)に対する根治的な治療方法として外科的切除が広く行われている.その一方で,定位放射線治療は,外科的侵襲を伴わずに治癒が期待できる治療方法として普及しつつある7,8)

 定位放射線治療の合併症として囊胞形成や,腫瘍の発生,脳出血などが報告されている2,3,7).脳出血は,照射後比較的早期に起こる場合が多いが,定位放射線治療後に脳血管撮影やMRAで描出の消失が確認されたにもかかわらず,長期間経過した後に出血する例が報告されている3).しかし,その機序に関しては脳AVMの再開通や海綿状血管腫の形成などが報告されているものの,詳細な病態は未だに不明である.今回われわれは,ガンマナイフ治療後に血管撮影上,閉塞が確認されたにもかかわらず,照射11年後に囊胞形成とともに出血を来した1例を経験した.摘出した病変を詳細に検討したところ,脳AVMの再開通に血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cells:EPCs)が関与していると考えられたので,その病理学的所見を中心に報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 髄液耳漏は頭部外傷・腫瘍性疾患・炎症性疾患・術後合併症を主な原因として起こるが,稀に特発性にも起こり得る.特発性髄液耳漏は,内耳奇形などを原因として幼小児期に発症する小児型と,内耳奇形を伴わない成人型に分類される.今回われわれは,細菌性髄膜炎を発症後,髄液耳漏が出現し,経中頭蓋窩法で髄液漏閉鎖術を施行した1例を報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 頚椎症は頚椎椎間板,Luschka関節,椎間関節などに生じた加齢変化が原因で,椎間板膨隆,靱帯の肥厚,骨棘形成が起こった状態をいい,中高年の手のしびれや歩行障害を来す脊髄疾患全体の中で最も頻度の高い病態である2).脊椎の専門外来には,近医より紹介され外科的処置を希望する患者が日々数多く来院する.しかしながら,来院する患者の中には,詳細な病歴聴取や神経学的診察を怠ると,思わぬpitfallに陥るケースが存在する.今回われわれは,頚椎症性脊髄症との診断で手術目的に近医整形外科より紹介されたVB12欠乏性亜急性連合性脊髄変性症の1例を経験したため報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.経験症例

 術前画像を3Dワークステーションで解析し,術前に詳細な画像検討をしたことで,premature ruptureなく安全なクリッピングを行い得た症例を経験した.

 現病歴 60代男性,突然の嘔吐後に意識消失を来し,当院へ救急搬送された.

連載 脳腫瘍の手術のための術前・術中支援

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 側脳室には解剖学的に前角,体部,後角,三角部,下角という各部分があり,大脳の深部の非常に広い範囲にわたって存在している.そのため,腫瘍の発生部位および進展様式にあわせてさまざまな到達経路をとる必要がある.到達法を決めるポイントとしては,まず到達経路に重要構造がないこと,そして病変に対して最短で到達でき,かつ脳の牽引が最小限ですむこと,栄養血管が早期に確保できることなどがあるが,常にこれらすべてを満たすことは難しい.また,脳室内腫瘍は水頭症を伴うことが多いため,どの脳室が拡大し,どこで髄液循環が障害されているかを術前に正確に把握しておく必要がある.また,側脳室腫瘍は,側脳室というもともと存在する大きなスペースの中で増大するため,腫瘍が大きくなって発見される例が多い.特に前角付近に発生した腫瘍では,腫瘍は側脳室体部方向に向かって進展するとともに,モンロー孔を経由して第三脳室内に進展することもある.その場合,腫瘍の発生部位を考慮するのみならず,腫瘍の進展方向に応じて到達経路の角度も十分に検討する必要がある.一度の手術で全摘出が困難な例も存在し,多段階に分けて腫瘍を摘出しなければならない場合もある.これらの理由から側脳室腫瘍の手術においては,術前の手術戦略の検討や術中支援が非常に重要である.

 側脳室腫瘍に対する内視鏡手術に関しては,側脳室というもともとあるスペースを利用できるため,内視鏡の使用に適した環境であり,実際に少数例の症例を選択して内視鏡を用いて腫瘍切除を行った報告も散見される1,6).しかしながら,現時点では内視鏡単独での腫瘍摘出は困難な症例のほうが多いと考えられている7).その理由としては,側脳室腫瘍の中で頻度の高い中枢性神経細胞腫や髄膜腫に関しては,腫瘍が大きくて血管が豊富なことが多く,迅速な摘出・止血操作が必要な点で顕微鏡手術のほうが有利と考えられるからである.したがって,現時点での脳室内腫瘍に対する内視鏡単独手術としては,腫瘍が小さく,血流が乏しい腫瘍や,囊胞性の病変など,症例を選択して行うのが現実的であろう.また,ポート内での操作に関しては,内視鏡を挿入することでスペースがとられてしまうため,むしろ顕微鏡手術のほうが内視鏡手術よりも有利との報告もある2)

 いずれにしても,今回のテーマは手術摘出の方法よりは,術前・術中支援というテーマであることからすると,顕微鏡手術でも内視鏡手術でもそれほど大きな差はないと考えられ,以降に記載する内容は両方の手術法において応用できることである.

--------------------

欧文目次

「読者からの手紙」募集

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 斉藤 延人
  • 文献概要を表示

 昨年の北里大学の大村智特別栄誉教授に続き,今年もまた日本人がノーベル生理学・医学賞に選ばれました.受賞者の東京工業大学の大隅良典栄誉教授は,オートファジーの仕組みを解明した功績が評価されました.オートファジーは,細胞内におけるタンパク質分解とアミノ酸の再利用に関するメカニズムとして創薬にもつながると注目されていますが,大隅教授は形態学的にその現象を発見し,関連する遺伝子を同定されました.今後,この分野のますますの広がりが期待されます.最近では大学などにおける日本の研究力の低下が懸念されていますが,大隅教授の受賞は日本国民や研究者に大きな夢と希望を与えてくれました.外国の研究者と話をしていても,やはり日本の基礎研究力の強さは定評のあるところです.われわれはもっと自信をもってよいのだと思います.

 さて,本号の扉では,京都府立医科大学の橋本直哉教授が,「京都の森と海と大学と」と題した寄稿をされています.ご着任から1年あまり経った京都の小旅行についての随筆で,京都の広さと歴史の深さを感じながら京都旅行へのお誘いです.総説では,岡山大学脳神経内科学の山下徹先生らが「脳保護療法の新展開」と題して,フリーラジカルスカベンジャーであるエダラボンの開発と,最近の話題であるALSへの適応について解説されています.手術手技の欄では,大阪大学の藤本康倫先生らが,「内視鏡下経鼻手術における鼻・副鼻腔機能の温存」と題し,解剖とともに機能評価や手術手技について詳説されています.

基本情報

03012603.44.12.jpg
Neurological Surgery 脳神経外科
44巻12号 (2016年12月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

文献閲覧数ランキング(
6月10日~6月16日
)