Neurological Surgery 脳神経外科 44巻11号 (2016年11月)

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 トレーサビリティ(traceability)とは,trace(跡をたどる)とability(能力)より成る合成語である.国際標準化機構(ISO)によれば,それは「考慮の対象となっているモノの履歴,所在,適用を遡及できること」,また,欧州連合(EU)によれば,それは「予想される物質について生産,加工,流通,使用のあらゆる段階を通して,それらを追跡し遡及して調べる能力」と定義されている.

 トレーサビリティというと,とかく,不良品の回収や感染経路の解明といった何か後ろ向きのイメージを想起しがちである.屍体硬膜によるプリオン病感染という苦い記憶を有する脳神経外科医にしてみれば,それはなおさらかもしれない.しかし,ここで重要なのは,上記の2つの定義からも読み取れるように,トレーサビリティには対象物を後方視的に遡及(trace back)できるとともに,前方視的に追跡(track forward)できるという2つの意味があることである.前方視するということは,目的に向かって正しくレールを敷き,その上を予め定めた計画通りに,対象物を過不足なくその状態の管理も含めて適正に送り届けるという意味にほかならない.医療におけるトレーサビリティの確保がその安全・質の向上・効率化に資する理由である.当然ながら,医療で使用される物品個々が正しく捕捉されるならば,医療に係るコストの節約にも直結することは自明である.

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Ⅰ.はじめに

 脳室およびくも膜下腔を満たす脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)は,脳ならびに脊髄の細胞外腔と自由に行き来し,盛んに物質の交換や代謝熱の放出などを行っている.さらに,脳・脊髄・神経・血管系に対する浮力効果,外力に対する緩衝作用および浸透圧調整などの重要な役割を担っている.近年CSFの役割やその動きについて新しい知見が発表されるようになり,本誌総説でもたびたびこれらの業績が紹介されてきた.本稿では,CSFに関する古い文献上の記載,CSFと細胞外液との関わり,最近注目される硬膜のリンパ管様構造物の発見,脳室とくも膜下腔におけるCSFの運動などについて文献を引用しながら考察する.

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Ⅰ.緒  言

 低髄液圧症・脳脊髄液漏出症は,そのほとんどが脊髄レベルからの脳脊髄液の漏出によって髄液圧低下や液量減少を来す病態と考えられている10,14).これらは,国際頭痛分類第3版beta版12)(以下,ICHD-3β)の「7.2低髄液圧による頭痛」に含まれる疾患と考えられ,「厚生労働省 脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究班」(以下,厚労省研究班)により画像診断基準が出された13).特に低髄液圧症では,病初期に起立に伴い増悪傾向のある頭痛(起立性頭痛)が出現し,経過中の一定の時期に頭部造影MRIにおいてびまん性硬膜肥厚をはじめとする特徴的な所見を認める場合が多く,腰椎部髄液圧測定では60mmH2O以下の低髄液圧を確認できることが多い13,14).しかし最近の症例の集積により,特徴的な画像所見を認めない症例や正常髄液圧を示す症例もあることが判明してきており,“髄液漏れ”が存在しても,必ずしも異常検査所見を認めるとは限らない6,12,14)

 ICHD-3βでは,画像検査によって髄液漏出の証拠を示すべきとされ12),現時点では,脊髄MRI/MR myelography(以下,脊髄MRI)・CT myelography(以下,CTM)・radioisotope cisternography(以下,RIC)などの検査が行われる13).後二者は腰椎穿刺を必要とすることから,脊髄MRIを優先して施行すべきである13).脊髄MRI横断像にて,硬膜外腔に水貯留(以下,硬膜外水腫)所見を認める場合があり,髄液漏出の存在を示唆すると考えられる4,5).本所見に対してはfloating dural sac sign(FDSS)という名称が提唱されている4).今回,低髄液圧症と診断した症例群の診断治療経過と脊髄硬膜外水腫所見について考察する.

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Ⅰ.はじめに

 硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:DAVF)は硬膜または硬膜よりなる頭蓋内組織(大脳鎌,小脳テントや静脈洞など)に発生した動静脈シャントである3,7,13).本疾患は頭蓋内動静脈奇形の10〜15%を占めており16),頭部外傷後や開頭術後,あるいは静脈洞血栓症に関連して発症することが知られており,静脈洞内の血栓化や圧上昇,炎症などが原因となっている可能性がある6).また一方で,動静脈シャントの存在は静脈洞の血栓化を進行させ,圧上昇とともにシャントは徐々に限定された領域に収束していく傾向もみられる19).DAVFの臨床像は通常シャントの部位,静脈洞閉塞の有無,頭蓋内逆流の有無,正常静脈還流障害の有無により規定され,血行動態による分類としてCognard分類7),Borden分類3),Lalwani分類13)が用いられる.症状は,シャントによる耳鳴,上眼静脈逆流による眼球結膜充血,眼球突出,眼圧上昇,視力視野障害,頭蓋内逆流による頭蓋内圧亢進症状,頭蓋内出血,海綿静脈洞では静脈洞内圧の上昇による外転神経麻痺,動眼神経麻痺など,シャントの部位や血行動態により多彩な症状を呈す11,15)

 治療法は主に,経動脈的塞栓術(transarterial embolization:TAE)と経静脈的塞栓術(transvenous embolization:TVE)による血管内治療が行われ,症例によっていずれかを選択あるいは両者が併用されることも多い9,20,21).また,血管内治療での根治が困難な場合には,外科的にシャントの離断を要することもある14).横・S状静脈洞DAVFの臨床症状は耳鳴(85%),頭痛または眼痛(43%),視力障害またはうっ血乳頭(36%)が主要症状であり,また運動麻痺や痙攣など局所神経症状(24%),頭蓋内出血(20%)などもあり多彩である11,15).視力障害,うっ血乳頭は通常ほかの症状に合併してみられるが,視力障害,うっ血乳頭のみでの発症例は稀であり7),その場合は眼科疾患との鑑別が難しく,診断が遅れる可能性がある.

 今回われわれは,視力障害とうっ血乳頭のみで発症した横・S状静脈洞DAVFの1例を経験したので,文献的考察を踏まえ報告する.

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Ⅰ.はじめに

 近年の神経放射線診断学の進歩により,無症候の段階で脳腫瘍が発見されることが多くなった.しかしながら悪性神経膠腫,特にde novoのprimary glioblastoma multiforme(GBM)が発生初期段階に発見されることは稀であり,その自然経過については不明な点が多い2,4,5).Secondary GBMが,比較的長期の経過をたどるlow grade gliomaから,多段階の遺伝子変異を経た結果,悪性転化を引き起こして生じるのに対し,primary GBMは初期の段階からGBMとしての生物学的特徴を持って発生し,急速に増大してくることで,極めて短期間の間に症候性のGBMとして発見されることがその原因の1つと考えられる.

 今回われわれは,わずか2週間の経過で急速に増大し,激烈な臨床経過をたどったprimary GBMの症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Indocyanine green(ICG)videoangiographyは簡便,低侵襲であり,かつ術中リアルタイムに脳血流の有無,方向を確認できることから,近年脳血管外科領域で頻用されるようになってきている.

 今回われわれは,ICG videoangiographyを有効に利用したtarget bypassを併用し,破裂遠位部中大脳動脈瘤を安全にトラッピングし得た症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 重複中大脳動脈(duplicated middle cerebral artery:DMCA)は,内頚動脈より2本目の中大脳動脈が分岐する血管奇形であり,剖検上0.7〜2.9%に存在すると報告されている1,2,4,5,7,10,11).さらに,その分岐部に動脈瘤を認めた例は渉猟し得た範囲では文献上33例6,9,10,15,16)と稀であり,DMCAに関連した術後合併症の報告例はない.今回われわれは,くも膜下出血で発症したDMCA分岐部動脈瘤の術後経過で,左側頭葉前部の梗塞巣による失語症状を認めた1例を経験したため報告する.

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Ⅰ.はじめに

 若年性虚血性脳血管障害の原因として動脈解離1,7,9),もやもや病,片頭痛,薬物乱用,reversible cerebral vasoconstriction syndrome(RCVS)2,4,6,9,11),抗リン脂質抗体症候群や全身性エリテマトーデスなどの自己免疫性疾患など,何らかの基礎疾患を有することが多い5,12)

 しかし今回われわれは,明らかな基礎疾患を有さず,激しい頭痛と早期の可逆性脳血管攣縮所見からRCVSと診断した症例を経験したので,経時的に大きく変化する血管撮影を示し,文献的考察を加えて報告する.

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●コミュニケーションの“型”を作る

 「問題患者さんが増えて困った時代だよなあ,こっちは“医学的に”正しく対応しているのに」とぼやかずにはいられない先生方には,ぜひご一読いただきたい本である.さすが児玉知之先生(柏厚生総合病院内科)の著書だけあって,エビデンスや概念がより実践的な形で具現化されている.

 全体の構成は,医療面接に必要なスキルが全12章にまとめられ,各章ごとに症例提示から始まっていてわかりやすい.多くの先生方にとって,「これ普通の対応だよね」「そうそう,こんなのあるある」「何が悪いんだ」と心の中で叫んでしまいそうな症例ばかりであるが,読み進めていくうちに,問題点が明らかとなり,どう対応すべきだったかが述べられていく.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 69歳 男性

 主 訴 左片麻痺,嚥下障害

連載 脳腫瘍の手術のための術前・術中支援【新連載】

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Ⅰ.はじめに

 内視鏡手術の進歩に伴い,経鼻手術の対象がトルコ鞍近傍から頭蓋底疾患へ拡大している.特に斜台は従来の手術法では到達困難な部位であったが,経鼻内視鏡手術により,低侵襲にアプローチ可能となった.経鼻手術では,鼻腔,副鼻腔を含め術野展開の予測が困難な場合があり,術前のシミュレーションが重要である.本稿ではトルコ鞍から斜台近傍腫瘍に対する経鼻内視鏡手術について,手術支援装置と手術の基本ステップに沿って要点を述べ,さらに代表的な疾患について概説する.

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欧文目次

「読者からの手紙」募集

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 伊達 勲
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 今月の「扉」には落合慈之先生から「医療におけるトレーサビリティ確保の重要性」をいただいた.トレーサビリティと聞くと,何かが起こった時にその対象物を過去にたどることばかりを思い浮かべていたが,実は前方視的に追跡できることにも大きな意味があると知り,目から鱗が落ちた思いである.医療費対策の1つとして費用対効果の検討は重要で,トレーサビリティの確保のために医療機器・医療材料の1つひとつにバーコードなどの識別子を付すことが欧米では一般化しており,日本にもその動きが広がっているとのことである.

 松前光紀先生からは総説「脳脊髄液運動の新知見」をいただいた.脳脊髄液に関する研究は松前先生のライフワークの1つである.脳脊髄液に関する古典的な考え方が変化してきている状況の中で,歴史から新知見まで極めてわかりやすく解説されている.この総説を精読して知識を整理されることをお勧めする.そのほか,本号には研究論文,症例報告,教訓的症例に学ぶシリーズに加えて,脳腫瘍の手術のための術前・術中支援の新連載がスタートしており,多くの新情報を得ることができる.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
44巻11号 (2016年11月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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