Neurological Surgery 脳神経外科 25巻6号 (1997年6月)

義理と人情とやせ我慢 朝長 正道
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 私が好きな言葉である.難しい説明は要らない.反対のことを思い浮かべてみれば納得できる.人間社会の大原則であり,倫理の基本だと思う.

 倫理とは他者を傷つけないこと,他者を受け入れること,他者をもてなすことであり,自らを恥じることである.そのためには義理と人情とやせ我慢が何よりも大事である.他者とは自分以外のすべて,他人や考え方,文化,生き物,自然,そして子孫たちである

総説

遺伝子治療と脳神経外科 吉田 純
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I.はじめに

 今世紀後半は生命科学の時代といわれているように,1953年ワトソンとクリークがDNAの二重らせん構造を明かにし,1962年ニレンバーグがDNAの遺伝子暗号を解読した後,革命的な進歩をとげた分子生物学と遺伝子工学の新しい技術を駆使し,生命現象の本態が次々と明かにされてきた.一方疾病の原因ならび病態も分子レベルおよび遺伝子レベルで解明されるにつれ,病気を遺伝子で直す遺伝子治療への期待が高まった.その後レトロウイルスベクターをはじめとする各種の遺伝子導入法の開発が進められ,その効果と安全性が確立されるにいたり,遺伝子治療は科学的にも社会的にも究極の医療として注目を集めてきた.そして1990年には米国において社会的・倫理的合意の下で先天的遺伝病であるADA遺伝子欠損症に対し臨床応用が開始された.脳神経外科領域に於いても,各種の難治性脳神経外科疾患に対し,その病因病態が遺伝子レベルで解明されるとともに,まずは悪性脳腫瘍を対象に遺伝子治療の開発が進められ,1992年には米国NIHでHSV-TK/GCVを用いる自殺遺伝子治療が試みられている.ここではこうした新しい脳神経外科医療としての遺伝子治療について,これまでの開発経過と現時点での成果,そして将来の展望について述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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I.はじめに

 脳動静脈奇形(以下AVM)の治療方針は,部位,大きさ,出血の有無,患者の年齢,及び神経症状等により異なり,難しい問題1)である.特にAVMがeloquent areaでしかも大きな場合はなおさらである.近年の病理組織学的検討によるとlarge AVMではその周囲1mmはnonfunctionであると報告されており16),1mm以内であれば手術操作による周囲の脳組織の障害は許容される.すなわちeloquent areaにおけるAVMの手術のpointは周囲脳組織の障害をいかに少なく手術を行うかということ,そのためにはAVMの出血のcontrolをいかに行い,AVM自体を凝固縮小させつつ,AVMを剥離摘出し,周囲脳への侵襲を減らすようにすること,及び術後管理をいかに行うかという点につきる.侵襲の少ない手術を行うには,術前検査でAVMとfunctional cortexとの関係,及びAVMの血行動態を正確に把握することが大切である.今回は感覚運動領のAVMの手術につき術前検査,術後管理を含め報告する.

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I.はじめに

 201Thallium chloride(201TIC1)は,single photon emission computed tomography(SPECT)上,脳腫瘍への選択的な集積を示し,放射線治療後には,その集積がcomputed tomography(CT),magnetic resonance im—aging(MRI)上の腫瘍形態の変化よりも以前に低下を示すことから,早期の照射効果判定に有用である3).また,脳血流イメージ剤であるN-isopropyl-p—[123Ⅰ]—iodo—amphetamine(123Ⅰ—IMP)を用いたSPECTでは20),腫瘍周囲浮腫に関連した血流低下領域をとらえることができ16),脳血管障害例のみでなく,脳腫瘍例においてもその病態把握に有用な検査であると考えられる.しかし,CT,MRIに比較すると,SPECTの空間分解能は依然低く,画像評価に難があることは否めない.そこで,われわれは,SPECTの三次元画像を作成し,視覚的な面から低い空間分解能を補うとともに,核種の集積容積や,欠損容積を算出する新たな評価方法を考案した.今回,転移性脳腫瘍例におけるradiosurgery後の極早期での治療効果判定に関して,この方法を用いて検討を行ったので報告する.

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I.はじめに

 脳梗塞,外傷性脳損傷の急性期においてCSD(corti—cal spreading depression)が惹起される現象について多くの研究がある8,10,25,31.CSDはfunctional decortica—tionといわれ,外部環境に対するhomeostasisの現象であり,器質的脳損傷を起こさない.しかし,CSDはpotassiumによるgliaの脱分極により惹起され,gluta—mateが細胞外に遊離するといわれる.それゆえ,CSDの反復はこのglutamate遊離を加速し,興奮毒性により2次性脳損傷を拡大させる原因になる可能性が考えられる.一方低体温の脳保護作用の一つに興奮性アミノ酸(glutamate等)の細胞外遊離に対する抑制作用があるといわれている.そこで,本研究では低体温のCSDに対する影響について,局所脳血流および組織学的に検討を行い,二次性脳損傷の予防に対する低体温療法の有効性を追求した.

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I.はじめに

 近年,低体温療法の脳保護効果についての実験的有用性が次々と発表され2,3,6,13,14,18,24),その臨床応用がいろいろな施設で行われるようになってきた10,11,19,28,29)

 われわれの施設では10年以上前より低体温療法に着目し,独自の治療法であるmild barbiturate-moderate hypothermia併用療法を考案し,重症頭部外傷ならびに重症脳血管障害症例合計152例に施行してきたので,その臨床結果につき報告する.

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I.はじめに

 末梢性後下小脳動脈瘤は比較的稀な動脈瘤で,その頻度は全脳動脈瘤の0.3から1.0%2,5,7,8,10,14-16)と報告されており,現在までの報告症例数は約100例である.今回われわれが経験した症例は,頭部CT上,後頭蓋窩主体のくも膜下出血に,急性硬膜下血腫と小脳虫部脳内血腫を合併しており,初回脳血管撮影にて脳動脈瘤を確認し得なかった.末梢性後下小脳動脈瘤に,小脳虫部内血腫はしばしば認められる特徴的所見であるが,急性硬膜下血腫を合併することは稀である.現在までの報告例をあわせて,末梢性後下小脳動脈瘤の発生部位とそのCT所見を検討すると,後下小脳動脈前半部と後半部とでは,その所見が異なることが判明した.またこの部の動脈瘤の予後と治療方針についても検討してみた.

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I.はじめに

 頭蓋骨骨髄炎は以前には,副鼻腔炎に続発したり,他の臓器より血行性に感染する報告例が多く見られた7)が,近年,抗生物質の発達により,比較的稀な疾患となっている.また,外傷を契機に発症する場合には,開放性頭蓋骨骨折後や頭蓋底骨折症例に起こり,発生機序は明瞭である.今回,われわれは頭部外傷後約30年もの長い経過を示した頭蓋骨骨髄炎症例を経験したので報告する.

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I.はじめに

 水頭症の原因には,先天奇形や腫瘍あるいは髄膜炎などによって中脳水道や第四脳室が通過障害を起こした場合(髄液の通過障害),くも膜下出血や髄膜炎後にくも膜顆粒が吸収障害を起こした場合(髄液の吸収障害),あるいは脈絡叢乳頭腫による髄液の過剰分泌などがある.また松果体腫瘍は中脳水道の通過障害を引き起こし,頭痛,嘔気,嘔吐のように水頭症による頭蓋内圧亢進症状で発症することが多い.今回われわれは水頭症発症時にCT,MRIで腫瘍の存在が確認できず,原因不明の水頭症としてfollow upされていたが,その1年半後に松果体腫瘍が認められた1例を経験したので報告する.

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I.はじめに

 軟骨芽細胞腫は,長幹骨骨端部に好発する腫瘍であり頭蓋骨に原発するものは全体の6.8%とされる3).今回,われわれは軟骨芽細胞腫が左側頭骨に原発した1例を経験したので報告する.

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I.はじめに

 髄膜腫は全脳腫瘍中23.3%であり,髄膜腫の中でテント下に発生するものは約10%(全脳腫瘍の2.3%)である.しかしながら,頸静脈孔部に発生する髄膜腫は極めて稀である1,9,13).今回,頸静脈孔部を介して頭蓋内外に伸展し,しかも下位脳神経障害が出現しなかった髄膜腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

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I.はじめに

 Ewing肉腫は悪性骨腫瘍の5%から7%を占め22),大腿骨や上腕骨等の長管骨に多く発生する腫瘍であり,頭蓋骨に原発することは極めて稀である5,29.今回われわれは,突然の激しい頭痛で発症し,急性硬膜外血腫所見を呈した後頭骨原発のEwing肉腫に対して,摘出術および放射線療法により,術後6年経過した現在再発なく経過した症例を経験したので報告する.

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I.はじめに

 V-P shunt術は水頭症の治療として広く行われており,脳外科手術の中でも手技的には難しくないが種々の合併症を起こす可能性がある.シャントシステムの改良によりその頻度も減少してきてはいるが,それでも稀ならず合併症を経験することがあり,腹部合併症もそのひとつである.V-P shunt術に伴う腹部合併症には感染,チューブの屈曲・閉塞,腹腔内嚢胞形成,腹水貯留,腹腔内臓器穿通などが報告されているが,これらの中でもチューブによる腸管穿通は稀な合併症である4).また報告では多くが小児例で,術後から発症までの期間が短いのが特徴である.今回われわれはV-P shunt術10年後にシャントチューブが小腸内に穿通した症例を経験したので発生機序を中心に若干の文献的考察を加えて報告する.

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 国際学会というものは,とにかく,玉石混交である.高い参会費と旅費を差し引いてもお釣がくるような高いレベルの発表を拝聴する機会に浴することもあれば,な〜んで,こんなとこまで来て,こ〜んなつまらない話を聞かなくちゃいけないのかと,時差ぼけの頭でわが身の不幸を嘆くこともある.まして,自分の発表でもあれば,教授や同僚の前で,慣れない英語の発表のために,練習に練習を重ね,考え得るあらゆる質問に万全の準備を整え,発表前日には,食事も喉を通らない有様で,その時を迎え,壇上に上がれば,だだっ広い会場に知った顔がパラパラ…という悲しい喜劇に終わることも多い.

 しかし,国内で行われる国際学会は,万難を排しても出席する.これは,大事な原則である.旅費が安い.世界のexpertに会える.彼等が,いかに語り,いかに振る舞うかがわかる.なんだかんだ言っても,その本人の口から直接,聞くのが一番である.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
25巻6号 (1997年6月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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