Neurological Surgery 脳神経外科 10巻1号 (1982年1月)

或る墓碑銘 古和田 正悦
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 鎖国下の日本で近代医学への窓を開いた『解体新書』は余りにも有名である.『解体新書』にある21枚の解剖図を描いたのが小田野直武である.東北の小京都として武家家敷と枝垂れ桜で知られる現在の秋田県角館町の松庵寺に彼の墓がある.初めて訪れた時,当地には医学に関る史実に乏しいと思い込んでいた我身の無知を恥じた.

 彼は幼少から画を学び,のちに秋田藩主佐竹義敦(曙山)の信任を得て,ともに洋画法の研究に励んだ.曙山は日本洋画史上で著名な人物であるという.安永2年平賀源内が秋田藩に招かれた折,当時25歳の直武は源内から洋画を教えられ,その年の12月,江戸に出ている.源内の推薦でまもなく杉田玄白より西洋医学諸書の解剖図を模写する仕事を依頼された.直武は江戸に着いて早々に歴史的な大事業に遭遇したことになる.付図の最後の頁には絵がなく,直武が玄白に頼まれてやむなく筆をとったということを漢文で記している.彼はその後,藩主の勘気を蒙って謹慎の身となり,その翌年32歳の若さで生涯を閉じた.数奇な運命であった.

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I.はじめに

 悪性腫瘍に対する治療としては,手術療法に放射線療法や化学療法,さらに最近は免疫療法を加えたいわゆる集学的治療が一般的となっている.しかしながら,切除不能例や再発例の場合はこれらの治療法を駆使してもその成績はきわめて不良であり,これら従来の治療法の改良または全く新しい治療法の開発が望まれている現状であろう.

 最近,悪性腫瘍に対する温熱療法hyperthermia(hy-perthermotherapy)に関する基礎的研究が集積され,温熱療法の抗腫瘍効果が評価されるにいたり,この治療法が悪性腫瘍の第5の治療法となり得るのではないかとして,その発展に多大な関心と期待が寄せられている.最近では,新しい加温方法や他の治療法との併用療法の開発などと相まって,その適応は拡大され種々の悪性腫瘍に対して臨床応用も試みられている,はたして,温熱療法は悪性腫瘍の新しい治療法となり得るであろうか.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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I.はじめに

 内頸動脈から後交通動脈が分岐する部,あるいは前脈絡叢動脈が分かれ出る部に発生する動脈瘤は頭蓋内動脈瘤のなかでも重要な位置を占めている.例えば1980年末までにわれわれの経験した動脈瘤数(多発動脈瘤も含むので,ここでは動脈瘤の個数を示す)は1,038個で,そのうち左内頸後交通動脈瘤が167個,右のが143個,合計310個(29.9%)であった.また内頸前脈絡叢動脈瘤は左23個,右24個,計47個(4.5%)であった,両者を合わせると全動脈瘤数の34.4%を占めることになる.また以上の2種類の動脈瘤に似ているが,それより近位側に発生するもの,すなわち眼動脈の分岐部より遠位側で後交通動脈の分岐部より近位に発生する動脈瘤,すなわちPia3)によりparaophthalmic aneurysmと呼ばれたものにほぼ当るもの(後述)は左右それぞれ4個ずつで,これを加えると全動脈瘤数の35.2%を形成することになる.ちなみに前交通動脈瘤は265個(26%)であった.

 したがって,この部の動脈瘤は前交通動脈瘤とともにくも膜下出血時,遭遇する機会が最も多い病変であるといえよう.

海外だより

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 今回は,ロンドンのThe National Hos-pital,Queen Square脳外科について神谷健先生にお書きいただいた.Prof-Symonの日常などが興味深く伝えられている.

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I.はじめに

 脳原発性悪性リンパ腫は脳腫瘍の約1.5%を占め23),正中線上の旁脳室領域に好発3,16),比較的放射線感受性が高い腫瘍7,19)である.腫瘍の母細胞についてはリンパ網内系細胞由来であることが確認されてはいるが24),リンパ球系の細胞であるのか,または組織球—単球系由来の細胞であるのかについては議論がある.最近われわれは脳の悪性リンパ腫5例を経験したので,これらの症例を提示し,脳転移を起こした全身性リンパ肉腫の剖検例の所見と比較検討し,組織学的および電顕的観察に基づいてこれらの腫瘍細胞の特徴について若干の考察を加えて報告する.

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I.はじめに

 脳血管攣縮(以下,攣縮と記す)はくも膜下出血後に好発し,臨床像および予後に多大な影響を及ぼすが,その実態はいまだ充分に解明されていない.

 攣縮の病態に関して,先にわれわれ44)は独自の実験結果および臨床的観察から,くも膜下出血後,脳底部血管周囲に局所的acidosisが発生し,その直接あるいは間接的影響によって脳血管壁およびその内面におけるpro-stacyclin(PGI2)ならびにthromboxane A2(TXA2)の合成バランスが後者優勢となるように崩れることが,いわゆる攣縮の病態を惹起せしめると考え,脳虚血症状の出現には血管の狭窄状態もさることながら,それ以上に血小板凝集による血栓形成の関与が大きいことを主張してきた.また更に,以上の推論に立脚し,TXA2の合成阻害剤であり,かつ拮抗作用をも有するTrapidil34)(5-methyl-7-diethylamino-S-tricazolo〔1,5-a〕pyri-midhle,Rocornal®,持田)を攣縮発生の可能性を有するくも膜下出血症例に対して,その予防を目的として用いた結果,有効と判断したが43),今回は本療法を行った症例群の臨床像を検討したところ,攣縮発症時の脳虚血発現への血栓形成関与を示唆するような所見を得たので,攣縮の病態に関するわれわれの考え方を併せて報告する.

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I.はじめに

 PRL 産生下垂体腺腫について,血清PRL基礎値,乳汁漏出,無月経に及ぼす手術療法の効果についての報告は多い.しかしながら,各種内分泌動態に及ぼす手術の影響について検討した報告は極めて少ない.そこでわれわれは,高プロラナチン(PRL)血症を呈するPRL産生下垂体腺腫およびPRL非産生視床下部侵襲腺腫(視床下部腺腫)に対する手術の影響を,内分泌動態の面から詳細に検討を行ったので,その結果を報告する.

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I.はじめに

 手術後大きな頭皮欠損を残すことがあらかじめ予想されるために,皮切法や手術のアプローチに制約が加わり,やむなく不満足な結果に終ってしまうことは脳神経外科領域でもときに経験する.例えば,頭皮や頭蓋骨に発生した悪性腫瘍を手術する場合,放射線治療後に再発した頭蓋内腫瘍を手術する際に術後の循環障害による大きな頭皮欠損を残すことが想定される場合などである.しかし,最近数年間の形成外科の技術的進歩は著しく,脳外科手術にもその技術が応用され,治療面での成果が挙げられつつある.

 従来より頭皮の修復にはTable1に示すような方法が主として用いられているようである.このうち皮膚管法やjump flapを用いた遠隔からの有茎皮弁移植は,患者に長期間特殊な体位を持続維持させねばならないし,手術も数回にわたり行う必要があるという短所があり,脳手術患者には適切な方法とはいえない.これを補う方法として.小さな頭皮欠損には人工皮膚として使用されているPVF(Polyvinyl formal)spongeをまず貼布し,肉芽が形成されたのちに遊離植皮がなされたり,また一期的に直接頭皮欠損部への遊離植皮が行われている.

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I.はじめに

 脳腫瘍の転移は,他の悪性腫瘍に比して,頻度が低いばかりでなく,転移が起こってもその大多数は髄液腔内に限られる.稀な髄液腔外への転移例ではmedulloblas-toma,meningiomaが多く,今回われわれが経験したoの,しかもシャントチューブを介しての転移は極めて少なく,腹水の細胞診で生前に診断しえた報告例は認められない.この1症例とともに,ependy-momaの転移につき文献からの検討を加えて報告する.

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I.はじめに

 Pseudomonas cepacia(以下,Ps.cepaciaと略す)はブドウ糖非醗酵グラム陰性桿菌で,玉葱の病原菌として分離され,1960年代になってヒトへの病原性が注目されるようになった3,25).この菌の感染症は新生児髄膜炎3),肺炎24),尿路感染症4),敗血症2),心内膜炎6,13)>などの多岐にわたり報告されている.

 最近,われわれもPs.cepaciaによる髄膜炎の3症例を経験し,いずれもSulfamethoxazole-Trimethoprim合剤(以下,ST合剤と略す)の経口投与により治癒せしめえた.ここに著者らが経験したPs.cepaciaによる髄膜炎の3症例を報告し,本症の治療ならびに予防という立場から若干の文献的考察を加えたい.

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I.はじめに

 Holoprosencephalyは種々の臨床的特徴を有する大脳の形成障害の1つであるが,予後不良で,生後1年以内に死亡している例が多い1-3,6-9,11,18,20),本稿では,在胎中に巨大頭蓋を発見され,帝王切開にて出産,生後3日目に先天性水頭症として当科に人院し,臨床検査でholoprosencephalyが疑われ,生後22日目に脳室腹腔短絡術を施行し,長期生存に至りた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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I.はじめに

 Nocardiaは放線菌類に属し,1888年Nocard15)によって分離命名された.もともと弱毒性であり,ヒトの感染症としては,1890年Eppinger3)がはじめて脳膿瘍から起因菌として同定報告して以来,1976年までに約150例の報告をみるにすぎない.

 しかし近年ステロイド剤の多用や,腎移植などに伴う免疫抑制剤,更には癌末期の症例などに"日和見感染"としてのNocardia感染症が増加する傾向にある.

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I.はじめに

 血栓化脳動脈瘤症例の報告は散見されるが,日常遭遇する破裂脳動脈瘤症例の全体数からみれば極めて少ないものと考えられる.通常,血栓化脳動脈瘤という場合,外傷性脳動脈瘤,脳血管モヤモヤ病の際みられる後脈絡叢動脈瘤などの仮性動脈瘤の血栓化例,非造影例などは除き,またspontaneous thrombosisあるいはsponta-neous cureという意味では,動脈瘤に対しての不充分neck clipping,carotid ligationなどの手術操作後に認められた血栓化症例も除外しておくべきものと考える.

 今回われわれは,脳血管撮影および開頭手術により血栓化が確認されたazygos anterior cerebral artery an-eurysmの1例を経験したので,血栓化の過程,要因,あるいは脳血管写上非造影となった場合の脳動脈瘤に対する手術の適否などについて,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
10巻1号 (1982年1月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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